シェアリングエコノミーにおける非中央集権的システムでの自律的な仲裁とは
2018年11月10日に開催されたEthereumの技術者向けカンファレンス「Hi-Con 2018」で「シェアリングエコノミーにおける非中央集権的システムでの自律的な仲裁とは」というライトニングトークをしました。
以下、資料の内容を説明していきます。
背景
現在、シェアリングエコノミーサービスが多数存在していますが、高い取引手数料、一部企業の独占、集権的な信用などの問題があります。その中、ブロックチェーンの登場によって、そんな問題を解決する新しい形のシェアリングエコノミーが生まれるのではないかという機運が高まってきています。
従来のシェアリングエコノミーとの違い
新しいシェアリングエコノミーでは、シェアリングエコノミーに特化したプロトコルを利用したDApps(非中央集権的アプリケーション)を個人が利用します。開発・マーケティングコストが下がると考えられるため低い手数料でサービスを提供でき、個人の信用をサービス間で引き継げるというメリットもあります。
シェアリングエコノミーとブロックチェーン
ブロックチェーン技術を利用したP2P取引を実現する新しいシェアリングエコノミーとして、Origin Protocol、WONO、Canyaのようなプロジェクトも出てきています。
シェアリングエコノミーの本質
ただブロックチェーンに置き換えたとしても、シェアリングエコノミーの本質が「個人間取引」であるということは変わりません。
シェアリングエコノミーで避けられない問題
そんな個人間取引で避けることができない問題が「個人間トラブル」です。購入した商品の内容が説明と異なっていた、返金されない、不適切なレビューを書かれた・・・などの問題は新しいシェアリングエコノミーでも発生すると考えられます。
また従来のシェアリングエコノミーでは、個人間トラブルを運営企業が中央集権的に解決しており、それが問題解決方法として最適なのかという問いも出ています。
新しいシェアリングエコノミーに必要なもの
そのような問題を新しいシェアリングエコノミーで解決するために、わたしは「仲裁者」という存在が必要であると考えています。
非中央集権的システムでの構成例
シェアリングエコノミーサービスを非中央集権的に自律運営する場合のシステム構成を考えてみました。通常の取引はシンプルですが、仲裁の場合は取引の当事者ではない第三者的な仲裁者が登場し、仲裁処理を行います。取引や仲裁に関するメッセージについてはオフチェーンでやり取りし、取引データなどクリティカルなデータのやり取りをオンチェーンで行うことを想定しています。
コントラクトにおける取引ステータスの遷移例
取引コントラクトの中での処理は、このようなステータスの流れで進行していきます。取引当事者(購入者・販売者)間で「返金依頼」という問題が解決しない場合に「仲裁」というステータスになり、仲裁者が選定され仲裁処理が行われるという設計です。
コントラクトにおける仲裁ステータスの遷移
そして、仲裁についても自律的に行うための設計が必要です。そのためにはあらかじめコミュニティー投票で仲裁者グループ、仲裁者任命権保有者グループが選ばれている必要があります。
また、今回のこの仲裁の設計については
・仲裁者のインセンティブが設計されていない
・仲裁者が取引当事者と組んで不正な仲裁を行う可能性がある
・様々なパターンの取引について、仲裁に必要な要素(言語能力・コミュニケーション)を持つ仲裁者を確保することは難しい
という問題点があります。
この問題の解決方法としては、仲裁者の仲裁処理をTCR(Token Curated Registry)的に行う以下のような方法が考えられます。
(1) 仲裁者がトークンをデポジットして、仲裁者グループ内で仲裁結果を公開
(2) チャレンジ期間中に、挑戦者がトークンをデポジットして仲裁結果にチャレンジ(チャレンジ期間中にチャレンジされない場合は仲裁完了)
(3) 仲裁者グループの中で、仲裁者or挑戦者のどちらが正しいかデポジットして投票
(4) 過半数以上の票を仲裁者が集めた場合、挑戦者と挑戦者に投票した人がデポジットしたトークンを、仲裁者と仲裁者に投票した人で分配し、仲裁完了
(5) 過半数以上の票を挑戦者が集めた場合、仲裁者と仲裁者に投票した人がデポジットしたトークンを、挑戦者と挑戦者に投票した人で分配し、仲裁結果を取り消して、仲裁のやり直し
このような非中央集権的なシステムにおける仲裁の仕組みについては、引き続き考えていきたいと思います。
仲裁プロトコルの事例
Klerosという非中央集権的に問題を解決するプロトコルを開発しているプロジェクトもあります。ホワイトペーパーによると、Eコマース、輸送、保険などの種類を指定してコントラクトを作成でき、Jurorsと呼ばれる陪審員へのインセンティブも設計されていました。
仲裁の設計においては、このKlerosのようなプロトコルを利用することも選択肢のひとつかと思います。
最後に
今回、非中央集権的な新しいシェアリングエコノミーに関して、一部を設計してみました。そこで分かったことは、自律的な運営を行うためには仲裁者の存在が必要ということです。そして、その仲裁の設計は何が正しくて、何が正しくないかを判断する仕組みの設計であり、正義の設計ともいえるものでした。
今後、分散化していく時代のなかでは、非中央集権的なネットワークのなかで意思決定が行われていくことが想像できます。シェアリングエコノミーに限らず、非中央集権的なネットワークに属する個人間で問題が発生した場合に、その問題を民主的に解決する仕組みは必ず求められます。
その時代に自分が何を提供できるのかということを、引き続き考えていきたいと思います。