証券会社 (投資銀行) は何をしているのか①

私自身がかつて証券会社で資金調達のお仕事をしていたので、証券会社が何をやっているのか、何度かに分けて説明しようと思います。

FinTech業界の隆盛がめざましいなか、「証券会社が中抜きをしている」という認識のもと新しいサービスを開発しようとする人も増えている印象がありますし、投資に対する意識の高まりから証券業務について興味のある人も増えていたり、証券会社を使わない形でのIPO等も話題を呼んでいたりします。具体的に自分の頭で考察するためにも、今一度「実際証券会社は誰と何をしているのか」について理解を深めていただければと思います。

本記事では、まずは金融市場と証券会社が行っている業務の概観を紹介します。ちょっとウンチク臭くなりますが、次の記事で誰が何をしているのかという話をしますので、しばしお付き合いください。

ディスクレイマー:本記事の内容については、極力一般的な理解ができるよう努めましたが、筆者の経験に基づく主観によって書かれたものです。業務内容に関しては、法規制や時代背景、または会社によって変わります。正確な情報が必要な場合は再度ご自身で調査されることを推奨します。図表は引用しています。

金融市場の最もざっくりとした分類 「プライマリーとセカンダリー」

まずは金融市場と、市場を取り巻くプレイヤーの概観を見てみます。下図は金融市場における各種金融機関の立ち位置を概観したもので、証券会社は『証券市場』と書かれた水色のボックスの中に位置します。この証券市場のざっくりとした分け方として大事なのは、「プライマリー (市場) とセカンダリー (市場)」(下図の右側と左側) という概念です。

金融市場における各金融機関の関係性

証券会社が行う業務についても、上図の右側に関わる業務はプライマリー業務、左側はセカンダリー業務と呼ばれることがあります。これらの呼称は有価証券のライフサイクルから来ており、有価証券が生まれる場所、つまり発行市場が「プライマリー」、生まれ落ちた証券が流通する市場が「セカンダリー」と呼ばれるようになったと言われています。また、両者はチャイニーズウォールというインサイダー情報を制限するための情報隔壁に隔てられているため、お互いの情報が (多分←) 漏れないような業務分担になっています。

以下、まずはそれぞれの市場の特徴をまとめます。但し、これらは「市場」と呼ばれてはいますが、具体的な取引所や決められた取引手段を指すのではなく、ごく抽象的な概念です。

プライマリー市場:「発行市場 (一次市場)」とも呼ばれ、企業・国・地方公共団体等により、新たに発行される株式や債券などの有価証券を投資家が購入するマーケットをいいます。基本的には投資家が新規に発行された証券を購入し、代金を支払うところまでを指します。発行体にとっては資金調達をする場であり、また投資家にとっては、新たな資金運用の場となっています。

セカンダリー市場:「流通市場 (二次市場)」とも呼ばれ、既に発行されている株式や債券などの有価証券を取引するマーケットをいいます。取引方法は大きく分けて「取引所取引 (板取引を含みます)」と「店頭取引 (=相対取引)」の二つに分類され、市場参加者 (=投資家) の間で、その時々の価格 (つまり時価) で有価証券が売買されます。

証券会社のお仕事概要

上記の市場区分は、証券会社の組織体制に大きく影響しています。ここでは、組織体制から見て証券会社が行っている業務を分類します。証券会社の部署割りとしては、ざっくり下図のように分類されます。

(出所:https://ma-banker.com/hello-investmentbank)

市場区分とは別に職種の性質により、業務分類として大きくフロント業務、ミドル業務、バック業務に分けられます。フロント業務は対顧客業務、バック業務は所謂バックオペレーションや決済、法務、IT等のコーポレート部門、ミドル業務はその間の業務 (例えば、トレーダーからのオーダーをバックオフィスに回す処理等の営業サポートや、リスク管理等、特に日系では経営企画のようなファンクションがあることもある) を行います。また、上述したように、証券会社においてプライマリー業務とセカンダリー業務の担当部署間には、チャイニーズ・ウォールという情報隔壁を作ることが義務付けられています。そのため、証券会社内の部署はそれらの業務を明確に分ける形で構成されています。

上図の「管理部門等 (ミドル・バックオフィス)」の上にある、チャイニーズウォールにより左右に分けられているところが所謂フロント業務を担当する部署群です。日系証券会社は人数が多いため、上記よりも更に細かい部署分けがされていることもあります。また、市場に関わらず時代によって売れるサービスが異なるので、大きな流行ができたりすると部署が増えたりすることもあります。

プライマリー業務:「投資銀行部門」と呼ばれる部門が担当。法人向けのアドバイスと案件の執行を担当する、所謂インサイダー情報を持つ部署のことです。大きくは、顧客のニーズをヒアリングし案件を取ってくる (この業務をオリジネーションと言います)「カバレッジバンカー」と、商品を組成し案件を執行する (この業務をエクセキューションと言います) 「プロダクトバンカー」に分かれます。プロダクトバンカーにはざっくり分けて、M&Aと資金調達の業務があります。上図にあるアセットファイナンスは資産を証券化する業務を担当していましたが、リーマンショックの影響で部署として存在しなくなった会社も多くあります。

セカンダリー業務:「市場部門」と呼ばれる部門が担当。基本的には市場で証券やデリバティブの取引を行ったり (トレーディング)、投資家の売買を仲介する (セールス) ことで収益を上げます。リサーチの発信する情報と良い商品の仕入れ力、プライシング能力、顧客である投資家に対するグリップが会社の強みになります。プライマリーよりも市場の動きに左右され、収益のブレは比較的大きいです。加えて、今後はMiFID2の影響により、リサーチ部門が執筆するレポートも有料になる方向です。

なお、上図には書いていないのですが、セカンダリー業務の中でも非常に大事な伝統的業務としてシンジケート業務というものがあります。シンジケートのチームはセールスチームが報告してくれる顧客の売買状況を全て把握しており、自社の在庫や顧客との関係性等を包括的に考慮し、誰に何をどれくらい売るかについてアドバイス・指示します (なお、名前が分かりづらいためよく誤解されますが、「シンジケートローン」のようなビジネスとは全く関係がありません)。営業の司令塔兼ヘルプのような役割を果たし (但し個人の実力によります)、リーマンショック前、特にアメリカではこの職種が業界で最も年収が高いポジションのひとつと言われていた時期もあるのですが、そもそも他業務と比較して人数が少なくほとんど人前に出ないうえ、何をやっているのか非常に分かりづらい仕事であるため、この業務を知っている人はあまり多くはありません。

次回の記事では、証券会社に具体的にどのような部署が存在し、それぞれどのような仕事をしているのかを説明します。

おまけ

直接金融と間接金融

「直接金融と間接金融」(下図の上側と下側) も非常に大事な概念です。

(再掲) 上段が直接金融、下段が間接金融と呼ばれる

投資家が直接投資する対象を選んでお金を出して金融商品を買うことを直接金融、一方で金融機関に投資先選定をお任せして運用してもらうことを間接金融と呼びます。金融を「お金を必要としている人のところへ融通すること」と捉えた時に、投資家が “直接” 誰にお金を出すかを選ぶか、もしくは投資家はお金を出すだけで銀行に資金の融通先を選んでもらうかの違いです。後者の間接金融に関しては、事業者は人から預かったお金を運用するので、投資方針に関して資金提供者への説明責任が発生します。そのため、運用方針は保守的になりやすく、裏を返せばリターンも低い場合がほとんどです。一方で、金融リテラシーのある (=自分で運用することができる) 投資家は直接金融である有価証券の売買を通してハイリターンを得ることを目指します。

基本的には証券投資は「リスクとリターン」が最も基礎的な概念です。そのため、個人投資家はあまりリスクを取れないためリターンの高い金融商品は (プライベートバンク等の富裕層向けサービスを活用しない限り) 買えないというのがこれまでの常識でした。しかし、最近ではFOLIOやFundのようなサービスが出てきて人気を集めており、ITインフラが整うことで新たな金融商品が生まれています。今後は直接金融により近しい形態での投資が増えてきそうですね。

投資銀行と証券会社

世間一般で言う「投資銀行」と「証券」の違いについてなのですが、実は東証分類で投資銀行という業態は存在しません。狭義で投資銀行というのは法人向けのサービスのことを指し、証券というのはリテール、つまり個人投資家向けサービスのことを指すことが多いです。なので、例えばゴールドマン・サックスは投資銀行、野村證券は証券会社という分類に近いイメージです。が、実際には両者とも同様に投資銀行業務も行っており、幅広い業務のうち何をしているのかという点を区別するために言い分けられます。

セルサイドとバイサイド

「セルサイド」と「バイサイド」という言葉を聞く方も多いと思います。これらの分類は、文字通り「売る人」なのか「買う人」なのかを指しています。もっと言えば、売る人は「商品を売ることを生業としている人」、買う人は「運用を生業としている人」です。具体的には基本的には証券会社とそれ以外と考えていただければ大丈夫です。セルサイドには、アセットマネージャーや信託銀行、プライベートエクイティファンド (通称PE)、ヘッジファンド、生命保険、農林中金、JA共済、宗教法人等がいて、それぞれの事業戦略を考慮した投資方針をとっています。例えば、生命保険会社は自社商品のサイクルが長いため長期の投資を行いますし、PEはバリューアップできそうな未上場株を、ヘッジファンドは短期トレードやジャンク債、CDS等の高リスク商品を好む傾向があります。

長文お読みいただきありがとうございます!このブログでは、資金調達業務や日本の金融政策、既存金融から見たブロックチェーン活用等に関して記事を書いていきたいと思います。

ご意見、ご感想、資金調達もしくは財務のアドバイザリーのご依頼等は、執筆者happy.finance.info@gmail.comまでお待ちしております。

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