Opendoor450億円/Compass450億円 ソフトバンクの大型出資を徹底解説

このブログでは、米国不動産テック企業の注目株としてOpendoorとCompassについて、これまで何度か解説してきました。
※超ざっくり言うと、Opendoorは iBuyer事業と呼ばれる価格査定アルゴリズムを活用した買取再販業のパイオニア、Compassはテクノロジー(と資金力)を武器にトップエージェントを集めている次世代の仲介会社です。

Opendoor
今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(前編)
今、米国の不動産テックで一番ホットな「iBuyer」とは(後編)
なぜOpendoorは仲介会社を買収したのか

Compass
Redfinに続く新世代の仲介会社CompassとeXpの正体
ユニコーン企業Compassは、結局どうマネタイズするのか?
Compassが試みる「看板」のテクノロジー化


そんな中、本日9/29に驚愕のニュースが飛び込んできました。
SoftBank Vision FundがOpendoorに$400M(約450億円)、Compassに同じく$400M(約450億円)というとんでもない金額を出資することを発表したのです。
これにはアメリカの不動産業界が大騒ぎになってます。

Opendoorは今年6月の$325M(約370億円)に続く、大規模なファンディング。累計の調達金額が1,000億円を超えました。
評価額は前回のファンディングの時点で$2B(約2,260億円)でしたが、今回は公表されていません。

Compassは昨年12月に評価額2.2B(約2,490億円)で$450M(約510億円)を調達しており、このときのリードインベスターもSoftBankでした。
今回の評価額は非公表となっています。

両社のビジネスモデルや事業戦略、課題については上記のバックナンバーでかなり詳細にまとめているので、
今回は、
・2社が投資家の期待を集めるそもそもの理由
・調達した資金の使いみち
・今後の展望
の3点に焦点を絞って、解説します。

が、かなり長くなってしまいそうなので、最初にまとめを書いておきます。もう少し詳しく知りたい人は本編にちょこちょこ挿入する図表だけでも見てもらうといいかもしれません。
もっとマニアックに深掘りしたい人に限り本文もどうぞ笑


【期待される理由】
・OpendoorはBuyerではなくSeller、CompassはSearch(検索)ではなくTransaction(内見〜成約)という領域をターゲットにしている
・すでにポータルサイトによって効率化が進んだBuyer×Searchに対し、SellerとTransactionの領域はテクノロジーによる進化の白地が大きい
・SellerはLTVが高く、Transactionは多くの顧客を握っているため収益性が高い

【調達資金の使いみち】
・OpendoorはiBuyer事業のエリア展開加速と購入/ローン/登記といった周辺領域事業へ投資
・Compassはエリア展開/シェア拡大に向けた仲介会社買収とシステム開発に投資。システムは国内外の仲介会社へのライセンス販売も視野。
・既存事業拡大と周辺事業開発という構図は共通。ただしOpendoorは既存事業と周辺事業の相乗効果が見込めるが、Compassが逆に利益相反するリスクがある

【今後の展望】
・OpendoorとCompassの合併は事業シナジーが見込めないため短期的には考えづらい
・Opendoorの競合であるKnock/Offerpadは直近の展開スピードと資金面の差から逆転は困難。可能性があるとしたらZillowが本気を出した場合
・従来型の大手仲介会社の危機感が強く、各社トップがテック企業へ生まれ変わることを宣言。直近ではiBuyer事業への参入も発表


〜以下、本編です。〜

【期待される理由①】
「Transaction」と「Seller」の白地が大きい

米国不動産でよく使われる業界のセグメント軸が2つあります。
1つは「Buyer」「Seller」、つまり「物件購入」なのか「物件売却」なのか。

もう1つは少し聞き慣れないかもしれませんが、「Search」「Transaction」です。
自分自身で情報を検索しながら物件売買を検討している段階がSearch、エージェントを使って内見→申込→交渉→契約といった一連の取引を行う段階がTransactionです。

ZillowやRealtor.comといった不動産ポータルサイトのおかげで従来は仲介会社店舗に行かなければ入手できなかった物件情報が、オンラインで簡単に検索できるようになりました。
でもこの進化は上記の分類でいくと、「Buyer×Search」の領域だけに過ぎません。(この不動産ポータルサイトのプレイヤーについてはこちらで最近まとめました。米国不動産ポータル戦争の勢力図①(現状整理編)

一方で「Buyer×Transaction」、すなわち買い手が気に入った物件を見つけた後のプロセスは主にエージェント・仲介会社が対応しますが、ここは古典的な不動産仲介業からあまり進化していません。
ほとんどの業務が紙や電話、対面で行われ、まだまだ非効率な状態のままです。

「Seller×Search」は、物件所有者が自分の物件を売るべきかについて情報収集している段階のことです。
もちろんZillowのZestimateやRedfinのRedfin Estimateなどオンラインで売却価格をシミュレーションできるツールはありますが、精度が低いため売却価格の目安程度にしかならず、もっと詳しく情報収集したい場合はエージェントを呼んで査定というけっこう本格的なプロセスに入らないといけません。
物件購入の場合と比べると、売却はまだまだユーザー自身でできる情報収集や意思決定が限られ、不便さが残ります。

「Seller×Transaction」も課題が大きい領域です。
物件を売却を決めた後の販売活動は煩雑さの極みです。「査定→販売開始→価格調整→内見→交渉→売却」といった感じで平均2ヶ月、長いときは半年以上かかります。
正解が見えない中で販売価格を決めたり、オープンハウスの準備をしたり、買い手のキャンセルやローン落ちでふりだしに戻ったりと、心理的な負担も大きいです。

Compassはこの古典的な仲介会社業務(Transaction領域)をテクノロジーで進化させること、Opendoorは価格査定アルゴリズムを活用した即時買取でSellerを負担から解放することを目指しています。

テクノロジーを活用してTransactionとSellerという不動産業界の積年の課題を解決できる可能性があるため、そこに期待が集まっているのです。(SoftbankからOpendoorのボードメンバーとして派遣されるHousenhold氏はこのテクノロジーによる進化を「Digital transformation of real estate」と呼んでいます)

【期待される理由②】
「Seller」と「Transaction」は儲かる

僕の経験則上、アメリカの不動産エージェントは買い手側(Buyer)よりも売り手側(Seller)の仲介を圧倒的に好みます。(日本も同じですが)

その理由の一つは成約率です。
Buyerは散々内見に付き合わされた挙げ句、「気に入った物件がなかったから今回はやめた」となるケースが多々あります。
その点、Sellerは販売活動を始めたらほとんどの場合、売却までたどり着きます。

もう一つの理由はLTVの高さです。
Sellerの物件販売時には地元エリアでオープンハウスや看板、チラシ配布などを行うので、それを見た人がエージェントに問い合わせしてきて新しい顧客になるケースが多いです。
物件を売った後には引っ越し先の別物件を買う人が大半なので、もう1件仲介をできます。
また、成約直後や3年以内に友人や家族を紹介してくれることもよくあります。

アメリカの不動産エージェント500人に聞き取り調査をして、Seller1人をきっかけに獲得できる成約数を定量化したことがあって、社外秘データなので具体的には書けないのですが、驚くべき数字なりました。
以降、この芋づる式の構造は社内では「Potato Structure」と呼んで(たぶん間違った英語ですが)、Seller集客戦略を考える際の大前提にしています。

具体的な数字は公表できないのでXにしてますが、構造的にはこんな感じです。

以上のように、成約率が高さや、芋づる式のLTVの高さからSellerの収益性は圧倒的にBuyerよりも高いのです。


続いては、Transaction領域の収益性についてです。

これは以前に紹介したのですが、NAR(全米リアルター協会)の調査によると、エージェントを見つける認知経路のオンライン(=Search)比率は10%前後しかありません。

一方で「家族・友人からの紹介」「(過去に依頼したエージェントへの)リピート」「オープンハウス・看板」「電話営業」といったチャネルは合計80%前後にのぼりました。
これらは全てTransactionの領域を担う仲介会社・エージェントが握っているチャネルです。

不動産ポータルによるSearchの市場の伸びにばかり目が行きがちですが、Transactionはその約8倍以上の顧客を握っている巨大な市場なのです。

Transactionを担う仲介会社・エージェントが80%前後の顧客を握っている【出典】NAR調査データより

つまり、SellerとTransactionの領域は、ただテクノロジーによる改善余地が大きいだけでなく、その結果として獲得できる市場が巨大なため、テック企業や投資家が注目しているのです。

【資金の近いみち(Opendoor)】
「iBuyer事業のエリア拡大」+「周辺事業開発」

ここでは450億円という膨大なキャッシュを2社がどのように活用するかについてまとめたいと思います。

Opendoorは2020年までに自社のiBuyer事業を50都市に展開することを中期目標に掲げています。現在の展開都市数は16都市なので、今回の調達資金はまずもって新エリアへの事業拡大とそこでの物件購入資金として使われます。

加えてOpendoorのCEO Eric Wu氏は売却後の買い替え先の物件購入、ローン、登記といった周辺領域にも注力していくことを表明しており、ここにも資金を投入していくと見られています。

以前も解説したとおり、このiBuyer事業にはZillowやKnock、Offerpadといった競合がひしめいています。そして、Sellerにとってどの会社を選ぶかの基準は買取価格の高さ以外にありえません。

周辺事業開発によって、買い取った物件の転売による利益だけでなく、Sellerが住み替え先として購入する物件やそれに伴うローンや登記の手数料収入をLTVとして見込めるのであれば、より高い買取価格を提示しやすくなります。
(これは先日紹介したOpen Listings買収と同じ構造です)

ですので、周辺領域事業の強化はメインのiBuyer事業との相乗効果があるのです。

【資金の近いみち(Compass)】
 「仲介会社買収」+「システム開発→ライセンス販売」

一方でCompassが掲げている中期目標は2020年末までに全米上位20都市で20%のマーケットシェアを獲得することです。そのためには顧客を抱えているエージェントを引き続き強化していく必要があります。

以前は移籍金や0%マージン、ストックオプションなど破格のオファーを提示し個人のエージェントを口説いていたのですが、最近は規模も大きくなってきたので、そんなチマチマしたことはせず仲介会社を丸ごと買収する戦略に切り替えています。

4月にシカゴのConlon Real Estate、6月に同じくシカゴのThe Hudson Company、7月にサンフランシスコのParagon、ついには8月に全米5位の取扱高を誇るPacific Unionと立て続けに買収をしています。
明言はしていませんが、調達した450億円の多くはさらなる仲介会社の買収に使われるのだと思います。

加えてCompassは、今回の資金を使ってエージェント向けのシステム開発をさらに強化することを表明しています。
このシステムは自社のエージェントに提供するだけでなく、「Powered by Compass」モデルと言って、他の仲介会社にライセンス販売する計画です。

この戦略に関しては僕は懐疑的で、Opendoorのケースとは逆にメイン事業と利益相反するのではと思っています。
実際にLeading Edgeという会社にシステム提供した際には、Compassの自社エージェントから「なんで商売敵に同じシステムを提供しているんだ」と反発が出て、中止に追い込まれました。

可能性があるとしたら自社エージェントと直接競合することのない海外です。CompassのFounderでExective ChairmanのOri Allon氏も海外へのシステム販売の構想について言及しています。
有力なのはアメリカとほぼ同じ業界構造のカナダ。それ以外だとイギリスやオーストラリアあたりが最初のターゲットになるのではと個人的には思ってます。

「既存事業拡大」と「周辺事業開発」に投資というのは2社に共通する構図だが、Opendoorの方が両施策の相乗効果を生み出しやすく、Compassは利益相反のリスクがある

【今後の展望①】
Opendoor&Compass: 両社の合併はおそらくない

「Softbankが間に入ってOpendoorとCompassを合併させるんじゃないか」という噂がアメリカ国内の業界関係者の間でも流れ始めていますが、短期的にそれはないと思います。というのも事業シナジーがないからです。

例えばOpendoorの価格アルゴリズムは品質や需給のブレの小さい3,000万円前後のごく一般的な物件を前提にしています。
これをCompassが対象としている高額物件に持ち込むと、品質や需給のブレが大きいため精度高く価格査定できないという課題があります。
(このあたりの詳しいアルゴリズムについては、こちらでまとめています)

また、Compassの武器であるエージェント向けのシステムはOpendoorにとっては無用の長物です。
そもそもOpendoorはエージェントによる仲介業務そのものをディスラプトして取引を簡略化する事業モデルだからです。

ですので、現状では無理に両社を合併させるのではなく、郊外エリアのOpendoor、大都市エリアのCompassと棲み分けをして、それぞれシェアを伸ばしていくのが得策だと思います。

【今後の展望②】
 iBuyer競合: スタートアップ勢は苦戦。対抗できるのはZillowのみか

すでにKnockとOfferpadは展開都市数でOpendoorに遅れをとり始めています。エリア展開を加速できないということは既存エリアで何らかの問題があることの裏返しでもあります。

その間に、Knockの約40億円、Offerpadの約400億円という累計の資金調達額に対してOpendoorは1,000億円と桁違いの軍資金を獲得。
KnockとOfferpadに際立った特長があるわけでもないので、今からこの差を埋めるのは難しくなってきている印象です。

唯一、資金面と集客面でOpendoorに対抗できる可能性があるのはZillowですが、以前にもまとめたとおり、Buyer×Search領域で築き上げたポータルサイト広告売上の毀損リスクに対して、どこまで腹を括って勝負できるか次第です。

【今後の展望③】
大手仲介会社: テック企業に生まれ変わることを宣言

長らく業界のトップを走ってきた従来型の大手仲介会社はこれまでにない危機感を抱いています。

エージェントを奪い合う関係にあるCompassに対抗し、KW・Realogy・Remaxという大手3社のトップが異口同音に「不動産企業からテクノロジーを企業に生まれ変わる」と宣言しています。

私たちはテクノロジー企業です。 それは第⼀に、私たち⾃身がテクノロジーを開発するということです。第⼆に、私たちがテクノロジー人材を採用するということを意味します。私たちはもう不動産会社ではありません。
-Gary Keller(KW Founder and Chairman)

我々は古典的な仲介会社のゲームに勝ちました。本当に楽しい35年の歳月でした。しかし、エージェントの数、取引件数に焦点を当てることは、もはや我々が戦っているゲームではありません。
- John Davis (KW CEO)

私たちの仕事はエージェントを成功に導くための最高のテクノロジーを提供することです。 いくつかのテクノロジーは今後自社で開発しますし、他社から購入するサービスもあるし、本当に素晴らしいものであれば投資するものもあります。
- Ryan Schneider (Realogy CEO)

(Boojという不動産業務システム会社の買収目的を聞かれて) Remaxのエージェントとその顧客にとってオンライン上の優位性を生み出す最高クラスのテクノロジープラットフォームを開発するのが目的です。
- Adam Contos (Remax CEO)

具体的な内容は別途まとめることにしますが、各社ともにエンジニアの採用やテック企業の買収に本腰を入れ始めています。

またこれらの仲介会社はOpendoorともSellerを奪い合う競合になるのですが、これまた最新のニュースで昨日と今日(9/26,27)で立て続けにRealogyとKWがiBuyer事業への参入を宣言しました。

これまで仲介業に徹していた大手仲介会社が自らリスクをとって在庫を抱える買取再販業に参入するのは大事件です。(これについても詳細は改めてまとめようと思います。)


長くなりましたが、以上になります。

OpendoorとCompassがこれだけ高まった期待に果たして応えられるのかという議論はあるものの、この2社がキッカケとなって業界に大きなうねりが起きているのは確かです。
今後もテクノロジーによって不動産業界がどのように進化・変貌していくか目が離せません。

※ご質問やご要望がある場合は、こちらにご連絡ください。proptechblog@gmail.com