インクルーシブ・ツアー、六本木アートナイトを楽しむ新しい方法

CulNarra! Interns
My Night Cruising 2019
9 min readSep 1, 2019

Written by : Taeyeong Kang

六本木アートナイト2019との共同プログラム『アートナイトを語る―My Night Cruising』に参加し、2ヶ月に渡って開催されたワークショップに参加しました。プログラムのワークショップを通じて、システム・デザイン思考を学び、いいアイディアを考えるためには、自由に思考できるようにする質問の役割がとても重要で、どう表現するかによって聞き手の答え変わってくると実感しました。また、六本木アートナイト実行委員会の事務局長から六本木アートナイトについて深い話を聞くことができました。その中でも六本木という街を文化拠点にするために六本木アートナイトを開催したという説明がとても印象的でした。自分が日本の外から来た外国人だからか、六本木はいわゆる「おしゃれ」の代名詞というイメージがずっと強かったので最も印象に残りました。六本木をみんなが楽しめるような場にするのが六本木アートナイトの開催の目的でしょう。

ところが、その「みんな」に本当にすべての人々が含まれるだろうか、と疑問に思いました。パンフレットをみても、アートナイトに設置された作品はほとんどが体験型で視覚的な作品でした。しかも、アートナイトは、家族や友人同士で、もしくは多くの外国人観光客も来るので、非常に混むところです。その場に身体的に不自由な障がい者がいるとしたら、彼らもアートナイトを楽しめるでしょうか。ちょうどワークショップで六本木アートナイトの実行委員会の方からいただいたインクルーシブツアーの広告を見ました。インクルーシブ・ツアーは視覚障害のある人、もしくは車いす利用者など、様々な人たちと一緒にアートナイトを巡るプログラムです。インクルーシブ・ツアーには視覚障がい者のための「言葉でゆっくりツアー」、車いす利用者やベビーカーなどを利用する人のための「バリアフリーツアー」の二つのツアーがありました。私はその中でも「言葉でゆっくりツアー」に申し込み、参加しました。このツアーをきっかけに、視覚障がい者がアートナイトを楽しむ方法を直接見て、自分がそのルートを一緒に回れる貴重な機会になると思いました。

インクルーシブ・ツアーが始まった直後の雰囲気
受付の時にいただいたヘッドフォンと番号札

先ほど述べたように、「言葉でゆっくりツアー」は視覚障害のある人々と学生、社会人、子ともといった様々な人々が一緒に参加し、六本木一帯に設置された作品を鑑賞し、その体験を共有するプログラムです。プログラムは25日の午後2時から3時30分にわたって実施されました。集合場所は六本木ヒルズのウェストウォーク入り口周辺でした。2時ごろに集合場所に着いたら、関係者の方々からコーディネーターの説明や進行状況をリアルタイムで聞ける小さなヘッドフォンとヘッドフォンの番号が書かれている札をいただきました。そして、参加者と関係者は4つのチームに分けられました。私が属したのはチームCでした。それぞれのチームには視覚障がい者の方が一人と、障がい者の方を集中的にサポートするボランティアの方がいました。メンバーごとに名前と朝食で何を食べたかなど、簡単に自己紹介を済ませた後、本格的にツアーを始めました。

大村雪乃、松田暁、堀和紀の『唄う蜘蛛の巣』

「言葉でゆっくりツアー」で私たちが鑑賞した作品は全部で6点でした。まず、大村雪乃、松田暁、堀和紀の『唄う蜘蛛の巣』を鑑賞しました。次に、大西康明の『Circulation』を、ジョシュア・オコンの『下(アンダー)』、チェ・ジョンファの『フルーツ・ツリー』、つちやあゆみの『昼の音、夜の音』、そして最後にマグダ・セイエグの『ママン』などの作品を参加者同士で鑑賞しました。作品を鑑賞するとき、コーディネーターの方が最初に作品の説明をするのではなく、参加者たちが自ら作品を説明するように誘導しました。そして、単純に説明するのではなく、まさに描写するかのように説明するのを求められました。参加者からの説明が終わった後に、コーディネーターの説明がなされました。

ジョシュア・オコンの『下(アンダー)』

例えば、『下(アンダー)』を見るとき、作品の中の動画がこんもりとした森に見えると答えると、コーディネーターはさらに詳しく聞いてきます。その森は日本国内か、もし日本だと思うなら、どうしてそう思うのか、というように非常に細かい質問をされます。これは「言葉でゆっくりツアー」ならではの特徴だと言えるかもしれませんが、細かい描写を通じて視覚障がい者が作品を鑑賞できるように手伝うのでありました。コーディネーターの説明だけではなく、参加者たちの親密感に満ちた説明を聞いて視覚障がい者は作品の様子を想像し、間接的に鑑賞できるようになるのでした。参加者が作品について説明するとき、コーディネーターのマイクで説明をしたので、お互いの感想や説明をヘッドフォンで共有することができました。参加者たちの説明が終わった後、コーディネーターは作品の説明を進めながら、視覚障がい者の方を含め、参加者全員が直接作品に触れるように誘導し、作品をさらに深く鑑賞できるように手伝いました。ツアーの全体的な構成、コーディネーターの説明、障がい者の方への配慮など、ツアーにとても満足しました。何よりも、ツアーの雰囲気がとてもよかったです。

つちやあゆみの「昼の音、夜の音」

細かく描写して、詳しく説明し、自由に話し合う雰囲気がこのツアーの強みだと思いました。ツアーが本格的に始まる前に、参加者の一人であった視覚障がい者の松本さんご自身がこのツアーの中心となって、活発に話し合うことを強調したので、ツアーでは全体的に活発に意見が共有されました。普段通りに作品を鑑賞していたら、私は作品を簡単に確認して終わったでしょう。しかし、視覚障がい者の方に作品を深く理解してもらえるように、細かく説明しました。そうすると、自分まで作品をいつもより詳しく観察するようになり、集中するようになるような気がしました。単に作品を描写する段階にとどまらず、チーム同士で作品に対する印象を共有しあうことによって、作品への解釈がさらに豊かになるような気がしました。

また、自分の個人的な経験も加えて説明することができて、みんなで広い共感を形成し、自由に話し合うことができました。『昼の音、夜の音』を見るとき、隣でこんな会話がなされました。「小学校の時、音楽の授業で使ってたようなものです。」「あ、確かにあの時似たようなもの使ってましたよね。」 このような雰囲気の中で進められたツアーの中で、私は個人的に『Circulation』を見た時が最も印象に残りました。

大西康明の『Circulation』

『Circulation』を見たとき、作品に関しては基本的な情報の説明から解釈し、鑑賞を共有しました。作品の大きさはどれぐらいか、どの布で作られたのか、もしくはどのように設置されているのかを視覚障がい者の方から聞かれ、参加者たちは詳しく説明しました。説明が重なるにつれ、作品に対する鑑賞は深くなりました。そして万年雪、氷河に見えるという鑑賞に至りました。ぽつんとそう見えるというのではなく、どうしてそう見えたのか理由まで話さなければなりませんでした。氷河に見えると自分が答えた後、自分もまたどうしてそう見えたのか、作品から根拠を探そうとしました。このツアーに参加し、自分が作品にどうしてこのような感想を持つようになったのかと根本的な疑問を持つようになり、作品鑑賞において積極的な態度で臨むことができたと思います。友人、家族と一緒に同行し、同じ作品を見たとしても、ツアーの中でのように普段ならふと見逃すようなところまで注目し、集中することはできなかったと思います。

このツアーを通じて、多くのことを学べました。確かに美学美術史を専攻する立場で、アートナイトに臨む態度が普段と違ったかもしれません。それでも、芸術作品を鑑賞する上で、新しい方法でアプローチすることを学べたと思います。ツアーの最後に楽しかったと言った視覚障がい者の方の感想を聞いて作品鑑賞には視覚がすべてではないと気づきました。直接作品を見れなかったとしても、他人から説明を聞いてみたり、作品に触れてみたりすることによって、作品を想像し、自分なりの感想を持つことができるなら、それで十分なのではないか。このツアーを通じて、六本木は文字通り、誰でも楽しめる場所だと思いました。障害のある人でも、外国人でも、六本木という街に文化を通じて融合できたと感じました。来年にまた同じプログラムが開催されるなら、ぜひ参加したいと思いました。今後、アートナイトに行ってみたいという方にもぜひお勧めです。

KANG TAEYEONG (文学部2年/美学美術史専攻)

韓国からの留学生です。美術制作を専攻している姉の影響で美術に対して興味を持ちました。姉の描いた絵を少しでも理解したいと思い、本専攻に進学しました。美学美術史学を勉強していく中で、六本木アートナイトのようなイベントに取材という少し違う立場から参加し、経験すると、アート・イベントに様々な方面から接近できる貴重な機会になると思い、このプログラムに参加しました。

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My Night Cruising 2019

「都市のカルチュラル・ナラティヴ」プロジェクト、カルチュラル・コミュニケーター・ワークショップのインターンが、地域の文化について語ります。http://art-c.keio.ac.jp/-/artefact