寄稿レポート:世界最大のクレジット・デリバティブ管理システムへのDLT導入と、その技術を担うブロックチェーンベンチャーAxoni

d10n Lab ,LLC
6 min readMay 31, 2019

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ブロックチェーンのリサーチコミュニティ・d10n Labでは、【寄稿レポート:世界最大のクレジット・デリバティブ管理システムへのDLT導入と、その技術を担うブロックチェーンベンチャーAxoni】を配信しました。

極度乾燥(してます)(Twitter:https://twitter.com/ryokotmng)さんによる寄稿レポートです。

TL;DR
このレポートでは、米国のクレジット・デリバティブ取引情報データベースにおける分散台帳技術 (Distributed Ledger Technology、以下DLTと記載) 導入事例に加え、DLT導入の役割を担うブロックチェーンベンチャー企業、Axoniについて説明する。

TIWは世界最大のクレジット・デリバティブ取引の情報管理データベース兼処理システムで、全世界の取引の大半を扱う。現在、TIWにDLTを導入した新システムがIBMやR3、Goldman Sachs等複数の超有名企業を巻き込んで共同開発されており、今年の4Qにはその実用化が予定されている。金融業界において世界的に巨大な市場を持つ現行インフラストラクチャの重要な部分を代替するという点で、過去最大規模かつ最も野心的なエンタープライズ領域の分散台帳プロジェクトの1つと言えるだろう。

TIWのシステム改修プロジェクトにはCordaを携えるR3も参画しているにもかかわらず、DLTの導入は無名ベンチャー企業Axoniが担う。Axoniは独自のブロックチェーンやプログラミング言語を開発しており、これが技術的優位性となり採用された可能性が高い。Axoniの技術は、比較的広く使われるプログラミング言語を用い、Ethereumベースのスマートコントラクトが、ISDA (国際スワップ・デリバティブ協会) が提唱する仕様に沿った内容であるかを形式的検証 (Formal Verification) することを可能にしている点が特に特徴的である。

はじめに
昨今エンタープライズ領域でのDLT、ブロックチェーン技術の導入に向けて様々な取り組みがなされているなか、今年の末までに巨大金融商品市場をサポートする既存システムにDLTが導入される可能性が高まっている。証券・投資銀行領域におけるメジャーなプレイヤーに関して言えば、過去にナスダックが未上場株取引にブロックチェーンを使用したPoCを成功させる事例はあったものの、実稼働しているDLTまたはブロックチェーンを用いたシステムの事例は見当たらない。そんななかTIWが比較的早いタイミングでDLTの導入に踏み切ったのは、クレジット・デリバティブという、金融商品のなかでも取引や情報のやり取り、もしくは商品自体が複雑で、それゆえにシステムのインテグレーションの難易度が高く比較的アナログな処理の残る領域であることが背景なのではないかと推測される。

また、このシステムが実際に稼働する場合、シリーズBを調達し終わって間もないベンチャー企業が米国最大級のシステムを書き換える旗振り役を果たしたということになる。本レポートの主役であるそのベンチャー企業、Axoniは、世界最大の金融機関を筆頭に超著名な投資家がこぞって投資しており、2019年2月にForbesのFinTech企業50社のうちの一つとして取り上げられた。日本での認知度は低いが、今や米国内でも注目される企業のひとつとなっているようだ。彼らが用いる技術についてそのテクニカルな詳細には触れないが、ブロックチェーンと非常に相性が良いとされながらも実用例があまり見られていない貴重な形式的検証のユースケースとしても興味深い。

なお、本レポートでは、金融機関名を下記の通り略称で記載する。
GS:Goldman Sachs (米) JPM:JP Morgan (米) ML:Merrill Lynch (米)
BoA:Bank of America (米) WF:Wells Fargo (米) CS:Credit Suisse (スイス)

クレジット・デリバティブ取引の情報データベース&取引処理システム、TIWとは

TIWとは
TIW (Trade Information Warehouse) は米国の証券保管振替機関 (DTCC) が提供するサービスで、支払い計算および決済に関与する当事者情報のゴールデンレコード (マスター統合管理) として機能するほか、11兆ドル (凡そ1,300兆円) 相当の全世界のクレジット・デリバティブ取引の約98%のライフサイクル・イベントを処理する。つまり、OTC デリバティブ取引のポスト・トレード処理 (マッチング、決済額の算定、想定元本の変更等) を担う。なお、DTCCは米国版ほふり (日本の証券保管振替機構) のような機関で、中央証券保管所として米国の証券取引の大部分を決済する。
TIWの顧客には、主要なグローバルデリバティブディーラー、70ヵ国以上の2,500以上のバイサイド企業 (投資家等、商品を「買う」人) 等の市場参加者が含まれる。米国に籍を置くものの、全世界のクレジット・デリバティブを取り扱うと前述した通り、インターコンチネンタル取引所 (ICE、米国)、日本証券クリアリング機構 (JSCC) およびLCH SA社のCDSClear (主に欧州) などのデリバティブポジションが含まれる。日本でのCDS取引の際も基本的には利用される。

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目次
TL;DR
はじめに
クレジット・デリバティブ取引の情報データベース&取引処理システム、TIWとは
TIWとは
DLT導入予定の新生TIW概要
DTCCのDLTに関するコーポレートアクションとTIWへのDLT導入の進捗
TIWへDLTが導入された背景 (筆者考察)
(ご参考) クレジット・デリバティブ市場とデリバティブ市場におけるスマートコントラクトの活用
米投資銀行から注目を集めるブロックチェーンベンチャー、Axoni
プロジェクト・企業概要
チーム
Axoniのサービスと事業領域
Axoniが開発した独自言語AxLangとFormal Verification
Axoniに関する投資銀行からのコメント
終わりに
参考資料

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