フラットデザインはビジュアルデザインの完成形なのか?

Erika Ito
12 min readApr 18, 2015

2013年〜2014年の「大フラット化時代」には、多くのピクセルが削ぎ落とされました。

このフラットデザインの流行は、ビジュアルデザインにとって大きな転機でした:当時先駆けだったマイクロソフトのモダンなメトロUI、広い範囲で注目を集め議論を巻き起こしたiOS7、そして多くの人がその構造を理解するきっかけとなったのはGoogleのマテリアルデザインではないでしょうか。

フラットデザインはスキューモーフィズムを殺しただけでなく、その墓石の上で、彫り込み、影、質感が消えるまで踊り狂いました。

これがフラットデザインです。いつでも流行と変化は避けられないので、フラットデザインのトレンドにもいつか終わりは訪れるでしょう。未来のデザインを予測するのは無駄かもしれませんが、今わたしたちがどこにいてどこに向かっているかを考えるのは面白いことだと思います。この(どこまでもフラットな)地平線の向こうにはなにがあるのでしょうか?次世代のソフトウェアプロダクトはどんな見た目をしているのでしょうか?

(注:この記事はInside Intercomのブログに投稿されました。わたしたちはそのブログでプロダクト戦略、デザイン、ユーザーエクスペリエンスやスタートアップについての考えをシェアしています。)

現状分析

最近のソフトウェアデザインでよく見かけるもの:

  • iOSとマテリアルデザインの影響を強く受けていて、やりすぎなくらいガイドラインを守っている
  • 立体感のない四角いオブジェクトに最小限のシャドウ。ヘッドラインの背景には大きな写真かビデオを使っている
  • コンテンツの周囲にネガティブスペースをたくさん使い、文字を少なめに抑えたグリッドデザイン。ボールドでクリーンなタイポグラフィ使い
  • 鮮やかな色合いをアクセントに使い、枠なしで端と端がくっついた白いブロック。低い彩度の落ち着いた色合いは写真に使われている
  • (マーケティング手法としてはうまくいくが、)効率化やコミュニケーション系のプロダクトとしてはそれほど効果的ではないぼかし効果と派手なネオン色を多用している
  • 装飾的なエレメントが極端に削ぎ落とされ、モダンな「新鮮さ」ははぬるぬるしたアニメーションと細かいトランジションのエフェクトなどで表現されている

まとめると、クリーンでシンプルに見せることが今のビジュアルデザインのスタイルということです。その中にもいくつか違うトレンドは見られますが、上記のリストはこのトレンドを見分けるときに使えるチェックリストでしょう。これはここ10年で発展してきたデジタルデザインが成熟したことを表しています。長いあいだソフトウェア業界は、美しさと分かりやすさは二の次でデザイン面はアマチュア的に成長してきました。最近では目がチカチカするようなひどいデザインに出会う機会はぐっと減ったので、やっと安心してネットを使えるようになりましたね。これは私たちが誇りにすべき進歩だと思います。

このミニマリズムの流行はリテラシーの高いユーザーに向けて作り上げられたものだ、と言う人もいます。リテラシーの高いユーザーとは、デジタルメディアをよく利用し、立体的で「押せる」ように見えるボタンがなくても問題なく使いこなせるユーザーのことです。ユーザーをデジタルメディアに慣らすための補助期間は終わり、デザイナーが自由にスタイリッシュなデザインを作れるようになったと考えられます。また、小さな画面のモバイル端末の浸透もその流行に一役買っているでしょう。小さな画面でもごちゃごちゃしない、シンプルなデザインに落ち着くのは自然な流れです。

ビジュアルデザインのコモディティ化

下の写真を、目を細めて首をかしげて見てください。最近のプロダクトです。ありえないほど似て見えませんか?きれいだけど、、退屈だとも思いませんか?

すべてのビジネスが最新のデザインスタイルに適応するとき、ビジュアルデザインはコモディティ化します。出始めはかっこよく新鮮だったスタイルも、すぐにクリシェ — ありふれたもの — になります。この幅の狭いスタイルは簡単に真似されてしまいます:ぼかしを効かせた写真を背景に敷き、センター合わせにしたヘルベチカノイエを重ねればもう半分は完成なんですから!

わたしたちは、ほかのどんな可能性を失っているのでしょうか?インターネットと周辺テクノロジーは私たち世代の文化を形作っています。上のようなデザインも、ひとつひとつはとても綺麗です。でも「美しい」の定義が1つだけの世界に、誰が住みたいと思うでしょうか?

今のソフトウェアデザインは気持ちのいいほど当たり障りがなく、どこかつまらないと思います。ひとつのスタイルが心地いいところに落ち着くのは自然な流れです。スタイルにはサイクルがあり、モバイルUIデザインはもう次を感じさせるものも出てきています。もしかしたら、もうフラットデザインはピークを過ぎたところにあるのかもしれません。

もし今主流のスタイルがタッチスクリーンの登場と共に誕生したとしたら、次のビジュアルスタイルはまた新しいテクノロジーが合図となって生まれるのかもしれません。

テクノロジー主体のデザイン美学

フラットデザインのトレンドが新しい素材の登場によって誕生したと仮定すると、過去のトレンドや違ったフィールドのデザインを振り返り、デザイナーがどのようにテクノロジーの変化に適応してきたかを復習することに意義があるかもしれません。

1900年代初頭スイスで生まれフランスで活躍したル・コルビュジエは、当時革新的だったコンクリートを使ってそれまでは不可能とされた構造の建物を、コンクリートで固められたスチールの骨組みを用いてデザインしました。純潔さとミニマリズムをとことん追求したル・コルビュジエは、建築物の構造を最小限に抑え、全く新しいモダニズム建築のスタイルを確立しました。本当に必要なもの以外は余分で、不快なものとさえされました。

彼のスタイルは当時ほかのデザイナーたちに広く影響を与えましたが、現在の建物すべてが写真のようなデザインとなってはいませんよね。なぜでしょうか?ひとつ考えられるのは、このような建物はそれ単体で見れば素晴らしいですが、いくつもいくつも連なると無機質で生気を感じられないことに理由があるのでしょう。あまり認知されていませんが、ル・コルビュジエはパリに「ラディアントシティ」(英語)というものを作ることを計画していました。これは60階建ての集合住宅をいくつも作る計画でしたが、もし実行されていたらミズーリ州のプルーイット・アイゴー(日本語)のような悲劇を引き起こしていたかもしれません。このように過度なモダン主義は、たくさんの都市を彩る人の「心」を無視していたのではないでしょうか。

その代わりとなるのは真逆のアプローチで、もっと有機的なデザインです。活動家で都市計画評論家のジェーン・ジェイコブスは素晴らしい著書「アメリカ大都市の死と生」の中でこう書いています。「悪いデザインや悪い導線設計よりももっと悪いのは、見落とされがちで放置されている本質的な問題を解決したかのように見せかけるだけのデザインだ。」

何度も繰り返していますが、シンプルで美しいデザインもひどくつまらなく、醜くなりえることがあります。もしすべてのソフトウェアが同じような見た目になれば、私たちは変化のある素晴らしいものを見る機会を失うことになります。

私たちが街に住むように、私たちはデジタルの空間でも生活しています。重要なことは人がどんな気持ちになるかということで、見えない部分と見える部分のバランスをしっかりと考えていくことが、その場所を本当に特別な空間にするのでしょう。美しさについて深く考えられたアウトプットは、ほかのプロダクトと並んだときにもしっかりと目を惹きます。それが本当の美しいデザインとなって表れるのではないでしょうか。

では、次はなにがくるのか?

今よりもさらに成熟したソフトウェアのビジュアルデザインはどんな見た目になるのでしょうか。答えについて考えるとき、下の疑問はいくらかのヒントになるかもしれません。

  • ハンドルが付いたデスクトップは、2Dナビゲーションホイールに取って変わるデバイスとして自然かもしれません。今日のトレンドはなめらかで人工的で、スレート(粘板岩)のようなデバイスそのものに影響を受けたデザインです。そう考えると、フラットデザインは「タッチスクリーンネイティヴ」であると言えるでしょう。少なくともスマートフォンが登場した頃に考えられていた動作と比べると、フラットデザインこそが「ガラス越しの絵」のあるべき姿だったのかもしれません。道具がわたしたちを作るのですから、道具はわたしたちがデザインするものも形作るのです。デバイスの変化は、その中のコンテンツをどのように変えていくのでしょうか?フラットで蛍光に光る四角の集合体はいつまで主流なのでしょうか?
  • どんな流行も、そのあとには反発がおきます。潮の満ち引きの法則のように、「少ないことはいいこと」ではない日は来るでしょう。90年代のデスクトップ用のソフトウェアはひどいデザインのテック系雑誌を生み出し、2000年代のコンピューター機器は大きすぎるピクセルの時代を生み出し、今日のタッチスクリーンはフラットデザインを生みました。今までもそうだったように、次も必ずなにか別のものが生まれてくるでしょう。
  • もっと色々な種類の「美しさ」があるソフトウェア業界はどんな風でしょうか?クレジットカード会社と靴下の定期購入サービスが同じような会社に見えない世界でしょうか?1つのスタイルが大流行すると、そこから抜け出そうとする人たちが出てきます。もしかすると、次のトレンドは多様なスタイルがあることそのものかもしれません。
  • 私たちが扱うデータがどんどん明確にされ、マイクロコンテンツ化したとき、きっと情報はカード状(英語記事)になります。今後アプリの機能はほとんどOSと同等レベル(英語記事)になるでしょう。これは、アプリがもっともっと似通っていくということでしょうか?もしくは、これもまたそのトレンドにも反発するする動きがでてくるのかもしれません。
  • テクノロジーは山火事のような速さで世界中に広まっています。今のデザインを象徴する「Designed in California」と並ぶようなスタイル、テイスト、それから文化に影響力を持つような億万長者がもう1人生まれたら、世界はどう変わるのでしょうか?

上記のうちのどれかが現実に起こるのでしょうか?ここまで読んでくれてありがとうございます。でもそろそろ嘘はやめましょう。

、、実際僕もわかりません。

もしかしたら急激な変化なんて全く起こらないかもしれません。デスクトップが生まれてからは現実の世界をモチーフにしたUIがずっと主流でした。最近のミニマムなアプローチが同じだけ長く生き残る可能性がないともいえません。

ただ、僕はその可能性は低いと思っています。

どう思いますか?

みなさんがどう思っているか聞いてみたいので、意見をコメントしてくれると嬉しいです。最近見た変わっているデザインはありましたか?次に流行しそうな兆しがあれば見てみたいです。

そうでなければ、一緒に作っていきませんか?シニアビジュアルデザイナーを募集しています。(英語)美しいスタイルで、統一感があり洗練されたマルチプラットホームなデザインを作りましょう。

IntercomのプロダクトデザインディレクターであるEmmet Connollyが執筆しました。

Intercomのブログ(英語)

わたしたちが考えるビジュアルデザインについて記事を書いています:

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Erika Ito

Product Designer at VMware Tanzu Labs (former Pivotal Labs) in Tokyo. Ex Medium Japan translator. | デザインに関すること、祖父の戦争体験記、個人的なことなど幅広く書いています😊