「Medium で記事を公開
するのに一番いい時間帯を教えてください」
そんなものはありません。

Haruo Nakayama
7 min readJun 12, 2015

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「Medium に記事を公開するならどの時間帯が一番いいですか?」いろんな質問がくるけれど、圧倒的にこの質問が多い(もちろん、「記事を読むために費やされる時間」をできるだけ長くするためには、だ。これが Medium で最重要の指標)。答えはこう。

いつだっていいよ。

ほんとに。

実際に鍵となるのはこの2つ。

  1. どれだけ努力して、人を惹きつける文章を書こうとしているか
  2. 何人フォロワーがいるか

これらをきちんと考慮しておけば、公開の時間帯はどうでもいい。これから、この結論の裏付けとなる10のチャートを順を追って見てみよう。

1 | 公開の時間帯

まずはじめに調べるべきは、「記事がいつ投稿されているか」だ。以下のチャートでは、投稿時刻3時間ごとの投稿記事数をプロットした(注意:今回の分析に用いたチャートでは、人気最上位の記事(全体の1%)を除外した。そうしないと分析結果がおかしくなってしまう。人気の原因は「投稿時刻」ではないわけだから)。

おどろくようなことはこの時点では特にない。

  • 投稿数が一番多くなる時間帯は6時~15時(太平洋標準時)。25%ほど多くなる。
  • 投稿数が一番多いのは平日。週末とくらべて50%ほど多くなる。

2 | Total Time Read(TTR) の平均

次に、投稿時刻3時間ごとの記事別平均 TTR(total time read の略。総閲覧時間。)を見てみよう。

こんな風に思ったのではないだろうか。「やっぱり!アクセスが多い時間帯に投稿した記事の方が閲覧数が多くなるんだ。」

確かに、一見そう思えるグラフではある。裏付けとなる差異もはっきり出てはいる。アクセス数が最大になる時間帯(ピーク時)に投稿された記事は、そうでない記事とくらべて TTR が3倍にもなるわけだから。

だが、すべての投稿が平等にその条件に当てはまるわけでは決してない。

3 | 平均単語数

記事の違いを分析する手始めとして、まずは単語数を検討してみる。

平均すると、ピーク時に投稿される記事は一貫して長文になる傾向があるようだ。これは意外だった。投稿日時と記事の長さ、どう関係があるのかが見えてこない。この点については次に詳しく説明するので、ひとまずそれらしい仮説、「長文記事で TTR が大きくなるのは、単に読むのに時間がかかるからだ」を挙げておく。単語数を正規化すれば、この仮説を検証できるはずだ。

4 | 単語別平均 TTR

記事ごとの TTR ではなく、単語別の TTR を見てみよう。

同じような傾向があることがわかる。記事の長さを考慮から外しても、ピーク時に投稿される記事の TTR は平均して大きくなるのだ。

だが、ここで別の疑問が生じる。ピーク時に投稿される記事のほうが長文になるのはなぜか、という疑問だ。ひょっとすると他に要因があるのかもしれない。具体的には「記事の質」だ。仮に、そういった記事のほうが質が高いのだとすれば、記事が長くなりがちなことや TTR が平均して大きくなることも説明がつく。とはいえ、品質ほど主観的なものを定量的に計測するのは実際のところ難しい。ひとつ、可能性として、執筆者がその記事に費やした時間の多寡を考えてみよう。

5 | 平均執筆時間

以下のグラフでは、執筆者が Medium の Web 編集ツールを使っていた時間を調べることで、記事ごとの執筆時間を比較した。

ここでもまた同じ傾向が確認できる。ただ、これも文字数の多さが影響している可能性があるため、正規化してみる必要がある。

6 | 単語ごとの平均執筆時間

続いて単語ごとの平均執筆時間を調べたところ、以下のようなグラフになった。

少しずつではあるが、全体像が見えてきたように思える。ピーク時に投稿された記事は単に長文だというだけでなく、執筆者は1語1語により時間をかけて記事を書きあげているようだ。これはつまり、そういった記事は質が高いというさきほどの発想ともつながってくる。ではここで、単語ごとの平均執筆時間と高い TTR にどういった関連性があるのかどうか、執筆時間を正規化して確認してみよう。

7 | 執筆時間ごとの平均 TTR

以下のグラフは執筆時間ごとの平均 TTR(執筆時間に対する ROI ともいえる。)を示している。

ここでも傾向は変わらないが、これまでほどはっきりはしていないようにも見える。執筆時間を正規化した結果、最初に挙げたチャートと比べてピーク時と非ピーク時の差異が3分の1ほど減少したのがわかる。

とはいえ、執筆時間だけで「品質」が測れるわけではない。他にも考慮すべきことはある。具体的には、執筆者がいい記事を書くようになると、徐々にファン(フォロワー)の数が増えていく、ということだ。

8 | 平均フォロワー数

ではここで、執筆者の Medium 上のフォロワー数を記事ごとにプロットしたグラフを見てみよう。

いびつなグラフではあるが、これまでと同じ傾向がまだ残っていると言っていいだろう。ピーク時に記事を公開する執筆者のフォロワー数は、平均と比べて2倍程度であった。これも同じように正規化してみよう。

9 | フォロワーごとの平均 TTR

執筆者のフォロワー1人あたりの TTR を以下のとおりグラフ化した。

これまでの傾向がここでようやっと崩れることになる。つまり、最初のグラフで示した傾向の元となっていたのはフォロワー数だということだ。一方、TTR のほうは非ピーク時になると必ず落ち込んでいる。執筆時間も加味するとどうなるかも確認してみよう。

10 | フォロワー別執筆時間ごとの平均 TTR

フォロワー別の平均 TTR を執筆時間で割った結果(完全正規化状態)が以下のグラフだ。

ピーク時と非ピーク時の差がなくなった。これこそが冒頭に挙げた質問に対する答えだ。

結論:フォロワー数と執筆時間を正規化した結果、記事の公開時間と TTR の間には相関性がないことがわかった。

実際のところ、なにが起こっているのか

押しなべてみれば、ピーク時(太平洋標準時で平日の午前6時から午後3時)に投稿された記事のほうがいい数字が出るというのは間違ってはいない。だが、そういった記事には別の特徴もある。具体的には

  • ピーク時に投稿される記事は長文であることが多い。
  • ピーク時に投稿される記事は書きあげるのにより時間がかかることが多い(1語1語に時間がかかる)。
  • ピーク時に投稿される記事を書く執筆者はより多くのフォロワーがいることが多い。

つまり、これらの記事には多くの労力が注がれており、かつ執筆者は大勢の関心をひくことができる人たちだったのだ。記事の質も他と比べればきっと高いのだろう。様々な要因を正規化した結果、公開日時が意味を持たないことがはっきりした。

では最後に、元の質問に戻ろう。「記事を公開するならどの時間帯が一番いいですか?」いつだっていいよ!

なにより大事なのはいい文章を書くことと、それをきっかけにしてフォロワーを増やしていくことだから。

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Haruo Nakayama

ex-Medium Japan translator. Trying hard not to get “lost in translation”. 元Medium Japan翻訳担当。