FinTechの正体

Masa Masujima
19 min readAug 1, 2015

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ここのところFinTechがバズワードとなって、政府や既存金融機関のFinTechに対する注目も高まっています。

もともと金融はシステマチックな事務処理が日常業務の中心を占めるため、ITとの相性は良く、一世代前のベンチャーブームの際にも、IT企業が次なる成長分野としてネット金融分野にこぞって参入したのは、まだ記憶に新しいことかと思います。

今回到来しているFinTechの流れは、こうした過去の金融IT分野の革新の動きとなにか違うものがあるのでしょうか。それともベンチャービジネスにはしばしば見られる過去のブームの焼き直しに過ぎないのでしょうか。

この答えは、見ようによってはイエスとも言えノーともいえるのですが、例えばEC分野に現在起こっている革新を一世代前の革新とは異なるものと見るのであれば、今回のFinTechの概念は間違いなく一世代前の金融ITの分野で語られていたものとは異質のものと見るべきだと思います。

バズワード化した概念の本質を見抜く作業はいつも困難です。現在のFinTechの概念の特徴は、FinTechをやられている当事者にも既存の金融界隈の人たちにも、非常にとらえどころのないものに映っているように思います。既存の金融業に携わる皆さんと仕事をさせていただきながら、最新のIT系スタートアップ、FinTechスタートアップの皆さんともお仕事をさせていただいている立場から、今起こりつつあるFinTech革命の本質と僕が考えていることを皆さんと共有したいと思います。

概要

一言で言うと、今回のFinTechの概念は、これまで音楽業界や出版業界に押し寄せ、これらの業界を飲み込んでいったITの本質的な威力が遂に金融ビジネスに及んでくる現象を表現するものです。

これまで繰り返されてきたイノベーションの図式で言いますと、これまで金融機関は顧客に対して最適なサービスを提供しようと尽くしてきたからこそ、新たに出現するイノベーターの後塵を拝するという図式が、金融のコア業務に生じつつあるということです。

そして、今回進みつつあるFinTechベンチャーの戦略は、これまた過去にイノベーターに破壊的創造をしてきた他の業界と同様、一見すると競争にならないようなサービスがこれまで金融機関が注力してきたマーケットとは異なるマーケットから、全く異なる事業モデルで攻め入るという戦略を採用しています。

金融業の本質

今回のFinTechがこれまでの金融ITサービスと大きく異なるのは、まずITに関する技術的背景が挙げられます。このことを説明するために、まず金融業というビジネスの本質を押さえておきたいと思います。

金融業というのは、リスクを移転ないし仲介するビジネスです。銀行、保険、証券の三大金融ビジネスを例に具体的に見てみましょう。

まず銀行のビジネスは、資金の預かりと与信とを共に行うビジネスです。これは家計等から預かったおカネを元手に、おカネの貸付先を見つけて、これに信用を供与するという業務です。信用を生み出すために、貸付先の事業活動の状況を調査し、キャッシュフローを把握するなどし、これにマクロなトレンドや様々なデータを加えた分析の結果出てくる信用情報を生産する活動を行います。

銀行は、貸出先の信用情報を元に合理的な信用リスクをとることで、貸付利息と預金利息のさやをとるという、信用リスクの仲介をコア業務にしています。

保険ビジネスは、事業リスクを中心としたイベントリスクを仲介するビジネスです。特定のイベント(保険事故)の発生に関する期待値まわりのブレに対するリスクを管理したい保険契約者との間で、保険会社は、固定的なキャッシュ・インフローと確率論的に決定されるキャッシュ・アウトフローを交換します。この交換を実現するために、イベント(保険事故)に関するデータを集積し、集積したデータを分析することで、交換価値の原価(純保険料)を測定します。これに様々な事業費を乗せて営業保険料を算出し、契約者に課金します。
保険ビジネスは、特定のイベントに対する発生リスクに関するデータをもとに、その期待値まわりの変動リスクをとることで(保険引受リスク)、そのプレミアムを収受するというリスク移転をコア業務としています。

証券と銀行の決済業務は、ともに決済に伴うカウンターパーティリスクを仲介するビジネスです。資金や証券の移動を仲介し、利用者が安心してファイナリティを確保するサービスを提供します。

技術的背景

これらの金融業務を行うために、現在でももちろんITが活躍しているのですが、近時の技術革新によりITの技術的前提が革命的に進歩しました。

具体的には、以下の技術が重要です。

モバイル・ウェブ・センサー技術 まず、センサー技術により、これまでとは比較にならないほど大量のデータを生産することができるようになりました。このデータの大量生産の背景には、モバイル技術と通信技術が不可欠に結びついています。データ生産のためのセンサーは、多くモバイル端末に組み込まれ、又はモバイル端末を中継してサーバに集積されるためです。また、データにはセンサーから生まれるもののほかに、twitterやFacebookといったSNSが生む膨大なコミュニケーションデータがあります。これらのデータが統合されたこれまでとは次元が異なる個人データやモノに関するデータを生産することができるようになったことが第一の技術革新です。

通信技術・モバイル・ウェアラブルデバイス 大量の端末から、センサー等により生み出した膨大なデータを送信することを可能とした通信技術の進展があります。これは、モバイル端末の革新と歩調を合わせて、革新的なモバイル端末により生まれるユーザーの新たなニーズに応える形で整備されてきたものといえます。

クラウド技術 大量の端末から生産される大量のデータを統合的に集積する技術として、クラウド技術の重要性は強調されて良いと考えます。クラウド技術により、これまでとは異なる次元のコストで大量のデータの集積が可能になりました。

ビッグデータ解析技術 クラウド技術を用いて大量に集積されたサーバの情報を解析する技術が進展しました。これはハードウェア自身の進展とも大きく関連し、大量のデータを短時間で処理することが可能となった点に意味があります。

機械学習・人工知能 深層学習(ディープラーニング)を中心とした人工知能関連技術のブレークスルーにより、データ分析は、単に人間が立てた仮説の検証にとどまらず、コンピュータ自身が仮説を立てられるようになりました。そして今や、この仮説の精度は、人間が立てた仮説の精度を上回るものとなっています。

分散型決済技術 peer to peer技術を決済に応用することにより、ファイナリティの確保に要する様々な事務コスト、認証コストを外部化することに成功しました。ブロックチェーン技術に代表される暗号を用いた電子台帳技術がこれらを可能にしています。

技術革新がもたらす結果

以上の技術を組み合わせることにより、金融業のコア業務を支えるリスク情報生産の機能を代替することができます。

ここで重要なのは、単に代替できるということではなく、それが、既存の金融機関よりも圧倒的に安価なコストで、しかも既存の金融機関よりも高い品質をもって実現することができるというところにポイントがあります。

金融サービスというのはリスク情報生産を元とした仲介サービスですから、金融機関のサービス(金融商品)をどのように設計するかは、リスク情報生産とその仲介に必要な事務コストの制約を受けます。

一世代前の金融ITサービスというのは、インターネットという新しいディストリビューションチャネルによって、これまでの仲介コスト、販売コストを下げることを核とするものでした。つまり、ECビジネスがオフライン店舗をインターネット店舗に変えたということにとどまります。かつての銀行行政が店舗行政を重要な施策としており、また保険業のビジネスモデルはチャネルによって画されているという現状からすると、チャネル革命というのは、これ自身すごいことではあります。

しかし、FinTechの概念は、単に新たなチャネルが生まれ流通コストが下がったということではなく、コアとなる金融サービスの作り方自体を劇的に変えるものであるという点に、最大のポイントがあります。

すなわち、金融サービスの元となるリスク情報生産コストが、上記の各技術の組み合わせにより劇的に低下するということを意味するのです。

ここで想定されているものは、例えば以下のようなものです。

例1: スマート貸金業モデル

個人で小規模EC事業を行うA氏は、企業づとめをしているわけではなく、またECでの収入も不安定であるため、銀行からは借入れを受けることができないが、商売人としては堅実な商売をしており、あらぬ人たちとの付き合いもない。 A氏のEC事業における業績は、A氏にECビジネスの場を提供している事業者Pと、決済手段を提供しているQが把握しており、A氏の人間関係はA氏のSNSのアカウントに記録されている。 一般から資金を融通し、貸付を行う貸付型クラウドファンディング事業を運営する事業者Sは、P、Qと提携し、Pが開設するECマーケットのユーザーに対して、融資のソリューションを提供する。 融資を受けたいA氏は、事業者Sに対して、クラウドファンディングを用いた3,000万円の融資を申込み、事業者P及びQが保有するEC事業の履歴とSNSに蓄積された情報の提供を承諾する。事業者SはAPI経由でP、Q及びSNSにおけるA氏の情報を吸い出し、これを分析、必要に応じてウェブ上の公開情報やtwitter等にある関連する情報を収集して統合、分析することでA氏に対する貸付のリスクを割り出すシステムを構築しており、このシステムは、これらの情報に適宜レーティングやその他必要な情報を追加して自動的にクラウドファンディングサイトに掲載する機能を実装している。 掲載されると同時に、A氏のビジネスや履歴に興味がありそう、又はA氏への貸付に対して適合的なリスク選好を持っているクラウドファンディングサイトのユーザーに対してプッシュ通知を送信し、新たな投資機会を提供する。 これに興味を持ったクラウドファンディングのユーザーがA氏への貸付のための資金を拠出し、A氏は必要額を入手する。 A氏の返済についてはクラウドファンディングサイトがアカウントを通じてモニタリングし、返済が滞る状態が発生すれば事業者Qを経由してA氏に対して支払われるECビジネスでの売掛金から回収する。

例2: スマート保険モデル

ウェアラブルデバイスを提供するX社は、ユーザーの健康状態に関するデータを日々蓄積している。薬局に対してiPad用の無料会計端末ソフトを提供しているYは、端末からネットワークを通じて薬剤の処方に関するデータを日々蓄積している。 保険会社Z社は、X社とY社、更にフィットネス事業を提供しているP社と提携して、P社の会員に対して医療保険を提供する。医療保険は1年毎の更新型の商品で、その保険料体系は、P社の利用履歴に加えて、X社及びY社から入手したデータによって、年齢ごとに特定の疾病が発病するリスクを分析して保険料を算出するシステムを開発している。 P社のフィットネスクラブの会員Bは、各個人データの提供を同意してP社のウェブサイトから保険を申し込む。P社はB氏の情報をAPI経由でX社、Y社より提供を受け、これにフィットネスクラブの利用履歴に関するデータを加えたデータ群から保険料を割り出す。 必要な情報提供がなされ、B氏がその内容に満足すれば、保険を購入する。保険の利益はP社に開設されたアカウントから随時見ることができ、次回の保険料を安くするために必要な運動量、必要な検診の受検などをアドバイスする。

例3: 銀行APIモデル

銀行のコア機能(銀行口座、口座決済、AML/CFTモニタリング等)に対し、ユーザーが第三者のサービス(保険、少額決済、証券決済、資産運用、貸付等)に接続可能なAPIレイヤーが出現する。APIレイヤーを通じて、ユーザーは、サードパーティのサービスで蓄積した情報を様々に組み合わせることで、自身に対するより高品質かつ個別的な信用・リスク情報を創出するためのデータを金融サービス事業者に提供する。金融サービス事業者は、ユーザーから提供された個別的で高品質な信用・リスク情報を元に、自身が提供可能な金融ソリューションの内容とその価格を提示する。ユーザーは、複数の金融サービス事業者から提供された金融ソリューションの中から、自らのニーズに最も適合するソリューションを購入する。

上記例のいずれについても、おそらく既存の金融機関は単独で同等のサービスを提供することができないはずです。

なぜなら、そもそも金融機関はユーザーに関するこのようなデータを持っていません。現在持っている貸付部門なり引受部門なりがこれらのデータをとりに行くことは不可能ではありません。しかしながら、既存の組織を動員してこれらの情報を入手するために要するコストは膨大であり、サービスとしては提供することができないと考えられます。

では、そのようなサービスを提供するために、既存の部門をすべて放棄してこうしたサービスを提供することができるかというと、既存顧客の存在によってそうしたアクションをとる選択肢は実際のところないと言ってよいでしょう。

金融ソリューションはFinTechにより個別化される

金融サービスにおける情報生産コストの低下は、サービスの個別化を促すものと考えられます。

すなわち、従前の金融サービスにおける商品組成は、個別に収集して分析しなければならない顧客に関するリスク情報の生成コストを考えると、一定のマス向けの商品を型決めして提供せざるを得ないものと考えられます。ところが、FinTechにより実現されることが期待される世界では、こうした個人のデータ収集と分析がシステムを通じて自動的に行われるため、個人のリスク情報の1件あたりの生成コストは極めて小さくなると考えられます。

そうすると、多様な商品を揃えることで、ユーザーに最も適したサービスを提供することができると考えられますし、究極的にはオーダーメイドの金融サービスを提供することも可能になるように思います。すなわち、既存の金融サービスよりも圧倒的に高品質(≒効率的)な金融サービスを作ることができるということです。

IT関連サービスがユーザーごとの個別サービスとなるというのは、検索サービスでもECのレコメンドサービスでも同じで、個別化サービスを提供するための限界費用が極めて小さいというITの特性によるものですから、こうした動きというのはむしろ構造的なものとしてとらえる必要があるでしょう。

金融ソリューションはエコシステム型のモデルとなる

もう一つ重要な点として、FinTechによる金融ソリューションは、これまでの金融ビジネスのように単独の事業者によって完結するビジネスモデルではないということが挙げられます。

金融というのは、現実世界の合わせ鏡のようなもので、金融ソリューションそのもののニーズが現実世界と無関係に存在するものでは本来ありません。なぜなら、金融はリスクを仲介するビジネスであり、リスクは現実世界にその淵源を持つものだからです(金融の高度化により金融の世界で生み出されているリスクもありますが、リスクの本質からは外れるのでここでは割愛します。)。

特に、リスクに関する情報生産に当たっては、現実世界のデータを収集する事業者と提携することが必要です。こうしたデータ収集事業を自らの中に抱え込めばよいではないかと思うかもしれませんが、こうしたデータはなにも金融ソリューションのためだけに収集されるものではありません。むしろ、コミュニケーションであるとか健康維持であるとか、金融とは関係がない動機によりユーザーが事業者に提供するものです。また、こうしたサービスは、基本的にはネットワーク効果が働くことによってユーザーの利便性が高まるものですので、解析するに値する程度の量を伴うデータは、一定規模のプラットフォーム事業者が取り扱っています。

こうしたプラットフォーム事業者が収集するデータを色々と組み合わせて、ユーザーのリスクに関する情報を生成するのが、効率的でありかつ質の高いデータが取れるポイントとなるはずですので、したがって、金融業者は自らこうしたデータを集めて抱え込むことはできないのです。

更にいうと、FinTechによる金融ソリューションでは、いわゆる従前の金融業が担っていたコアサービスは、サービスの中心には来ない可能性があると思われます。

なぜなら、金融業がコア業務として提供していた貸付やリスク移転といったソリューションは、ユーザーがそれ自身が欲しいというものではないからです。ユーザーが欲しいのは、お金でも保険でもありません。ユーザーが真に欲しいのは、家であったり車であったり、健康で安心に生活できる日々であったりするなかで、それらを獲得する手段として借入れをしたり保険を購入したりするに過ぎません。

そうすると、貸付や保険や決済といったサービス・機能は、こうした現実世界におけるサービスに付随するものとして、これらの現実世界のサービスと一体となって提供されるということであると思います。

現在においても、自動車を購入する際に銀行や貸金業者から自動車ローンの提供を受けるという形で、入り口ないしチャネルの部分では連携がなされていますが、こうしたものにとどまらず、与信面や債権管理の面、更には商品組成面においても、他の事業者と連携して初めて商品が組成されるということになると考えられます。

こうした意味で、FinTechというのは、金融のコア業務である貸付や保険引受や決済といった機能を提供する者だけが該当するというものではありません。

そうではなく、例えばアカウントアグリゲーションサービスであるとか、クラウド会計サービスであるとか、セキュリティサービスであるとか、金融ソリューションを提供するためのリスク情報の生成や、サービスの安全性を高めるためのソリューションなどを提供する無数の企業が、新たな枠組みの金融サービスを提供するFinTech企業のエコシステムを構成するものととらえるべきだと思います。

なお、FinTechが、このように従前の金融業とは全く異なる姿で現れる可能性があるため、FinTechスタートアップが提供するソリューションは、一見、既存の金融機関の脅威に値しない、取るに足りないサービスであるように見える可能性があります。実際、現在のところFinTech企業が提供できているサービスは、金融のコア業務を脅かすほどのものではなく、ソリューションとしてもそれほど大したものではないと見えるものも多いかもしれません。少なくとも、金融機関が主力ビジネスとしている顧客層を奪うようなサービスには見えないでしょう。

スタートアップ企業が、ローエンドモデルから、その業界の主力顧客以外をターゲットとしてマーケットに参入し、これが既存企業にとって競合に見えないことから、既存企業はこうした分野への投資を行わない結果、顧客の強い支持を受けたスタートアップ企業がハイエンドサービスで既存企業の主力ビジネスに切り込むという絵柄は、フロッピーディスクにかぎらず様々なイノベーションのシーンで経験されたことがらです。

日本の対応

もちろん、現行の金融規制との関係で、こうした破壊的創造が直ちに実現するわけではない可能性はあります。例えば、日本における保険商品は認可制ですので、このような保険商品を金融庁が認可するかどうか不明であるといった話があります。

しかしながら、このような保険商品の仕組みを金融庁が未来永劫認可しないことの保証はあるでしょうか。むしろ、より柔軟な保険商品の組成を許容する各国からこのような保険商品が相次いで発売され、そのユーザーにとっての利便性ゆえに広く普及することで、なぜ日本ではこのような商品が提供できないのか、という論点が提起されるでしょう。利用者利便が向上する以上、このような商品を認可しない仕組みとなっているのであれば、その仕組み自体がバージョンアップされるべきであるという議論になる可能性のほうが高いのではないでしょうか。

また、個別化という姿についても、既存の金融における公序からは受け入れられにくい要素があることもまた事実です。

例えば、保険について個別化が進むことは保険難民を生むという議論が存在することは確かです。しかしこれは金融というよりはパブリックポリシーというべきもので、本来個別化された保険が得られればより安い保険に加入できた契約者の犠牲のもとに、よりリスクが高い人に本来のリスクを反映しない安い保険ソリューションを提供するという行為を強制することが、金融ビジネスにおいて公正であると評価されるべきかどうか、という論点と考えられるでしょう。

これには色々な考え方があるかと思いますが、もし保険が純粋なリスクマネジメント手段であると考えるのであれば、このような公共政策は公的保険でやってくれということになるでしょう。

すなわち、規制や現状の社会通念を根拠として、そのようなことは起こらないと考え、その可能性を想定しないことは、リスクであるということです。その想定を置かなかったことで、ビジネスモデルの根幹で勝てなくなってしまうということになるとすると、事業継続を最優先するべき金融機関としては、少なくともそのような事態が起こっても対応できるための対策は考えておかなければならないように思います。

ビジネスモデルの競争は、一国の中で閉じるものではありません。特に、金融が国民経済のなかで担う役割の重要性を考えると、日本全体の金融ソリューションの力が、規制に守られ他国に大きく劣るものとなるという事態を生じさせてはなりません。

金融の規制は、BCBS、IAIS、IOSCO等を中心とする金融監督者のコミュニティーを通じてコンバージェンスが図られており、グローバルなものです。同等性評価やピアレビュー制度によって、日本だけが異質なルールのままでとどまるということを許容しません。

そうであるとすると、なるべく早くに将来を見据えた形で規制を改革し、または将来の事業モデルの実験を許容するような規制と運用の枠組みを用意し、国内金融業者のFinTech事業者と手を携えた事業モデル改革を支援することで、先んじて実験を行い事業モデルを確立した海外の金融業者に国内市場を席巻されるという事態が起こらないよう、政府、既存金融機関とFinTechスタートアップが協働する枠組みを作らなければならないと思います。

こうした観点から、シンガポール金融当局によるSmart Regulationの取組みは注目されるべきであると考えます。この点は別のポストで改めて紹介したいと思います。

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Masa Masujima

Masa is a senior partner at Mori Hamada & Matsumoto, one of the top Tokyo headquartered law firms. Specializes in financial regulation and tech transactions