NHKドキュメンタリー・ファミリーヒストリー 「オノ・ヨーコ&ショーン・レノン」
ヨーコさんの家族の歴史が丁寧に描かれていて、ヨーコさんのルーツをたどるドキュメンタリーをヨーコさんとショーンさんが見るという趣向の番組。ヨーコさんは最近も体調に関する報道があったが、元気そうだった。ただ、少し前まではライブで歌っていた記憶があるのだけど、もうあまりそういう活動はできなさそうだ。
ヨーコさんの作品がアートの世界でどのように評価されているのかはよく知らないのだが、番組中でも紹介されていた、ハシゴの上につるされた虫眼鏡で天井を見ると “Yes” と書かれているという作品などはとてもポジティブで強いメッセージを持っていると思う。ジョンレノンがヨーコさんと付き合い始めたきっかけとなったので有名だけど、この作品が見るものを全面的に肯定してくれる感覚は僕にはとてもよく分かるし、それにジョン・レノンが救われた気持ちになったのもほとんど自分のことのようによく分かる。それは、家に帰った時に、母親が無条件で子供を受け入れるのにも似て、様々な雑音を一気に消して直接的に見るものの心に響く。
ジョン・レノンと同じステージにあがっていた時代の奇声をあげるパフォーマンスはあまり評判はよくないけれど、ヨーコさんがやりたかったことはよく分かる。声を楽器として使い、そこに自分の内部の感情の動きを直接的に投入する。そこに形式やパターンからくるクッションは何もない。聴くものに対するサービスは何もない。聞く側のことなど考えずに自分だけを押し出してくる。しかも、ただ叫んでいるだけではなく、共感によって参加することを求めてきて、われわれを混乱に陥れるのだ。
だから、ヨーコさんが自分をさらせばさらすほど、初めて聴くものは辟易する。男性なら、よく知らない好みでもない女性からセックスを迫られているのと似た感情を抱くかもしれない。しかし、先日、Spotifyで『ジョンの魂(原題: “John Lennon/Plastic Ono Band”)』と同じアルバムジャケットの “Yoko Ono/Plastic Ono Band” を聴いたのだが、バックミュージシャンが 『ジョンの魂』と同じだということもあるのだろうけど、その迫力は本物だ。しかも古くない。形式に依存しないから古くなりようがないのだ。サポートしているのはビートルズに近いメンバーが主体でポップよりだが、本質的にポップミュージックの対局にいるから何度も聞き返すことはないと思う。だから、これは音楽ではないと言う人がいるかもしれない。むしろ西洋音楽の流儀を無視し破壊しにいっている。気持ちがいい音ではないけど、オノ・ヨーコの前にこんな音楽はなかったし、他に似た例も少ないけれど、パンク、ニューウェーブやアバンギャルド系の音楽の一部には確実に影響を残したのは間違いない。
最近になってアルバムが再発されたり、再評価のムードも高まっている気がする。その中でのこの番組であることに注目したい。この中でも紹介されていたが、おそらくジョンレノンのImagineの重要ないくつかのフレーズはヨーコさんのものだ(Imagineから始めるいくつかのフレーズは彼女のInstructionという作品に極めて似ている)。微笑みながらプレゼントしたの、という彼女はかわいらしい。ジョン・レノン自身、このことはインタビューで述べていて、共作にしなかった自分を馬鹿なマッチョ野郎だったとかなんとか言っていた。稀代のアーティスト、オノ・ヨーコは平等主義者、平和主義者でもある。Imagineの歌詞を読めば、それがオノ・ヨーコ的であることはすぐにわかる。どこの部分がジョンでどこがヨーコの手になるものかを詮索するのは意味がない。オノ・ヨーコ的なものは、同時にジョン・レノン的でもあるのだから。以前は、ジョン・レノンの側にいられたヨーコさんがうらやましかった。今は、むしろヨーコさんがそばにいたジョンがうらやましいような気がする。
