古酒は恐ろしい

今でも、泡盛を飲むと思い出すことがあります。

数年前の、沖縄出張での話です。それは、私たちにとってたいへん重要な出張でした。

夜の宴席。油断しているとすぐに、空いたグラスに古酒(くーす)が注がれます。それが悔しいくらいに、うまい。

冷静さを保っているつもりでも、気がつけば相当に酔っ払っているようです。いくら「残りにくい」とは言え、私はほどほどでやめておいたのですが、中にはやめることができない人もいました。


翌朝。私たちのチームのリーダーA氏は、明らかに体調不良でした。早い話が二日酔いです。その後何軒ハシゴしたのかは知りませんが、他のメンバーに聞く限り相当飲んだようでした。レンタカーの運転も務まりません。

こんな状態で仕事になるのか……と思っていたら案の定、いや、想定を大幅に超えた事態が起きます。

会議室で資料の読み上げ説明を行なっていたA氏が、途中で突然、その役目を同席していたB氏に振り、A氏は部屋から出て行ってしまったのです。

すごく大事なプレゼンで、発表者が突然いなくなることを想像してみてください。もしくは、結婚披露宴で新郎が消えるようなものです。

振られたB氏は驚いたと思いますが、見ているこちらも驚きました。しかもB氏は、私たちのチームからお願いし「わざわざいっしょに来ていただいた」はずの方です(私の中ではA氏よりB氏の方が、年齢は下でも立場は目上)。あまりに唐突な展開に、私は血の気が引きました。

しかしB氏は、かなりの無茶振りであったにも関わらず、そして資料については初見の部分もあったにも関わらず(!)、なんら滞りなく資料を読み上げ、直接記載されていない行間の話も盛り込み、あたかも最初から自分の役目だったかのように物事を進めて行ったのでした。

それは、その資料に書かれていたこと、つまりその業界に関する豊富な経験と知見を有していること、さらには人前で慌てない「肝」がなせるわざです。

人としてのポテンシャルが高いっていうのは、こういうことを言うんだと、私はホレボレするような気持ちでその様子を眺めていました。

いや、感心している場合ではないのです。A氏はどこだ!

私はその建物のすべてのトイレをチェックしましたが、A氏は見当たりません。ロビーや空室の会議室、駐車場、建物周辺の遊歩道もチェックしましたが、いません。

B氏は無事に資料を読み上げ説明を終え、休憩時間になりました。関係者や参加者全員が、A氏が部屋には戻っていないことを認識しましたが、とにかく休憩時間なので、みんな、風が通り抜けるテラスへと歩き始めました。

テラス!

通路を曲がりテラスが見えた瞬間、大の字に横たわったA氏を見た私は、救急車を呼ぶ事態を覚悟しました。

Aさん!! Aさん!?

「ふぁーい」

二日酔いで職務を放り出し大の字で寝ることも、突然振られた仕事を完璧にこなすことも、ある意味どちらも「難易度が高い」と言えるかもしれません。さらにこのときに関して言えば、A氏とB氏は完璧なマッチングだったとも言えるでしょう。

知らんけどw


古酒は本当に恐ろしいと思いました。

まぁ今となっては笑い話ですから(当時はもちろん笑い話ではありませんでした)、またいつか、沖縄で古酒を注がれまくってみんなで酔っ払い、千鳥足で沖縄そば食べに行きたいものだと思ったりもします。

ただしそのときは、完全オフでよろしく。