いつものコーヒー

佐々木秀和 Hidekazu Sasaki
2 min readApr 14, 2017

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「マスター、いつものやつで」

小学校のころ、こんな台詞にあこがれました。

頻度高く行くファーストフードがあり、ホットコーヒーだけ頼むのですが、頻度高く行くと顔を覚えてもらえ、いつも対応してくれるお兄さんは僕が入り口から入るのを確認すると同時にホットコーヒーを入れてくれます。注文も聞きません。すっとホットコーヒーが差し出されるので、僕は料金をすっと渡します。そしてお互いありがとうを言います。

最初はマニュアルどおり、「ご注文はいかがいたしますか。店内で召し上がりますか、テイクアウトにしますか。コーヒーの砂糖・ミルクは一つでいいですか」なんてことを聞かれていました。

それがいつしか何も言わなくても通じるようになりました。

ときどきそのお兄さんがお休みのときに別のかたが対応してくださるのですが、マニュアルどおりの対応です。

ファーストフードなんだからマニュアルどおりがむしろ普通じゃないか、と思いつつも、お兄さんの対応に慣れてくると、受け答えが面倒になるし、顔を覚えてくれていることに温かさを感じるのです。

最近、このファーストフード店は、内装工事があり注文の受付方法も変わりました。

今まではレジで注文を受ける人が、商品も渡していました。内装工事後は、レジで注文を受ける人と、商品を渡す人が別々になり、商品を渡すところでは番号を示す電光掲示板ができました。準備ができた人から番号で呼ばれるのです。

確かに運営するお店側としては効率化という意味合いでいいのかもしれません。

でも、リニューアル前のようなお兄さんの行動はもう見ることができなくなってしまいました。お店に入り、すっとホットコーヒーが出てくるというのはなくなったのです。顔を覚えてもらって、いつものコーヒーを出してもらい、ありがとうを言いあう。そんな人の温もりが消えてしまったようです。

お店は確かにキレイになったけれど、僕の中ではリニューアル前よりも遠い存在になりました。

事業会社で仕事をしていると、効率化という視点でどうしても動かなければならないケースはあります。でも、それがいきすぎると、肝心のお客さまの心も離れかねないということを、上記の例で感じました。

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佐々木秀和 Hidekazu Sasaki

WEB制作会社でのディレクターを経て、事業会社でディレクターをしています。表側(お客さま)の世界と裏側(運営者)の世界とをつなぐお仕事です。太鼓や篠笛を聞くのが好きで、休日は家庭菜園などオフラインの世界にどっぷりと浸かります。