警察沙汰のクレーマー

その日は、朝から緊迫した空気のシャワーを浴びているような一日だった。

なぜかと言えば、昨日のうちに銀行預金の差押えをした滞納者が、今朝になって物凄い剣幕で電話してきたから。そして、
「おまえらタダじゃおかねー!今すぐそっちに行ってやるからな!首あらって待っとけ!」と、捨て台詞を吐いたと同時に電話をプッツリ切ってしまったのです。

電話を受けていた担当者は、長年徴収をやっているベテランさんなのだけれど、あまりに凄まれたからか、顔から血の気が一気に引き、手が小刻みに震えていた。そして、受話器がうまく本体の溝に戻せなくて、受話器と本体がぶつかり合っうガチャガチャ音が聞こえる。

(可愛そうに、大丈夫だろうか?これはどえらいことになったなぁ)

ヤバいんじゃないのこの空気

ケツの穴のちっちゃな・・・もとい、小心者の税務課長はこの報告を受けて、対策を練り始めた。

そして、滞納者が来たら、VIP室と言われてはいるが不要な事務机などが置かれている、ほぼほぼ物置のような部屋へ通すことが決まったようだった。騒がれるのは御免だという気持ちの現れを強く感じる。


ピンと張り詰めた空気が私たちの背筋までピンとさせる。

時計の針はいつもと変わらず刻一刻と時を刻むけれど、時を刻む音がこれほどまでに室内に響くことはそうそうない。

20分、40分、1時間と、何事もなかったように時を重ねていくうちに、
私たちのココロと身体は通常業務に追われ、緊迫感を飲み込んでいった。

そんなとき、待ち人:X氏はやってきた。

うぎゃーーーイライラするわーーー!

X氏は、自称、「知る人ぞ知る映画監督」。

小泉元首相のような美しいシルバーグレイを湛えている初老のおじさんだ。

そういえば、昨年もいつまでも納税せず、のらりくらりと催告をかわすものだから、銀行預金の差押えをしたのだった。
その時も「心臓の病気と脳神経内科に通院してるんだ!裁判を起こしてやる!」と大騒ぎして、本店に事の次第を言いつけたから、税務課長はX氏のことをよく思っていない。

苦情や陳情を起こす事務所の長は、無能だと言われる又は思われると感じているのかも知れないなぁと感じる。

税務課長からはピリピリしたオーラが発せられていて、近くに寄ったら感電して気絶するかもしれない。

X氏は、紳士風な装いからは想像できない言動の持ち主で、

「おい!こんなことが認められると思ってるのか、恥をかかされた、どーしてくれるんだ」などと叫びながら受付にやってきたけれど、

大の大人が4人かかりで囲み込み、あっという間にVIPルームに連れて行かれてしまった。

いったいどうなるんだろう・・・・

困惑色に染まる執務室に取り残された私たちは、ごくりと固唾を呑んだ。

待つこと5分・・・・

執務室は闇に落ちる

ワーワー、ギャーギャー喚き散らす声とともに、ドタドタと階段を降りる複数の足音が聞こえ、それらの音がロビーに響き渡るようになったときには、

X氏が右手に差押調書(←あなたの財産を差押えました!という通知)を掲げて、

「みなさん、きいてください!

心臓の悪い私の口座を四万円も差押えたんです!

こんなヒドイ仕打ちをするのは、悪です!
こんなことが、まかり通っていいのでしょうか!

私は徹底的に戦ってやります!」

と大声を張り上げ、叫び、わめき散らしたのです。そして、壊れたレコードのように、何度もリピートしては、ロビーを歩き回って、追手の税務課長を振り切る勢いです。

その姿はまるで、悪戯な子ザルのように映ります。

嵐がやってきた

さぁ大変です!

税務課長は慌てふためき、まるで、自分の恥でもさらされたかのように、「やめてください。やめてください。」とX氏の後を追って懇願しています。その姿には悲壮感が漂っていて、なんだか気の毒に思えてしまう。

そこへ、庁舎管理者がやってきて
『やめなさい』、『退去しなさい』と、X氏に警告を発しました。


途端に現場は凍り付く!

けれども、X氏は差押調書をひらひらさせながら、そんな言葉は聴くもんかと言わんばかりに我々への非難の言葉を山ほど吐き、好き放題どなり散らすことをやめようとしない。

『やめなさい』、『退去しなさい』 と、2度目の警告が発せられても、X氏は全く聴く耳を持たなかったのです。

いったいどうなるんだろう?

執務室に残されている私たちは野次馬になるしか方法が見当たらず、目の前で繰り広げられているドラマのような展開を凝視していた。

と、その時

「誰か、警察よんで!、警察!ひゃくとうばんしてーー!!」庁舎管理者が叫びだしたのです。

え!?なに??そんな展開ありなのーーー!?
誰しもそう思ったに違いない。

そんなのあり?

どうしてかと言うと、どんなときでも、私たちは相手の攻撃に耐えてきたから。
どんなに嫌味や罵声を浴びさせられてもじっと我慢して、穏便に穏便にと、交渉の糸口をつかんできたのだもの。

なのに、こんなことで、警察を呼んでいいんだ!!と愕然としたのです。

後になって分かったことは、あまりにも突拍子もなく思えるこの行動こそが本当は正しかったということ。だって、X氏の行動は、『威力業務妨害罪』になる犯罪だったのですから。

いつもいつも耐えてばかりいると、何が正義で、何が正解なのかわからなくなってしまうのですね。

いつも笑顔でいたい

そういえば、自分の生き方も同じだったな。

モラハラ夫の攻撃に耐え忍んできたし、自分さえおとなしくしていれば、言うことを聞いていれば、全てうまくいくんだと信じ込んでいた。あの頃と今日の事件は一緒のように思えてならなかった。

110番をしているうちに、当の本人はさっさと逃げてしまったから、警察の出動要請は、取り下げたけれど

相手の威圧的な態度に屈する必要はないんだ。
正しいことは正しいと主張していいんだ
と改めて気づかされました。

自分がいつも弱気だから、相手が強く出る。
私は相手を立てて、相手の下に自分が入ることで自分を保護していただけなんだなぁと気付く。
彼をモラハラ夫にしてしまったのは、自分だったんだなとも思う。

こんな私でも、エモーションフリーに出会ってから、コミュニケーション方法が変わったのです。
もう、人の下に入り込むことはしなくなった。
そして、今は、穏やかな気持ちのまま毎日を過ごすことの豊かさを味わえる。

だから、これからも、この3つを守っていこう!と改めて思うのです。
・相手と自分を比べない。
・相手の下手に出ない。
・相手の上にも立たない。

警察沙汰のクレーマーさん、大切な気づきをありがとう!

Like what you read? Give あんどうまり(杏堂まり) a round of applause.

From a quick cheer to a standing ovation, clap to show how much you enjoyed this story.