日本の大企業は、消費者の実態にもっと目を向けるべきかもしれない

Hajime Tanabe
5 min readNov 12, 2017

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ビジネス現場におけるユーザー理解の重要性の高まり

消費者ニーズ多様化の進展や、膨大な顧客接点とそれに紐づくデータを保有するGAFA(google / apple / facebook / amazon)等プレーヤーの台頭により、ビジネスの現場において近年ますます「ユーザー理解」の重要性が認識されています。最近、「デザイン思考」という言葉をよく耳にするようになりましたが、これも”ユーザー中心”の製品 / サービス設計を行うアプローチという意味で、ビジネス現場におけるユーザー理解の重要性の高まりから注目が集まっているものと捉えることが出来るでしょう。

しかし、ユーザー理解の重要性は認識されつつあるものの、依然として実践できている企業は多くないのが現実です。あくまで私の肌感覚ですが、国内の大企業においてはやっとここ数年で「いかにエンドユーザーと直接の接点を持つか」「社内に保有されている大量の顧客データをいかに活用するか」ということが真剣に議論されるようになってきた段階だと感じます。

当然、ユーザー(消費者)の変化にキャッチアップできずして、競争優位を保つのは困難です。

そこで、今回は一般消費者の変化について、あらゆる市場に影響を与え得る「所得」の観点から考えてみたいと思います。

現代の消費者はどのような人たちなのか? : 所得の観点からの考察

所得格差の拡大や、「最近の若者はお金を使わない」、「40代でも貯金が全くない人がかなりの割合いる」という議論を目にする機会が増えましたが、実際のところはどうなっているのでしょうか。

厚生労働省「国民生活基礎調査」より、ここ20年の世帯年収の推移を見てみましょう。

図1 : 世帯所得の平均値推移

上の図1より、世帯所得は1996年 : 660万円→2016年 : 546万円と約2割近く減少していることが分かります。国内市場は成熟する一方なので、当然かつてのように給与が伸びないことは想像に難くなく、平均所得が下がっていることに関しては、あまり驚くことはないかと思います。

続いて、所得の分布を見てみたいと思います。

図2 : 世帯所得の累積分布

1996年と2016年の世帯所得の累積分布を示したのが上の図2です。こちらの図は横軸が世帯年収で、縦軸は該当する年収以下の比率が何%存在するかを表しています。(1996年のグラフにおいて若干右側ががたつきが生じているのは、公開されているデータが1,000万円以上は100万円刻みではなかったためです)このグラフを見ると、世帯所得が比較的低い層の比率が高くなっているのが分かるかと思います。

さらに、上のグラフ赤枠内、すなわち1,000万円以下の部分を抽出したのが下記の図3です。

図3 : 世帯所得の累積分布(1,000万円以下拡大版)

赤字で示しているように、例えば世帯所得400万円以下の比率が、1996年には34%だったものが、2016年には47%に増加しており、現在の世帯の約半数を占めていることが分かります。(ちなみに、世帯年収300万円以下の比率は2016年時点で33%と、3割以上存在します。)

消費者の所得の変化は、ビジネスの現場へどのような影響をもたらすか?

さて、これはビジネスの現場においてどのような意味を持つでしょうか。すぐに思い付くのは、「消費者にお金を払ってもらうのが大変になっている」ということです。これも勿論あるのですが、冒頭に述べたユーザー理解の観点でいうと、もはや大企業で働く人、特に事業に対して一定の意思決定権を持つレイヤーの人たち(≒部長クラス)にとって、国内の世帯の約半数の人たちを想像できなくなっている可能性があると言えるのではないでしょうか。というのも、いわゆる大企業で働く方々は、若いうちに年収400万円に到達(場合によっては初任給で到達)し、以降は年次とともに給与が上がっていくため、上記のような生活水準をあまり体感したことがない人が多いからです。加えて、部長クラスになれば年収が1,000万円以上ある人も多く、かなり異なる生活水準で日々過ごしていてもおかしくないでしょう。

別に私は、所得の多寡について良い/悪いと言いたいのではありません。現代は幸せの形も多様化してきており、所得によって人の幸不幸は決まらないものだと思っています。ここで述べたいのは、安易な思い込みや表面的な定量データだけに基づいて製品 / サービスの開発・改善を行うと、世の中に全く受け入れらない可能性があるという点です。人はふだん、様々な文脈の中で製品 / サービスを購買したり、利用したりしています。今回は定量化しやすい所得を軸にビジネスの現場と世の中との乖離を考察しましたが、ユーザーに選んでもらえる製品 / サービスを作るためには、自分たちが無知であるという前提から出発することが重要なのではないでしょうか。

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Hajime Tanabe

外資系コンサルタント / 東京大学大学院卒。仕事を通じて日々考えたことを書きます。教育が好きです。NPO法人PIECESの理事もしています。twitter : @hajime_tnb