ウェブの再分散化:Ambientsプロトコルで今のウェブはどう変わるか

Haja Networks
24 min readSep 12, 2019

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This post was originally published in English here.

現存するウェブの世界は問題を抱えている。ユーザーとそのデータの大半はほんの一握りの企業が所有している状態で、市場勢力の均衡は崩れ気味だ。ユーザー、データ、アプリケーション、サービスはモノリシック(一枚板)なプラットフォームに詰め込まれ、その結果として深刻なデータロックイン(データの移動がしにくいこと)、データ漏洩、ユーザー操作や検閲の遍在化、事業参入の障壁拡大、イノベーションの抑制などが広範囲かつ多方面で起こりうる。つまり、今のウェブはサステイナブル(持続可能)だとは決して言えない状態なのだ。

オンライン上での自由を取り戻し、イノベーションを解き放つには「ウェブの再分散化」が必要となる。

過去数年間で(特に暗号資産界では)数多くの分散化ソリューションやネットワークが提唱されてきたが、そのほとんどはまだ単一プラットフォームモデルを採用している。アプリケーションとサービスを下位ネットワークから独立させ、ネットワークをまたいだ形で動作させるためのプロトコルはまだない。現状ではそれぞれのアプリケーションがワンセットになっており、単一のネットワーク内でしかデプロイできないためサイロが発生する。ユーザー、データ、そしてデベロッパーまでもが特定のプラットフォームにロックされ、身動きが取れない状態なのだ。さらに、多くのネットワークは論理的に中央集権化された「Single Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)」データベースを使用しており、これが主なボトルネックの根源となっている。スケーラブルかつ分散化されたアプリケーション、データベース、サービスを構築するためのプロトコルやツールは、残念ながら存在しない。

プロトコルの欠落により、「分散化されたウェブ」というビジョンはこれまで水面下に留まっていたが、ようやくこの問題を解決してくれるネットワークの構築に成功した。それがHaja Networks(ハジャ ネットワーク)だ。

Haja Networksの理念は、分散化されたウェブ用にアプリケーションやシステムを構築して現状の改善を目指すことだ。そのために、業界全体として以下の点を考える必要がある。

  • データとユーザーをプラットフォームから切り離す
  • スループットとレイテンシの双方の観点からスケーラビリティを再考する
  • 中央集権型および分散型ネットワーク間での相互運用性を確立する
  • 既存ソリューションの論理的な中央集権化を再考する

これらはすべて、実現可能な範囲内だろう。

この記事では「分散型のウェブ」というビジョンをより深く理解してもらうためにAmbientsプロトコルをご紹介したい。

Ambientsは分散コンピューティング向けの新規プロトコルで、デベロッパーはこれを利用してピアツーピアネットワーク内で分散型のアプリケーションやデータベース、サービスを構築・実行することができる。下位プラットフォームとネットワークからデータを切り離し、異なるネットワークとシステム間での相互運用レイヤーを作ることも可能だ。また、分散型のアプリケーションでこのプロトコルを利用すればプログラムやデータの構築、デプロイ、実行、共有を構造的かつスケーラブルに、そして極めて安全に行うことができる。

以下では、現存するウェブが直面している課題、Ambientsプロトコル作成に至るまでの道程や動機、プロトコルの概要を紹介する。Ambientsプロトコルのホワイトペーパー完全版と、プロトコルを構築しているオープンソースコミュニティ(参加大歓迎)の紹介もあるので楽しみに読み進めてほしい。

既存のウェブは問題アリ

「私が思い描いていたウェブとは、すべての人が、どこからでも地理的・文化的な境界 を超えて情報の共有、機会の獲得、そしてコラボレーションを行うことを可能にする オープンなプラットフォームだ。」ティム・バーナーズ・リー

ウェブはそもそも、独立した組織間で研究内容を共有し、コミュニケーションを図るための手段として始まった。その後、人々がウェブの価値に気付き、それを解き放とうとするにつれて、ウェブの実装はデジタルの自由という精神の下でのレジリエンス(困難に適応して存続する力)、利益、マーケットコントロールの効率を重視した、いわば「許された中央集権型」の方向性が強まってきた。ユーザーを囲い込むための壁が随所に建てられ、デジタルの境界線といえど簡単には超えられないようになった。ウェブから本来広がるべき可能性も制限され、共有できる情報の種類や方法、そもそも情報を見つける方法についてもほとんど制御が効かない状態だ。さらに、オンライン上で誰かを追跡したり、攻撃しようと思えば簡単にできてしまう。これで既存のウェブが「問題ナシ」だと言えるだろうか。

「クリスチャン・カタリーニとジョシュア・ガンズは、“ネットワークのコスト”を FANGグループの市場勢力が増したことに紐付く問題だと定義した。このコストを削減 すれば、強大なパワーに抑制されたネットワーク効果のもつれをほどき、本来のメリッ トを解き放つことができる。」The Blockchain Effect(カタリーニ&ガンズ)

ウェブの市場勢力は、たった一握りの企業と彼らのプラットフォームに中央集権化されている。プラットフォームとデータの城池(堀)をつくり、そこにユーザーとユーザーデータを集約してひとつの強大なデータベースを構築するのだ。ユーザーやデベロッパーは専用のアプリケーションUIからデータにアクセスできるが、データの所有・管理権はプラットフォーム側に帰属する仕組みだ。個別のユーザーを囲い込むことで周辺のユーザーも誘い込み、競合となる外部デベロッパーからのアクセスは制限される。ユーザーはシステムの内部でしか取引できなくなるため、実質的に中央集権化した強大なネットワークが完成する。

強大な市場勢力が結集して中央集権体制を築くことで、デメリットとなるのは新参企業だ。新参者にとって、既存プラットフォームとの競合は困難だ。新規参入しようとしても、主要プラットフォームの外からはユーザーやデータにアクセスできず、今あるリソースで闘い続けられる企業も少ない。また、新参企業は既存のプレーヤーを通してしかユーザーとデータを獲得できないため、結局はプラットフォーム側に a) 彼らのユーザー b) そのユーザーにアクセスできる担当者 c) アクセス時のルール を握られてしまうことになる。

このルールは常に変わる可能性があるため、たとえばベンチャー企業などにとってはリスクが大きい。だがこのシステムのおかげで、逆に新参者の数やイノベーション、競争の割合は減ってくる。主要プラットフォームは価格帯やサービス品質面でのプレッシャーがないため、低品質のサービスに高額の料金を課してくる。新参者がプラットフォームへのアクセス権を申請しても、予告なしに権利が停止される可能性もある。エンドユーザーも最終的に選べるオプションがほとんどなく、完全に囲い込まれてしまうことだろう。ウェブの中央集権化はつまり、データとマーケットの独占状態を意味する。だが、このような災難な状態が今のマーケットの基盤となっているといっても過言ではない。

また同時に、最近は大量のデータを所有することに責任性が問われる時代になってきた。データの盗難や攻撃がもはや日常茶飯事だからだ。このような背景もあり、規制当局は主要プラットフォームに対して、ユーザーのプライバシー保護を徹底するよう呼びかけを強化している。しかし、時には規制当局自らがプラットフォームやユーザーデータへのアクセスを求めることもある。中央集権型のプラットフォームはこのような検閲に格好のターゲットであり、監視社会に欠かせない存在としてビジネス的には非常に有利な環境になっていると言える。

だがこの現状はそう長くは続かない。最終的にはイノベーションを抑制し、ウェブの可能性を狭めてしまうことになるだろう。ユーザーを保護して公正なマーケットを確立し、イノベーションと成長を促進するために、いま中央集権型から分散型モデルへのパラダイムシフトが求められている。

このパラダイムシフトは、「権力を覆す」ことによって実現する。

既存のプラットフォームはユーザーとユーザーデータ、そしてユーザーとその他のサービス間の門番的存在を果たしているが、それを逆転させてユーザーが自身のデータを所有し、誰に、またはどのアプリケーションにアクセスを許可するのかを自身で管理するのはどうか。現状ではデータがプラットフォームに集約されているが、分散型モデルではデータが各ユーザーに「中央集権化」することになる。

「自律システムネットワークにおいて、エージェントは自身のポリシーについてのアサーション(前提)のみを考慮すれば良い。同意もなしに外部のエージェントから行動の指示を受けることはない。自立型と中央集権型管理の違いはそこだ。」マーク・バージェス

ユーザーからアプリケーションにアクセス権や利用可否を確認するのではなく、アプリケーションがユーザーに個人データへのアクセス権を要請する。全ユーザーのデータをまとめた大きな単一データベースの代わりに、それぞれのユーザーやアプリケーション向けに小さなデータベースを星の数ほど作成する。無数にあるサービスでそれぞれ別のアカウントを持つ代わりに、すべてのアプリケーションで共同利用が可能な自己認証型のIDとユーザープロフィールを作成する。ブログ記事、アクティビティフィード、友達リストはユーザーが所有し、それらのデータへのアクセスおよび運用に利用するサービスやUIはユーザー自身が決定する。ユーザーが許可すれば、複数のアプリケーションで同時にデータを運用し、アプリケーションとネットワーク間でデータの再利用と相互運用性を確立する。小規模データベースのローカルコピーを保存して、DBをローカルで運用することで「サクサク動いて効率的」な満足度の高いユーザー体験も創出できる。アプリケーションはデフォルトで、切り離された環境で動作するよう設定する。

企業にとっても、プラットフォームに「ユーザーにアクセスしたい」と許可を求める代わりに、直接ユーザーにコンタクトを取ってデータへのアクセス権を求める方が良いだろう。統一された共通言語を以て他のサービスと連携し、その他のサービスやデータを基盤とする新しいサービスをつくって新たな価値とビジネス機会の創出に貢献できないか。既存のプラットフォームにデータの城池を建て、大金をはたいてインフラを構築・運用する必要も、ユーザーに高額のコストを強いる必要もなく、もっと自由にビジネスができる環境があれば自社のコア製品やサービスに注力できるだろうに。

データ、ユーザー、アプリケーションが切り離され、すべてが暗号的に検証された環境なら、デベロッパーはアプリケーションやサービスをより迅速に、迷うことなく構築・構成することができ、ユーザー体験、アルゴリズム、データインサイト、サービス品質、価格、倫理的価値(プライバシーの尊重など)などでも独自のウリを押し出して競争を仕掛けることが可能だ。プラットフォームからユーザーへのアクセスやルールを指示されることもないため、企業は市場に向けて、または市場内でさらに迅速に動きをとることが可能となる。小規模プレーヤーでも対等に市場に参入し、競争を通じて機会を掴むことができるだろう。

このように公平に競争できるフィールドがあれば、新規のイノベーションや分散型アプリケーション、サービス、ビジネスモデルもどんどん生まれてくるに違いない。サービスやアプリケーション種類の多様化、ユーザー体験の向上、プライバシーのより良い保護、低価格でのサービス提供など、ユーザーにも良いこと尽くめだ。もうすぐ、分散型のウェブの時代がやって来る。自由でクリエイティブ、そして楽しい世界の到来を心待ちにしていてほしい。

ひとかけらの希望

暗号ネットワークの登場により、分散化を可能にする技術への興味も相乗的に高まった。ビットコイン(BTC)イーサリアム(ETH)に始まり、ここ数年間でかなりの発明がなされてきた。IPFSlibp2pなど、分散型システムでブロックを生成するための技術も開発され、これらの新技術、プロトコル、システムのほとんどはオープンソースで公開されている。また、様々な暗号通貨ベースのビジネスモデルやデジタルガバナンスモデルも提唱された。短期間のうちに、これまでは絶対に不可能とされたシステムのコンセプト化、実装、デプロイまでが急速に進んできたのは良い兆しだ。

多くの暗号ネットワークの中核を成しているのはグローバル台帳だ。グローバル台帳は「信頼できる唯一のグローバル情報源」としての役割を果たす。ネットワーク参加者間でのトランザクションはすべて同じグローバル台帳に記録されるからだ。だがこれがボトルネックの元でもある。全員のデータをこれまた全員に同期することでネットワーク全体での最大スループットは低下する。ネットワークの総合的なスループット改善に取り組んでいるプロジェクトもあるが、速さを追求するならシングルストリームが一番だ。

台帳ベースのネットワークの大半は、プログラミングインターフェースを使ってネットワークに「スマートコントラクト」を組み込んでいる。スマートコントラクトはネットワーク参加者がネットワーク内で実行できるプログラムだ。分散型アプリケーション(DApps)の構築や決済の実行、ビジネスロジックの実行、新規プロトコルの実装などが可能になる。しかし、スマートコントラクトの言語と(台帳を稼働させる)実行環境は両者ともに互換性がない。そのため、デベロッパーはプラットフォームに固有の言語でプログラムを書く必要がある。自身のプログラムやサービスを、どのネットワークで動かしたいのかを予め決めておかないと先に進めない。これにより、かなりのネットワーク間で断片化が生じ、相互運用性も阻害されてしまうことになる。この点において、既存のブロックチェーンシステムの大半ではデベロッパーへの技術サイロが顕著だ。そもそもアプリケーションを構築する前に、どのプラットフォームに賭けるかを決めるのは非常に辛い選択だ。だが、プラットフォームの切り替えは「アプリケーションの書き換え」を意味することになる。

さらに、スマートコントラクトのプログラムは下位の暗号ネットワークと台帳に紐付いているため、オープンで暗号資産に関連しない構成ブロックを自由自在に開発できる、という可能性は最初から省かれる。つまり、プログラムが特定のブロックチェーンプラットフォーム上で構築されており、性質上コインやトークン、決済を伴う場合は、デベロッパーもユーザーもそのネットワークに新規登録してネットワーク固有のトークンを獲得する必要があるということだ。

これは中央集権型プラットフォームで既知の問題を彷彿とさせる。より広い視点で見れば、これまでのすべてを生み出してきた元々の動機と完全に相容れないようにも感じてしまう。

同時に、中央集権型プラットフォームの現実を痛いほど目にした結果として様々な対策が取られているのも事実だ。EU(欧州連合)のGDPRなど規制を定めたり、プラットフォームの所有者潰しにかかるという驚きの事例もある。

中央集権型反対派、特にプラットフォームが提供するプライバシーやセキュリティ水準に懸念を投げかけている人々やコミュニティが存在することが、現時点でのひとかけらの希望だ。様々なアイデアが生まれても、問題は根本的に残されたままだからだ。

分散型ウェブの設計要件

分散型ネットワークがもつ最大限の可能性を実現するインフラを構築・デプロイするためには、権力構造を逆転させ、ネットワーク効果からデータを切り離すことが必要だ。具体的に考慮が必要な点は以下となる。

  • 非同期メッセージングの受け渡し(パッシング)
  • 結果整合性
  • 大規模ネットワークを小規模ネットワークとして構成できるか
  • プラットフォームからの計算処理の切り離し
  • 切り離された、または破壊された環境下でのユーザビリティ

既存のブロックチェーンネットワークの可能性を大きく制限している最大の要素は、台帳を「信頼できる唯一の情報源」とし、各参加者を常に同期させてネットワーク上でのトランザクションを受け入れ続けている点だ。このシステムの狙いは理解できる(継続性を確実レベルで保証したい、暗号経済インセンティブなど)が、ネットワークの運用という点で見れば本当に非効率極まりない。

無限の多様性を備えたオフラインファーストアプリを分散型のウェブ上で構築しようという場合、下位のプロトコルを単一のトークンやネットワーク上に構築したり、それらに従属させたりすることはできない。むしろ、コアとなるプロトコルがそのようなネットワークを構築できるだけの柔軟性を備えていること、そして利用に際して決済が不要であることが条件だ。構築するのはブロックで、チェーンではない。単一のグローバル台帳を欲するネットワークとプロトコルもまだ需要はあり、コアプロトコルを補完してくれる存在ではあるが、ベースはできる限り柔軟性、可用性、効率が高くなければならない。この条件を満たしていれば、下位プラットフォームからのデータ切り離しが可能となる。

そもそも、現実世界は「非同期」型だ。出来事は偶然、予期せず起こるもので、お互いとの関連性はない。また、ある時起こった出来事を全員が完全に同じタイミングで認識している訳でもない。整合性やコンセンサスといった概念はすべて、結果整合型なのだ。たとえば、事前に定義されたルール(プロトコル)に基づいてメッセージが参加者間に投げられ、必要なメッセージのやり取りがあり、プロトコルの手順が実行されてはじめてコンセンサスがまとまる。このコンセンサス(最終的な結果)には強力な整合性があり、同期すべきものだが、下位のメカニズムは非同期型だ。メッセージが送られ、「ある時点で」受信され、受信者により開封される。この観点から、すべてのデータとアプリケーションのベースラインとして結果整合性を考慮しなければならない。非同期メッセージの受け渡しと結果整合性を組み入れることで、必要に応じてより強固な一貫性の保証が可能となる。

「所有しているすべてのデータ、標準化データ、サービス間の結合について、単一データベースをつくるというアイデアはもう古い。もう世界は変わった。既存の考えを捨て去り、全く新しい考え方、異なるデザインやツールを採用しなければならないんだ。」ヨナス・ボーナー

非同期メッセージングと結果整合性を利用すれば、切り離された、また破壊された環境にも耐えうるアプリケーションとネットワークをプログラムできるまさに「超人的」な力が手に入る。プログラムはまずローカルで動作し、常にアップタイムの状態に。オフラインでも使えて、ネットワークに接続したタイミングでデータを他と同期する。常にオンラインでいる必要はもはやない。結果的に、今使っているウェブアプリよりも優れたユーザー体験が実現することだろう。

ブロックチェーンなど、単一のグローバル合意を通じて各参加者が接触(インタラクション)すると、瞬く間にボトルネックが生まれてしまう。参加者同士の単独かつ関連性のないインタラクションをネットワーク全体で検証する(AさんがBさんからコーヒーを買い、Cさんに写真をシェアした)ことを求めるよりも、個別のプログラムからサブネットワークを形成するべきだ。サブネットワークはアプリケーションまたはインタラクション毎の「ミクロネットワーク」的存在で、たとえば「AさんがCさんに写真をシェアした」は2人の参加者から成るネットワークを形成する。また、チャットプログラムの場合、50人のユーザーがいるチャンネルは50人の参加者から成るネットワークを形成する。大規模ネットワークをアプリケーション毎のサブネットワークに分割する、「シャーディング」機能を内蔵しているようなものだと思ってもらいたい。ネットワークの各参加者は、ネットワークのいくつかの部分でデータを保存したりインタラクションを行ったりするのみで、ネットワーク全体で活動することは決してない。

独自の実行環境とカスタム仕様のプログラミング言語を使ってネットワークを構築している暗号ネットワークも多々あるが、それぞれ断片化が生じているのは否めない。断片化のおかげでネットワーク効果が阻害され、プログラムとデータが形成できなくなってしまう。価値が十分知られないまま、それぞれ個別のネットワーク内に留められてしまうのだ。この障壁を乗り越え、価値を解き放つにはプログラム実行レイヤーをプラットフォーム(台帳)から切り離し、効率的な分散型計算モデルを構築して複数の(または切り離された、互換性のない)ネットワークで同じプログラムを実行できるように環境を整えなければならない。

ここで活用したいのがAmbientsプロトコルだ。Ambientsはピアツーピアネットワークでデータベースとプログラムの構築・実行を行うためのプロトコルで、下位プラットフォーム/ネットワークからデータを切り離し、異なるネットワーク/システム間での相互運用レイヤーを生成する。分散型アプリケーションでこのプロトコルを利用すれば、プログラムやデータの構築、デプロイ、実行、共有を構造的かつスケーラブルに、そして極めて安全に行うことができる。

データベースを再考する

Ambientsプロトコルの立ち位置とニーズをもう少し踏み込んで理解してもらえるよう、デベロッパーが現在直面している課題について考えてみよう。パラダイムシフトの渦中で流行しているプログラミングのモデルのことだ。

プラットフォーム志向型から分散型モデルへのパラダイムシフトは、そもそも「分散型アプリケーションの品質がプラットフォーム型とほぼ同じか、プラットフォームより優れている」ことが大前提だ。権力構造の逆転はステップの一環に過ぎない。より良いユーザー体験を実現するには、アプリケーションとサービスをそのように構築する必要がある。現在、分散型アプリケーション向けに存在するプログラミングモデルとサービスは、残念ながらプラットフォーム型に似ている。効果的に中央集権化されたデータベース(時にはブロックチェーン)を利用しているからだ。

これを念頭に置いて、データベースはストレージ(データベースの状態、ステート)と、ストレージへのアクセス・更新・クエリを実行するプログラム(データベースのサービス)の組み合わせであることをまず考えてみよう。リレーショナルデータベースは通常、SQLをインターフェースとしてデータベースの更新およびクエリを行っている。データベースの状態へのアクセスや操作を希望するすべてのプログラムに対して、SQLが相互運用レイヤーとして機能する。スマートコントラクトのプラットフォームも仕組みは同じ。ブロックチェーンはデータベースの状態が中央集権化されたもので、スマートコントラクトがデータベースのサービスとインターフェースとしての役割を果たしている。つまり、中央集権型のプラットフォームが中央集権型のデータベースを形成し、そこにデータを移すことになる。だが実際、このようなデータベースモデルは分散型のウェブを中央集権型のプラットフォームモデルに転換させていると言える。

では、データベースの状態を分散化させて所有者のローカルに置くのはどうだろうか?これだと、データベースのそもそもの概念が逆転することになる。データベースの状態は単一の場所に蓄積されるのではなく、ネットワーク上の複数の場所に分散される。そのため、伝統的なデータベース志向モデルと同等の「真に分散化されたプログラミングモデル」をつくるには、データベースのサービス(または任意のプログラム)自体が「データが存在する場所」へ移動しなければならない。これを実現するために、計算処理(プログラム)を分配する必要がある。

つまり、問題を解決するにはただ単にデータベースを分散化させるだけでは事足りないのだ。

Ambientsプロトコル:ピアツーピアコミュニケーションの鍵

まずは、僭越ながらAmbientsプロトコルのホワイトペーパーを無事にリリースできたことをお伝えしたい。

Ambientsプロトコルは分散コンピューティング向けの新規プロトコルで、デベロッパーはこれを利用してピアツーピアネットワーク内で分散型のアプリケーションやデータベース、サービスを構築・実行することができる。このプロトコルを利用すれば、構造的かつスケーラブル、そして極めて安全な分散型プログラムを構築することが可能となる。

これを実現するために、Ambientsプロトコルでは以下のことを定義している。

  • 不変値と純粋/全域関数に基づくAmbientsプログラム向けのプログラミングモデル
  • プロセス代数Ambient Calculusを用いた当該プログラミングモデルの形式基準
  • モノイドやファンクタなど、一般的な計算処理の抽象化を用いたプロトコルのプリミティブ一式:プログラムをAmbientsの代数プログラムとして暗号化する際に使用
  • コンパイル用モデル:プログラムを、ほぼすべてのソース言語からAmbientsの実行可能ファイルへとコンパイル可能
  • 実行モデル:結果整合的なMerkle-DAGベースのイベントログを使用し、Ambientsのプログラムを合流性書き換えシステム(confluent rewrite system)として評価

Ambientsプロトコルを用いて構築されたプログラムは、Ambientsネットワークで安全に実行できる分散型の実行可能ファイルへと変換される。これによって、プログラムがデータの保管場所へと移ることになる。これらの分散型プログラムの共有は、分散型アプリケーションの相互運用性とスケーラビリティの面で不可欠となる。たとえば、上述の分散型かつ所有者のローカルに属するデータベースを構築し、その中でプログラムが分散型のデータベースサービスを形成するという具合だ。

Ambientsのプログラミングモデルは非常に限定的で、安全面でも十分に検証が可能だ。同時に、データ構造や機能、アルゴリズム、ビジネスロジック、データベースはもちろん、本格的なシステムやサービスを構築することもでき、デベロッパーの創作欲を十二分に満たしてくれる。現存するプログラミング言語の大半はAmbientsに対応する機能のサブセットを有しており、デベロッパーは手慣れたプログラミング言語を使ってAmbientsプロトコル上で分散型アプリケーションやサービスの開発を行うことが可能だ。

Ambientsプロトコルはプラットフォームに依存しないよう設計されている。Ambientsネットワークを利用すれば、信頼性の高い許可型の中央集権型システム(既存のウェブサービスなど)に属する複数の、Ambientsに対応した、異なる実行時環境をオーバーレイし、トラストレスかつ非許可型の分散型システム(ブロックチェーンプラットフォームなど)に接続することが可能だ。

構成原理や安全性、スケーラビリティをどう保証するのか、そしてデベロッパーは分散型のデータ構造、データベース、プロトコル、アプリケーション、デジタルサービスを構築することでどんなメリットが得られるのか、について詳しくはホワイトペーパーをご覧いただきたい。

Ambientsプロトコルはオープンソースで、誰でも自由に開発が可能だ。Ambientsプロトコルの構築に参加したい、またはコミュニティの一員になりたいという人は、まずGithubをチェックしてほしい。

ホワイトペーパーの内容に興味を持っていただける、熱意ある方々とお会いできるのを楽しみにしている。Ambientsプロトコルがどのように足踏みしている大きな可能性を解き放ち、ウェブの再分散化をサポートしていけるのか。この情熱を、多くの人とシェアできれば光栄だ。

(英語版:https://medium.com/@hajanetworks/re-decentralizing-the-web-54678a1e4848

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