藍井エイル「IGNITE」:歌声が音のない世界を切り拓き、始まりを告げる

音のない世界を藍井エイルの歌が切り拓く。その歌声は「暗がりに差し込む一筋の光」を思わせます。イグニッション・キーを回してエンジンを駆動させるように「IGNITE」を始動させると、彼女の歌声は力強くても重苦しくなく、心地好い軽やかさを含んで響き渡ります。抑えるところは抑え、突き出るところは全力で突出して、最後はスイッチをぱちりとオフにするように声も音も消えて、再び音のない世界が広がります。

「IGNITE」のサウンドを形作るのはエレクトリック・ギター、ベース、ドラムのロック3点セットです。そこにアコースティック・ギターのカッティング、ストリングスの響き、軽やかなシンセサイザーの音が加わり、曲は立体的に浮かび上がります。アコースティック・ギターやストリングスが入ることで、サウンドは丸くなるのではなく、むしろシャープに磨かれます。ロックやそれ以外の多彩な音を束ねるのが藍井エイルの歌声です。すべての音がぎゅっとまとまって、ひとつの勢いを作り出しています。
「IGNITE」が収録されているアルバムは、2015年にリリースされた『D’AZUR』です。短いインストゥルメンタルの「awakening」の次に収録されていて、曲名のごとくアルバムの世界に火を点けます。
2018年8月16日の「Eir Aoi Special Live 2018 “RE BLUE” at NIPPON BUDOKAN」では、1曲目の「約束」の次に披露されましたが、「IGNITE」の前後でライブの雰囲気は大きく変わったことを覚えています。オープニングから「約束」までは帰還を知らせる儀式ですが、暗転してから数秒後のスポットライトで始まった「IGNITE」は「いつもの藍井エイル」を起動させる曲だったといえます。「IGNITE」はライブの後半にも演奏されますが、始まりを告げる曲としての役割を期待されることが多いようです。
