懲りずに着物でUSA (後編)
2015 Summer (後編: オーランド編)
デンバーからオーランドへの移動
着るものに多少迷いました。目的地であるオーランドは猛暑で30度以上ある一方で、飛行機の中は極寒が予想されるためです。結果的には、防寒を重視して行きの飛行機とオーランドでずっと着ていた紬をまた着て行くことにしました。
荷物チェックイン
僕の風呂敷包みを見ると、係員の方がまたもや「ビニール袋で包むか?」と訊いてきました。「どっちでもいい。中身は防水されていて…」と答えかけると、
「包んだほうがいいだろう」
とビニール袋に包んでくれました。過去、デルタでは一切なかったサービスなんですが、ユナイテッド的にはこれが一般的なんですかね。見た目はちょっとおもしろくなくなるけど、なんだかんだ言ってありがたいです。
ちなみに「そもそも荷物をチェックインする必要があるのか?このサイズなら機内に持ち込めば良いのでは?」というご指摘をよくいただきますが、
・ターンテーブルに風呂敷が載って回っている様子が楽しい
・縫い針など、微妙に持ち込めない品が入っている
のでチェックインしております。
飛行機(デンバー→オーランド)
思ったとおり寒かったので、服装選びは正解でした。
オーランド空港到着
到着したのは17時頃でしたが、空港内の時点で暑い!めちゃくちゃ暑い……!フロリダはやはり暑かったです。単衣の紬で屋外活動は不可能です。命にかかわります。そんな中、ずいぶん待たされて、やっと僕の荷物が出てきました。特に不便はありませんでした。
実は、他の空港では写真を撮るときだけ風呂敷を背負って、それ以外のときは荷物カートに載せて軟弱な感じで運んでいるのですが、オーランド空港には無料の荷物カートが無く、カートを使うのに$5払う必要があったので、風呂敷は手で運びました。
オーランド→ホテル
オーランド空港ではLyftやUber等のカーシェアリングサービスによる乗り入れが規制されており、LyftやUberが呼べなかったので、Mearsという会社が運営する乗り合いバスでホテルまで移動しました。外で10分ぐらい待ったので、ちょっと暑かったですが、15分くらいでホテルに連れていってくれました。$18でした。ホテルで運転手さんが風呂敷をおろしてくれたので、$1チップを渡しました。
ところで米国でチップを渡すときに、いちいち財布を懐から出していると面倒なので、私は両替の時のもらう封筒を半分に切って底を浅くした上で、1ドル札を10枚くらい突っ込んで、その封筒を袂に入れ、袂に手を突っ込んでドル札を取り出せるようにしています(トップの写真左下にちょっと写り込んでる)。こうするとリアル袖の下気分が味わえますよ。
買い物
ホテルに到着した翌日の午前中、一人だけの自由時間が少しだけありました。屋外活動は麻長襦袢+麻縮みという、和装最強涼感装備(浴衣除く)にハンチングを合わせて臨みました。トロリーバスでアウトレットに行ったり、インターナショナル通りをふらふらショッピングしたり、タコベルに飯食いに行ったりしました。
日射がとにかく強く、油断すると死にそうでしたが、お店の中は涼しいので、助かりました。
正直、特におもしろいことは無かったです。どうも警備員の方(セグウェイに乗って巡回している!)にじろじろ見られていた気がするんですが、単に気のせいかもしれません。
その他、バスの中で、日本人の新婚旅行の方と一緒になって、トロピカル気分を味わたいだろうに、なんか申し訳ない気分になりました。
麻縮みを浴衣風に着ることも考えたのですが、そうすると長着を洗わないといけなくなることと、なんとなく裸足だと外国人にバスローブみたいに見られないかが不安で、結局浴衣風の着方は一度もしませんでした。
買い物に出発するときには、デンバーのGopherConでもらったバンダナを風呂敷バッグ風に結んで、中に畳んだ大風呂敷や、カメラ等の小物を入れて持ち歩きました。帰りは水を1ガロン買ったり、マインクラフト人形を無駄に5体買ったりして荷物が増えたので、大風呂敷を広げて、一切合切包んで持って帰ってきました。風呂敷はとにかく、かさばらず持ち歩けるのがいいですね。
ホテルとWPC15会場の間の移動
マイクロソフトのパートナーの祭典WPC15は、15000人以上が参加する壮大なイベントで、オレンジカウンティ・コンベンションセンターにメイン会場があり、その隣のハイアットリージェンシーオーランドでもセッションがありました。私が泊まったヒルトンオーランドとそれらの会場は、長い長い渡り廊下でつながっており、渡り廊下を渡っている間だけ暑いのを我慢すれば、あとは空調が効いていたので、総じて快適でした。
余談ですが、某米国人のファウンダーの方と一緒に歩いていたのですが、彼はだいぶヘトヘトで、「こんなに歩かせるのおかしいだろうよ……」みたいに愚痴っていました。そんなに歩いてないよなーと思ったんですが、よく考えると米国は車通勤なんですね。渋谷駅徒歩10分の当社に通う私に死角はなかった。そんな風に、色々なところで各国の文化の違いが見え隠れして、興味深かったです。
現地では、一つ紋の羽織姿に、普段めったに履かない白足袋を基本にしつつ、会場を出てカニを食いに行ったりする際には、動きやすいように絣の長着着流しで出かけたりしました。
羽織姿にした時に、雪駄もホースヘア調のものに履き替えようかと思ってわざわざ持ってきたのですが、結局なんかしっくり来ずにやめてしまいました。持っていく必要無かった。
人々の反応
WPC15は、約一週間に渡り、世界中から15000名以上の参加者が集まる超・大規模なマイクロソフトの祭典です。日本からも409名もの参加者が居たため、世界各国の参加者および日本からの参加者と交流する機会がありました。お祭り気分の中、会場でも様々な言語が飛び交い、とにかく楽しかったです。
基調講演も、新しいマイクロソフトの迫力を感じさせる見事なものでした。Holo Lensヤバい。マジヤバい。
基本的に朝から午後までセッション(セミナー形式の講習会)に出て、空き時間があれば会場のブースを周ったりして、夜はパーティーでネットワーキング、という毎日でした。
当社からは、私含め3名が参加することになっており、せっかくなら、ということで他の2名も着物を持ってきて、現地で折々に着るようにしました。
日本の方は、普通に「かっこいいですね!」とか「なぜ着物なんだ!おい!」とか突っ込んでくれるのですが、外国の方は、やはり初対面ではあまり弄ってくれません。しかし、何度か隣の席になったりしていると次第に打ち解けてきて「お前はいつもその姿なのか」「それは日本では普通なのか」「ずっとフリップフロップ(ビーチサンダルのこと)で疲れないのか」などの会話が生まれました。
一方、オーランド特有なのかよくわからないのですが、会場で給仕している人や、警備をしている人が、とにかくフレンドリーに話しかけてきて、 “Awesome outfit!” と二言目には褒めてくれたので、とてもいい気分で過ごせました。どういうわけか、オーランドでは女性の方が声をかけてくれることが多かった気がします。
そして武闘家扱い
待ち合わせで地図を確認していると、警備員の女性が、
“Is that Chinese or Japanese?”
と声をかけてくれたので、ジャパニーズだよ、先が割れた靴下とサンダルを履いてたら大抵ジャパニーズだよ、と足を見せながら教えたのですが、その話の流れとは関係なく、
“I love Bruce Lee films!”
とブルース・リー愛を語り始める事案がありました。ブルース・リーかっこいいよね!と適当に同調してしまいました。
事件発生
3日目かの夜に、僕の泊まっている部屋で水のトラブルがありました。壁際のあたりから、部屋のカーペットがぐじゅぐじゅに濡れている箇所がどんどん広がっていく、という最悪な事態でした。
昼間から、ちょっとカーペットが濡れているなーとは気づいていたのですが、時差ボケで深夜2:30時頃に一旦目覚めて、悪化していることに気づきました。
このままぐじゅぐじゅが広がると最悪だ、と思い、フロントに連絡すると、ほどなくしてマリオブラザーズみたいな二人組のツナギの配管工がやってきて、状況を一瞥して1分ぐらいで「今からこのクローゼットの奥の壁をブチ抜く必要がある」と結論し、フロントに電話して
“We have to move this guest”
と、僕の部屋の移動を決定しました。その方達も夜中に呼び出されて大変にもかかわらず、荷物カートを持ってきてくれたり、荷物運びを手伝ったりしてくれました。朝ごはんチケットをもらえるように手配するよ(→WPC15で用意されているので、お断りした)とか、新しい部屋は景色がいいよ、とかいろいろ気を遣ってくれました。
夜中なので焦りましたが、大型風呂敷のおかげで、とりあえず荷物を全部包んでしまうのは簡単にできました。風呂場にあった濡れている物などを一旦包むのには、ダイソーで買った90cm角のビニール風呂敷(5枚入っている)が大活躍しました。ともかく15分ぐらいで部屋を完全移動することができました。
もう一つ良かったのが、部屋着・寝間着として甚平を持ってきていたことです。荷造りする際に、「どうせホテルで一人だし……」と部屋では裸族として過ごすことも検討していたのですが、もし裸族だったらいろいろ難易度が上がっていたところでした(多分マリオブラザーズを呼ぶところまで至らなかった)。
帰路
WPC15の終盤にはディズニーワールドの施設を貸しきった壮大なパーティーなどもあり、ぜひ参加したかった、ぜひ参加したかった、ぜひ参加したかったのですが、もともと予定があったため、WPCフィナーレを待たずに、私だけ少し早めに帰国しました。
ホテルから空港へはUberやLyftが使えるので(逆はダメ)、たまにはUberも使ってみるかと思いUberで空港まで行きました。すると料金は$16ぐらいで、行きに利用した、あちこちのホテルに寄っていく乗合バスより安い……賛否両論、お騒がせ者のUberですが、いろいろ考えさせられるものがありました。
東京がとにかく暑いと聞いており、成田から家までも、重い風呂敷を背負っての乗り換えなどがあるので、成田から家までを涼しくすることを第一に考えて、帰りの飛行機は行きに着た紬ではなく、麻縮み+脚絆で臨みました。なぜか帰りの飛行機はあまり寒く無く、結果的に紬より良かったと思います。
帰りの飛行機では、成田経由のタイ出張のアメリカ人の方と隣席になり、その方とずっと飲み会をしていました。その方はアジア出張は初めてで、「この飛行機はヨーロッパ経由で飛ぶのか?太平洋経由で飛ぶのか?外の太陽はいつ沈むのか?」という調子でした。私もヨーロッパ方面にはほとんど行ったことが無いので、多分同じような感じなんだろうなあ、と思いながらアジア方面のことをお話しました。世界は広い。
そんな彼でも、僕の着ている服の名前が “kimono” であることは知っており、日本文化も意外と知られているものなのだなと思いました。
彼のペースで飲んでいたら僕もだいぶ酔っ払ってしまい、僕が持っている帰国子女特有のアイデンティティコンプレックスや、なぜ毎日着物を着ているのか、なぜ頑なに米国に着物で行くのか、についてもつい吐露してしまいました(要するに不完全なアメリカ人でいるのが辛いのでアメリカでは日本人でいたい、という話)。
すると、
「気にするな!俺は英語しか話せないし!お前の英語はとても上手だし、それにくわえて日本語が話せるなんてすごいよ!」
と徹底的に励まされました。アメリカ人は本当に前向きで人を励ますのが上手ですよね。もともと元気ですが、よりいっそう元気になりました。
飛行機を降りると、湿気が一気に襲いかかってきました。東京は、オーランドよりもずっと暑いです。東京で夏に着物が着られていれば、多分どこに行っても着物着られると思う!
なお、帰路は風呂敷はビニール袋に包まれず、ワシントン経由で無事に成田まで届きました。成田の荷物受け取りでSIMを入れ替えたりして愚図愚図していたら「オグラさま〜」とわざわざ持ち主を探しに来てくれるサービスの良さ。これぞ日本だなと思いました。
余談
WPC15でMicrosoft Bandを頂戴したので、帰りは右手にMicrosoft Band、左手にApple Watchで過ごしました。Microsoft Band、いいです!日本でも早く発売されないかな。
総括
・夏でも着物で海外出張は可能!
・麻襦袢は最悪一枚で十分。
・100%着物が心配なら非常用に甚平を持っていくといい。
・アメリカの人は総じて明るい。見習いたい。
・東京の夏はヤバい。