講義におけるTwitterの利用

数年前から実践しているオンデマンド講義法の紹介

♪ OKAWA Shigeki
11 min readNov 6, 2013

この文章は、2012年度千葉工業大学教育シンポジウムで発表した「SNSを積極的に活用した学生の好奇心に火を付ける教育の実践」の予稿から、講義でのTwitter利用に関する部分を抜粋したものです。この発表では、自分の予想(=方法が方法だけにきっと大顰蹙だろうな)に反して、優秀発表賞を頂戴しました(その紹介記事)。

概要

学部の講義科目において、学生の好奇心の向上を目指し、SNS (Social Networking Service) の一種である Twitter を積極的に活用する教育を数年に渡って実践している。まず、この方法を思い付くに至った経緯を紹介し、現在も併用している「アナログ式」意見収集法について述べる。次に、そこから派生した「ディジタル式」とも言える Twitter の具体的な活用方法と実例、その効果について述べる。最後に、これらの教育方法に対する学生の反応を紹介し今後の展望を述べる。

1. はじめに:オンデマンド講義の発想

学生の多くは、それなりに高い意識と目標を携えて入学してくる。彼ら全員がその高い意識を保持したまま授業に臨んでくれれば、教員が特段の工夫をせずとも「理想的な」授業が成り立つ。しかし、学生達はおそらく勉学以外の活動で疲れ果て、午前中の授業でさえ居眠りしたり、隣席の友人とつい私語を始めたりするのが現実である。これは何も現代の学生に限った話でなく、筆者の学生時代を振り返ってみても大差ない。理想と現実は残念ながら異なるのである。

授業中の居眠りや内職(授業に関係ないことをする)はケシカランと思うが、学生が居眠りする責任の半分は教える側にある。つまらない授業をすれば眠くもなる。また、昨今の学生達は、心の中で疑問に思ったことがあっても授業中にはなかなか手を挙げない。したがって、いかに学生の好奇心を引き出し、集中力を高め、彼らの疑問を上手に汲み取るかは、言うまでもなく教える側のテクニックにかかっている。

1.1 「必ず何か書かせる」Comment Card

筆者は、本学に赴任した当初から現在に至るまで、少しずつスタイルを変えながら、講義のたびに特製の「Comment Card」なるA5サイズの用紙を配付し「出席カード」代わりに利用している。毎回授業の終わりに「小テスト」を行っている風でもあるが、これを書くための時間を5分程度設ける以外には、具体的な問題を与えることは稀で、日付・学生番号・氏名以外に必ず「何か」書くよう指示している。「何か」の中身は、授業への感想や質問でも構わないし(実際これが最も多い)、日頃思っていること、悩みごとなど何でもよい。ただし、白紙の場合は欠席と同等とみなす、と伝えてある。これには出席カードの「代筆」を防ぐ効果もある。いわゆる「リアクションペーパー」の簡易版ともいえる「アナログ式」意見収集法である。

授業終了時に回収したカードは、すぐに目を通し、講義内容への質問など受講者全体に対して回答する意義のあるものについては、発言者名を伏せて次回の講義冒頭で口頭またはスライドを用いて回答する。授業に直接関係のないコメントに対しても、ときどき雑学的(雑談的)回答を与えると評判がよい。

1.2 電子メールを用いたオンデマンド質疑応答

Comment Card の問題点は、学生からの質問に即座に反応できない(少なくとも1週の遅れが生じる)ことである。そこで、約10年前、主として学生達が持っている携帯電話の電子メール機能を用いて授業中に質問を受け付ける試みを行った。筆者の講義では、手を動かしてノートを取ることを重視しているため、スライドや板書の内容を事前にプリント配付することは敢えてせず(事後にPDF形式でWeb上に展開している)、授業中に「ノートを写す時間」を設けている。字を書くのが速い学生は時間を持て余すので、その空いた時間を利用して、授業内容への質問などを電子メールで送信してもらう。教卓上に電子メールを読むための専用PCを用意し、15分に1回程度その内容を確認する。有益な質問やコメントに対しては、「いまこういう質問がありました」と、その場で全員に対して回答する。この場合も質問者の名前は伏せる。こうすることで、学生の疑問や要求に「即座に」反応する、いわば「オンデマンド講義」が実現できる。この「ディジタル式」試みが、その後の Twitter 利用の原点となった。

2. Twitterを用いたオンデマンド講義

電子メールは1対1の通信手段であるので、ある学生のメール内容は他の学生には見えない。また、自分のメールアドレス(特に携帯アドレス)を教員に知られることを望まない学生も多く、ごく一部の学生が、興味本位で使う程度に過ぎなかった。

そこに登場した極めて便利な仕組みが Twitter である。Twitterは、個人が「アカウント」を所持し(匿名でも可)、PCや携帯電話、スマートフォン上から1回140字以内の短文を投稿(ツイート)するSNSであり「ミニブログ」とも称される。芸能人や政治家の Twitter 利用がときどき話題になるが、現代の学生達の Twitter 利用率は驚くほど高く、筆者の所属する学科で観察した限り、1/2 から 2/3 ほどの学生が Twitter アカウントを所持していると思われる。

Twitter でのツイート(つぶやき)は、非公開設定(鍵付きアカウント)にしない限り誰でも読める。通常の利用では、あるユーザが他のユーザのアカウントを「フォロー」する(常にツイートを追える状態にする)ことで、ユーザの Twitter タイムライン画面上にフォローしているユーザのツイートが表示され、それに返答(リプライ)したり、自分の他のフォロワーに展開(リツイート)したりできる。

この Twitter を前述の電子メールの代わりに利用する試みを2009年度後期の講義科目から行っている。ただし、学生のアカウントを「フォロー」することは手続き的に面倒であるため、「ハッシュタグ」と呼ばれる機能を用いる。ハッシュタグは、ツイート中に「#」で始まるキーワードを含めることで、フォローしていないユーザであっても検索により特定のハッシュタグを含むツイートを一覧できる便利な機能である。

あらかじめ、授業ごとに専用のハッシュタグを開示しておき、必要に応じて授業への質問やコメントをつぶやいてもらうよう指示する。先述の要領で、スライドや板書をノートに写す時間の合間に、ハッシュタグ付きで授業内容への質問などが寄せられる。電子メールとは異なり、学生相互間でもハッシュタグを検索することで他人のツイートも閲覧できる。

電子メールの場合と同様、15分に1回程度、教卓上のPCならぬスマートフォンを用いて学生からのツイートを拾い、有益なものは口頭で紹介し、質問に対してはその場で答える。たとえば、

  • 先ほど説明した数式の意味が分からないという質問があったので補足します。
  • ××の原理の応用例を知りたいというコメントがあったので説明します。
  • スライドの誤字を指摘してくれました。ありがとう。

のように、まさに「オンデマンド」での対応が可能となる。

なお、このような授業を展開している話を何人かの同僚教員にしたところ、学生が授業中に携帯電話やスマートフォンを弄ることの是非を問われたことがあるので、筆者の見解を述べておく。

確かに、授業中に携帯電話などを操作することを陽に認めると、(1) ツイートに夢中になるあまり教員の説明が聞こえなくなる、(2) 目的外の使用(ゲームなど)を推奨することになり兼ねない、などの弊害が生じる。(1) については、そうならないようノートを写す時間の合間などを利用するように指示すればよい。(2) については、完全に目が届く受講者数の授業ならばともかく、100名を超える規模の授業で、常時教室内を巡回してゲームをやっていないかをチェックすることは事実上不可能である。したがって、筆者は学生を信用することにし、学生達にもその旨を明言している。少なくとも、講義がつまらなくて居眠りされるよりは、自分のコメントを教員に拾ってもらおうと携帯電話を操作されるほうが健全である。現に、この取り組みを実践してからは、筆者の授業で居眠りをする学生数は格段に減少した。いわば、学生たちの好奇心に「火が付いた」と勝手に考えている。

3. Facebookを用いた研究室学生との情報交換

(省略)

4. おわりに:Digital Native世代の反応

現代の学生達は、物心付いたときから身近にPCや携帯電話が普通に存在した「Digital Native」世代である。(それに対して、高い年齢になってからPCや携帯電話を使うようになった年代を「Digital Immigrate (Immigrant)」世代と言う。)Digital Native 世代の彼らにとって、携帯電話やスマートフォンは、我々 Digital Immigrate 世代が思う以上に生活に密着している。いわば筆記具や電卓などと同じレベルの道具である。

授業中に携帯電話などを弄らせることへの是非はあると思うが、筆者はむしろ、このような便利な電子機器やそれを用いたサービスはどんどん積極的に利用させるのがよいと考えている。

ただし、Twitter などの新しいサービスを使う上で、正しいマナーやモラルを教えることも重要である。幸い、筆者が教えている授業科目には、人間のコミュニケーションを題材としたテーマも含まれるため,話題としての整合性はよく、受講している学生達からも概ね良好な反応が得られている。

何よりも重要な点は、このような新たな試みを採り入れることで、学生達の好奇心を引き出し(=彼らの好奇心に火を付け)、また授業への集中力を高めることに寄与する効果が実証できていると思われることである。居眠りや私語を行う学生が大幅に減少した事実がそれを裏付けている。今後も、便利な新しい道具やサービスを教育に採り入れる工夫を続けていきたいと考えている。

以下は、この発表に対する質問への私なりの答えです。予稿には載っていません。

Q.学生に Twitter の利用を強制しているのか?

A. いいえ。Twitter を使うかどうかは自由です。使いたくなければ使わなくて構いませんし、それによって不利益を被ることもありません。

Q. 何割くらいの学生が使っているのか?

A. 正確に数えたことはないのと、学年や授業によって若干異なりますが、アクティヴに発言する学生数は、履修者全体の1〜3割程度だと思います。

Q. それって少ないんじゃない?

A. いいえ、そうは思いません。Twitter での質問やコメントは、いわば挙手をして発言する行為の代替です。授業中に「質問ある人はいますか」と声を掛けて挙手をする学生は、1割未満どころか100人に対して2〜3名いれば良いほうですので、それと比較して、相当多くの学生達からの質問や意見を受け取ることができます。

Q. 発言主(誰がツイートしたのか)は特定しているのか?

A. いいえ、していません。中には実名あるいは実名に近いアカウント名で Twitter を利用しているユーザもいますので、特定しようと思えばできる場合もありますが、あまり特定する必要性を感じません。ただし、匿名ベースで質問などを紹介するため、「良い質問をしたから加点」するようなことはできません。

Q. 私用アカウントからはツイートしにくいのでは?

A. そうかもしれませんね。そういう理由からか、中には授業のために別アカウントを作っている学生もいるようです。そういう方法で良いのでは。

Q. 匿名で授業に関係のないツイートをされたら困るのでは?

A. 授業に関係のないツイート(たとえば「おなかが空きました」など)をされることは、ときどきありますが、気にしていません。もともと Twitter というメディアは、自分にとって必要のない情報が多数タイムライン上を流れるという文化ですので、無意味なツイートは無視するだけです。あまりにも多くの「無関係ツイート」が書き込まれると困るかもしれませんが、幸いそういう事態は起きたことがありませんし、万一起きた場合は見るのをやめればよいのです。

Q. ツイートに夢中になってしまう学生はいないか?

A. 1人で複数のツイートをする学生はいますが、あり得ないほどの数(たとえば1コマの授業で20回とか)のツイートをする学生は、これまでに1人もいなかったと思います。

Q. Twitter は全世界に公開されているから、関係ない人に見られたら困るのでは?

A. どうして困るのでしょう? 仮に授業の内容をすべてツイートされたとしても、知られて困るような授業はしていません。

Q. 教員もツイートするのですか?

A. 教員が自分の授業のハッシュタグを付けてツイートすることにはあまり意味がありません。上のような使い方をする限り(=全学生が Twitter を使っていない限り)、教員のツイートは全学生が見ることができませんので、そこで重要なアナウンスをしても一部の学生にしか届きません。したがって、ツイート内容によっては、Twitter を使っている学生と使っていない学生との間で不公平が生じる恐れもあります。学生のツイートに返信する場合は、全学生の前で口頭で説明しなければなりません。(読んでも読まなくてもいいようなツイートならば、教員のツイートもアリかも。)

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♪ OKAWA Shigeki

Professor, Scientist, Engineer, Amateur Pianist and Father of two sons. 大学教授、科学者、エンジニア、アマチュアピアニスト、二児の父。