FinTech時代の本人確認はどうあるべきなのか(前編)

Masa Masujima
3 min readApr 23, 2017

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1.金融取引の本人確認とは?

FinTechの実装が進むに連れて、本人確認が深刻な問題となってきています。

金融取引の本人確認は、専門的には「取引時確認」と呼ばれており、犯罪による収益の移転防止に関する法律(いわゆる犯収法)により定められています。

大雑把に言えば、金融事業者が顧客と金融取引をする際に、一定の事項を確認しなければならないというルールです。

なぜ本人確認が必要なのか

金融業者は、人々に信用を供与したり、人々のリスクを引受けたり、人々が将来の収益期待と引き換えにリスクを取ることを可能にしたり、リスクやお金にまつわる様々なサービスを提供してくれます。金融業者が提供する様々な金融取引により、家計の資産が産業に供給されたり、逆に産業の収益が家計資産を増やすことに役立ったりしています。

こうした金融の円滑が維持・促進されることで、人の体に血液が回るように経済が円滑に回っていくことになるのです。

しかし、こうしたみんなの役に立つ金融インフラを悪用する人々がいます。犯罪やその他不適切な方法で得た利益を、金融取引を通すことで出所を分からなくしたり、別の資産に転換したりすることで、没収や追徴を免れたり、被害回復に充てることを難しくしたりすることができてしまいます。

また、テロリズムなど社会の安定を揺るがす組織犯罪は、資金が供給されなければ行うことはできませんので、こうしたテロリスト関係者に資金が回らないようにすることが、持続的な経済活動を行うための大前提といえます。

そこで、金融インフラを安定的に機能させる大前提として、金融取引がこうした悪い取引に利用されないようにするための一連の施策が必要になります。

こうした施策は、海外ではAnti-Money Laundering and Counter-Terrorism Financing(AML/CTF マネーロンダリング防止とテロ資金対策)とか、Anti-Money Laundering and Combatting Financing of Terrorism(AML/CFT)とか呼ばれています。犯収法は、日本におけるAML/CFTの中心となる法制ということになります。

世界中でやらないと意味がない

AML/CFTは、一国でやっても意味がありません。金融取引は容易に国境を超えますので、テロリストや犯罪組織は、最も規制の緩やかな国を狙ってマネーロンダリングやテロ資金集めをするはずだからです。そのためにAML/CFTは、特に国際的な基準を定めて各国が協力することが必要な分野なわけですが、国際的にAML/CFTのスタンダードを定めているのがFinancial Action Task Force (金融活動作業部会)、略してFATFです。

FATFはスタンダードセッターとして40のRecommendation(勧告)を公表しています。G20に所属する各国は、組織犯罪防止やテロ資金供与の防止を目指して、FATFの勧告に沿ったルールを自国にインストールすることが国際的に義務付けられています。

この義務付けは参加国同士のピアプレッシャーにより担保されており、各国は勧告への遵守度合いについてIMFの査察を受けることになります。IMFは査察の内容を公表し、遵守度合いを格付けします。こうして各国のレピュテーションに訴えかけることで、FATFは勧告を遵守させようとしているわけです。

2. FATF勧告と日本

FATFコンプライアンス劣等生、日本

実は日本は、FATF勧告を遵守することにかけては世界の中での劣等生です。

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Masa Masujima

Masa is a senior partner at Mori Hamada & Matsumoto, one of the top Tokyo headquartered law firms. Specializes in financial regulation and tech transactions