Redfinに続く新世代の仲介会社CompassとeXpの正体

今回は不動産仲介会社(Brokerage)についてまとめてみたいと思います。
Coldwell Bankerや日本でもお馴染みのCentury21なんかが有名どころの老舗ですが、2017年8月に鳴り物入りでNASDAQに上場し、時価総額2,000億円に迫る大企業となったRedfinや、2017年12月にソフトバンクから評価額2,200億円で450億円の資金調達をしたユニコーン企業Compassなんかも、このBrokerageのカテゴリーに属します。

さらなる新興勢力として、2018年3月に177億円の資金調達をし、アメリカ・カナダへの進出を開始したイギリス本社のPurpleBricksや、昨対で3倍近い売上成長を遂げ2018年5月にNASDAQ上場を果たし、時価総額800億円を超えたeXpも挙げられます。

「仲介会社」というとアナログな印象を受けるかもしれませんが、時代の変化やテクノロジーの進化に伴って、以前に紹介したiBuyer市場と並んでいまアツい市場です。

2017年8月にRedfinが華々しくIPO。続いてeXpも2018年6月にIPOとBrokerageの勢いが止まりません。

二重の中間業者がいまだに残るアメリカの不動産取引

近年の不動産仲介会社の進化を理解するためには、業界を取り巻く大きなトレンドを押さえておく必要があります。

そもそも、アメリカの不動産取引には「Agent」と呼ばれる営業と「Brokerage」と呼ばれるAgentを管理する仲介会社が登場します。
不動産の売買が成立すると物件の売り手から仲介手数料5~6%が徴収され、売り手のAgentと買い手のAgentがそれぞれ半分ずつを受け取ります
その後、Agentは自分の稼いだ仲介手数料のうち平均15%を管理者である仲介に支払います。

インターネットの登場を契機に、様々な業界で中間業者がディスラプトされていくなか、驚くべきことに不動産取引にはAgentとBrokerageという二重の中間業者が存在しているのです。

情報がよりオープンになった現代において、当然ながら消費者は、「そもそもこの5~6%の仲介手数料に見合う価値をAgentは提供してるんだっけ?」という疑問を感じ始めています。
それに応える形で台頭してきているのが、従来より低い仲介手数料をアピールするDiscount Brokerageです。前述のBrokerageの中でいうとRedfinとPurpleBricksがそれに該当します。

さらにAgentの立場からすると、所属するBrokerageへの不満が増してきています。
半世紀前ならば、例えばCentury21に所属することでAgentとしての信頼度を高められましたし、Brokerageが提供する研修や専門知識を頼りにしていました。
しかし、これまたインターネットの台頭以降は、Brokerageに頼らずとも自身のブランディングはできますし、必要な知識も自分自身で集められるようになりました。
こうして昔ながらのTraditionalなBrokerageは、Agentへのマージンを正当化することが難しくなってきており、実際にマージンの全体平均は徐々に下がり続けています。

不動産売買時のお金の流れ(簡易版)

こういった状況に着目し、Agentに対して低いマージン+αの価値を提供することで爆発的に成長している新世代のBrokerageが「Compass」と「eXp」です。

ユーザー側の仲介手数料を引き下げるDiscount Brokerageはまたの機会で触れるとして、今回はまずAgentへの低マージンモデルのCompassやeXpといった次世代型のBrokerageについて紹介したいと思います。

Agentを制する者は米国不動産マーケットを制す

まず前提として不動産取引市場においてAgentの力はまだまだ絶大です。
そもそもAgentを介さないFSBO(For Sale By Owner)という、C2Cの取引形態は一時は注目されたのですが、期待されていたほど普及していません。2000年代には20%だったのが2017年には8%に減少し、そのうちの半分は相続・離婚等による家庭内での取引です。

ユーザーがどうやってそのAgentを見つけているかというと、これまたとてもアナログです。
NAR(全米リアルター協会)の調査によると、Agentを見つける認知経路のうちオンライン経由は10%前後しかなく、「家族・友人からの紹介」と「(過去に依頼したAgentへの)リピート」があわせて60%以上にのぼりました。

このように米国不動産マーケットは、まだまだ人と人との信頼関係に依存していて、優秀なAgentが顧客を抱えている構造なのです。
なので、Brokerageの目線からすると、優秀なAgentを数多く抱えることで、その先の顧客を獲得することが勝負のポイントになるのです。

従来のBrokerageは当たり前のようにAgentの手数料から30%以上のマージンを徴収していました。
しかし、この「Agentが顧客を握っているという業界構造」から徐々にそのパワーバランスがAgentにシフトしていき、前述の通り「インターネットの台頭によりBrokerageの従来の提供価値が薄れた」ことにより、この流れが一気に加速したというのが、ここ半世紀の業界の歴史といっていいでしょう。

20世紀を代表するディスラプター、REMAXとKW

少し古い話になるのですが、このパワーバランスのシフトの歴史を紐解いてみたいと思います。

さかのぼること1973年、この「Agentが顧客を握っているという業界構造」にいち早く目をつけて急成長したのがREMAXです。

彼らはトップクラスのAgentの仲介手数料からは一切マージンを徴収しない「100%Commission」と呼ばれるモデルを導入しました。

このトップクラスのAgentは若手のAgentを弟子に抱え、自分の手の回らない顧客を紹介し、成約時にキックバックを得ているケースが一般的です。
そのため、トップクラスのAgentを採用すると芋づる式に若手Agentを採用でき、そこにマージンを課金するためマネタイズができるというモデルです。
これで大成功したREMAXは後発ながら全米で1,2位を争うBrokerageに成長していきます。

REMAXのマネタイズモデル

続く1983年、業界に風穴を開けたのはKeller Williams(通称KW)というBrokerageです。彼らはどちらかというとREMAXで金づるにされた若手Agentに着目します。
「Brokerageへの支払いマージンが年間一定額を超えるとそれ以上のマージンが免除される」というCap Modelを初めて普及させ、「頑張っても頑張ってもマージンを徴収され続ける」という若手Agentの不満を解消しました。
加えて、Profit Shareという会社全体の利益をAgentに還元する仕組みを導入することで「Agentから搾取するのではなく共同オーナーとして迎え入れる」という姿勢は多くの共感を呼び、採用を加速させました。
今やKWのAgent数は17万人にのぼり、単体のBrokerageとしては全米1位になっています。

ざっくり言ってしまうと、このREMAXの系譜を継ぐのがCompass、KWの系譜を継ぐのがeXpです。詳しくは後述しますが、この図がサマリーです。

REMAX × ベンチャーマネー = Compass

Compassはすでに800億円を調達し、時価総額2,200億円に到達している押しも押されぬユニコーン企業です。
「2020年までにトップ20都市で20%のマーケットシェアを獲得する」をゴールに掲げ、高額エリアTop Agentをターゲットに採用しまくってます。

CompassのモデルはREMAXが始めた「Top Agentえこひいきモデル」をさらに極端にしたものです。
100%Commissionはもちろんのこと、Compassに入社すると膨大な移籍金も支払うこともあります。移籍金は億単位に上ることもあり、もはやちょっとしたメジャーリーガー並みです。
加えてストックオプションもバンバンAgentに配り、各都市の一等地にGoogle顔負けのオシャレなオフィスも構えています。

彼らの勝因は、誤解を恐れず言えば、この極端な「Top Agentえこひいきモデル」を支えるための多額の資金を、ベンチャーファンドから調達できたことです。

なぜそのような期待値を投資家から獲得できたかというと、以下の2点です。
①「テクノロジーを駆使した次世代のBrokerage」というブランディングがうまくいったこと
②Top Agent採用と資金調達のサイクルを賢く回したこと

①のテクノロジーに関しては、正直なところ、あくまでブランディング色が強く、実態はあまり伴っていません。
消費者向けのポータルサイトはまだまだ使いづらくほとんどトラフィックはありません。Agent向けのシステムは現在はずいぶん整備されてきましたが、当初は何もありませんでした。
ですが、少なくとも資金調達や採用活動における戦略としては、「最先端のテック企業」っぽい見せ方はかなり効果的でした。

そのようなテック企業的なブランディングに加えて、著名なTop Agentを採用した(もしくはLOIを締結したから入りそう)という事実もファンディングの際の武器になりました。
そして投資が集まり時価総額が右肩上がりになれば、ストックオプションの魅力度が高まるので、Agent採用を更に加速できるという好循環を生み出したのです。(②)

今やCompassのAgent数は4,000名にまで増え、時価総額は2,200億円にのぼります。マーケットの中での存在感は増しており、業界の誰もが注目する企業となっています。
なかでも最大の関心事は、どのようにマネタイズするのかという一点に尽きます。前述の通り、Compassは100%CommissionモデルでAgentからマージンを徴収しないので、ほぼ収益は上がっていないはずです。
一方でオフィスやシステム開発、マーケティング、移籍金など多額の投資をしているので、それをどのように回収するかが課題となってきます。

これに関しては相当長くなりそうなので、別の章でCompassのマネタイズの見立てとして改めてまとめることにします。

不動産仲介会社とは思えないCompassのサンフランシスコオフィス

KW × リモートオフィス = eXp

eXpは2009年創業の新興Brokerageで、2017年の売上は156億円、Agent数は年末時点で6,511人でした。
直近の伸びがすさまじく、2018年Q1の売上が前年22億円から62億円と3倍近くに成長。5月にはNASDAQへの上場も果たし、時価総額は800億円を超えました。今やAgent数は15,000人に迫る勢いと聞きます。

彼らの売りの一つはCap Modelです。更にProfit Shareの代わりに売上貢献をしたAgentにストック・オプションを渡しています。
ここまではKWに似たモデルですが、最大の違いはAgentに課金するコストです。

登場当時、Cap ModelとProfit Shareを導入して、Agentにとって魅力的な条件を提示していたKWですが、一度Agentを囲い込んだ上で、Desk FeeやTech Feeなどありとあらゆる固定費を後出しジャンケンで課金し始めました。
今となっては仲介手数料へのマージンに加えて、年間けっこうな固定費を支払わないといけない割高なBrokerageになっています。

これに対してeXpは固定オフィスを基本的に持たず、各Agentがリモートワークで働くVirtual Brokerageと呼ばれるモデルによって固定費を抑え、そのぶんを低価格の料金体系でAgentに還元するというコンセプトです。
マージン上限は$16,000で、それ以外のコストは初期費用$99と年間$1020(固定費$600+研修費$420)という割安な設定です。

AgentのデスクワークはPC1台あればどこでもできますし、顧客との打ち合わせも最近はスタバのようなカフェや物件の現地で行なうことが多いです。
このリモートワーク+固定費削減のモデルが、合理的でITとの親和性も高い若い世代のエージェントに受け入れられて、グングン成長しているのです。

創業者がKW出身だけあって、全体的なコンセプトはKWに似ていて、そのうえでコストが安いのでKWから乗り換えてくるAgentが非常に多いと聞きます。

ラグジュアリーなCompassとは対照的なベクトルですが、eXpのようなAgent向けのサービス&料金体系がシンプルなクラウド型のVirtual Brokerageも増えてきており、こちらも大きく注目されるトレンドとなっています。

【まとめ】
・「Agentが顧客を握っているという業界構造」と「インターネットの台頭によりBrokerageの従来の価値が薄れたこと」を背景に、魅力的なサービスをAgentに提供する新世代の仲介会社が台頭
・Compassはベンチャーマネーを活用して、「Top Agentえこひいきモデル」で急成長するも、マネタイズに課題
・eXpはリモートオフィス化により固定費を圧縮し、Agent向け低価格プランに還元

※ご質問やご要望がある場合は、こちらにご連絡ください。proptechblog@gmail.com

市川 紘(Ko Ichikawa)

Written by

シリコンバレーの不動産テック企業Movoto副社長。前職はリクルートのSUUMOで、営業→プロダクト→経営企画マネージャー→新規事業開発部長を担当。

Welcome to a place where words matter. On Medium, smart voices and original ideas take center stage - with no ads in sight. Watch
Follow all the topics you care about, and we’ll deliver the best stories for you to your homepage and inbox. Explore
Get unlimited access to the best stories on Medium — and support writers while you’re at it. Just $5/month. Upgrade