Datachainでは、2022年9月に発表した三菱UFJ信託銀行との技術提携以降、デジタル証券のステーブルコインによるクロスチェーン決済の商用化に向けて取り組んできましたが、このたび無事に第一のステップである技術検証に成功いたしました。
今後、引き続き今回の取り組みの2024年の商用化に向けて、次のステップであるテスト環境での検証に取り組んでいく予定です。
以下では、技術検証の背景や詳細、デモ動画のシナリオ、今後の展望についてご説明します。
背景
日本では、世界に先駆けて、デジタル証券のステーブルコインによる決済(DVP決済)が実現しようとしています。
三菱UFJ信託銀行が開発し、2023年9月以降に独立会社「株式会社Progmat(仮)」に移管予定のデジタル証券基盤「Progmat」が牽引する日本国内のデジタル証券関連の運用資産規模(AuM)は、2022年時点ですでに400億円を超えています。また、ステーブルコイン発行管理基盤「Progmat Coin」を用いた各種ステーブルコインも、2023年の改正資金決済法施行後に取扱業者のライセンス登録が完了し次第、発行・流通が可能になります。
そして、このようなデジタル証券とステーブルコインの盛り上がりの中で、現在注目されているのが、異なるブロックチェーン上のデジタル証券とステーブルコインのクロスチェーン決済(DVP決済)です。
法規制に準拠したステーブルコインを用いたデジタル証券のクロスチェーン決済は、私たちが知る限りでは、実現すれば世界初となるはずです。
この取組を実現する上で、「Progmat」は、ブロックチェーン間の通信プロトコルとしてIBCを採用しています。
また、今回の技術検証では、ブロックチェーン基盤の1つとしてCordaを採用しているため、その開発元である米国のR3社とも共同で進めています。R3社は、CordaとEthereum/EVM互換性のあるブロックチェーンとのインターオペラビリティ実現を最重要アジェンダの1つにしており、今回の取り組みにも関心を寄せています。
R3社が推進する各国の大手金融機関とのプロジェクトにおいても、インターオペラビリティは今後その重要性がより増してくることが予想されるため、今回の取り組みはその試金石としても、非常に重要なものとなっています。
Why IBC?
では、なぜ「Progmat」はブロックチェーン間通信のプロトコルとして、IBCを選択したのでしょうか?
「Progmat」では、2022年当時、以下の条件を満たすソリューションを探していました。
- Trust-minimizedな方式(TTPではない方式)
- 証券決済やNFT決済を含む様々なユースケースに対応可能
- 新たなネットワーク構築を必要としない(構築・管理コスト及びプライバシーの問題)
様々な検討を重ねた結果、上記要件を満たすインターオペラビリティ手法として、IBCがエンタープライズのユースケースにおいても有効であろうという結論に至りました。
Datachainについては、IBCにおいてコントリビュートしているモジュール数が1st Partyを除くと世界一の企業であり、Interchain Foundationからの助成金も2回にわたって採択されるなど、同領域における高い専門性を有していることから、パートナーとして関わらせて頂いています。
また、異なるブロックチェーン間でアトミックなトークン移転を実現するCross Frameworkや、IBCに拡張性をもたらすLCPなど、Datachainが開発を推進するOSSについても、Progmatが目指すクロスチェーン決済の実現には必要でした。
技術検証の詳細
今回の技術検証では、ステーブルコイン発行管理基盤「Progmat Coin」のブロックチェーン層の1つであるCordaと、「Progmat」以外のデジタル証券を扱うブロックチェーン基盤を想定したGoQuorumを相互接続し、両ブロックチェーン上のトークンの同時移転を実現しました。
「Progmat Coin」基盤を用いたクロスチェーンの取り組みとしては、ステーブルコインとデジタル証券のDVP決済、ステーブルコイン同士あるいはステーブルコインと地域デジタル通貨等のPVP決済の双方がありますが、本件は前者のDVP決済に関する取り組みです。
今回、主に以下の2点を検証しました。
- 拡張性の高いトラストレスなブロックチェーン間相互検証
- 異なるブロックチェーン基盤上におけるトークンの同時移転
1点目については、ブロックチェーン間の通信プロトコルIBC(IBC-Solidity、Corda-IBC等)、安全性に加えて効率性・拡張性に優れたブロックチェーン間の相互接続を可能にするミドルウェアLCPを用いました。
(LCPについては、こちらのMedium記事も是非)
2点目については、異なるブロックチェーン上のデジタルアセットとステーブルコインの移転を同時に実行するために、クロスチェーントランザクションを実現するフレームワークCross Frameworkを用いました。
技術検証の結果、CordaとGoQuorumとの間で、高い拡張性とトラストレスな構造を有した上で、各ブロックチェーン上のステーブルコインとデジタルアセットの同時移転が可能であることが確認されました。
前述のように、「Progmat Coin」基盤を用いた各種ステーブルコインは、2023年の改正資金決済法施行後、取り扱う仲介業者がライセンス登録を完了し次第、発行・流通が可能になる予定です。[M1] [m2] 法規制に準拠するステーブルコインによるデジタル証券のブロックチェーンを跨いだ決済(クロスチェーン決済)は、グローバルでも最先端の取り組みとなっています。
Progmat Coinやクロスチェーン決済についての詳細は、こちらの「デジタルアセット共創コンソーシアム(DCC) 資金決済WG | 中間報告書」をご覧ください。
https://www.tr.mufg.jp/ippan/pdf/st-sc-rtgs_report.pdf
今回の検証シナリオとデモ動画
今回の検証では、正常系に加えて異常系も含め、様々なケースを想定し検証を実施しましたが、ここでは、正常系シナリオのデモをご紹介します。
正常系シナリオでは、Alice(デジタル証券買側)からBob(デジタル証券売側)へ支払いのためステーブルコインを移転し、反対にBobからAliceへデジタル証券を移転するDvPを想定しています。また、ステーブルコインの額を1000 USD、デジタル証券の口数を10としています。
デモ動画の各画面は、以下を示しています。
- 上の画面: シナリオのスクリプト
- 左下の画面: Relayerによるパケットの検知のログ
- 右下の画面: LCPノードによる検証のログ
また、デモ動画内のテキストは、色ごとにそれぞれ以下を示しています。
- グレー: コマンド
- 白色: スクリプトのログ
- 青色: 強調しているスクリプトのログ
- 緑色: コマンドの実行結果
今回のシナリオに登場するActorは次の通りです。
ST = Security Token(デジタル証券の所有権を表すトークン)、SC = Stablecoin(ステーブルコイン)をそれぞれ示しています。
デモ動画では、以下のような一連のフローを実行しています。
- SCAdminからCorda側トークンをAliceへ付与
- STAdminからGoQuorum側トークンをBobへ付与
- BobはCrossへトークンをApprove
- シナリオ実行前の残高を表示
- AliceはCorda側のContractTxを作成
- BobはGoQuorum側のContractTxを作成
- AliceはTransactionを開始するためにInitiateTxを作成、提出
- BobはTransactionに署名し提出する(ExtSignTx)
- STAdminはTransactionに署名し提出する(ExtSignTx)
- ValidatorはCross-txを実行する
- RelayerはPacketを検知、中継する
- シナリオ実行後の残高を表示
なお、今回のデモコードついては、現時点では未公開ですが、ご要望に応じて公開も検討いたしますので、ご希望の方は以下の連絡先までご連絡ください。
progmat_post@tr.mufg.jp
今回の技術検証に関するコメント
齊藤達哉様, 三菱UFJ信託銀行 Vice President of Product / Progmat 代表 取締役 ファウンダーCEO(予定)
「Progmat」では、セキュリティートークン、ステーブルコイン、ユーティリティトークン(NFT)などのRWA(Real World Asset)をマルチチェーンで扱う上で、ブロックチェーン間通信のメッセージングレイヤーの要件を満たすため、IBCやLCPが欠かせない技術であると考えています。2024年に予定している、今回のステーブルコインを用いたデジタル証券のクロスチェーン決済の商用化を含め、グローバルな「RWAのトークン化」の潮流を代表するような取り組みを、日本がリードする形でDatachainと一緒に創り上げていきたいと思います。
Todd McDonald, Chief Strategy Officer & Co-Founder at R3
Building a critical infrastructure that will enable users to connect Corda-based apps with Enterprise Ethereum apps and bridging these networks in a regulatory-compliant way is top of mind at R3. We are excited to see what the future holds with Datachain’s work on efficient and scalable cross-chain interoperability, as it can act as an additional guide in our mission of enabling an open, trusted, and enduring digital economy.
CordaベースのアプリケーションとEnterprise Ethereumベースのアプリケーションを接続し、これらのネットワークを規制に準拠した方法でつなぐためのインフラの構築は、R3にとって最優先事項です。Datachainが効率的かつスケーラブルなクロスチェーンインターオペラビリティに取り組むことで、どのような未来が待ち受けているのか、私たちはとても楽しみにしています。オープンで信頼できる持続的なデジタル経済を実現するという私たちのミッションにおいて、さらなる指針となる可能性があるからです。
今後について
今後も引き続き、デジタル証券のステーブルコインによるクロスチェーン決済を2024年に商用化するために、三菱UFJ信託銀行やProgmat、R3と密に連携し、プロジェクトを推進していきます。具体的には、次のステップであるテスト環境での検証に取り組んでいく予定です。
「Progmat Coin」基盤で発行された法規制に準拠したステーブルコインを用いたクロスチェーン決済は、グローバルでも新規性の非常に高い取り組みであり、日本でこのような取り組みが進んでいることをもっと多くの方に知って頂けると嬉しいです。
ぜひ今後のアップデートも楽しみにしていてください!
Website: https://ja.datachain.jp/
Twitter: 日本語 @datachain_jp / 英語 @datachain_en