グローバル気候アクション パートⅠ 土壌の力 by Otto Scharmer
Otto Scharmer/オットー・シャーマー(2020年2月1日ブログ記事の日本語訳)
(原文:https://medium.com/presencing-institute-blog/global-climate-action-l-the-power-of-soil-a951a3668b65)
2020年、イギリスはEUを離脱し、トランプ大統領は2期目再選に向けた準備をしています。そしてブラジルのボルソナロ大統領はアマゾンの原生林の伐採を進め、オーストラリアでは山火事が続いています。香港、パリ、テヘラン、ベイルート、バグダット、サンティアゴで、政府は腐敗し正当性を失ったと信じる人たちによる反発の動きが続いています。
2020年の良いニュースといえば、多くの人々がようやく気候変動について意識し始めたことでしょう。スイスのダボスで開催される世界経済フォーラムのような場で、ようやく
気候変動が主要な経営者の関心に登るようになりました。。地球温暖化が私たちの未来に深刻な脅威をもたらすことは、誰もが気がついています。悪いニュースは、いまだ多くの人がこの気候危機に深い疑念を隠し抱いていること、または私たちがこの状況を変えられる力があるのか集合的鬱状態にさえあることです。この三部構成のコラムでは、地球温暖化を反転させ、私たちの経済・民主主義・学習インフラを変革するための大きな変化が必要であるだけでなく、今後10年、20年の内に十分実現可能であることを説明していきます。もし社会が3つの集合的なブラインドスポット、すなわち今までほとんど無視されてきた変化の側面や焦点に注力することができれば、この変化が可能になるでしょう。この三部コラムではこれらのブラインドスポット(土壌、民主主義、人々の意識)それぞれに焦点を当て、それらの相互関係性について検討して締めくくります。
ブラインドスポット1:土壌と忘れられた産業部門
今世紀の地球温暖化に対処するための特効薬や、唯一の解決策はないとずっと言われてきました。これはもちろん事実ではありますが、少々誤解を招くものでもあります。数値を見れば、実際にはある1つの産業部門を変えることができれば、地球温暖化の反転に非常に大きな影響を及ぼすことが出来ることが分かります。そしてこの産業部門はしばしば無視されてきたのです。
私はどの部門について話しているのでしょう?それは世界の温室効果ガス(GHG)排出量の約2%を占める航空旅行部門ではなく、世界のGHG排出量の約15%を生み出している、自動車、トラック、船舶、飛行機などの輸送機関部門でもありません。また、世界のGHG排出量の30%を占め、地球温暖化の主な原因とされることの多いエネルギー部門(だけ)のことでもないのです。もちろん、いかなる移行戦略においても鍵となる、再生型エネルギー源への移行のために、化石燃料を使用せずに地中にあるままにしておく必要があります。しかし、これらの産業部門の他に、もし私たちが焦点を当てれば、地球温暖化の反転に同じように重大な影響を与える可能性のある部門がもう1つあります。
それは、あなたの足下にある土壌のことです。土壌 ―私たちの食べ物が育てられている農場の基盤- は、地球温暖化を逆転させ、地球の生態系の生物多様性を強化するための最も重要な要素です。私がここで言及したい産業部門とは、もちろん農業、私たち個々の食品選択を通じて共に作り上げてきた農業のことです。
土壌:工業的農業から再生型農業へ
まずは数値をあげてみます。まず、GHGの排出の面から言うと、食糧および農業生産関連産業は、現在のGHG排出量のおよそ30%を占めています(もしかすると、さらにそれ以上かもれません。2013年の国連貿易開発会議の調査(英語)では、「耕作地に変えるための森林伐採から始まり、食品加工、包装、輸送、廃棄まで含めたサプライチェーン全体を考慮すると、食糧関連部門から排出されるGHGは人間の活動から排出されるGHGの約43–57%を占める」と推計しています。しかしその他のほとんどの研究ではどちらかというと30%程度の数値になっています)。
しかし、温暖化の解決の面としては以下の議論があります。エネルギー源を石炭から再生可能型のものに切り替えれば、大気中に排出されるGHGの量を削減できます。GHG排出を減らすのは良いことですが、石炭から太陽光に切り替えただけでは、既存の大気中の二酸化炭素を除去することはできません。大気中の炭素を土に戻すことにはならないのです。しかし、工業的農業から再生型の有機農業に切り替えると、土壌の持つ炭素を吸収し貯留する力を大幅に向上させることができるのです。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による2019年の報告書によると、従来の工業的農業の方法は、地球の土壌の力を、再生できる速さより100倍以上の速さ(リンク先は英語)で劣化させてしまっています。土壌の劣化は3つのことを意味します:まず、二酸化炭素が大気中にさらに放出されます。そして干ばつや極端な気象条件に対する土壌の耐性が弱まります。さらに、地球の人口80億人を養うだけの食糧を育てる能力が損なわれます。国連食糧農業機関(FAO)の専門家によると、現在速さで土壌劣化が続く場合、私たちはあと60年しか食糧を収穫できなくなる(リンク先は英語)可能性があります。
再生型農業に切り替えると、表土を劣化させるのではなく再生できるようになります。つまり、土壌を再生させることで、大気から二酸化炭素を取り除き土壌中に貯留できるようになるのです。また厳しい気象条件に対する土壌の耐性を高め、継続的な食糧確保を可能にします。 ローデイル・インスティチュート(Rodale Institute)による5カ国での長期比較実験(英語)によると、有機農業では、平均して1ヘクタールあたり年間2.3トンの炭素を大気中から分離することができます。したがって、世界中のすべての耕作地がこれらの再生型の有機法でを取り入れた場合、現在の世界の年間二酸化炭素排出量の約40%を大気中から分離し、土壌内に貯留できることになります。
同時に、すべての世界の牧場が再生型牧畜モデルに従って管理された場合、現在の二酸化炭素排出量のさらに70%が大気中から分離できる可能性があります。言い換えれば、再生型有機農業による土壌再生によって、現在の世界の年間CO2排出量の最大100%を分離できる(英語)可能性があるのです。
これは衝撃的な数字です。確かにこの数字は比較的少数の研究と観測に基づくデータであり、この数字の裏付けには、さらなる検証を行う必要があります。しかし、再生型農業が、現在の調査結果に基づいて推定された二酸化炭素削減効果の半分の効果しかないと今後の研究で最終的に分かったとしても、工業的農業から再生型農業に切り替えるだけで、現在の世界の年間二酸化炭素排出量の50%(!)を大気中から分離することができることを意味します。
起こりつつあるグローバルアクション
ブラインドスポットに戻る:なぜ私たちは再生型農業のことを話さないのでしょうか。なぜ私たちは毎年7000億ドルから1兆ドルもの助成金(訳注:約74.3兆から106兆円)(リンク先は英語)を自傷的な工業的農業に払い続けているのでしょうか。なぜ私たちは、毎年4.9兆ドル(訳注:約530兆円)(リンク先は英語)を費やして、同様に自傷的な化石燃料ベースのエネルギー事業に助成金を払っているのでしょうか。 パリ協定でどのように地球温暖化の問題を解決しようか話し合っている一方で、この問題を拡大し悪化させるようなこれらの産業に年間約6兆ドル(訳注:約635兆円)も投入するのですか。
気候危機や生物多様性、またそれらの問題の根本にある社会的不平等の解決方法のような本当に重要な議論をしていないのはなぜですか。
つまり以下のような問題です。
(1)2040年までに農業部門を100%再生型農業に移行する方法;
(2)2040年までにエネルギー部門を100%再生型にする方法;そして
(3)2030年までに、金融セクターを採取的な(そしてその影響を考慮しない)ものから100%再生型な(そしてその影響を考慮している)ものに変革する方法。
さらに第4の側面を加えるならば、現状からの移行の旅(このブログシリーズのパートIIIで説明します)を共に形作っていくために必要な変革リテラシー(訳注:変革を起こしていくための能力)(リンク先は英語)を誰もが習得できるようにするための、ディープラーニングとリーダーシップの基本的設備や仕組みを構築していく方法というものがあります。これらは、私たちが今こそともに注意を払って話し合うべき事柄です。
グレタ・サンバーグ氏、フライデー・フォー・フューチャー、エクスティンクション・リベリオン(XR)、その他の活動家グループの触発を受け、私たちは世界的に目覚め、ムーブメントを作り上げる時にいます。私たちは、誰も望んでいない結果を結局生み出してしまっているシステムに気付いてきています。。この地球をもっと破壊しよう、他の人や自分自身にもっと害を与えようと計画しながら朝起きる人はいません。しかし、私たちが大規模に、そして加速的に進めているのはまさにこれなのです。
気候危機への解決策は既にわかっており、明らかです。 プロジェクト・ドローダウン(リンク先は英語)による広範な調査によれば、現在の地球温暖化を逆転させる効果的な方法トップ20のうち12は、食糧生産、農業の方法、土地利用法の変革に関連しています。しかし、それらの解決法を実践しているでしょうか。答えはノーです。人類全体として、私たちはまだ知っていることと行動することの狭間で立ち往生しています。
私たちはこの狭間を埋めることが出来るでしょうか?もちろん出来ます。このコラムの次の2つのパートでは、その方法について深めていきます。狭間は、今日既にさまざまな場所で埋まりつつあります…
パート II: 直接民主主義の力 (The Power of Direct Democracy リンク先は英語)
パート III: 意識の力(The Power of Consciousnessリンク先は英語)
ビデオ:気候変動をどうやって反転させるか(アラン・サヴォリー)(リンク先は英語)
私の同僚ゾイ・アッカーマンに対し、農業に関する調査、およびサリナ・ボウビス(リンク先は英語)とレイチェル・ヘンツィ(リンク先は英語)と共にこのコラムの原稿にコメントしてくれたことに感謝する。またケルヴィー・バード(リンク先は英語)に対しこのコラム中の図1を作成してくれたこと、スーザン・トラップに対し図2中の写真を用意してくれたことについても感謝したい。ペドロ・ディニスはアラン・サヴォリー氏のビデオのことを教えてくれた。感謝する。