ビジネスデザイン #01

ビジネスデザイナー 佐々木康裕氏 のストーリーから

ビジネスデザインという新領域

国内外で著名なデザインファーム Takram のビジネスデザイナーである

佐々木康裕 氏 Yasuhiro Sasaki のストーリーに、とてもそそられた。

ビジネスデザインとは何か

ビジネスデザインの概形は、同氏によるこちらの記事で触れられている。

門外漢の私でもわかるように、ざっくりまとめると

ビジネスデザイナーとは

  • 目的:イノベーティブな事業(プロダクト/サービス)コンセプトの構築のために
  • 手法:ビジネス型アプローチとデザイン型アプローチの両方を用いることで
  • 役割:ビジネス型アプローチに偏りがちなプロジェクトを、より高いレベルでリードしていく職種

のことらしい。

これから、詳細を見ていく。


Lv.1 ビジネスの「わかる」デザイナー

まず佐々木氏は、ビジネスデザイナーのわかりやすい定義として

財務諸表が読めるデザイナー

というフレーズを用いている。

つまり、ビジネスデザイナーは、デザイナーでありながら

  • コンサルティングファームが行うような、業界・市場・自社P/Lに関する定量的なファクト・リサーチはもちろん
  • 投資銀行やファンドのように、B/S, C/Fまで含めた財務モデルも扱い、ビジネスモデル全体を把握することで
  • プロダクトやサービスのコンセプトに、ビジネスサイドのインサイトを上乗せしてプロジェクトを推進していく

人たちだと言えるのだろう。

言い換えると、

  • 創造的なアプローチを主体とするデザイナーでありながら
  • 同時に、分析的なアプローチを行うことができる
  • ハイブリッド型の思考プロセスを有する人たち

が、ビジネスデザイナーなのだろう。

Lv.2 ビジネスの「できる」デザイナー

氏のエピソードに衝撃を受けた。

授業では
>iTuneで有料アプリを購入すると数日後にメールでレシートが届く。これはなぜか?
と詰問されたことがあります。これを尋ねて来たのは、名物教授でTen Types of Innovationというイノベーションの解説書を書いたラリー・キリーという名物おじさん。シカゴのDoblinというデザインファームを共同設立した大御所です(ちなみにDoblinは2014年にデロイトに買収されました)。この質問は、国際税法と租税回避スキームがわからないと答えられないのだけど、「デザイナーたる者これくらい考えろ」と言い放つ。その他、「プロダクトのみにフォーカスするな、体験にフォーカスしろ」、「プラットフォームレベルで考えろ」、「儲かる仕組みを考えろ」こんなこともシカゴ派の教えとして説かれます。
(引用注:イリノイ工科大学 Institute of Design での出来事と思われる)

一般的なデザイン業界のレベルから言って、ラリー・キリー氏の要求水準はとてつもなく高い。

つまり「シカゴ派デザイン」と佐々木氏が呼ぶデザイン文化圏は、ビジネス領域への越境どころか

一般的なビジネスパーソンですら容易に思い描かないレベルまで、ビジネスモデルを実践的に設計する、一種のアントレプレナーシップが前提になっている。

あるいは、起業家精神どころか、もはや起業(や0→1のプロジェクト)しなければ意識することのないトピックについてまで、考慮に入れたデザインを志向している。

おそらく、これが本当の意味での「ビジネスデザイン」と呼ばれるべき専門性なのだろうと、僕は理解した。

つまり

  • 単にリサーチャーやアナリストとして、ビジネスへのリテラシーを活用して、デザインをアップデートするだけではなく
  • ビジネス領域の濃密な経験、あるいはそれに類する専門性を有しながら、コンセプト設計に携わる
  • 事業構築における、スタートからゴールまでを一手に担うことのできる人材

こそが、本当の意味でのビジネスデザイナーなのかもしれない。


Next Topic: Larry Keely @ Doblin の 10 Types of Innovation

次回は、佐々木氏の言及もあった Larry Keeley 氏が提唱した

”Ten Types of Innovation”について詳細を知り

イノベーションに向けて具体的にどのような思考プロセスを辿るのか、どのようなモデルケースがあるのか調べていきたい。


コラム1: ビジネス型とデザイン型ってそもそも何?

前提として、ここでいうビジネス型とデザイン型というのは、対立する概念として扱われている。

最初に読んだとき、僕は

「ビジネスは目的でデザインは手段じゃないの?」

「経営者から見たら、ビジネスとデザインは二項対立ではないのでは?」

という印象を持ったのだけれど、どうやらそういうことではないらしい。

以下は邪推も入るが、わかりやすい解釈として書き残しておく:

「ビジネス vs. デザイン」という対立構造は、デザイナーがデザインしたものだろう。

本来であれば、ビジネスはデザインを内包する。事業責任者はデザイナーを雇うか、あるいはデザイン会社に発注する。

けれど、ビジネスとデザインが同じレイヤーにあるかのように言えば、突然デザインの地位が向上する。

(おかげで、みんなよくわからないままデザイン!デザイン!と言い始めるようになった)

つまり、ビジネスデザインという言葉の裏には

  • 「デザイン」は「ビジネス」と同じくらいに重要だ。みんなが思っているよりもはるかに。
  • 「ビジネス」はイノベーションを阻むけれど、「デザイン」ならイノベーションを加速させることができる。

という、「デザイン」の価値の(そしてデザイナーの価値の)意図的なプロモーションがある。

コラム2: ビジネスデザイナーは都合のいいオポチュニティだった?

「ビジネスデザイン」が普及した背景としては

■ デザイナー側の事情

  • ものづくりが楽しくてデザイナーになったけど、単なる「モノのデザイン」の下請けはもうオワコンだわ…
  • 「ビジネスデザイン」って提唱すれば「コトのデザイン」のマネジメントでプロジェクト受注ができるかも?
  • 新たな受注形式でファームの規模も拡大するし、高いマージンも取れるし、会社のブランディングもできるじゃん!

■ ビジネスパーソン側の事情

  • 優秀なアナリストなんて溢れかえってるし、もうコンサルティングファームとか投資銀行とかMBAとかもうオワコンだわ…
  • 「ビジネスデザイン」って最近聞いたけど、職務内容も曖昧っぽいし、元々やってた仕事も活かせそうだし、意外とできるかも?
  • ビジネスデザイナーはまだ希少性もあるし、やったプロジェクトでレジュメも充実するし、セルフブランディングできるじゃん!

■ クライアント側の事情

  • 「ビジネスデザイン」ってよく知らんけど、「うちはそういう新しいのも積極的に取り入れていきますよ」って言っとくか!

という事情もあったのではないかと思う。

少なくとも、日本のデザイナーがとっている昨今の動きを見ると、こういった要素の影響は無視できないように思う。

(経営判断に強くコミットしたがるデザイナーとしては、佐藤可士和氏や水野学氏が特に有名なところかと思う)


参考: 佐々木氏の経歴(引用)

佐々木 康裕(ササキ ヤスヒロ)

Takram ビジネスデザイナー
クリエイティブとビジネスを結びつけ、デザインリサーチから、デザインコンセプト立案、事業戦略立案を得意とし、家電、自動車、運輸、通信、食品など幅広い業界でコンサルティングプロジェクトを手がける。Takram参画以前は、総合商社でのベンチャー企業との事業立ち上げや、経済産業省でBig dataやIoT等に関するイノベーション政策の立案を担当。
2005年早稲田大学政治経済学部卒業。2014年イリノイ工科大学Institute of Design修士課程(Master of Design Method)修了。