この度、わたしが展覧会ディレクターを務めるトランスレーションズ展に出展している鈴木悠平氏(以下、「鈴木氏」といいます)が、彼が理事職を務めていましたNPO法人soarの内部調査によって、soarに申告のあった複数人に対して加害行為を行ったこと(以下、「本件事案」といいます)が明らかになりました。

soarにおいては、本件事案に関する処分を決定するに際して、監事及び弁護士を中心に構成される内部調査チームが立ち上げられ、同チームによる被害申告者の方々および鈴木氏当人からのヒアリングや証憑の確認などが行われました。そして、その結果認定された事実を前提に、鈴木氏は、理事会及び社員総会を経て、2021年3月10日付けでsoarの理事職から解任され、同事実は公表されるに至りました(参照:soarからのリリース内容。なお、soarの理事にはわたしも名を連ねております)。

鈴木氏本人は、調査実施の背景事情や公表内容は認めましたが、リリースの公表範囲の一部を巡って、soarに対して法的措置を予定しているとの発信が本人のブログでなされています(今のところ、鈴木氏によるこの点に関する追加の情報発信はなされていません)。

以上の事態の推移を受けて、鈴木氏が制作に関わった作品「moyamoya room」(以下、「本作品」といいます)について、共同出展者の清水淳子さんと21_21 DESIGN SIGHTとの間で協議を行い、結論としては、その出展を取り下げることにしました。

以下に、展覧会ディレクターとしての考えを説明します(なお、わたしは業務委託で展覧会ディレクターを会期中務めており、21_21 DESIGN SIGHTの社員ではないことを、念のため付言しておきます)。

トランスレーションズ展は「わかりあえなさをわかりあおう」というテーマで、さまざまなコミュニケーション形式を「翻訳」として捉えようとする企画展です。その中で、「moyamoya room」という作品は、対話をリアルタイムに図画に翻訳していくグラフィックレコーディングという手法を独自に開拓している清水淳子さんと、生きづらさの当事者の声を届ける仕事を行ってきた鈴木氏の二人に、ディレクターであるわたしから依頼して、はじめてタッグを組んで作られた新作です。

つまり、鈴木氏と清水淳子さんという別々の活動を行う二人をマッチングしたのはディレクターであるわたしの判断と責任であり、清水淳子さんは本件事案の発生・公表に関するいかなる事情も知り得ない立場にあり、全く関係がありません。わたしも、鈴木氏による本件事案について、soarの内部調査が開始されることになるまで知り得なかったとはいえ、結果的に、事情を知らない第三者から見て清水さんに対して誤解を生じさせかねない外形が生じてしまうことになり、とても申し訳なく思います。

この作品では、言葉にしたり、人と話したりすることが難しい、さまざまなモヤモヤを抱える方々に公募で集まっていただき、鈴木氏のモデレーションのもと会話を行い、それを清水淳子さんがグラフィックレコーディングしていく様子を記録しています。合計で7つのセッションを開催しましたが、どの回でも参加者の方々からは、普段は他者と話しづらい事柄をオープンに話せたことに対してご好評を頂いていました。当時わたしも、実際に現場でオブザーバーとして参加しましたが、どの回でも清水さんのグラフィックレコーディングと鈴木氏によるモデレーションの相乗効果で、さまざまな言葉にならない思いがその場に融け込んでいく、新たな感覚を生み出していたと感じました。

しかし、この事案の被害者の方々のお立場になって考えれば、鈴木氏が出演する作品を展示し続けることは、二次被害につながるものと考えられます。また、本作品に出演して頂いた方々にとっても、今回の事案によって大きなショックを受けられたことは想像に難くありませんし、展示を鑑賞される来場者の方々のお立場に立ってみても同様に受け入れられないと思います。わたし自身、鈴木氏のこれまでのパブリックな仕事を評価し、彼を信頼していた者として、今回の事案は非常にショックで、少なくとも作家の一人による加害の事実を知りながら本作の展示を続けるということは到底許容できませんでした。

そこで、清水淳子さん、21_21 DESIGN SIGHTと協議を行った結果、トランスレーションズ展に本作品を展示し続けることは本展の意図にそぐわないという結論に至り、21_21 DESIGN SIGHTの決定として、本作品に参加して頂いた方々にも報告を行った上で、本作品を取り下げることとしました(なお、取り下げの措置については、21_21 DESIGN SIGHTとしての決定過程とは別途、先日鈴木氏本人から直接わたしの方に、これを受け入れる旨の連絡を受けています)。

なお、清水さんと21_21 DESIGN SIGHTとの間では現在、別作品の展示の可能性について、清水さんのグラフィックレコーディングの手法の「言葉にならない思いを翻訳する」というテーマを活かすかたちで、協議を行っているところです。

本件では、事案の発生やそれに付随する公表等によって、さまざまな社会的抑圧から被害を受けた方が声を上げづらいという社会構造が浮き彫りになったと認識しています。であるからこそ、わたしは、「わかりあえなさをわかりあう」というテーマを掲げる本展の展覧会ディレクターとして、また一人の個人としても、ただ鈴木氏が関わった本作品を「展示から取り下げて終わり」では決してなく、加害と抑圧が起こる同種の構造的問題を踏まえ、より多くの人々が不可視の抑圧から解放されて生きられる未来への可能性について考えていきたいと思います。

2021年4月14日

ドミニク・チェン

Dominick Chen

Researcher. Ph.d. (Information Studies).

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