スマートグラス市場なんて元々無かったし、今も存在しない

2012年の4月にGoogleが唐突に発表したGoogle Glassは「エクスプローラプログラム」の元、1,500ドルでプロトタイプが希望者に販売された。その後、エクスプローラプログラムは2015年の1月に終了。現在はエクスプローラプログラムのフィードバックを元に、次機種の開発が進められているとされている。グーグルグラス以前にもヘッドマウント型のディスプレイは存在したが、カメラ、CPU、各種センサ、音声認識などをコンパクトにまとめることで、Google Glassは進化の過程を一気にジャンプして、これまでにあったAR、VRに加えて新たに「スマートグラス」というヘッドマウントディスプレイのカテゴリを生み出した。

グーグルはGlassを発表した時点では、誰のどんなユースケースに向けた製品であるのかを、あえて明確にはせずに利用者に委ねた。特定のユースケースを意識していないために、機能はてんこ盛りで価格も一般消費者向けには高価なものだった。しかし、メディアを含む多くの人は、これがグーグルの提案する未来と信じ、カメラによるプライバシー問題、デザイン、バッテリー持続時間など細かい点を酷評した。実際にはこうしたフィードバックこそ、グーグルが求めていたものであり、Glassをそのまま商品として成功させる予定など全く無かったと考えられる。

ところが、この騒ぎに間違って乗ってしまったのが日本の大手家電メーカー各社だ。当時「Next Big Thing」が見えずに迷走していた各社は、Google Glassが答えだと信じ、そのまま十分な市場調査もせずに、価格帯も機能もGoogle Glassを基準にスマートグラスの設計をしてしまった。結局彼らが周回遅れでそれぞれのスマートグラスをようやく市場に投入した頃には、旗を振って先頭を走っていたはずのグーグルはコースから姿を消し、どこに向かって走れば良いのかわからない状況になってしまった。

そもそも、これだけスマートフォンが普及している時代に、新たにスマートなデバイスをメガネに装着する必要があるユースケースと市場は存在したのか。ポケットにあるスマホに手を伸ばすこともできない環境でありながら、何らかの方法でスマートグラスの操作はできる。スマホよりも非力なCPUと解像度の低い画面から得られる情報で十分で、かつ限られたバッテリー持続時間で用が足りるような用途。全く無いとは言わないが、かなり限定されたユースケースだ。20年以上前から頻繁に例に出されるのが、ボーイング社のエンジニアが電話帳サイズの図面資料を作業中に閲覧するとか、倉庫作業員が両手で荷物を運びながらアイテムリストを確認するなどのケース。どちらも、極めてニッチな業務用途であり、汎用のデバイスでカバーする必要性は低い。

グーグルに続けと、自社スマートグラスを作ってしまった日本の家電メーカーは、止むを得ずグループ内でこうしたユースケースをでっちあげているのが現状ではないだろうか。VR、ARが市場を確立し、技術革新が進む中で、既存のスマートグラスが生き残る道はあるだろうか。

全視界を覆って仮想現実空間を体験するVRを小さなスクリーンのスマートグラスで実現するのは難しく、可能性としてはAR寄りにピボットするしかないが、現実空間に情報をオーバレイするにはビューアングルの狭さがネックとなる。逆にARがスマートグラスの機能を一部に飲み込むのは容易に想像できる。あとは価格差だけだが、ARグラスはデベロッパー版ですでに一部のスマートグラスの価格を下回っている。(Microsoft HoloLens はデベロッパー版が3,000ドル。Meta2は949ドル。)

グーグルが生み出した虚像のカテゴリ、「スマートグラス」はフェイドアウトしていく運命にある。

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