避けて通ってきた暗号通貨マイニングを体験してみた(着物で)

Kazuhiro Ogura
16 min readAug 31, 2017

夏休みの思い出づくりに暗号通貨マイニングをしてみたので、そのレポートをしてみます。

きっかけ

夏休みを10日取ったら、最後の3日ぐらいやることが無くなったので、何か普段絶対やらないことをやってみようと思い立った。

そうだ、アレやってみよう、マイニング。ブロックチェーンヤバイヤバイ言われ続けてはや数年。正直自分には何がヤバイのかよくわからない。デセントライズされたトランザクションログ、とか言われても、おっちゃんにはどうしても「Winny掲示板みたいなもんでしょ」ぐらいの認識しか沸かないのである。

しかしそう言っている間にも業界は盛り上がりを見せ、自分も俺にはカンケーナイネと言い続けている一方で、なんかブロックチェーンって言ってないIT経営者はかっこ悪いかも的な妙なコンプレックスも生まれてしまって、機会があれば何が起こっているのか肌感覚を得たいなあとは思っていたのである。

夏休みの暇な時間に考えてみた。Bitcoinは貨幣なのか。そもそも貨幣とは何なのか。不換紙幣になった時点で、それは本質的には何の価値もない紙切れだが、それをみんなが使えると信じているから価値がある。Bitcoinは所詮ただの情報じゃん、と思っていたが、それを言ったら貨幣も金やプラチナとは本質的に異なる、ただの紙切れなのだ。

そこまで考えると、Bitcoinもたいがい胡散臭いが、日本銀行券もおなじぐらい胡散臭いということに気づいた。では、円とBitcoinの本質的な違いは、中央銀行の存在なのか……?いや、そんな空論を転がしていてもちっとも理解が進まない。よしやってみよう。そんな感じだった。

何を掘るか考える

Bitcoinの採掘力のほとんどは大規模事業者が握ってしまっているため、汎用のCPUやGPUではなく、ASIC(専用回路)を実装した専用ハードウェア使ったマイニングが主流になっている。素人がマイニングする場合、CPUやGPUでもそれなりの採掘可能なEthereumなどの違う通貨をマイニングするのが一般的、というところまではなんとなく理解していた。

しかし調べてみると、思った以上に沢山通貨がある。

https://www.cryptocompare.com/coins/#/usd

上記のURLを見ると、USDに対して取引された実績のある暗号通貨がズラッと並んでいる。Bitcoinだけじゃないんだ。 通貨名と、大文字3–4文字の通貨コードがあるのが通例らしい。BitcoinならBTC。EthereumならETH、など。

調べていくと、まだ出現してから1年も経っていないような通貨もたくさんあって、思った以上にちゃんと取引されている。めっちゃボラリティが高く、この自由研究の最中にも、数時間で対USDで二倍になった通貨もあった。博打じゃん!

いや、これならワンチャンあるかも……!

方向性としては、BitcoinのようにASIC(専用回路)ハードウェアでマイニングできちゃうのはどうも面白くないとされているようで、採掘の計算にRAMを沢山使うようにして、簡単にマイニングできないようにする、というのがトレンドらしい。

詳しく調べても理解してもいないが、Algorithmの項にSHA256とあるのは、SHA256を計算することでマイニングする通貨で、SHA256計算に特化したASICなら、安価なハードと電力でCPUやGPUよりもじゃんじゃん計算できる、ということだと理解した。SHA256ならFPGAとかでもできちゃいそうだもんな。そういう通貨は、資本力でチートされちゃって分散が進まない、ということなのだろうか。

いずれにしてもEthereumなどは、今は4GB以上を搭載したGPUじゃないとマイニングできないらしく、PCでマイニングする人たちの間で人気らしい。

……とはいえ、Ethereumを採掘するのはなんか普通すぎて面白くない。

たくさんある通貨の中で僕がなんとなく気になったのが、MoneroとZcash。両方とも、匿名で決済できるということが大きなウリになっている通貨だ。匿名で決済できたらなんでもし放題じゃん。絶対需要あるって。キミにきめた!

まずMonero (XMR)。日本語読みするとマネロ。

マネーロンダリングの略語じゃん!

しかも匿名で決済できるって……もうネタとしてはこれしかない!

……と思ったのだが、調べてみると、Moneroはどうも儲からなそうな感じ。一方Zcash (ZEC) はひょっとすれば儲かりそうな気配がした(後述)。そしてそういえば最近登録したkeybase.ioのプロフィールにも、Bitcoinと並んでデフォルトでフィールドがあった。知名度もそれなりにあるのかもしれない。よしこれにしよう。キミにきめた!(二回目)

儲かりそうかどうかはどうやってわかるのか

どの通貨とどのGPUの組み合わせがどのくらい儲かるのかを計算する「profitability calculator」というサービスがネット上にたくさんあって、形はいろいろ違うのだが、たとえば「ZEC profitability mining」とかで検索するとそういうサイトがたくさん出てくる。そこにはたいてい計算力と電力と、コストを入れる欄があって、入れると月間いくら儲かるのか試算が出てくる。

「計算力」をどうやって求めるかが難しいのだが、これは暗号通貨名と適当にAmazonで売っているビデオカードの名前、たとえば「ZEC GTX960」とかで入れると、いろんな人が計算力について議論しているスレッドがひっかかるので、そういうところからデータを拝借するのだ。

結果、Ethereumが一番儲かりそう。でも、MoneroとZcashで比べるとZcashの方が儲かりそう。

ビデオカードを手に入れる

GPUでマイニングするんでしょ?おじさん知ってるよ?買えばいいんでしょ?しかし、そう簡単ではなかった。

まず、NvidiaよりもAMDが強い世界。自分はGPUとまったく関係ない世界に生きているのだが、なんとなくGPUの世界ではNvidiaが高性能で、AMDが二番手なのかなみたいなイメージだった。しかし、どうもマイニングの世界では求められる計算力が異なるようで、AMDが最強らしい。特に、Radeon RX470/480あたりが安価にもかかわらず性能が高い、とされているようだ。

よし!じゃあRX470を手にいれよう……!でも、どこにも売ってないのだ。売っていてもプレミア価格がついていて法外な値段で売られている。高性能なビデオカードが売っていないのだ。

それならNvidiaを買うか!ということで、とりあえず自宅のロープロファイルデスクトップに装着できるGTX1050と、ミニタワーに装着できそうなGTX1070を搭載したカードを発注した。それぞれ1.5万円と4.5万円。4G/8Gだ。こちらはまだ普通にお店に在庫があるが、それでもドスパラなどでは「お一人様2枚まで」と購入制限がついていたりする。

【金曜日】5年前のビデオカードでどのぐらい戦えるか試してみる

注文したビデオカードが到着するのは土曜日と日曜日。金曜日中に、僕の自宅マシンに刺さっている5年前のビデオカードでどのぐらい戦えるのかを試してみることにした。

GeForce GTX650。結果は……20 Sol/sぐらい。

皮算用してみると……全然儲からないじゃん!(電力と電気代は適当)

動かせば動かすだけ赤字だよ……とりあえずビデオカード到着を待つ間に、マイニングを取り巻く周辺環境について調べてみることにした。これが結構面白かったので詳しめに解説してみる。

ツルハシを売る人たち(GPUメーカー)

「ゴールドラッシュのときに一番儲かったのは金を掘ってた人じゃなくてツルハシを売ってた人」とはよく言われる言葉だ。ここでのツルハシは、GPUに例えられるだろう。AMDのビデオカードはどこでも売り切れで、AMDはなんとマイニング専用のビデオカードまで発売して、それもすぐに売り切れたらしい。

品薄すぎて「ツルハシを買い占めて高値でさばく人たち」もいる。 まさにゴールドラッシュだ。

無料で高性能ツルハシを配り、プロフィットシェアでアガりを得る人たち(マイニングソフトウェアの開発者)

マイニングをするときには、PC上で専用のソフトウェアを稼働させるのだが、このソフトウェアの性能が良ければ良いだけ、マイニング性能は向上する。

ではこのソフトウェアは一体どういうモチベーションで作られているのか。もちろんOSSの世界と同じ「必要と名誉」で開発されているものもあるのだが、ソフトウェアの中に、GPUの性能の0.5%なり2%なりが開発者のためにマイニングするために使われる機能が組み込まれているケースが多い。

採掘したパワーは後述するマイニングプールにソフトウェア開発者名義で提供され、それは最終的には暗号通貨として、開発者に直接に経済的な利得をもたらすのだ。マイニングソフトウェアの開発者は、マイニング性能を高めて使ってくれる人が競合ソフトウェアよりも増えれば、単純に儲かるので、がんばって良いソフトウェアを書く。

この理由で、高性能なマイニングソフトウェアはオープンソースではなく、ソースコード非公開である。

マルウェアに組み込まれて配布されてしまうこともあるらしく、そのためGoogle DriveやWindowsにはマルウェア認定されてダウンロード/実行できないこともザラであるし、ソースコードも非公開なので、実際中身も確認できない。アングラ感満載である。

一方OSSでも「バイナリ配布しているものには作者に寄付する定義が埋め込まれています。もし嫌だったら自分でdefineしてコンパイルしてね」というパターンもあった。

ソフトウェアを開発してくれたわけだから、個人的には0.5%~2%喜んで寄付したいと思うが、投げ銭がこんなに簡単にできるのは暗号通貨ならではだなあと思った。

鉱夫組合を仕切る元締め(マイニングプール)

暗号通貨を一人でマイニングするのは根気のいる作業で、運にも左右されてしまう。自宅のPCを使ってマイニングするような小規模採掘者は、数ヶ月に一個コインを掘り当てるかどうか、という頻度でしか採掘できない。大規模に採掘すればするほど、運の要素は小さくなっていく。

この性質を利用したサービスが「マイニングプール」。小規模な鉱夫達を1000人集めてみんなで鉱山を掘るよ、誰がどこを掘るかは親方が指示して効率的に仕切るよ、そんで誰かがダイヤモンドを掘り当てたら、1000人に平等に分配する……ただし元締めが1%もらうよ、というモデルである。実際には、1000人の鉱夫には、力の強いもの、弱いもの、昼夜働き続けているもの、昼間4時間しか働かないもの、など様々なので、提供した採掘力に応じて、公平に成果が分配される。つまり、強力なマイニング装置を沢山稼働している人にはたくさん、非力なマイニング装置をちょっとしか動かしていない人にはちょっと、というように、採掘力に応じて分配されるのだ。

分配ももちろん、暗号通貨の仕組みを使って行う。1発見したら0.001ずつ支払い、というように。ここも新鮮だった。

やり取りはほとんど匿名で行われる。PC上のソフトウェアで、マイニングプールのサーバーのアドレスと、暗号通貨の自分の口座のIDを指定して動かすだけで、自動的に稼ぎが振り込まれてくる仕組みだ。

しかしながら、マイニングプールには、1%と約束していながらこっそり1.2%盗ったりするような、アガりを掠め取る悪い親方もいるようで、フォーラムやポータルではそういった情報がやり取りされている。「こんなに少ないはずがない……!親方は俺たちのアガリを絶対に掠め取ってやがる!」本当なのか、思い込みなのかはわからない。ゴールドラッシュっぽい殺伐とした感じがなんともいえず、良い。

ツルハシ込みで鉱夫を派遣する派遣会社(クラウドマイニング)

クラウドの波はマイニング界にも押し寄せていた。自分でハードウェアを用意しなくても、月額いくらで、採掘力を売るよ、というサービスである。買った採掘力は、通常上記のマイニングプールに振り分けるように設定する。電気代や場所、熱で悩む必要も無く、クラウドの向こう側の、おそらく電気代の安い地域で動いているマイニングリグが自分の代わりにマイニングしてくれるのである。金さえ払えば。

いっぽう、リスクとしては採掘力を提供したよ!と報告するだけで実際には提供しない詐欺も横行しているらしい。

クラウドビジネスに関わっている手前、試してみようかなとも思ったが、最低契約期間が長いものが多く、ちょっとどうなるかわからなかったのでやめておいた。ちなみにAWSのGPUインスタンスであるg2インスタンスとかでマイニングをするのは、ちょっと計算してみた感じではまったく経済合理性が無い。あれはレンダリングとかの結果が見えているものに使うものなんだと思う。

ゴールドラッシュではたとえられない新しいサービス(nicehash)

nicehashは、ゴールドラッシュのたとえでは説明できない面白いサービス。採掘力を売買するためのサイトで、かなり自由度が高い。採掘力を売る側の立場だと、その時点で最も利益の上がる鉱山(通貨)で勝手に掘ってくれて、アガりをBitcoinで払ってくれる。買う側の立場では、任意のアルゴリズムの採掘力を買うことができる。一種のクラウドマイニングサービスだといえると思う。

一番利益率の高い通貨で買ってくれるんだったら、それが一番いいじゃん、と思うかもしれないが、親方が取るパーセンテージはマイニングプールよりも高い。掘る通貨があらかじめ決まっているなら、nicehashで掘るメリットは無いということだ。

フォーラムを見ていると、nicehashで買った採掘力をマイニングプールに向ける設定をしている人もいて興味深かった。

両替屋さん

ネット上には暗号通貨から暗号通貨への両替を行うサービスも複数存在している。リアルの両替屋さんと同じく、手数料商売だ。手続きは、送金元IDと送金先ID、それに数量を指定するだけの簡単インターフェイスだ。前々から、暗号通貨を稼いでも、円に変えたらそこで税金発生じゃん、と思っていたのだが、これで安定性高い暗号通貨(そんなのがあれば)に変えればいいのかもしれない。

【土曜日】GTX1050が届く

GTX1050が届いたので、早速デスクトップに装着してみて採掘をはじめた。数字は………130Sol/s!速い!5年前のビデオカードの6倍ぐらい。

皮算用では、黒字転換する気配!(電力と電気代は適当、後で調べたらたぶんもう少し高い)

https://www.cryptocompare.com/mining/calculator/zec?HashingPower=130&HashingUnit=H%2Fs&PowerConsumption=120&CostPerkWh=0.15

【日曜日】GTX1070が届く

GTX1070が届いたので、別のデスクトップに装着して採掘をはじめた。数字は、単体で410Sol/sぐらい。

値段三倍、性能も三倍である。両方合わせると、540Sol/sぐらい。

https://www.cryptocompare.com/mining/calculator/zec?HashingPower=540&HashingUnit=H%2Fs&PowerConsumption=500&CostPerkWh=0.15

(電力と電気代は適当、後で調べたらたぶんもう少し高い)

儲かるのか

皮算用ベースでは、初期費用投資が60000円ぐらい。売上見込が月85 USDぐらい。電気代が月54 USDぐらい。

感覚としては、GTX1050と1070は1年後でも半額くらいでは売れそうな気がするので、償却期間3年ぐらいで考えると、プラマイゼロぐらいにはなっているかもしれない。とにかく皮算用の電気代をちゃんと測定しないと、なんとも言えなそうだ。

ELPAのエコーキーパーを買ったので、しばらく今のシステムを稼働させつつ、ちゃんと測定してみようと思う(もしかしたら続く)

感想

国家に縛られない自由と、エンジニアリングの余地がまだまだある金儲け、という面がエンジニア達を惹きつけ、次世代貨幣という面が金融の人たちを惹きつけ、そこに駆けつけてツルハシを売るビジネスをしたい人たちとの三つ巴になって盛り上がっているのだなとなんとなく理解した。そして現実の通貨ではなく、暗号通貨の決済でそれらのビジネスが成り立っているのは興味深かった(マイニングプールやマイニングソフトウェアなど)。

合意を改ざん不可能な形で分散記録するというブロックチェーンの性質は、通貨以外にも応用できそうだが、ゴールドラッシュが落ち着いた後も計算力の提供者を維持し続けることをがどうやって可能なのかについてはよくわからなかった。

儲かるか、というと多分もういまから参入しても儲からないと思う。やるんだったらマイニングプールかなあ。

夏休みの自由研究としては面白かった。

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Kazuhiro Ogura

エクストリーム和装家。HENNGE (f/k/a HDE) で経営、プログラミング、営業、雑務など//HENNGE株式会社 代表取締役社長 小椋 一宏/Kazuhiro Ogura Founder, President and CTO of HENNGE