デザイン思考と戦略思考はどう違うのか? ~コンサルタントから見たそれぞれの役割・位置付け~

Hajime Tanabe
10 min readNov 18, 2017

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「デザイン思考ってなに?」

この質問に対して、皆さんならどのように答えるでしょうか。

デザイン思考という言葉は最近よく耳にするようになり、書籍やwebでも多数取り上げられているため、ご存知の方も多いかもしれません。

もし答えるとするならば

「プロダクト起点やサプライヤー目線ではなく、人間(ユーザー)中心で考える思考法」

「ユーザーインタビューやエスノグラフィー調査を通じてインサイトを抽出し、製品/サービスを考えるアプローチのこと」

となるでしょうか。(もし「デザイン思考」という言葉を初めて聞く方がいらっしゃいましたら、下記にて説明しておりますのでそのまま読み進めていただいて大丈夫です)

では、次の質問はどうでしょう。

「デザイン思考と、いわゆるコンサル会社がやっているような”戦略思考”って何が違うの?結局、どちらを使うのが良いの?」

これはなかなか難しいのではないでしょうか。

というのも、一般の書籍やwebではあまりきちんとした説明がなされていないためです。

この問いについては私もずっと感じていたのですが、先日デザイナーの方と話していてクリアになってきましたので下記にてまとめたいと思います。

初めに : デザイン思考の概要と導入の背景

そもそもデザイン思考とは、一言でいうと「人間(ユーザー)を中心に物事を考えよう」という考え方のことです。スタンフォードのd.schoolやデザインコンサルティング会社のIDEOがビジネス領域への有用性を提唱したことで、グローバルでは2000年代から急速な普及を見せています。日本においては、2010年以降になって広く知られるようになってきました。

デザイン思考のプロセスをざっくり説明すると、「最初に徹底的なユーザー理解を行い、これに基づきアイデアを発想、短サイクルでプロトタイピングと検証を繰り返していくことでアイデアをブラッシュアップしていく」ものであると言えます。従来型のアプローチでは、市場調査レポートやアンケートに基づく定量的なアプローチが中心でしたが、デザイン思考では数値の議論はあまりなされないのが特徴です。(より詳細な中身については、本記事の主旨とはあまり関係ないため他の書籍/webサイトを参照ください)

さて、何故このデザイン思考がビジネスの現場に広まっているかというと、それは、近年ますますユーザー理解の重要性が高まっているためです。というのも、ニーズの多様化/競争環境の不確実化によって、従来のようなプロダクト中心の発想や、単純な定量的アプローチだけでは世の中に受け入れられる製品/サービスを生み出すのが難しくなってきたのです。そもそも、人は本来、製品/サービスを利用するにあたって、様々な感情・情報を統合的に判断しています。したがって、安易なアンケート調査などで正しく理解するには限界があります。このような反省を受けて注目されているのが、デザイン思考なのです。

※ここで言う戦略思考は、いわゆるコンサルティング会社が得意とするロジカルシンキングであったり、フレームワークを使ったりしながら論理的に答えを導いていくアプローチのことを指します。勿論、本来のコンサルティングの仕事はロジカルシンキングやフレームワークだけで語れるほど単純ではないのですが、今回の話ではそれで差し支えありません。

※一方のデザイン思考は、ビジネスの文脈で主に使われる、徹底的なユーザー理解に基づいた発想とプロトタイピング・検証を繰り返しながら製品/サービスをデザインしていく営みを指します。

デザイン思考と戦略思考の違いは何か?

さて、冒頭の問いに答えていきたいと思います。そのために、下図のようにデザイン思考 / 戦略思考を企業活動の軸で整理して考えます。(2つの思考の違いをクリアにするために、図の中の主要論点や、各種アプローチ内容についてはかなり単純化して書いています。

図1 : 戦略思考とデザイン思考の比較

この図1を基に、両者には2点の大きな違いがあることを下記にてご説明します。

①企業活動の各フェーズにおける有用性が異なる

企業の活動を、「企業戦略の策定→事業戦略の策定→製品・サービスの開発/改善」の大きく3ステップに分けて考たとき、戦略思考とデザイン思考には向き不向きが存在します。具体的には、全てのフェーズに対するアプローチとして利用可能な戦略思考に対して、デザイン思考は製品・サービスの開発/改善プロセスが主な適用範囲となっています。これはデザイン思考がプロダクトデザインに出自を持つことにも起因しているのでしょう。これが1点目の違いです。

ちなみに、戦略思考の方が適用範囲が広いからと言って「戦略思考は優れていて、デザイン思考は使えない」ということは全くありません。むしろ、製品・サービスの開発/改善プロセスにおいては、既に述べてきたように単なる定量的アプローチに比べて大きな威力を発揮する可能性があります。したがって、両者を組み合わせながら検討を進めることが重要と言えます。

②そもそものゴールが異なる

また、製品・サービスの開発/改善プロセスにおいても、戦略思考とデザイン思考には大きな違いがあります。それは、検討のゴール設定についてです。定量的に正しい施策まで落とし込むことが出来る戦略思考に対して、デザイン思考のゴールはあくまでも「検討の方向付けと、そのための合意形成」です。

デザイン思考では、定量性までは担保しないため、例えば最終的にどのくらいの売上を見込むか、といったところまでは導出されません。しかし、検討メンバー全員が納得して、次に向かうべき方向を決めることが出来るのが強みです。というのも、デザイン思考ではアイデアを発想する際にワークショップ形式を取ることが多いのですが、このワークショップの随所にチーム全体から満遍なくアイデアを吸い上げる仕組みが盛り込まれているためです。具体的には、あるアイデアに対してチームメンバーが半匿名で批評と改善案を出してブラッシュアップするようなワークや、最終的な意思決定の際にチームメンバー全員からの投票制で決めるような進め方などがあります。

また、改めて繰り返すまでもないかもしれませんが、この点に関しても①と同様にどちらが優れているかという話ではなく、必要に応じて適切に使い分けたり、組み合わせて用いたりすることが肝要ということになります。

コンサルタントから見た、デザイン思考の可能性と今後のチャレンジ

デザイン思考は、いわゆる「日本の大企業」において大きな力を発揮する可能性がある

ここまで、従来型の戦略思考との比較でデザイン思考について考えてきました。両者は状況によってうまく使い分けを行うべきものではありますが、デザイン思考というのは、特に「いわゆる日本の大企業」において大きなパワーを発揮できるのではないかと私は考えています。

競争環境の変化に合わせて徐々に企業内の人材の質や文化も変わりつつあるものの、依然としていわゆる日本の大企業においては、「誰の意見か?」が重視されがちです。部長や役員など、上の人のアイデアに対しては反論しづらく、言われたことをそのままやるしかないという企業風土の中で実際に働いている方も多いのではないでしょうか。一方、「②そもそものゴールが異なる」にて述べたように、デザイン思考というのはポジションに関係なくアイデア出しを行い合意形成することが出来るアプローチです。したがって、「上の人から押し付けられた」アイデアではなく、「自分たちで考えた」アイデアとして、すなわちジブンゴト化してその後の検討を進めやすいのです。別に私は精神論を語るつもりはありませんが、やはり検討・推進メンバーに主体性や熱意がある場合とそうでない場合とでは、実現可能性や実現に至るまでのスピードが大きく変わるでしょうし、主体的なメンバーと働いた方が物事が進むという点については皆さんも経験したことがあるのではないかと思います。

コンサルティング会社がデザイン思考を取り入れるにあたっては、いかに戦略策定にも応用するかがチャレンジとなる

一方、デザイン思考を実践していく上で、当然のことながら課題(チャレンジ)はあります。容易に想像される点としては、トライしてみたくても実際に使いこなせる人が少ないことや、結局は定量データを見る方が安心するため上司が必要性を感じてくれない、などがあるでしょう。

しかしここでは、近年Deloitteやaccentureのようなコンサルティング会社がデザイン思考を取り入れようとする動き(デザイン会社の買収等)を見せていることも踏まえ、上記のような一般的な話ではなく、コンサルタント(コンサルティング会社)がデザイン思考を活用していくにあたり生じるビジネス上のチャレンジにフォーカスして考えたいと思います。

改めて先ほどのフレームワークを考えてみましょう。図1に加筆した、下記の図2をご覧ください。

図2 : デザイン思考に求められること

図にも示しておりますが、結論から言うと、コンサルタント(コンサルティング会社)が活用していく上でデザイン思考が抱える1つのチャレンジは「いかに企業戦略・事業戦略の策定レイヤーにも応用して付加価値を出すか?」ということです。

コンサルティングというのは労働集約ビジネスであるため、利益を積み増すためにはプロジェクトの単価(=付加価値)を上げることが重要です。現在、企業がコンサルティング系のファームに支払うフィーは、一般に企業戦略策定 > 事業戦略策定 > 製品・サービスの開発/改善となっており、上位レイヤーほど付加価値が高いと考えられています。これに対して、デザイン思考は既に述べたように主に製品・サービスの開発/改善レイヤーにて用いられるにとどまっています。このことから、特に企業戦略・事業戦略の策定を行ってきたようなコンサルティング会社がデザイン思考を活用していく上では、いかにデザイン思考を事業戦略や、その先の企業戦略の領域に応用して付加価値を上げていけるかが、1つの勝負と言えるのです。

以上、デザイン思考についてまとめましたが、個人的に非常に興味のある領域ですので引き続き学んでいこうと考えております。今度新たな学びがあった際は、その都度記事にして整理していきたいと思います。

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Hajime Tanabe

外資系コンサルタント / 東京大学大学院卒。仕事を通じて日々考えたことを書きます。教育が好きです。NPO法人PIECESの理事もしています。twitter : @hajime_tnb