HCDの人って結局何なの?正論めんどくさい人?って思ってたので3年前の自分の誤解を解く

ymtk
7 min readJul 17, 2017

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※2016/3に別ブログで書いた内容の転載です

人間中心設計(HCD)専門家になった

HCD専門家のディレクター山口です。この記事はほぼこれを言いたかったのと、社内で「(この忙しい時にそんな資格とって)なんかわからないけどそれって何ができるやつなんですか?」と言われたのでなんとかしたいと思ったのがきっかけです。

自分は前職の2012年頃から具体的に「UX界隈」な仕事をしており、客観的にやってきたことを棚卸ししてみようと思いHCD専門家認定試験を受け、合格したのが4月頭のことです。HCD専門家、試験に関わるまでは題名にもある通り「開発現場状況とか鑑みないでとりあえず海外の事例引っ張ってきて正論を持ってくる感じの人」というイメージを少なからず持っていました。

ただ、それって何となく見たスライドとか、見聞きしたことがベースだったり、身近なそういうのが好きな人の感じだったり、そういうイメージでなんとなく思っていたり、そもそもそこまで興味ないし知ろうとも思ってないよ、という感じの人の方が多いようにも感じます。

今回は、結局HCD専門家ってどんなことができる人で、現場的にはどんな役割を担う人なのかを、3年前の自分と弊社社員に向けてざっと説明したいと思います。

リリースまで走り倒せないとダメな役割 is 専門家

HCD専門家に求められる実務的なスキルセットを抜き出すと下記のとおりです。

  • 現状のユーザ課題を具体的に推測する
  • 調査計画を立てる
  • 定性、定量調査を行い、その結果を分析する
  • その結果を受けて仮説からユーザを幾つかモデル化する
  • モデル化したユーザに対してどのような機能、経験をさせるべきかを実現可能性を含め提案する
  • 提案した内容をもとにユーザーシナリオやコンセプトにまとめる
  • まとめた内容をもとに企画提案を行い、要求仕様をまとめる
  • 必要に応じて情報設計を行い、デザインを作成する(自分で作らなくともグラフィックデザイナーをディレクションする能力でOK)
  • 作成した結果をもとにプロトタイピングを行い、ユーザ調査、仮説検証を行う

……書き出してみるとなんだかたくさんありますが、認定試験ではExcel原稿用紙で52,898文字を消費するレベルだったので無理もありません。

実際は、それぞれに項目に対して「それをやる理由は何?」といった課題・目的設定を行い、実施後の振り返りやフィードバックが求められます。よくあるイメージとして「提案した内容をもとにユーザーシナリオやコンセプトにまとめる」をとりあえず渡されて、でどうするの?で終わってしまうイメージがありますが、本来は仕様策定しつつ、必要に応じてデザインだろうがプログラミングだろうが手を動かしてリリースまで走り倒すようなハードな役割ができて、はじめて専門家として成立しているのです。

すなわち、開発現場に対し正論を振りかざす人というよりは、実際に開発現場でディレクター的な役割を持ち、一緒にサービスを作る人というのが役割となります。こう考えると、いわゆる開発現場のディレクターがやっていることに対しユーザ調査とフィードバックを加えたことが、HCD専門家に近いように思います。あれ、全然めんどくさい人じゃなかった。

現場導入しつつ後進を育てられない人は専門家になれない

専門家の受験要項を見ると5年以上の実務経験が求められてます。手法を知って回せるだけであれば必要ないのでは?と思うのですが、実際は5年程度ないと必要な要件を果たせないと定義されています。その要件とは、組織の立ち上げやプロジェクトマネジメント、教育プログラム開発など、組織の中である程度の実績、経験がないと関われない領域を満たすことです。

受験要項 専門家:人間中心設計・ユーザビリティ関連従事者としての実務経験が、5年以上あること。 大学院在学中における実務活動は実務経験年数として含むことができます。 人間中心設計専門家としてのコンピタンスを実証するための実践事例が3つ以上あること。 学歴については特に制限ありません。http://www.hcdnet.org/certified/apply.php

この定義からすると、自分が当事者として動けるだけではスキルとしては足りません。プロジェクトマネジメント(立ち上げからチーム運営)と人材育成(教育プログラム作成や現場メンバー理解のためのプレゼン力、調査手法の選定力)までが必要です。

「正論振りかざして現場の理解を得られない人」はHCD専門家ではなく、ただのHCDが好きな人です。受験要項の質疑としても、教育プログラムや研究だけでは認定せず、実際に開発現場で相手がいる状態でどのくらいワークしたのかどうかで判断すると言われています。欧米のサービスデザイン事例をめちゃくちゃ知っている、というだけでは生きられない世界です。

じゃあUXデザイナーと何が違うの?HCD専門家がいたらビジネスが成功するの?

雑に言ってしまうとUXデザイナーと似たようなものだと思います。ただ、UXデザイナーは役割ですがHCD専門家は資格なのでそういう意味では違います。

UXデザインの定義自体、既に多くの人が語っており、定義する感じのものでもないよねという雰囲気があったり、別にそれはビジネス成功のノウハウではないと言われていたり様々ありつつ、HCD専門家は「明確にユーザ調査を含めた仮説立案と分析ができるスキル」「施策について要件定義しプロジェクトとしてチームを動かせるスキル」が第三者から見てもある程度担保されている人くらいの感覚が良いのかなと思います。

ビジネスの成功の話でいうと、僕も正直サービスをガンガン当てているディレクターではないのでなんとも言いにくいのですが、ビジネスの成功とユーザを見るということは似て非なることです。すなわち、誰を見るのか、どの市場を攻めるべきなのかはビジネスのスキルですが、そのユーザについての仮説を立てるのはHCDのスキルです。後者の人がいくら頑張っても、ビジネスターゲットとして選ぶべきユーザ群を見誤っていたらそれはビジネスとしては成立せず、ニッチなサービスが生まれるだけです。そういう点もあり、UXデザイナーは0→1よりもすでにターゲットがわかりやすい1→10の方がうまく稼動するという現実があるようにも思います。

資格認定って、自分に足りないことを思い出す作業

専門家はなんだかすごい人のように書きましたが、認定にはこれを7割以上満たすことが求められるため、実際はのこり3割についてはスキル不足していることもあります。はじめて転職しようとして職務経歴書を書こうとしたら書くことがない、といった経験がある方もよくいらっしゃると思いますが、UXデザイナーっぽい仕事を続けてきて資格認定の書類を書いている時も、まさにそんな気持ちになりました。

最終的には、現場でもワークしていて、なんとなくいろんなものが作れるようになっていて、という段階で自分のスキルを棚卸しできるのがよいことだなと思います。共通言語であったり、それにより自分の武器が増えればいいよね、くらいのものです。

IoTの業界でものづくりをはじめて、これまで自分がなんとなく見知ってきたWebやアプリとは全然違う観点が必要になってきたのが今回HCD専門家にチャレンジしてみようと思った一因です。ハードウェアに関わりだして、これちゃんとHCDのこと理解しないとやっていけないのでは…という危機感が、これまでの食わず嫌いを乗り越えるきっかけでした。

みなさんの身近で「あの役割なんなんだ…?」って思っている役割、ちょっと調べてみると意外に自分が思っているよりちゃんとした役割かもしれませんよ。

余談

受験のExcel原稿用紙がつらいので、HCD-netの中の人と仲良くなって来年度はWeb入稿にしたいです…

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