スマホ向け広告で儲けているのは広告媒体?いえいえ、携帯キャリアでした

消費者がパケット代として支払ってる金額は、上位50のニュースサイトが広告であげる収入の16.6倍

Haruo Nakayama
7 min readNov 29, 2015

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New York Timesがすばらしい記事を公開しています。内容を少し紹介しましょう。「50のニュースサイトにおけるモバイル広告のコスト(英語)」というタイトルのこの記事によれば、調査対象のサイトを記者たちが閲覧したときのデータ通信量が、iOS 9で導入されたコンテンツブロッカーのおかげで大幅に削減されたそうです。記者たちはその理由を、「データ通信量の半分以上が広告などのコンテンツで、いずれも広告ブロッカーによってフィルタリングされたから」と説明しています。具体的には、以下のようなケースが紹介されていました。

Source: New York Times (訳注:ブロッカーなし→178ファイル/6.2MB/12秒、ブロッカーあり→20ファイル/1.7MB/3秒。広告配信のために使われている巨大なスクリプト郡の影響が大きい、という分析。)

この記事を読んで以下の2点が気になったので、ちょっとした計算をすることにしました。

  1. こういったサイトの記事(と付随する広告)を閲覧するときに発生するデータ通信料はいくらか?(アメリカ国内大手携帯キャリアの一般的な携帯プランで計算)
  2. 調査対象サイトの訪問者1人あたりの広告収入はいくらぐらいか?

データ通信料:アメリカ国内のスマホユーザーは、1人あたり毎月1.8GB分のデータ通信を使っているそうです(Mobidia)。よって、今回は「最低でも月2GBのプランを契約する必要がある」という前提で計算しました(使っていない分は返金される、という話を聞いたこともありませんし)。Consumer Reportsによれば、Verizon や Sprint の2GBプランは月50ドル、T-Mobile や AT&T の3GBプランは月60ドル/65ドルだそうです。1GBあたり22.92ドル、1MBにすると0.0224ドルかかることになります(New York Timesの計算ではそれよりも低くなるようです)。

ページあたりのデータ量:計算にはNew York Timesのデータを使用しました。まずこの表の「data usage」から、「調査対象の50サイトから記事と広告をダウンロードしたときのデータ通信量」を集計します。続いて、New York Timesが算出した「スマホユーザーのひと月あたりの調査対象サイト別訪問時間」(計算の根拠はピュー研究所が集計したcomScoreのデータ)で、前述の集計値を割ります。つまり、今回の計算は、「ユーザーは1サイトにつき1ページしか表示せず、かつそのページを読むのに1.4分(EliteDaily.com)から3.5分(BleacherReport.com)をかける」という条件が前提になっているということです。なお、New York Timesの調査は、各サイトのトップページを使っておこなわれたそうです。個人的には、トップページよりも各記事のページのほうが広告の量は多いとは思いますが、同紙の調査、私の調査ともに、かなり控えめと捉えて問題ないといえます。そして、最終的に、この計算から調査対象50サイトそれぞれの「滞在時間1分ごとの通信量」が導き出せました。

モバイル広告収入:2015年8月の IAB プレスリリースによれば、2014年のアメリカ国内のモバイル広告収入は、140億3200万ドル程度と推定されているようです。ただし、この金額にはアプリ内広告、ブラウザ内広告、検索型やメッセージ型の広告が含まれているため、今回の調査で使うには過大な値となってはいます。ページあたりのデータ量と同様、控えめな調査結果につながる一因となりそうです。続いて、この値を「1分ごとのモバイル広告収入」に換算するため、Nielsen が作成した2015年第2四半期の Total Audience Reportを使用します。このデータによれば、アメリカ国内のスマホユーザー(18歳以上に限る)は、1日90分をスマホでアプリを使ったりネットを見たりして過ごしているそうです(2014年の「85分」から増えています)。90分の内訳がどうなっているかを突き止めたいところではありますが、Facebook や Twitter のアプリを使っている時間もそこに含まれているわけですから、この値をそのまま採用しても問題ないでしょう。

アメリカ国内スマホユーザーの時間の使い方:上述の Nielsen の調査は1億7,500万強のアメリカ国内スマホユーザーを対象としていますので、1日あたりのべ158億分がスマホアプリ/スマホでのネット閲覧に費やされたことになります。そして、そこに365をかけた「1年あたりの総のべ時間」でモバイル広告収入の140億3,200万ドルを割ると、アメリカ国内スマホユーザー(18歳以上)が1時間スマホでアプリやネットを使うごとに、0.15ドルのモバイル広告収入が広告媒体に発生していることがわかります。

では、これらの値をすべて加味してわかることとは……

まず、「1分ごとのデータ通信量」と「1MBあたりの平均データ通信料」を掛けた値をサイトごとに求めます。さらに、求めた値を各サイトの月間ユニークモバイルユーザー数で重み付けします(データ通信量が多いサイトほどウェイトが大きくなります)。そうやって求めた値を正規化して1分あたりに換算すると、サイトごとの通信料は0.01ドル/分から0.24ドル/分であることがわかります。最後に、広告収入の平均値0.0025ドル/分(1時間あたり0.15ドル)に同様の重み付けを施したうえで、さきほどの1分あたり通信料と比較した結果がこれです。

トップ50のニュースサイトがモバイル広告であげる収入と比べると、それらのサイトをスマホで見るためにユーザーが支払う通信料は平均で16.6倍にもなる

Site analysis, All Rights Reserved 2015

脚注

インターネット全体で見ても、ここ数年で各ページのデータサイズはとても大きくなっているようです。HTTP Archiveによれば、ここ3年で倍以上に増加しているとのこと。

直近のデータによると、2015年9月には、平均で2,182KBにまで増加しているようです。内訳ですが、JavaScriptが354KB、画像が1383KB、Flashが63KB(明らかに減ってます)、CSSが71KB、フォントが111KB(!)、実際のHTMLはわずか56KB。ダウンロード元のドメイン数は平均で18でした。

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Haruo Nakayama

ex-Medium Japan translator. Trying hard not to get “lost in translation”. 元Medium Japan翻訳担当。