富山IoTアイデアソン2018@富山県

IoTを活用して産業の高度化を目指す「富山県IoT推進コンソーシアム」による「富山IoTアイデアソン2018」が2018年10月1日(月)〜4日(木)の4日間にわたって行われました。

東京大学・富山大学・富山県立大学の3校から12名の学生が集まり、富山県内企業の視察、アイデア創出とプロトタイプの作成、そしてプレゼン発表を行いました。

《1日目》

アイスブレイクのじゃんけんゲーム

台風24号の影響で東京大学のメンバーは少し遅れての参加になりましたが、3大学から学生12名が集い、富山IoTアイデアソンが無事に開講されました。

はじめに、富士通株式会社テクノロジ&ものづくり本部の前田智彦さんによる基調講演「IoTによる企業活用事例の紹介」が行われました。

富士通株式会社 前田智彦さん

社内のプロセス改善や見える化に課題をもつ中小企業が多いことや、自国製造業の強化に取り組むドイツやアメリカとの比較、IoTを3社間で活用している事例等のお話をいただきました。

バスで富山県内企業視察へ

初日〜2日目の企業視察は下記の流れで行われます。

① 経営者から企業の概要説明

② 工場見学

③ 質問事項やアイデアの洗い出し(学生のみ)

④ 経営者とのディスカッション

左から製造本部長の鳥越さん・総務課長の高道さん・総務部長の高橋さん

視察1社目は株式会社でんそく(富山市)。水力発電に関わる機械を設計・製造・メンテナンスしている企業です。
でんそくの強みはオリジナルの商品を1点1点、ゼロから生産しているところ。
それ故に、熟練の技術に頼らざるを得ないのが課題です。また、現場(発電所など)では動物の侵入や鳥の糞害、除雪等が大きな問題となっています。

工場を見学する学生

工場を見学すると、生産進捗度合いは「進捗シート」という紙を各部で共有することで把握されていました。
学生からはこの点を効率化できないか、という意見や、若手社員に技術伝承をしていく良い方法はないか、といった意見が出されました。

社員の方に質問する学生

製造本部長の鳥越順蔵さんは「繁忙期は残業せざるを得ないことも多い。派遣社員の増員などで対応しているが、決められた時間内に効率よく生産するアイデアが欲しい」と述べられました。

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ニット生地を製造している小矢部繊維工業株式会社(小矢部市)はすでにIoTを導入し成果を出されています。
代表取締役社長の福岡健さんをお呼びしてどのように導入し、運用しているかお話を伺いました。

小矢部繊維工業株式会社の福岡健社長

IoTを導入することで整経・編立の稼働状態をリアルタイムに可視化しています。

(導入前)機台から有線で稼働状況データを集約するため、手作業による配線の付け替え、データの修正が必要。

(導入後)編機にセンサーを取り付け、中継機を介してデータを集約。手作業工程がなくなり、効率化に成功。

導入後のイメージ

工場内の電波状況が悪く、データ送信に時間がかかったり、度々発生する異常値の原因追求に時間がかかったりと導入にあたっては多くの課題があったそうです。

次のステップとして、現在編機ごとに集めている稼働率を品番別に集計し、生産量・受注金額等をリンクさせ、情報を社員全員に開示することを目指しています。

質問する学生

福岡社長は「繊維産業は他の産業と比べてIoT化が遅れている分野と言えます。まだまだ活用の余地がある」と仰っていました。

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1日目の振り返りをする学生

初対面の学生が多く開始直後は全体的に静かな印象でしたが、視察やグループワークを経て次第に盛り上がってきました。

参加する学生が徹底的に“現場目線”だったことも特筆すべきでしょう。技術ありき、作りたいものありきではなく「現場の声を反映したアイデアにしたい」という想いが感じられました。

1日目を終え、学生からは「経営者と現場の声、両方を聞く必要がある」「“IoTアレルギーの人”(電子機器の扱いが苦手な方など)にどう受け入れてもらうか?」「機械の稼働率可視化以外の使い方がなかなか思いつかない」などの意見が出ました。

まとめる専門家・谷内さんによるグラフィックレコーディング

《2日目》

前日夜の懇親会を経て、さらに距離が縮まった学生たち。2日目はバスで富山県内3社の視察へ向かいました。

澤川鍛造工業株式会社

1社目は澤川鍛造工業株式会社(高岡市)。建機や重機・産業機器等に使われる駆動系部品を大量生産しています。

澤川社長

澤川社長は「褒めて、気付かせ、考えさせる」育成方法を心がけておられ、3代目として会社をどう変えていこうと思っているか、熱く語ってくださいました。

澤川社長の工場説明を聞く学生

工場内を見学すると、女性社員が多いことに気付かされます。女性社員のほうが臭いなど、工場の労働環境に敏感に反応する傾向があるとのこと。それ故に、より良い労働環境づくりが課題となっています。
また、一人の社員が複数の機械を担当しており、どの機械を優先的に動かすべきかは各作業員の感覚や経験に頼っています。この点も改善の余地があると澤川社長は仰っていました。

討議中の学生

学生からは人材育成の工夫や製品の最終カウント方法、IoTにかけられる費用など多岐にわたる質問が出ました。

2社目は株式会社ケイエステック(立山町)。自動車工場等で使われている大型機械(プレス機械等)を受注生産で作っています。

木下社長

生産している製品にはIoTを利用していますが、製造過程にIoTを利用できていません。
IoTで大切なのはモノをつなぐことではなく、どの情報を繋ぐか。そして、その情報を元にどのようなコミュニケーションが取れるかが大切であると木下裕次社長は考えています。

工場見学に向かう学生

生産物のサイズが非常に大きいため(大きいものでは数百トン)工場も人数に比べて巨大で、人と人との距離が遠くなっています。
そのため、昼礼やビジネス版メッセンジャーを導入することでコミュニケーションの円滑化を図っています。海外顧客も多いため、遠方で製品に問題が起きた際の原因究明にメッセージのやりとりが役立っています。

木下社長の話を聞く学生
議論中の学生

現状の会社の課題は女性社員が少ないこと。そもそも応募が少ないので「女性でも働きやすい環境」をアピールしなければなりません。
また、設計から納品まで約18ヶ月と長いため、スケジューリングの難しさがあるそうです。

山口社長

3社目は株式会社山口技研(入善町)。2代目の山口剛史社長は前職がIT企業だったため、ITの活用を積極的に進めている会社です。

工場で山口社長の話を聞く学生

自動車工場・食品工場等の生産ラインで使われている部品が山口技研さんの製品。そのため、多品種少量生産(なんと製作個数は一件につき1〜2個!)のオーダーメイド受注。これまで関わってきた産業は自動車・半導体・医療・食品・本・ダンボールなどなど多岐にわたっています。
今後は技術的な課題が多い航空機や医療分野への進出を目指しており、来年春には総合エンジニアリング企業へと歩を進めます。

しかし、IT化までには苦労もあったとのこと。20年前までは加工者が絶対的な存在でした。納期遅れは当たり前。取引先は3社。営業もなし。「FAXがあれば仕事は来る!」が前社長の口癖でした。

山口社長の話を聞く学生

IoT導入を目的とするのではなく、社員を見つめ、対話を重ねていきました。「どれだけ良いシステムが入っても、従業員の活発な議論がなければ意味がない。アナログとデジタルの塩梅の良さが欠かせない」と山口社長は言います。
その結果、2015年に社内のPCをネットワーク化、2016年にはIoT対応設備を導入しました。

学生からは「自分の作業がどれだけ売り上げに貢献しているのかを可視化してはどうか」「経験者のソースコードを蓄積して、1年目のエンジニアがプログラムを書いたときに『推奨プログラム』を提案するようなシステムがあったらどうか」といった提案が出ました。

意見交換する学生

「製造業は他の業界に頼らなくても自立できる業界。だからこそ鎖国状態になりがちです。今回のアイデアソンで学生からの新しい視点が欲しい」と山口社長は伝えました。

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今回、学生たちに求められているのは「20世紀をぶち壊す」ことだと、まとめる専門家の松本さんが2日間を終えて“まとめ”ました。

今年100周年を迎える企業、つまり20世紀を代表する企業は製造業が最も多く、長く働けば売り上げが上がる時代を経験してきました。
しかし、その固定概念を変えなければ世界で生き残っていくのは難しい時代が到来しています。

「これまでこうだったから、同じようにやる」という過去の踏襲ではなく、これからの社会に必要なのは発想の転換。学生たちの柔軟なアイデアを各企業が求めています。

明日からのアイデアソンで大切なのは「リーダーシップ(誰かが発揮するものではなく全員が発揮するもの)」「チームワーク」そして「取捨する勇気」であるというメッセージを伝え、松本さんは2日間を締めました。

《3日目》

松本さんのファシリテーションにより、2日間の振り返りとアイデアの出し方についてざっくばらんに話し合いました。

フィッシュボール形式で振り返り

「製造業でIoTを活用するのが意外と難しい」「汎用性のあるシステムを作るのが難しそう。工場ごとに相違点が多すぎる」という企業視察をしての感想や、「コミュニケーションを円滑にする案が出せたら、現場の課題解決に繋がりそう」「人の仕事を奪うわけではなく、人ができないことを技術で補うアイデアの方が現場に受け入れられやすいのではないか」といった、ソフト面の課題解決に向けた意見も出ました。

「作り込み過ぎて、監視するシステムを作ってしまっては意図しない使われ方をしてしまう恐れがある。介入しすぎてはいけない」
「Googleが提供するシステムのようなものを作りたい。Googleはデータを集めたいと思っており、使用者は便利なサービスを利用したいので情報提供に同意する。そんなWIN-WINの関係性を作りたい」
「アノニマス(匿名)に情報を収集するのが良いのでは?そうすれば抵抗感がないと思う」という、導入にあたっての課題についても熱い議論が交わされました。

株式会社叢雲堂の池谷隆典さん

プロトタイプ作成に先立ち、株式会社叢雲堂(むらくもどう) のITコーディネータ池谷隆典さんに「IVI(インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ)IoT10万円キットの説明」をしていただきました。

IoTキットの体験

工程表にICタグをつけて読み込むことで、工場の製造状況を把握するシステムを体験しました。高価な材料を使わなくとも、少しの工夫で製造現場が効率化することを学びました。

「企業でIoTを導入しようとするところは多く、試作品作成まではスムーズにいく場合が多いです。しかし、集めた情報をどう活用するか?が考えられていないとその後が続かないのです。データの何を見せて何を隠すのか、が大事です。オープンにするにしても、どのようにおいておけばみんなが見たい、使いたいと思えるのか?を考えるべき。さらに、会社の中の誰と誰のどんな困りごとをどのように解決したのか?も大切です。例えば、営業だけの課題を解決するのではなく、営業と生産管理両方の困りごとを解決するようなアイデアだと受け入れられやすいです。」と池谷さん。

IoT活用アイデア出しワーク

その後「IoT活用アイデアを3つ以上出すこと」を目標に、学生がアイデアを書き出し、互いに意見を出し合いながら練りこみました。

アイデアの練りこみ

それぞれが興味のあるアイデアに取り組むことになり、下記4グループができました。

チーム分け

・Helmet

・トニー・スターク・インダストリー

・チームフローラル

・ココロヒラックマ

グループで買い出しやプログラミング等を進めたのち中間発表を行い、池谷さん、東京大学大学院工学系研究科・成末義哲助教からコメントと助言をいただきました。
ここから1日弱のプロトタイプづくりが始まります。

東京大学大学院工学系研究科・成末義哲助教

《4日目》

1日という短期間の試作を経て、午後にプレゼンが行われました。

プレゼン会場に集まった方々

東京大学大学院工学系研究科 森川博之教授、成末義哲助教、
富山大学都市デザイン学部 副学部長 堀田裕弘教授、
富山県立大学工学部電子・情報工学科 岩本健嗣准教授、
さらに企業視察でお世話になった企業の方々がプレゼンの審査員となり、審査を行います。富山県内からIoT 推進コンソーシアム会員の方々にも会場にお越しいただきました。

Helmetによる“Internet of TAKUMI(IoT)”

Helmetによる“Internet of TAKUMI(IoT)“の発表

製造業には欠かせない「匠の技」。技術継承には時間とコストがかかり、「職人技は盗んで習得しろ」という風潮が根強い現状があります。

そこで、ヘルメットに取り付けたカメラでベテランの技術を撮影し集約。若手社員がその工程に入る際に、タブレットでその動画を視聴できるシステムを提案しました。
企業視察で、ベテラン社員にしかできない工程が多くあることに気付いた学生の発案です。

プレゼンでは、工程に入る際にICカードをタッチすると「匠の技」の動画が流れるシステムを試作し発表しました。

トニー・スターク・インダストリーによる“アロイマンスーツ”

トニー・スターク・インダストリーによる“アロイマンスーツ”の発表

工場の多くが「働きやすい環境づくり」に悩んでいる点に着目し発案された、全身を覆うスーツです。
悪臭が発生した際にヘルメットに取り付けたマスクが装着されたり、重い荷物を運ぶ際に動作を補助してくれたり、暑さや寒さをコントロールしてくれたり・・・夢に溢れるアイデアで、発案者曰く「20世紀どころか21世紀もぶっ壊しました」とのこと。

プレゼンでは、センサーが反応するとマスクが装着されるプロトタイプを発表し、会場が盛り上がりました。

チームフローラルによる“美しい環境ちゃん(美環ちゃん)”

チームフローラルによる“美しい環境ちゃん(美環ちゃん)”の発表

こちらも工場の労働環境に着目したアイデア。
臭い・湿度・温度をセンサーが感知し、人間の大半が不快だと感じる基準の「不快値」を超えると、エアコンで温度をコントロールしたり、消臭剤を噴射したりします。
衣服に装着できるサイズまで軽量化することで工場内でも使いやすくし、データを公表することで、採用活動にも役立ててほしい、という想いが込められています。

今回は、温度が高くなると風鈴の音が聞こえ、臭い源が近づくと某消臭剤のCMソングが流れるプロトタイプでプレゼンを行いました。

ココロヒラックマによる“ココロヒラックマ”

ココロヒラックマによる“ココロヒラックマ”の発表

工場内でのコミュニケーションを円滑に行えるようにしたい、という想いから発案されたアイデアです。若手社員はベテラン社員に話しかけづらい等の悩みを持っており、ベテラン社員は若手社員と距離を縮めたいけれど、どのようにコミュニケーションをとったら良いかわからない、という悩みを抱えています。
それぞれの悩みを解決するために、ベテラン社員の集中度合いをセンサーで読み取り、声をかけやすいタイミングで背中に背負ったクマのぬいぐるみが手招きする、というアイデアを発表しました。

ここで重要なのは、若手社員が声をかけるかどうか「選択できる」ということ。IoT導入はあくまでコミュニケーションを取りやすくする環境を作るだけで、その活用は社員一人ひとりに委ねられているという点です。

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審査員からは、実際の開発費用はどれくらいかかりそうか、着想を得たきっかけは何だったのか、導入に際し社員のインセンティブはどこにあるのか、といった質問が出ました。

また、工場以外でも介護現場等で活用可能性があるのではないか、採用が難しい時代において経営者の悩みに寄り添ったアイデアを出してくれてありがたい、といった意見も出ました。

ココロヒラックマの試着
説明を受けるIoT推進コンソーシアム会員
プロトタイプのタッチ&トライ

プレゼン及びプロトタイプのタッチ&トライを経て審査が行われ、“アロイマンスーツ”が優勝しました。かなりの接戦でしたが、「学生らしさ」溢れるアイデアが上位に入る結果となりました。

東京大学・森川教授

審査員を代表し、森川教授は「富山の企業を元気にしていくのは、富山に対して愛のある学生たちです。デジタルをうまく活用しながら、学生が主体となって企業を元気にしてほしい。そのために、富山県によるサポートもぜひお願いしたい」と総括しました。

終了後には学生・審査員・参加者の皆さんで懇親会が開かれ、アイデアソンの振り返りや、今後のIoT活用に向けての情報交換が行われました。

全員で集合写真

《取材を前に》

今回の取材を前に、株式会社まとめる専門家のある富山県南砺市へ伺ってきました。Uターンしてきたばかりの私にとって、小学生ぶりの南砺市です。

小矢部川のほとりで

打ち合わせ後には福光の商店街を歩き、銭湯に入り、ジェラートをいただきました。

福光の小林浴場
たくさんの種類のジェラートが楽しめるZUCCA

さらに、元々歯医者だったというゲストハウスにも宿泊。
街の温かさと住みよさに触れられた機会となりました。

ゲストハウス”TSUBAKI HOUSE”

上京する前は単に「住むところ」だった富山。しかし、東京やアメリカでの生活を経て「富山ならではの良さ」に敏感になったように感じます。
“故郷の良いところ“を集め、ライターとして世界に発信していきたい、と想いを新たにしました。