ハードウエアプロジェクトでのクラウドファンディングにおける国際出荷について

Goro Kosaka
8 min readApr 29, 2016

クラウドファンディングのキャンペーン中はとにかく沢山の人に支援してもらいたいので、対象国の設定をつい「全世界」にしてしまいがちだが、いざ出荷の段階になるといろいろと面倒なことがあるので注意が必要だ。

(*本内容は米国カリフォルニア州のスタートアップ Vufine が2016年に Kickstarter のフルフィルメントを行った経験に基づいて記述されています。)

規格

電子機器については各国ごとに様々な規格があり、この規格を通して認証を取得することが必要になるケースが多い。「多い」というのは国や規格の種類によって、輸出が制限されるのか、販売が制限されるのか、利用が制限されるのかなどそれぞれ異なるからだ。規格といっても、製品のカテゴリや使用する技術によって、電磁波についての規格、バッテリについての規格、使用する塗料や原材料についての安全規格など様々なので、試験と申請、認証の取得については専門の機関や業者を利用することになる。対象国が増えればそれだけ費用もかさむので、クラウドファンディングだけでなく、その先の国際戦略も念頭に入れて、どの国で販売したいのか、そのためのコストをいくらかけられるのかを検討し予算に組み込んでおく必要がある。

発送、送料

キックスターターでは、対象地域別の送料を設定することが可能だが、多くのプロジェクトでは「自国、海外」の2種類程度にしか分けていない。しかし実際には同じ物を送っても、対象国、発送方法によって2倍〜10倍以上も送料がバラつくので注意が必要だ。「どんぶり勘定で総額送料で赤字にならなければいいや」という前提で設定すると、本来最も安いはずの国内サポーターが割りを食う羽目になる。

米国から発送の場合、最も安いのは郵便局(USPS)の郵便小包(First Class Mail)だが、これにはトラッキングがつかない。出荷後の「届いた、届かない、まだか」のお問い合わせに対応するためには、トラッキング番号は必須なので、Priority Mailなどを使用する。しかし、アメリカを出た後は基本的に相手国の郵便システムを使用するので、相手国によってトラッキングの信頼性や、そもそもものが到着するかどうか大きくばらつく。ユーザによっては、「頼むから我国の郵便システムで送らないでほしい」と指定してくる場合もあるくらいだ。

送料に余裕があれば、FedExやUPSなどが安心だが、小さなパッケージでも50ドル以上かかる覚悟が必要だ。件数が多い国については、まとめて発送してその国の倉庫配送サービス業者を利用するのも一つの手だ。この方法を使用すると後で述べる関税について、個別のユーザの負担を吸収することができる。

配送業者や対象国によって受取人の電話番号が必要になるケースもあるので、事前に注意が必要だ。Vufineのキックスターターでは、サポーターの多かった日本は日本郵政のゆうパックを利用したが、個別の電話番号、住所の日本語表記など条件が厳しく、サポーターに何度も発送先情報の更新をお願いし手数をかけてしまった。

不着、交換

いくら慎重に出荷しても、荷物の紛失や到着時の破損、故障などは避けられない。この場合、状況を確認して再発送する事になるが、海外のユーザーの場合もともと高い送料がこちらの負担で二重になるのでできるだけ最小限に抑えたい。また、不具合品の交換の場合は送り返してもらうための送料も計算に入れなければならない。輸出入などの経験のない海外の個人ユーザーに国際出荷をお願いするのも大きな手間をかけることになるし、国際着払いができない国での対応も用意する必要がある。場合によっては破棄してもらった方が低コストになるケースも出てくる。

相手国での紛失についても、どこまで保証するのかはShipping Policyを明確にしておいたほうが良い。治安の悪い国や、もともと配送インフラが整っていない国で、相手に確実に届けることを保証するのは難しい。集合住宅内でポストから盗まれた、隣人が勝手に受け取ったなどのケースまで個別に対応できないからだ。

税関、関税

個人宛の輸入品への課税については、国によってそれぞれのルールがあり、同じ国に同じものを送っても、毎回同じ課税が行われるわけではないので予測が難しい。また、クラウドファンディングのリワードについての課税方法についてはどの国でもまだ歴史が少ないために、対応が確立していないのが現状だ。

本来なら、ユーザが支払ったのは「プロジェクトへのサポート」であり、受け取っている製品は「サポートしてくれた人へのリワード」であるので、単純な製品購入とは異なる。他のキャンペーンを行った会社に聞いてみても、インボイスに記載する価格を

「リワードなので、ギフトと明記してコマーシャルバリューはゼロとして発送した」

「アーリーバード、スーパーアーリーバードなど価格が異なるので最も低い価格に統一した」

など様々で、それに対する各国の税関の対応もバラバラだ。インボイスに記載された商品価格そのままで課税される時もあれば、税関がネットで製品名を検索し、価格が妥当であるかを調べて追徴されるケースもある。Vufineも日本の税関から、「Webで調べたら199ドルになっていますが、99ドルでの申告の根拠を示してください」と言われ、キックスターター開始当時のアーリーバード価格設定が99ドルであったことが報道されたメディア記事などを送って確認してもらった経緯があった。ちなみに日本の場合は、価格が16,666円(前々週レートの平均で換算)を超えると課税される。

クラウドファンディングの場合、ユーザによっては希望金額を超える額をプレッジしてくれる場合もあるので、沢山支援してくれたサポーターが結果的に不要な税金を支払わないで済むような仕組みを確立する必要がある。

その他の選択肢

一件ずつユーザ宛に国際発送する代わりに、その国のユーザ分をまとめて現地の代理店や配送会社の倉庫に送り、配送会社に国内配送を委託する方法もある。このようにすることで、国際発送は国ごとに一件にまとまるので、税関の対応によるばらつきや、高い国際送料を件数分しはらう必要がなくなり、数がまとまった国や地域は現地の配送業者をたてると色々スムーズに進めることができる。

また、アマゾンの配送サービスを使用しているクラウドファンディングプロジェクトも多い。アマゾンでは、必ずしもアマゾンで販売しなくても、フィーを支払ってアマゾンの倉庫と配送を使用できるサービスを提供している。クラウドファンディング後も不特定多数の国を対象に少数の出荷が続く場合は都合が良い。

送付先がePacket対象国に含まれていれば、Eコマース用に用意されたePacketを利用してさらに安価で発送することも可能だ。中国からePacketで発送が一番安いらしい。

実際に少人数キチキチ予算で回しているスタートアップにとって、出荷配送の手間の負担は大きい。これを見込んでクラウドファンディングに特化された配送代行業者からの売り込みも多い。まとまった数をあらかじめ代行業者の倉庫に発送しておき、後はオンラインでアップロードした配送先リストに対して、「これとこれを、このキャリアでいつ配送」とスケジュールを指示するだけで、ピッキング、シッピングから受取人への通知、不具合品の受け取りなど全て代行してくれるサービスだ。

まとめ

クラウドファンディングでプロジェクトをサポートしてくれた世界中のバッカーに、出来上がった製品をお届けするのはプロジェクトのハイライトでもあり、なんとかいち早くお届けしたいと焦ってしまうが、出荷、配送については事前に十分な準備が必要だ。そして、いくら周到に準備しても、配送トラブルは避けられないので、しっかりとサポートできる体制も用意しておく必要がある。多くの場合、出荷についての問い合わせが、最初のカスタマーサポートとなり、ユーザとの接点になるので慎重にかつ丁寧に対応したい。

キャンペーンを始める時点で、対象国、送料、シッピングポリシー、返品、交換の方法などについてよく検討しておくことをお勧めする。

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Goro Kosaka

下山家(げざんか)趣味、特技:山を駆け下りること and I mean it.