藍井エイル「アイリス」:音は色を呑み込み、色を失いかけた世界で歌声が咲く

Eir Aoi

2018年8月の〈Eir Aoi Special Live 2018 “RE BLUE” at NIPPON BUDOKAN〉で発表されてから約2ヶ月。藍井エイルのシングル「アイリス」がリリースされました。10日ほど前、彼女はこの曲についてツイートします。アイリス(iris)とはアヤメの花であり、花言葉は「希望」だと綴った後、こう続けます。「とても大切な人が、いつも自分に希望をくれました。そんな大切で、尊敬するあなたへと、私からも希望を与えられたら良いなと思い綴った曲です」と。

哀愁漂うピアノが曲の始まりを告げます。イントロを受けたAメロでは、その歌い方にいつもと違う印象を受けました。丸みを帯びたというか角の取れた感じの歌ですね。Bメロ以降はいつもの鋭さや伸びやかさを感じます。差異を感じたのはイントロのピアノやAメロのボーカルに限られるので、違う路線というほど既存のイメージを壊しているわけではありませんが、それでも新しい表情を見た気がします。

ミュージック・ビデオは全体的に彩度が落ちていて、くすんだ色が目に飛び込んできます。渇きのようなものを感じる色です。夢に出てくる映像はいつだって無色ですが、「アイリス」の映像は、夢と覚醒の狭間とでもいうべき時間を思わせます。色が呑み込まれ、色が失われ、そのまま意識は夢の中に連れていかれそうになる。スモーキーな質感の映像の中で、時として明るく色が映えるシーンが差し込まれ、その時間は現実の色に引き寄せられます。

作曲およびアレンジに名を連ねているのはArmySlick。AAAやE-girlsなどのアーティストに作曲家、アレンジャー、リミキサーとして協力することが多いようです。「アイリス」ではイントロのピアノや間奏のギターが憂いを帯びて響き、耳に記憶に残ります。ボーカルや歌メロに漂う哀愁はサウンドからも染み出して、空気を染め上げます。

ArmySlickは小室さんのソロ曲「Every [feat. SKY-HI and KCO]」をリミックスしたことがあります。このArmySlick Remixから、エレクトロの要素を効果的に使うイメージを持っていたので、「アイリス」のギター・ロック的なアレンジは意外でした。一方で、このリミックスではピアノの使い方がとても好きだったのですが、その雰囲気は「アイリス」でも感じることができます。随所で響くピアノの音に胸を締め付けられます。歌声とともに音をじっくり味わいたい新曲です。

なお、シングルには「Daylight」と「Liar」という新曲も収録されています。「Daylight」のサウンドはギターとシンセサイザーの音が激しく絡み合っていて、スピード感とシャープさを兼ね備えています。藍井エイルの歌にもいつも以上の勢いを感じます。中盤ではシンセサイザーが前に出てきますが、EDM時代らしい音が格好良い。この路線はもっと聴いてみたいですね。

「Liar」の特徴はエモ系で攻めるアレンジであり、ずしりと重く響くロック・サウンドが身体を刺激します。ボーカルも一層エモーショナルに響き、ヘビーな言葉を繰り返して重ねるサビが爪痕のように印象に残ります。「アイリス」を含め、3曲ともストリーミングで最初から最後まで聴いてみてほしいと思います。