fintechコミュニティの皆さんに待望されていた、本年6月1日に施行が予定されている、銀行APIを用いた新しい決済関連サービス「電子決済等代行業」の詳細を定めた府令関連の草案が、3月9日からパブリックコメントに付されています

週末に内容をざっと読んでみた気づき事項を簡単にメモしておきたいと思います。以下はパブコメに付された規則関連についてのメモですので、電子決済等代行業の枠組みなど、改正銀行法本体に書かれている内容を勉強していることを前提としています。

注意1:本記事は気づき事項のメモであり法律アドバイスではありません。法律は複雑にできており、事業者が下記に依拠して事業上の判断をすることは危険です。特に、金融業法はIT事業者が想像できないほど厳格な執行が行われます。電子決済等代行業は、IT事業者に対する金融業法の適用という側面を持っていますので、IT事業者の皆さんは、くれぐれも本記事のみを見て自社事業は改正法と無関係だと判断せず、詳細について顧問弁護士などに問い合わせてください。

注意2:本記事はわかりやすさを重視しており、専門家向けの記事ではありません。

1.電子決済等代行業の登録が必要のない事業者

もともと改正銀行法は銀行APIの導入とこれを活用したfintech企業を対象に、PISP業務(送金指示の伝達サービス)とAISP業務(口座情報の取得サービス)について、情報セキュリティを確保した状態でビジネスを行ってもらえるよう、これらを銀行法のもとに登録制としようとするものでした。けれども、法案化するにあたってAISP業務を登録制とするのは過剰規制なのではないか、PISP業務について従前から行われていた送金指示の伝達サービスに対する規制強化なのではないか、といった点が論争を呼びました。法案が通らない事態は事業者側にも規制側にも望ましくない状態なので、法案の建付けを変えずに規則等のレベルで適切に調整するという妥協案で法案成立に至ったという背景があるといわれています。

このような経緯から、どのような業務が適用除外になるのかについては、今回の規則等の策定にあたって大きな注目を集めており、公表に先立って水面下でかなりの調整が行われていたものと想像します。

PISP業務にあたりうるもののうち、今回登録義務がかからないことになったのは、以下の4類型に整理されました。

(1) 預金者による特定の者に対する定期的な支払いを目的とするもの

(2) 預金者自身に対する送金を目的とするもの

(3) 国や行政関連機関に対する支払いを目的とするもの

(4) 事業者が、顧客との取引に付随して、その取引の支払いのためにのみ行うもので、事業者と銀行との間に事前に契約があるもの

第4類型に具体的にどのようなものが入ってくるのか、というところが、今後の実務相談に当たって重要になってきます。上記はざっくりとしたものですが、条文はかなり注意して作られているように見えますので、事業者で心当たりのある皆さんは早計に登録の要否を判断せずに、専門家に相談するべきでしょう。

なお、上記の4類型に当たっている場合でも、銀行が顧客に付与したID・パスワードを預かって行っている事業者は適用除外にならないようです。

2.銀行グループによる電子決済等代行業

銀行APIの導入後の銀行のビジネスモデルとして、銀行口座をプラットフォーム展開して様々なペイメントサービスに役立ててもらうというモデルが想定されていますが、先行する欧州では、これ以外にもいくつかのモデルが提案されています。そのうちの一つとして、銀行自身がAISPとして預金者のためのアグリゲーションサービスを展開するというものがあります。

今回のパブコメでは、銀行と保険会社の子会社は、金融関連業務として電子決済等代行業を行うことができることが明らかになりました。つまり、子会社を作って届出をすることで、銀行・保険会社の業務範囲規制はクリアすることができ、これらのビジネスに参入することができるということになります(当該子会社が電子決済等代行業の登録が必要なのは当然です。金融業の人たちは細かいので念のため追記しました。)。

証券・保険業界の皆さんにはお伝えしていますが、fintech/insurtechへの取組みとして、他社との競争(FoMO)に気を取られて、非金融な機能ばかりに着目して浮足立ってはいけません。fintech/insurtechは他社との競争のために行うのではなく、あくまでも顧客の利便性を高めるために行うものです。金融ビジネスは、非金融のビジネス以上にペイメントの要素を必然的に伴います。ペイメントという基本機能にしっかり着目して、サービス利用に当たっての顧客のフリクションを解消していくことが求められています。

銀行・保険会社が子会社に電子決済等代行業を行う会社を持つことができることは、fintech/insurtechの推進のために大きな一歩だと思います。

なお、銀行本体については法律上は手当されていませんが、規則34条の64の2第2項に、銀行等が登録申請者となることができることを前提とした条文があることが注目されます。

3.AISPのコントロール

振込に関与するPISPに比べて、AISPは口座情報の取得を行うのみなので、リスクベースで見てもAISPのほうが規制が軽くてしかるべきということが、法改正の段階でも指摘されていました。先ほどご説明したとおり、これは規則レベルで調整するということで落着したため、具体的にどのように軽くなるのかが注目されていました。

規則案等を見たところ、概ね以下の部分が軽減されているようです。

(1) 他業コントロールはPISPのみ(規則34条の64の2第1項但書き)

(2) AISPについて、委託管理体制の監督は顧客情報管理とセキュリティの部分に限定(規則34条の)

(3) 審査・監督におけるリスクベースを明言(登録申請時の留意事項等)

なお、PISPの他業コントロールは、日本標準産業分類における中分類ベースで行われます。但し、金融・保険業については細分類ベースです(電子決済等代行業者の登録申請時の留意事項等I.1.(3))。

4. 最低資本要件

欧州のPSDIIではPISP等の一部業務につき最低資本要件を課したり保険の設定を義務付けたり、比較的厳格な規制を敷いていましたので、日本はどうするのか、ということが法案段階で議論されていました。

これについては、新規参入者にはスタートアップ企業が多いという事情と、イノベーションを阻害すべきではないという要請によって、純資産額がプラスであればよしという方向で議論がなされていました。

今回の規則では、当初のとおり、PISP、AISPを問わず資本要件は純資産額がプラスであれば良いということで決着しました(規則第34条の64の6)。

5.電子決済等代行業者の義務

電子決済等代行業者の義務として銀行法本体に書かれていたものは、

(1) 利用者に対する説明義務

(2) 体制整備義務(銀行との誤認防止措置、利用者情報管理措置、委託先管理措置)

(3) 利用者に対する誠実義務

(4) 銀行との間の契約締結義務

でした。規則はそれぞれについてブレークダウンした詳細が定められています。詳細は諸々あり、例えば以下のものがあります。

・ 為替取引の結果通知義務を明記

・ 情報管理措置について①システム管理体制の整備、②顧客の個人情報管理体制の整備、③センシティブ情報を電子決済等代行業以外に用いないための体制整備を明記

・契約内容の公表はインターネットにより実施することを明記

これまで金融業の資格を取得したことがないIT事業者のために言うと、金融の資格を取得し、維持するために最も重要かつコストがかかるのは「体制整備」です。金融ビジネスのための体制整備で重要なのは、①コンプライアンス体制、②顧客保護体制(顧客情報管理、苦情処理(コールセンター))、③システム管理体制(顧客情報セキュリティ、サイバーセキュリティ、BCP)、④委託先管理体制、などがありますが、今回金融庁は、「電子決済等代行業者の登録申請時の留意事項等」を公表し、各事業者が行う電子決済等代行ビジネスについて、事業規模、事業内容、取扱う情報の重要度、システム処理する割合やその役割などの特性を踏まえつつ、システムについての審査に重点を置くことを明言しています。

審査にあたって重視する具体的な事項としては

・事業者、特に経営陣が、電子決済等代行業を行うにあたってシステムリスクの重要性についてしっかりとした認識を持っているかどうか

・システムリスク管理のための態勢(人的組織と物理的な設備、ルール等の整備)ができているか

・システムリスクの評価が行われているか

・情報セキュリティの管理ができているか

・サイバーセキュリティの管理(攻撃者によるシステムアタックと情報・データの剽窃に対する防御態勢)ができているか

・システムの企画・開発・運用の体制が整っているか

・システム監査の体制が整っているか

・外部委託管理のための体制(適切な事業者の選定、委託内容の明確化、委託先による情報管理や法令等遵守の確保、委託先からの報告や委託先への検査、委託先への改善要請ができることや改善されない場合に契約を打ち切ることができること等)が整っているか

・コンティンジェンシープランの整備

・障害発生時の対応

いずれも金融ビジネスに携わる事業者にとっては常識に属するものですが、IT事業者の皆さん、特に組織体制が未整備なスタートアップ企業からすると、たいへん面倒なことであると感じるかもしれません。今回金融庁は、これらについて、申請業者が単独で満たすことができない場合でも、連携・協働する銀行との役割分担によりこれらを満たすことができる場合には、それを評価するとしています。

スタートアップ企業について言えるのは、とにかく人のお金に触るビジネスは、単にコンテンツや非金融の個人情報を触る程度のビジネスとは訳が違う、ということを正しく理解するべきということです。金融は伝統的ビジネスのなかでも最も厳格なビジネスの一つであり、これはfintechの時代と呼ばれようと変わることがありません。欧米でも金融に触るスタートアップ企業は例外なく、金融ビジネスの出身者を中核に添えて腰を据えてビジネスをやっています。日本のスタートアップ企業を見ると、スタートアップ企業であることに甘えてこの点を疎かにしている(言葉を選ばずに言えば「舐めてかかっている」)起業家が散見されますので、くれぐれも注意してください。スタートアップ企業が社会の重要な部分を担うようになる過程で、スタートアップ企業の社会的な責任がどんどん高まっており、これまで許されてきたような甘さは、通用しなくなってきています。

銀行にとっては、これまで培ってきた自らのバックエンド業務を活用し、場合によってはマネタイズする機会とも捉えられるでしょう。

6.再接続業者についての規律

クレジットカードビジネスや資金移動業ビジネスなど、ペイメントのサービスでは、しばしば多段階の委託が行われることになります。電子決済等代行業は、こうした多段階の委託が行われる場合にも登録を求める制度になっていますが、自らがユーザインタフェースを持たずに、ユーザインタフェースを持つ事業者(アプリ提供者、コンテンツ提供者)の後ろ側に入って、処理の円滑さですとか銀行への接続のしやすさですとかを確保するビジネスモデルも想定されます。典型的には米国のPlaidのようなビジネスモデルです。

ユーザインタフェースを持たないので、ユーザに対する説明義務や通知義務などをどのように果たすのかということが問題となります。

この点については「電子決済等代行業再委託者」という定義を銀行法施行規則に設けて(規則第34条の69の4第3項)、銀行や他の電子決済等代行業者を介して義務を果たすことができることが明記されています。

7.銀行代理業との境界

今回、金融庁は、審議会報告書の宿題を受けて、電子決済等代行業の制度をローンチするにあたって必要となる、銀行代理業との境界について、新たに「銀行法等ガイドライン」を公表しています。要は、「AISP、PISP業務を行うにあたって、ユーザからマネタイズするのであれば問題ないものの、銀行サイドに課金をした場合に、銀行代理業にも該当してしまうのではないか」という課題に対して、一定の解決をしようとするものです。

法律的に言うと、銀行代理業は「銀行のために」(銀行法第2条第14項)行うものですが、電子決済等代行業は「利用者のために」(銀行法第52条の61の9)行うものとなっていることとの関係で、事業者が行っている業務が果たして誰のために行っている業務なのかをどのように判定するのか、という話です。

これに対して、ガイドラインでは、

① 銀行からの直接又は間接的な委託に基づいて預金等の受入れや金銭の貸付等、又は為替取引についての契約の締結の代理や媒介をするものではない場合

②契約条件の確定や契約への関与に関連して、銀行から経済的対価を受領していない場合

には、銀行代理業には該当しないとしています。

銀行からの経済的対価の受領は、形式ではなく実質を見ることになりますので、実際には銀行取引の促進(銀行と顧客との間の契約条件の確定や契約への関与)に対する対価であるものを他の名目として受領するということはできません。

他方、今回金融庁は、以下のサービスを銀行に提供している場合に、これに対する対価を受領することは、上記の②には該当しないことを明言しています。

(a) 銀行に対してシステムを提供し、システム利用料を収受する場合

(b) 銀行に対してウェブ広告サービスを提供し、広告料を収受する場合

(c) 銀行に対して、顧客から承諾を得て顧客情報を提供し、情報提供料を収受する場合

(d) 顧客からの手数料を、顧客に説明した上で銀行にまとめて徴収してもらい、銀行経由で顧客の手数料を収受する場合

なお、上記は銀行取引の成約(銀行と顧客との間の契約成立)に直接的に紐付いたサービスではないので、銀行との間の取引ベースでのレベニューシェアとなるような対価設定とすることは原則としてできません。より正確には、銀行取引の成約と紐づくような料金設定になっている場合には、基本的に銀行代理業に関する契約条件の確定や契約締結への関与に対する対価であるとの推定が働くということにして、もしそうではないというのであれば、そうではないということを当局に説得しなければならないということになります。


シェアリングエコノミー中間報告について

昨年の11月、内閣官房のIT総合戦略室が事務局を務める「シェアリングエコノミー検討会議」は、日本でシェアリングエコノミーを推進していくために必要な諸施策をまとめた中間報告を公表しました

この中間報告では、シェアリングエコノミーは、既存のリソースを効率的に活用することや個人が多種多様なサービスを提供・享受することを可能とするものであり、新しいソ リューションやイノベーションの創出を通じて、日本の課題解決への貢献が期待できるものであるとの受け止めのもと、シェアリングエコノミーという大きな潮流から、日本が着実に果実を得ていくために必要な諸施策を総合的に取りまとめたものになります。

報告書にもあるとおり、シェアリングエコノミーは、「業者」がサービスをフルスタックで揃えて、これを「消費者」に提供するという、これまでのサービス業の枠組みから、インターネットをベースとして、「資源を持っている人」と「その資源にアクセスしたい人」とをマッチングさせることでユーザーのニーズに応えるという新しいサービス提供のあり方を提示しています。

報告書は、これを「『タテ』から 『ヨコ』へ」と表現していますが、要はサービス提供の場がインターネットをベースとするものとなることによって、サービス提供の方法がインターネットのアーキテクチャに合うような形に進化しているということといえます。

この中間報告は、こうしたサービス産業のあり方の大転換、少なくともこれまでとは異なる方法でのサービス提供のあり方の選択肢が、シェアリングエコノミーによって提示されたことを受けて、既存の社会との間で生じる様々なフリクションを乗り越えていくための総合的な戦略が書かれているので、ぜひ皆さんもご一読ください

今回は、この中間報告が、日本のコンプライアンスのあり方に対して、とても大きな問いかけをしているということをお話したいと思います。

日本企業は「コンプライアンス」を本当に理解しているのだろうか

我々日本人は、法律といえばかっちりと適法と違法の線引があって、ある行為があれば、それが適法なのか違法なのか誰かが一義的に判断することができるものと信じているフシがあります。

ある行為をするときには、それがシロなのかクロなのかを見極めなければならない、そしてクロの可能性があればそれは行ってはならないのだ、というのが「あるべきコンプライアンス」だと考える傾向があるように思います。法律上のルールが不明確な場合には、事前にその法律を所管している官庁に「おうかがい」を立てて、問題がないという「お墨付き」をもらわなければやってはいけないのだ、それが正しいコンプライアンスだ、と考えている企業がとても多いのではないでしょうか。

それは本当でしょうか?

法律はすべての事象を網羅的に規定してなどいません。その法律を作成するときにおける日本社会を取り巻く状況(立法事実などといいます)を前提に、その状況をどのように規律するのか、という側面から作られています。民法や刑法など広く一般に適用される基本法については、将来の社会の変化をある程度包摂することができるように、十分に抽象的にルールを作成するのですが、とりわけ業法と呼ばれる世界では、特定の業態にのみ適用されるルールですので、勢いその内容は、立法の時点での業界の秩序などを前提に、それが適正に回っていくことを期してルールがつくられるのです。

こうしたルールは、立法当時の取り巻く状況が維持されている限りは、それなりに上手く機能するのですが、新たな技術の出現や、新たなビジネスモデルの出現などに対して脆弱性を露呈します。ルールは、そうした技術やビジネスモデルを前提としていないことが往々にあり、その結果、それらの利用が、法律上適法なのか違法なのかよく分からないということが起こるのです。

ルールが想定していない状態に対する法律の適用態度は、大きく分けて2つあります。1つは、法律が想定していないのであるから、そのような新技術の利用やビジネスモデルの採用は違法であるという態度です。もう1つは、法律がそれらの新技術の利用やビジネスモデルの採用を禁じていないのであるから、これを行うのは自由であるという態度です。

伝統的な企業や役所は、多くの場合に前者のような考え方をします。これに対して、従来型のベンチャー企業は、後者のような考え方を取ることが多かったように思います。

これはどちらが正しいのでしょうか?

実はどちらも正しくない、というのが現在のコンプライアンスに対する世界の考え方だと思います。絶え間なく社会を取り巻く環境が動き続けている中、世界のコンプライアンスのものの考え方は、急速にリスクベースアプローチに寄っていると僕は考えています。

そして、このリスクベースのコンプライアンスアプローチこそが、民間がイノベーションを主導していくために不可欠なものの考え方であると思います。

僕がそのように確信しているのは、僕がシリコンバレーで勤務していた頃のコンプライアンスが、こういうフレームワークによっていたからです。当時は、これが何を意味しているものなのか、イノベーションの推進との関係でどのような位置づけで理解すればよいか、必ずしも明確に理解していませんでした。しかし、日本に戻ってきて、多くの日本企業が取り組んでいるコンプライアンスを見て、また日本の霞が関の行政庁の役人を経験し、第4次産業革命を前に立ちすくむ大企業の姿を見て、日本が第4次産業革命に勝ち抜いていくためには、日本社会がリスクベースのコンプライアンスアプローチをしっかり身につけることが不可欠だと考えるに至りました。

リスクベースのコンプライアンスアプローチとは何か、ご説明したいと思います。

民泊の事例からコンプライアンスを考えてみる

分かりやすくするために、具体例としてシェアリングエコノミーの代表格ともいえる民泊を見てみましょう。

(注)民泊については住宅宿泊事業法という法律が第193回国会で通過する見込ですので、今後はこの法律によって規律されることになります。

民泊事業は、住宅の空き部屋を持ちこれを有効活用したい人と、そこに泊めてもらいたい人をマッチングするサービスです。事業者はインターネット上にウェブサイトを開設し、空き部屋を有効活用したい人から空き部屋の情報や宿泊料等に関する情報を掲載してもらいます。泊まる場所を探している人は、これを見て条件の合う空き部屋の持ち主にコンタクトし、宿泊についてお互いに合意できれば、お金のやり取りをします。これで宿泊者は空き部屋で宿泊することができる、というものです。

他方、旅館業法は、「旅館業を経営しようとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあつては、市長又は区長。)の許可を受けなければならない」と規定しています。旅館業にはホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業と下宿営業があります。そのうえで、「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」は、1月以上人を泊める下宿営業でなければ簡易宿所営業にあたると規定しています。

民泊は、友人を家に泊めることとの延長線で、インターネットで知り合った個人を自分が管理する住宅に泊めてあげるというコンセプトです。こうしたコンセプトは、もともと旅館業法が制定された時点では当然のことながら想定すらしていません。米国などでは、以前から移民が米国に入国する際に生活の本拠を定めるまでの期間、住むことができる場所を提供するサブレットというものが普通に存在していたりします。

ところが、個人がインターネットで知り合った色々な人達を泊めてあげることによって、これは簡易宿所として規制されている民宿と変わりがないのではないかということを言い出す人が出てきます。こうした人は、多くの場合サービスが広がることで自らのビジネスに影響が出てくる人だったりするわけですが、いずれにしても、無登録の旅館営業を助長するサービスは問題であるとして、民泊事業者を問題視するということをします。

リスクベースアプローチのコンプライアンスは、こうしたときに、まずこうした民泊プラットフォーム事業を行う場合のリスクが何なのかを特定します。旅館業法はマッチング自体を何も規制していませんので、ここでありうるリスクとしては、空き部屋に泊めてあげる人が旅館業法の無許可営業として刑事罰に課されるときの幇助犯として評価される可能性、ということになります。また、民泊で問題が起こった場合に世間から非難されるといったレピュテーション低下のリスクが考えられます。

そのうえで、このリスクを評価します。そのリスクがどの程度重大なものなのか、何か対処が必要な程度に重大なものであるか、といった評価です。そして、この評価に応じて、リスクを管理可能な範囲となるまで一定の措置を講じます。この措置をどの程度講じるべきかは、リスクをどの程度と評価したかということと、リスクの発現を防止するためにどの程度の措置が必要であるかというその事業者自身の判断によって変わってきます。

全ての空き室の提供者に対して、簡易宿所の許可をとらせるという措置をとる事業者もいるでしょうし(旅館業法はあくまでそれを「営業」として行う人のみ許可を取る必要があるといっているだけですので、法律はここまでやれとは言っていないわけですが、そういうコンプライアンスの方法もあるということです。)、空き室の提供者に対して、営業として行う場合には簡易宿所の許可を取ってくださいということを告知するような対処をする事業者もいるでしょう。さらに、これはむしろ法律が現代社会に適合していないということで、法改正のための活動に経営リソースを投じるという事業者もいるでしょう。リスクベースアプローチからするコンプライアンスからすれば、自らリスクを特定、評価した上で、それに対する適切な対処を講じている以上は、どれを行うかはそれぞれの事業者が自らの責任で決めることです。

そのやり方が世間の範や期待から大きくずれていれば、その事業者は批判されるでしょうし、その声を無視していれば、無許可営業幇助として警察権が発動する可能性があるということです。自らの責任で決めたコンプライアンスの対処方法に対して、その結果を自ら受け止めるというアタリマエのことです。

こうしてみた場合の「適法性」というのは、最終的な適法性はあくまで司法が判断するという大前提のもとでの、事業者自身が採用する、関連する法令に自らの事業が適合しているという主張(アーギュメント)のことを意味しています。そのアーギュメントが荒唐無稽の独自説であれば、世間を説得することはできず、世間の批判を浴び、警察権を始めとする行政権の発動までいくかもしれません(ちなみに、行政権の発動という事態を最終リスクの発現と見なければならないのかというと、必ずしもそうではありません。「行政」という、法律の最終解釈権を持たないものの、公共の福祉を守るための機関が採用する主張(アーギュメント)ないしポジションに過ぎないともいうことができるからです。そうしたコンプライアンス戦略を立てる事業者は、最終の決戦は法廷での勝負に持ち込み、勝つことに見定めているということになるでしょう。)。その意味で、ビジネスの「適法性」の確保というのは、ビジネスが適法であるということについての説明可能性、アカウンタビリティのことを言うのだ、ということができるでしょう。

続きはこちらの記事をご覧ください。


1.金融取引の本人確認とは?

FinTechの実装が進むに連れて、本人確認が深刻な問題となってきています。

金融取引の本人確認は、専門的には「取引時確認」と呼ばれており、犯罪による収益の移転防止に関する法律(いわゆる犯収法)により定められています。

大雑把に言えば、金融事業者が顧客と金融取引をする際に、一定の事項を確認しなければならないというルールです。

金融業者は、人々に信用を供与したり、人々のリスクを引受けたり、人々が将来の収益期待と引き換えにリスクを取ることを可能にしたり、リスクやお金にまつわる様々なサービスを提供してくれます。金融業者が提供する様々な金融取引により、家計の資産が産業に供給されたり、逆に産業の収益が家計資産を増やすことに役立ったりしています。

こうした金融の円滑が維持・促進されることで、人の体に血液が回るように経済が円滑に回っていくことになるのです。

しかし、こうしたみんなの役に立つ金融インフラを悪用する人々がいます。犯罪やその他不適切な方法で得た利益を、金融取引を通すことで出所を分からなくしたり、別の資産に転換したりすることで、没収や追徴を免れたり、被害回復に充てることを難しくしたりすることができてしまいます。

また、テロリズムなど社会の安定を揺るがす組織犯罪は、資金が供給されなければ行うことはできませんので、こうしたテロリスト関係者に資金が回らないようにすることが、持続的な経済活動を行うための大前提といえます。

そこで、金融インフラを安定的に機能させる大前提として、金融取引がこうした悪い取引に利用されないようにするための一連の施策が必要になります。

こうした施策は、海外ではAnti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing(AML/CTF マネーロンダリング防止とテロ資金対策)とか、Anti-Money Laundering and Combatting Financing of Terrorism(AML/CFT)とか呼ばれています。犯収法は、日本におけるAML/CFTの中心となる法制ということになります。

AML/CFTは、一国でやっても意味がありません。金融取引は容易に国境を超えますので、テロリストや犯罪組織は、最も規制の緩やかな国を狙ってマネーロンダリングやテロ資金集めをするはずだからです。そのためにAML/CFTは、特に国際的な基準を定めて各国が協力することが必要な分野なわけですが、国際的にAML/CFTのスタンダードを定めているのがFinancial Action Task Force (金融活動作業部会)、略してFATFです。

FATFはスタンダードセッターとして40のRecommendation(勧告)を公表しています。G20に所属する各国は、組織犯罪防止やテロ資金供与の防止を目指して、FATFの勧告に沿ったルールを自国にインストールすることが国際的に義務付けられています。

この義務付けは参加国同士のピアプレッシャーにより担保されており、各国は勧告への遵守度合いについてIMFの査察を受けることになります。IMFは査察の内容を公表し、遵守度合いを格付けします。こうして各国のレピュテーションに訴えかけることで、FATFは勧告を遵守させようとしているわけです。

2. FATF勧告と日本

実は日本は、FATF勧告を遵守することにかけては世界の中での劣等生です。

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About

増島雅和/Masa_Masujima

M&A、コーポレートファイナンスを専門にする弁護士です。 日本経済の復活のためにはリスクキャピタル供給が不可欠との信念から、金融業者のガバナンスと投融資案件、ベンチャー・ファイナンスを中心に活動。 ナナロク世代の一員として、情報産業の観点から金融業をとらえ、IT企業による活動を特にバックアップ中。

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