米国不動産テック企業カオスマップを作ってみた

アメリカの不動産テック企業のカオスマップを作ってみました。

日本でよく見かけるカオスマップよりも企業数は絞り込んでいますが、ここだけ押さえておけばアメリカの不動産テック業界の全体像がおおよそ掴めるようになっています。
(画像は圧縮されているので、元データが欲しい方はproptechblog@gmail.comにメールいただければ差し上げます)

それでは、それぞれのカテゴリーごとに簡単に解説していきます。

【ポータルサイト】

まずは左上のポータルサイトからです。
これに関しては以前にかなり細かく解説しましたが、改めてポイントをまとめます。
米国不動産ポータル戦争の勢力図①(現状整理編)
米国不動産ポータル戦争の勢力図②(今後の展望編)

ポータルサイトは「エージェント検索」と「物件検索」分解できます。
そして「物件検索」はさらに「MLS接続なし」「MLS接続あり」に分けることができます。

・エージェント検索ポータルサイト
エージェント検索は、自分の検討状況やニーズに合ったエージェントを見つけるためのポータルサイトです。代表的なプレイヤーはHomeLightUpnestです。

このモデルの強みは、
・物件情報をマネジメントする必要がないためサイト運営費が安い
・エージェントを探しているユーザーは本気度が高いため成約率が高い(無駄なオペレーションコストがかからない)
といった理由から事業としてのコスト構造が軽く、黒字化をしやすいことです。

一方で課題は、
・売り手:エージェントを見つけたきっかけのオンラインシェアが4%にとどまる(知人・友人の紹介が39%、過去取引からのリピートが25%)
・買い手:そもそもエージェントではなく物件を軸に検討するのが一般的
といった背景から、ターゲットユーザーがニッチで事業としてスケールしづらいことです。

現に物件検索ポータルサイトのトラフィックは月間で数千万の規模があるのに対して、エージェント検索は数十万と桁が2つ違う規模感です。

・物件検索ポータルサイト(MLS接続なし)
MLSとは販売中の物件がすべて網羅されているデータベースで、日本でいうところのレインズです。
このMLSへの接続のためには仲介会社ライセンスが必須のため、ポータルサイト専業プレイヤーは独自に物件情報を集めなければなりません。

MLS接続のないポータルサイトは、MLS接続ありと比較するとどうしても物件情報の鮮度・精度・網羅性で劣ってしまうのですが、それを補って余りあるブランド認知で勝負しています。

中でも月間1.9億ユーザーを誇るZillowはアメリカの不動産テックの代表格です。
2015年2月には長年のライバルTruliaを買収し、その地位を盤石なものにしています。

Zillow・Trulia連合軍の後を追うのはRealtor.comです。
もともとNAR(不動産業界団体)の会員向けのクローズドなプラットフォームから消費者向けにスピンオフした歴史があり、ユーザーを味方につけてアウトサイダーとして成長したZillow・Truliaよりも、業界寄りの立ち位置にいます。

・物件検索ポータルサイト(MLS接続あり)
逆にMLS接続ありの物件検索ポータルサイトを運営しているのは、RedfinMovotoです。
このビジネスの要件となる「強力なポータルサイト」と「仲介会社機能」を両立しているのは全米でこの2社だけです。

MLS接続を生かした物件情報の鮮度・精度・網羅性がポータルサイトとしての強みとなり、年々トラフィックを伸ばしています。

Movotoは僕が働いている会社で、あまり書くと手前味噌になってしまうので割愛しますが、Redfinは長らくユニコーン企業の代名詞として君臨した後、2017年に華々しくNASDAQ上場。打倒Zillowの最有力候補と目されています。
(2社のもう一つの顔である仲介会社としての特徴は仲介会社カテゴリーで解説したいと思います。)

【仲介会社】

以前、「Redfinに続く新世代の仲介会社CompassとeXpの正体」でも紹介したように、ユーザーの大半を握っているにもかかわらず、テクノロジーによる進化の遅れている仲介会社業界は、現在アメリカの不動産テックでもっとも注目されている分野の一つです。

図の一番右が昔から存在する老舗仲介会社で、それ以外はすべてスタートアップです。
このスタートアップ各社がそれぞれの特色を生かして老舗仲介会社のシェアを奪おうとしているというのが大まかな構図です。

・ディスカウント系
老舗仲介会社との差別化戦略の一つにディスカウントがあります。
仲介手数料の割引やキャッシュバックによってユーザー側は費用を抑えられるのがメリットです。

このカテゴリーで重要なのは、「安い手数料を実現するためにいかに仲介会社側のコストを下げるか」です。
そのために各社が従来の常識にとらわれることなく、業務の「オンライン化」「分業化」「業務委託から固定給への切り替え」といった改善を行っています。

このカテゴリーのパイオニアはポータルサイトでも紹介したRedfinです。
最近ではOpen ListingsREXといった後発のディスカウント系仲介会社も増えてきていますが、彼らはポータルサイトを持っておらずマーケットシェアが低く、展開エリアも限られるため、Redfinが他を圧倒しているのが実情です。

・固定フィー系
エージェントとの交渉を通して物件価格の◯%(一般的には「売り」「買い」合わせて5〜6%)という形で決まる仲介手数料を、一律$3,600といった金額固定にしてシンプル化してしまおうというのがこのモデルです。

この固定フィーは比較的安く設定されていることが多く、広い意味では前述のディスカウント系の一種とも言えます。裏側のコスト削減施策もほとんど同じです。

Purple Bricksは本社のあるイギリスでは約5%のマーケットシェアをすでに獲得しているものの、アメリカには進出したばかり。同タイプのRealiTreloraも含めて、まだ抜きん出た存在はいません。


ディスカウント系・固定フィー系に共通する課題としては、ユーザーの大多数は「従来どおりの仲介手数料でいいから、経験豊富なエージェントに依頼して、高値で物件を売ってほしい or 安く/確実に物件を買いたい」と思っているという点です。

このカテゴリーのターゲットとなる「エージェントには期待していないし、できることは自分でやるから手数料を安くしてほしい」というユーザーはまだ一部のニッチな層でしかありません。
これがディスカウント系・固定フィー系の仲介会社のマーケットシェアが思ったほど伸びていない要因です。

・エージェント優遇系
ディスカウント系・固定フィー系はユーザー側のコストを下げる仲介会社ですが、エージェント優遇系はエージェントに課金するコストを下げて優秀な人材を採用することを主眼に置いています。

そもそも仲介会社は、エージェントのマネジメントやバックオフィス業務支援と引き換えに、エージェントが得た手数料収入のうち平均15%をマージンとして徴収します。
HomesmartRealty Oneはその手数料を1成約あたり$200や$495といった具合に固定かつ低額に抑えることを売りにしています。

Compassは以前「ユニコーン企業Compassは、結局どうマネタイズするのか?」でも紹介したとおり、このマージンをゼロにして、なおかつ移籍金・ストックオプション・マーケティング費用補助まで提供。
手数料引き下げどころの話ではない大盤振る舞いでエージェントを優遇しています。

このカテゴリーの肝は、「エージェント優遇を裏付けるだけの収支構造があるか」です。
通常の仲介会社と同じコスト構造を持ちながら、エージェントへの課金部分だけ安くしてしまうと、当然事業が回らなくなります。

その典型例がRealty Oneで、後出しでコンプライアンス費用や文書保管費用などありとあらゆるフィーを追加して、結果的には通常の仲介会社のマージンと同じくらい課金するようになってしまっています。

飛ぶ鳥を落とす勢いのCompassはさらに極端なエージェント優遇策をとっているので、どうやってこの課題を解決するかに注目が集まります。

・クラウド系
図の左下に戻ってクラウド系仲介会社について解説します。変則的な紹介順になってしまっているのには理由があります。

エージェント優遇系で挙げたエージェントへの課金引き下げを可能にする収支構造に対して、一つの明確な答えを提示しているのがこのカテゴリーだからです。

このカテゴリーの仲介会社は、エージェントへの課金を引き下げるために、「オフィスを持たない」という思い切った方針をとっています。

立派なオフィスを一等地に構え、そのために長期のオフィス賃貸契約を締結し、多額の固定費を支払うのがこの業界の長年の常識です。

しかし、本当にそれだけのコストに見合う価値がオフィスにあるのでしょうか?
今の時代、スマホ一つでクラウド環境にアクセスすれば業務ができてしまうので、多くのエージェントが家と物件現地とカフェで十分仕事が回っています。
(僕の会社でも仲介会社オフィスをいくつか構えていますが、ちゃんと定量的にモニタリングしてみると稼働率は高くありませんでした)

もちろん全員がこのモデルを受容するわけではないですが、比較的若い世代の合理的なエージェントは、オフィスをあきらめることでコストを抑えられるこのモデルを好む傾向があります。

このモデルの代表例がexpです。
20%のマージンは徴収するのですが、マージン総額が年間$16,000を超えたらそれ以降の課金は免除するというCapモデルを武器に成長しています。
今年に入ってNASDAQ上場を果たし、エージェント数を15,000人にまで伸ばしています。


Capはあるとはいえ旧来のマージン課金の域を出ていないexpに対して、さらなる価格ディスラプトを仕掛けているのがFathomMovotoです。

基本的に月額フィーさえ支払えば、仲介会社として必要なすべてのサポートをオンライン経由で提供するというSaaSに近いモデルを展開しています。

特にMovotoは前述した強力なポータルサイトで生み出されるオンライン問い合わせもサポートの一環に含まれるので、エージェントにとってはコストを削減しながら売上も増やせるという、いいところどりのモデルになっています。(と信じています。自分の会社なので割り引いてお読みください)

またこのモデルは、
・オフィスがないため自律的に仕事を進める必要がある
・マージン0なので成約数が多ければ多いほどコストメリットが大きい(逆に成約数が少ないと月額フィーが重荷になる)
という特性があるため、必然的に質の高いエージェントが集まる傾向があります。

これはモデル上、若手エージェントを抱えざるをえないディスカウント系・固定フィー系の仲介会社に対しての優位性になります。

・老舗系
老舗の仲介会社は数多く存在しますが、今回は中でも代表的な大手企業をピックアップしました。ちなみに左側3社(Century21Coldewell BankBetter Homes and Gardens)は仲介会社を多数抱えるコングロマリット企業Realogy傘下のグループ会社です。

これまで紹介してきた新興仲介会社にシェアを奪われている危機感から、このカテゴリーの各社のトップは異口同音に「不動産企業からテクノロジー企業に生まれ変わる」という宣言をしています。

中でも動きが活発なのは17万人という全米最大のエージェント数を誇るKWで、1,000億円規模のファンドを作ったり、エージェント向け音声AIアシスタントを独自開発したり、クラウド型仲介会社事業をスタートしたり、後述するiBuyer事業を実験したりと積極的に新しいチャレンジに取り組んでいます。

【売却】
「物件購入」と比較してテクノロジーによる進化の遅れている「物件売却」は白地マーケットとして注目されており、多くのスタートアップが進出しています。

・iBuyer
iBuyerとは価格査定アルゴリズムを活用して売り手から直接物件を即座に買い取り、その後転売するビジネスモデルのことです。

「今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(前編)」
「今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(後編)」

以前こちらの記事で解説したので詳細は省略しますが、基本的な勢力図としては、スタートアップ3社(OpendoorKnockOfferpad)の三つ巴の状況から、Softbank等から多額の資金調達を成功させたOpendoorが一歩リード。
遅ればせながらポータル勢(ZillowRedfin)と老舗仲介会社勢(KWColdwell Banker)もiBuyer事業をスタートしており、彼らがどこまで本気で仕掛けてくるか、が今後の注目ポイントです。

・ツール
iBuyerのような実業ではなく、仲介会社が売却マーケットに取り組むためのツールを提供している企業も数多くあります。

有名どころでいくと、ビッグデータをもとに物件を売却する可能性の高い家をあぶり出し、仲介会社のマーケティングの効率を上げるSmartzipOffrsといった企業です。

他にも物件価格の査定アルゴリズムに特化したHouse Canaryはすでに累計$64Mを調達し、独自の立ち位置を確立しています。

【業務支援】

最後は業務支援系のビジネスです。
業務支援の定義は広く、多岐にわたるカテゴリーがありますが、その中でも重要な3つのカテゴリーに絞って解説します。

・CRM/HP
中小の仲介会社向けにバックエンドのCRM機能とフロントエンドの自社HP機能を提供するサービスです。このビジネスは参入障壁が低いため数えきれないほどの企業が存在しています。
(先日参加した不動産カンファレンスでは、実にブース展示企業の4分の1がこのカテゴリーでした)

その中でもシェアが高いのはここに挙げたCommissions IncChimeBoomTownあたりです。
正直なところ、機能的に同質化しやすく、一度導入するとスイッチングコストも高いため、直近であまり目立った動きはありません。

・代行サービス
業務代行には写真撮影代行やオンライン広告運用代行など様々なジャンルがありますが、中でも注目されているのが問い合わせ一次対応代行です。

オンライン、中でもモバイルの普及によってユーザーはより気軽に物件問い合わせができるようになりました。その弊害として問い合わせからの成約率は著しく低下しています。

結果、エージェントの業務時間の大半が成約に結びつかない問い合わせ対応に割かれてしまい、本来の接客・交渉といった業務に支障が出るというのが業界課題となっています。

こういった課題に対するソリューションとして、問い合わせ一次対応から見込み客を獲得することに特化した専門のコールセンター機能を提供するのがAgentologyConnectNowUpcallといった企業で、一見すると地味かもしれませんが今とても熱い分野になっています。
(詳しくは「米国最大の不動産テックイベント 「Inman Connect」 現地レポート」のAgentologyの章で書いています)

・集客ネットワーク
自社でポータルサイトを持たずに、エージェントの集客を支援するのがこのカテゴリーです。

エージェントが自分で対応しきれない顧客を知り合いに紹介してキックバックをもらうという商慣習は昔からあるのですが、知り合いに限らずより広いネットワークで顧客を融通し合えるプラットフォームを各社が提供しています。
Referral ExchangeRadiusが有名どころです。


長くなりましたが、以上になります。
次回はこのカオスマップの中から押さえておきたい10社をピックアップして、各社のビジネスモデルを図解しようと思っています。

※ご質問やご要望がある場合は、こちらにご連絡ください。
冒頭でもお伝えしたとおりカオスマップの元データが欲しい方もこちらにご連絡いただければと思います。
proptechblog@gmail.com

市川 紘(Ko Ichikawa)

Written by

シリコンバレーの不動産テック企業Movoto副社長。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。

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