重なる三角形と最後に受け取った存在:村上春樹『騎士団長殺し』[PART2]

Haruki Murakami: Killing Commendatore

『騎士団長殺し』の登場人物や重要な小道具を、場面ごとに点で結んでいくと、あちらこちらで三角形が浮かび上がります。それらは直接会話を交わすだけではなく、場にはいなくとも重要な存在として描かれる場合もあります。いくつもの三角形が浮かび上がり、重なり、離れながら物語は進みます。ひとつの方向に進んでいるかと思えば、別の三角形に焦点を当てると、別の道筋が見えてきます。三角形という見方をすることで、物語が立体的に、多面体として立ち上がってくるのです。

物語の主軸となり得る三角形は最も重要な三人を結んだ「主人公、免色渉、秋川まりえ」でしょうか。一番大きい三角形として、物語の輪郭を浮かび上がらせます。東北地方と北海道を回る旅で描かれた「主人公、女、白いスバル・フォレスターの男」は、その後も主人公の影のように付いて回ります。また、「主人公、雨田具彦、雨田政彦」の三角形からは、雨田家に降りかかった出来事を通して、歴史に刻まれた暗い暴力の存在が不気味に鎌首をもたげます。「秋川まりえ」のスケッチを描いた後には、彼女と妹の「小径」が結びついて「主人公、秋川まりえ、小径」が三角形を作り上げ、主人公と秋川まりえとの結びつきが強固なものとなります。

主人公は穴の中に身を投じ、非現実の世界を歩きます。穴を開けるための儀式として「主人公、雨田具彦、騎士団長」から「主人公、雨田具彦、顔なが」に至るプロセスも欠かせません。穴の中では、旅人と案内人という関係で「主人公、顔のない男、ドンナ・アンナ」が存在し、そこをくぐり抜けるときには「主人公、小径、ドンナ・アンナ」がキーとなります(その伏線として、風穴における「主人公、小径、叔父」があったのか)。そして、これらを経て帰還した先に、新たな三角形が生まれます。


いくつもの三角形が織り成す物語は、ひとつの三角形に収斂していきます。そのプロセスを追っていると「受け取る」という行為が見えてきます。悪や巨大な存在から何かを勝ち取るのではなく、あとに残ったものを受け取る。失うこともなく、通り過ぎることもなく、かたちあるものが手のひらに残る。与えられた「ギフト」を受け取り、大事に守る。

最後に登場する三角形が「主人公、柚、室」です。これまでにも家族や家庭を描いた物語はありましたが、これほどまでに重みを感じている描写は初めてではないかと思います。例えば『国境の南、太陽の西』では捨ててもいいとさえ思われていた家族(妻と娘)という要素が、この物語ではむしろ守るべきものとして描かれています。その手をしっかりと握っていようと思える存在。

僕は「主人公は受け取ったギフトの重みをしっかり感じている」と思いますし、それは村上春樹らしくないとも思い、同時に興味深いとも思います。暗示的に匂わすものはなく、シンプルに、形、重み、そして温かみがあるものとして、その存在の尊さを感じている。物語の終わりとして明確に句点を付けた、そう思える結末です。