消え逝く民泊が残した遺産

Hiroki Fukuyama
11 min readMar 13, 2018

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写真は弊社が運営するホステル

Airbnbを中心に3,4年前から本格的に流行った民泊ですが、6月15日の民泊新法の施行とともにこれまでの民泊はその殆どが消えてゆくと言われています。

新法施行後は新たな民泊時代が幕開けするわけですが、実際には一部のホームステイ型民泊を除いて現在行われている殆どの民泊が収益的に立ち行かなくなり、消えていくでしょう。

ただ、この数年の民泊の勃興で今後の宿泊業界に大きな遺産をもたらしたと自分は思っています。そしてその遺産は今後の宿泊業界に大きな影響を及ぼすでしょう。
今後の宿泊事業に活かすためにも自分自身の備忘録としてまとめておきたいと思います。

1.対面サービスは必ずしも必要とされていない

これまでの旅館、ホテルは対面でのサービスが重要視されてました。おもてなし、といわれる殆どのサービスは人が介在する対面のサービスを指します。しかし、この民泊で明らかになったことは対面サービスは必ずしも必要とされていないということではないでしょうか?
Airbnbは人の家に泊まりに行って、交流し、その交流が新しいサービスの一つとして登場しましたが、体感的には日本の民泊の80%くらいは非対面です。東京に至っては90%以上でしょう。メールで部屋のインストラクションとともに鍵の位置が伝えられ、ゲストは自分でチェックイン、チェックアウトし、決済もネットで行われます。つまり誰とも会うことなく、ステイが完結します。殆どの場合ステイ中に清掃に入ることもありません。

こうした民泊がこれだけ広がったということは、言葉を選ばずに言えば、対面の仰々しいサービスや対面での情報提供や清掃はいらないから、その分値段やデザイン、設備に転化して欲しい、という旅行者が外国人を中心に沢山いたということでしょう。

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日本人にも浸透していたことを考えると、これはこれまでのサービスを考え直す十分なきっかけを与えてくれたと思います。現に最近は対面サービスを極力省いた民泊のサービス形態を旅館業の免許をとって行う施設も増えてきました。

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こうした形式の宿泊は人にかかる人件費、教育費、採用コストがかなりセーブできるのが特徴です。この人不足の時代に採用コスト、教育コストをかけずに行える業態はとても魅力的です。このトレンドは暫く続くと思います。

2.チェックインはいらない、現金決済もいらない。

民泊はクレジットカードの事前決済です。現金払いや銀行振込も受け付けてません。現状の旅館業法の帳場(フロント)のことを無視すると、ゲストは事前決済のみ、クレジットカード払いのみで良いということになります。

これは宿泊業を行う側からとると大きな変化です。事前決済のみであればNo Showで宿泊費を取りそびれる心配がなくなります。また現金を扱わないということは、釣り銭の用意やレジチェック、銀行への入金などの作業が全てなくなります。日本人は現金決済がとても多いですが、その日本でも現金決済がなくても宿泊業が問題なく成り立つ、ということを体感をもって宿泊業界が経験できたのは大きいです。これは今後の宿泊業界のチェックインを大きく変えることでしょう。個人的にはこの領域においてここ数年でイノベーションが起きると思っています。

3.宿泊業の民主化

自分はこれが民泊の一番の遺産だと思っています。最近流行りの言葉、「民主化」が宿泊業界でも起きました。

民泊以前は宿泊業は一部の土地持ちかそれなりの資本を持った企業のみができる事業と思われてはいなかったでしょうか?ましてや銀座や渋谷、新宿周辺の一等地でサラリーマンや学生が宿泊業ができるなんてことは誰も想像していなかったでしょう。しかし現在、法的問題、収益の問題は別として、民泊がすごく難しいことだと思っている人はいないでしょう。

民泊が民主化される過程で、小規模宿泊事業の分業体制が進み、またその構造も皆の知るところとなりました。土地、建物オーナー、投資家、代行業者、清掃業者、リネン業者、セットアップコーディネーター、カメラマン、様々なプレーヤーが生まれ、新規参入者がプロ、アマを問わず増え、上記関連のベンチャー企業もたくさん生まれました。

こうした民主化の流れに押される形でBooking.comやExpediaなど大手OTAも民泊に対応してきたのは象徴的な出来事だと思っています。

一旦現状の民泊は消えていきますが、これで自分でも出来ると考えた個人や企業はいずれ法律に則った形で沢山参入してくるでしょう。現に時を同じくして近年沢山の異業種参入が起きています。

もちろん民泊をみてというのはメインの理由ではなく、様々な理由があるとは思います。が、少なくとも経営者の心理的なハードルはかなり下がっているはずです。

自分がweb系の会社を経営している時、クラウドソーシングを通してデザインやHPが作れる個人と競争するということが起き始めましたが、非常に脅威でした。それと同じことが宿泊業界でも起きるでしょう。
ホテルにとって100メートル先にある雑居ビルがライバル、旅館にとって隣の民家がライバル、ということがドンドン発生すると思います。

4.民泊ベンチャーの勃興とサバイバル競争

民泊の盛り上がりとともに民泊ベンチャーが代行業者を中心に沢山誕生しました。しかし、この民泊新法は彼らにとってとてつもない逆風です。幾つかの代行業者は大手や別のベンチャーと連携し、宿泊業界での生き残りをかけます。彼らは既存の宿泊業界からというよりはむしろテクノロジードリブンな若い世代から生まれたベンチャーです。生き残ったベンチャーは数年以内に宿泊業界でイノベーションを起こすかもしれません。どんな分野でどんなことがまではここでは触れませんが、注目しておくと良いかもしれません。

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また、民泊を続けられなくなった一部の民泊ホストはスペース貸しや貸し会議室業に流れ込んでいます。民泊とスペース貸し事業は運営方法がにているため、転換がしやすいというのが理由です。
ここで注目されるのはスペースマーケットspaceeです。私は特に会議室に特化した形で、会議室のAirbnbのようなマーケットプレイスを運営しているspaceeに注目してます。

上場後初の決算でいきなり経常利益28億円を叩き出し、株価が爆上げしたTKPという会社があります。決算報告を見ると、TKPは関東で859の会議室を運営しており、例えば渋谷の会議室を見ると1時間あたり1坪400円〜500円で貸し出しています。一方Spaceeで同じような渋谷の立地の会議室を検索すると、1時間1000円で貸しているところがたくさん出てきます。坪単価にすると、1坪100円〜200円です。なんと、現状4倍程度の開きがあるのです!TKPは大型で、10坪前後のSpaceeの会議室は競合にならないという方もいるかもしれませんが、本当にそう言いきれるでしょうか?
民泊も5,6年前は英会話講師など在日外国人が副業で行っているような状況ですが、あれよあれよという間にファンドがマンション1棟で行うような状況になりました。

東京には20000件前後の民泊ホストがいると言われていますが、その5%が会議室に流れただけでも1000室の供給で、かなりの量になります。

ここに感度の高い起業家や投資家が目をつけるのは時間の問題ではないでしょうか。または鉄道会社や大手企業との提携がブレイクスルーになったecbo cloakのように大手ディベロッパーと組むことで劇的に状況が変わるかもしれません。spaceeのようなマーケットプレイスの認知度が上がれば上がるほど利用者が増え、供給も増えるようになれば、個人、企業が会議室マーケットに殺到し、既存の事業に襲いかかる日も近いと思っています。

この文脈で書くのは正しくないですが、民泊とも相性が良く、旅行業界において大きなイノベーションを起こしそうと自分が思っている企業を3つ蛇足で挙げておきます。

国内23万契約の無料スマホ「handy」、旅のプラットフォーム化に向け宿泊施設向けホテルシステム(PMS)メーカー・鍵メーカー8社と業務提携。

コインロッカー革命へ「ecbo cloak」がJRやメルカリとタッグ、1万店舗への導入と配送サービスの実現目指す

セーフィー株式会社、オリックス・関西電力など5社と資本業務提携 9.7億円の資金調達を実施

5.多種多様な部屋のニーズの掘り起こし

日本には超富裕層が泊まるホテルがない、といわれています。これは日本の宿泊施設の多様性のなさの証左だと思いますが、民泊では多種多様な部屋が誕生し、利用されました。

大部屋のニーズの顕在化、アートな部屋などのテーマ性のある部屋の誕生、超高級物件での宿泊、居住と宿泊の収斂、、、

民泊で見られた現象を思いつくままに書きましたが、それぞれが宿泊業のビジネスモデルに活かせるエッセンスだと思っています。星野リゾートも民泊をヒントにしたと思われる新しい業態のホテルを計画されています。

そしてこうしたニーズを捉えた宿泊形態は他にもすでに生まれてきてます。このテーマ毎の話だけでも色々と書きたいのですが、また別の機会にしようと思います。一つ例を挙げるとすれば、アートに特化した特徴あるホテルを供給するBED & ARTがその典型例です。先日オープニングイベントがあったBnA STUDIO Akihabaraは事業としてもとても可能性を感じるものでした。
こうした事例はこれからもっと増えて行き、日本の宿泊の多様化が進むことでしょう。

6.泊める側が客を評価するという革命

Airbnbの仕組みで決済とともに画期的だったのは間違いなくここだと思います。ネット業界では当然の相互評価ですが、宿泊業にはない仕組みでした。

「自分はパーティー・ピープルではないし、振る舞いもよい。静かにキレイに部屋を使うので、是非あなたの部屋に宿泊させて欲しい」こうしたゲストからホストへのアピール文は民泊の世界ではよく見られたことですが、宿泊業界にとってみれば大革命といってもいい出来事です。

民泊の終焉とともにこうした客の売り込み文も見なくなっていくとは思いますが、こうした宿側が客を評価、選別する仕組みはいずれ民泊とは切り離された形で出てくるでしょう。ブロックチェーンに結びつくかもしれませんし、アリペイなどに見られるトラストスコアなどの仕組みに結びつくかもしれません。または宿泊予約の仕方や質問内容をAIに学ばせて行くかもしれません。何れにせよ、民泊で宿側が客を評価、選別する仕組みを使い、その恩恵を十分に感じたプレーヤーはその有意性を感じているに違いありません。

最後に

民泊では沢山の遺産がありました。宿泊業界は旅館業の改正と相まって、これから4,5年で大きく変わるでしょう。

オリンピックまでは宿泊業界が隆盛とかそういう話ではありません。そもそも外国人観光客の宿泊は日本の宿泊の15%程度でいかないので、外国人観光客が多少増えたところで日本人の国内旅行のマーケットが縮小するとホテルは余ってしまいます。

むしろ宿泊業界に携わる者からみると、もはやホテルは過剰供給になり始めてます。しかし、オリンピックは日本の宿を世界にアピールする良いチャンスですし、オリンピックまでは観光業界にお金が集まるでしょうから、インフラも含めて大きく進化するチャンスだと思っています。

こうした中、多種多様な部屋、宿形態、サービスが生まれてくるとても面白い業界です。株式会社FIKAは基本的には外国人旅行者に快適で楽しい旅行をサポートするような宿やサービスを作っていきたいと考えてます。ただ、民泊の遺産をヒントに起こせるなら宿泊業界、観光業界にイノベーションを起こしたいという野望も持っています。

もし、この文章に少しでも引っかかるところがあれば、ご連絡頂けると嬉しいです。一緒に観光業界を変えて行きましょう!

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Hiroki Fukuyama

Webの会社に次いで2回目の起業をしました。現在神楽坂でUNPLANというホステルを経営してます。https://unplan.jp/ 今年中に4店舗を出店予定です。