今夜、家を飛び出して夢を見よう

CulNarra! Interns
My Night Cruising 2019
9 min readAug 28, 2019

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Written by: まお

お祭りの音が聞こえる。

地下鉄の改札を出ると帰っていくのであろう人も多いが今着いた人もわんさか。もう夜の10時になるというのに背中から人が押し寄せてきた。さすが六本木。いや、六本木アートナイトだからなのかも。地上への階段を登りきる。煌びやかで賑やかで、この夜は暗いのに明るい。

私はこの街の昼間を、日常を知らない。

2019年5月25日と26日に開催された六本木アートナイト2019に行ってきた。今年で開催10回目、夜を主なステージとしたアートのお祭りだ。アートナイトとは言え本当に夜を明かすことになるのか疑わしく思っていたのだが、パンフレットをよく見ているとコアタイム(メインとなるインスタレーションやイベントが集積する時間帯のこと)が「25日18:00〜26日6:00」と書かれている……。

六本木アートナイトを知ったのも今年が初めてで、アートイベント自体行ったことのない私はー番後ろのページに小さな文字で書かれた情報に、これは当たり前なのか、と驚いた。だが驚きと共にそれなら夜に楽しもうじゃないかとわくわくしてきた。

楽しみになった理由がもう1つ。六本木アートナイト開催前の2ヶ月間、慶應義塾大学アートセンターと六本木アートナイト2019共催のワークショップ・プログラムに参加し、アート・センターの方やアーティストの方にもお話を聞きながら、現代アートとアーカイヴ、つまり一過性の出来事をどう記録して保存していくかということについて考える経験が出来たからだ。その中で特に印象的だったのは、六本木アートナイト実行委員会の方が今年のテーマについて話してくださったことだ。

「夜の旅、昼の夢」ということで、「夢を見る」というイメージで全体が動いている。例えば、作品は大きいものが多いため保存するにはお金も場所も必要になるので残すことはできない。たくさんスポットライトを当てられたものたちなのにである。しかし、これも「アートナイトで起きること」として考えてみれば一夜限りの儚い夢という感じがしていいんじゃないか、とおっしゃる。そっか、思う存分夢にひたっていいんだ。私は運営の方たちがこんなことを言うところにグッと来た。コンセプトが大切にされている。しかもこんなに素敵なコンセプトが。作っている側の方たちがすでにそこに夢を見ているのなら、私たちもきっと夢を見られる、そう思った。

一夜限りの夢のような世界を旅しよう。リアルな世界で夢を見よう。私たちはそんなお話の主人公でアーティストも主人公、実行委員会の方も主人公。作品が現れた街はもう普通の街じゃない。でも明日にはなくなってしまうんだよね。

いや、落ち込んでる場合じゃないんだ。普通の夢と違って現実の夢なんだ。手だって足だって好きに動かせる。ほら写真だって撮れるし、地図はまともだし、時計はしっかりと時を刻む。いつしか空から月がいなくなって、星がいなくなって、淡い色を帯び始める。太陽と再会した君の瞳には何が映っているだろう。

では出会った作品たちを紹介してみようか。

まずこの光る鳥。

遠くからも見えるし何よりかわいい。近づいて見てみるとワイヤーが編み込まれてできている。柔らかく精巧な姿をした鳥が当たり前のように木の上に佇んでいるのだが案外巨大だったりする。しかし馴染んでいる。

作品のタイトルを見てみると。

「欲望と脅威」

…やっぱり馴染んでいないかもしれない。

アーティストのセドリック・ル・ボルニュはこういった立体作品でありふれた空間を詩的な情景に変えるそうだ。

それからこちら。

何に見えるだろう。考えてみてほしい。

正解はシャボン玉。

いきなりシャボン玉と音が噴き出してきて、唐突に止まる。カラフルな光に照らされてとても綺麗(実はこの装置が4台あって真ん中に入ると囲まれる)。写真を撮ると勢いが強すぎて収まってくれないのがもはや楽しい。夜しかできないシャボン玉の楽しみ方のような気がする。

ぶわっと広がったと思えば眺めているうちに宙に残されたものだけがふわふわと漂う。

作品の名前は「存在の音色」

一瞬に輝く美しさと、消えゆく儚さを表現しているそうだ。まさに夢、という感じがした。

それからこちら。

何を言いたいか伝わっているだろうか。そういうことね、とピンと来ていただけていれば嬉しい。

ここでは2018年、大学医学部の入試で女子受験生の得点を一律に減点し合格者を抑えていたという大問題を背景に「東京減点女子医大」なんて学校のオープンキャンパスを行っている。しかもQRコードから「裏口入学」ができるらしい。

まさに現在進行形の世の中に対しての皮肉たっぷりで、誰にでもわかりやすく作られているし笑ってしまいそうになる。新聞も配られていて、より現実感を味わわされる。社会問題を直接的に批判している作品に人が集まっているのはいいなと思った。

こういうセンセーショナルな問題についてこういった開けた場所でアートとして提示することにはすごく意味があるように思えた。まず人がたくさん群がっているから普段は目に見えてこない人々の関心の高さがよく分かる。みんな問題だと思っていたんだ、と分かれば他の人とそれについて話してみようと思える。このきっかけづくりは普通難しいものだと思うのでこのやり方は上手いなあと感激した。「現代」アートというか「現在」アートだった。いま現にそこに在る人と物が干渉し合う。作品でそれを見た人の心の動きをその瞬間から変えていく。動かしていく。

これがいわゆる現代アートと呼ばれているものの形なのではないかと思った。アーティストが理想形としているのもそういう形なのではないかと思った。

そして最後にこれ。

夜中の3時から始まる盆踊り。とってもイカれてる。今まで見てきたどれもが参加型で、目の前で姿を変える何かについて考えさせてくるものだったけれど、これが1番参加した実感が強く残った。

何が楽しいってみんな恥ずかしさも何も無く踊っているところ。日本人全然シャイじゃないじゃん。これも夜、それも夜中だからこそこんなに盛り上がるイベントなのかもしれない。人の目なんか気にならない、気にしていたら楽しめないでしょ、という雰囲気に溢れていてとても心地よかった。

ここまで4つ作品を紹介したが割愛したこともたくさんある。サントリー美術館に最後までいたら「24時で閉館になりますので」と追い出されて、普段は聞かないセリフにテンションが上がったり、夜中に六本木ヒルズの芝生で寝たり(しかも他にもひとがたくさん寝ている)、森美術館に辿り着いたのが朝になりかけの4時だったり。街中にアートとかいうものが溢れているとこんなにも世界が面白くなるんだと何度も思った。誰もが抵抗なくアートに親しんで何かを感じている。とっても素敵な世界だ。どんな人にでもこのお祭りに来てもらいたい。障害のある人や車椅子・ベビーカー等を利用する人を対象にしたインクルーシブ・ツアーや、海外からの来場者に向けた外国語対応企画もある。私は基本的に夜が好きな人間なのだが、そんな人は絶対に六本木アートナイトに来てみた方がいい。夜の街巡りは本当に楽しくて、人の活気に溢れているのも魅力的。スタッフがたくさんいるので初めて来る人でも危ないこと、心配することは特にない。生きた心地しかしない。飛び込めばあとはもう惹かれた方に進むだけだ。

朝8時ごろ。

まだ見られていなかったヒルズ近くのものを見て回ったり、夜見たところを改めて通ったり。次来る時はこの風景が無くなっているんだなと思うと名残惜しい。

空はすっかり明るくなって軽やかな風が吹いている。気がつけば人もまばらになっていてみんないつの間に消えてしまったんだろう。そういえば盆踊りをしてからまだたったの5時間。朝の静けさにあの踊り騒ぎは夢だったんじゃないかという気さえして。

贅沢で幸せな夜だった。太陽が近づいてくるのが寂しかった。

針金の鳥が夜、とっても輝いていて印象的で。もう一度見て、そしたら帰ろう。

いない。

……いなくなったと思った。本当にいなくなったのかと、あのまばゆい光は夢だったのかと思った。

そんなに早く撤収する訳ない。

夢の中でこれは夢だと気づいた時のように、自分に現実だったと言い聞かせ近づいてみる。ちゃんといた。光を伴わなくなったヤツは緑にあまりにも馴染んでいて思わず笑いがこぼれそうになる。輝いていていなくてもそこにいる。見えにくくてもそこにある。月みたいで夢みたいだ。

参考

一緒に巡れば世界が広がる。さあ、アートの旅に出かけよう!インクルーシブ・ツアー 参加者募集!| 六本木アートナイト2019

六本木アートナイト2019 バリアフリー・マップ

外国語ガイドレクチャー”SPEAKEASY AT ROPPONGI ART NIGHT 2019” | PROGRAMS | 六本木アートナイト2019

まお。新潟生まれ、千葉でも育つ。知らない土地を歩くのが好き。港区には大学のおかげでよく来るように。平日昼間の穏やかな増上寺がお気に入り。大学では民族学考古学を専攻し、フィールドワークが自分に合っているのを感じる日々。美術館の文化・歴史教育的側面の在り方にも興味がある。

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「都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト、カルチュラル・コミュニケーター・ワークショップのインターンが、地域の文化について語ります。http://art-c.keio.ac.jp/-/artefact