ホラクラシー・タクティカルミーティング・ガイド

Hiroki Shimada
Jan 2, 2019 · 12 min read

タクティカルミーティングとは何か

ホラクラシー組織には、タクティカルミーティング(戦術的ミーティング)というミーティングプロセスがある。これは憲法で規定されている2つのミーティングプロセスのうちのひとつで、もう一方がガバナンスミーティングである。本記事では、タクティカルミーティングを実践するホラクラシー組織や、ホラクラシー組織への移行を検討している組織に向けてタクティカルミーティングを解説しようと思う。

タクティカルミーティングは、各ロールが持っているオペレーション(ガバナンスという型にしたがって執り行われる実際の仕事の遂行)についてのひずみを解決する場である。ホラクラシーでは、人を管理をしようとしないぶん、お互いの情報を透明化し、助けを求めたり自発的に助けたりしないといけない。タクティカルミーティングは、ひとつの問題をじっくり時間をかけて解決するよりは、サークルの持っている情報やひずみをサークル内で「共有」「同期」「透明化」するために行う

scoutyでは、サークルにはよるが週1で行っているサークルが多い。時間は平均すると30分、短いときで15分、長いときで1時間というかんじだ。

この記事は、Holacracy One のパートナーで認定ホラクラシーコーチであるChris Cowanによる Facilitating a Holacracy® Tactical Meeting やHolacracy One公式の Tactical Meeting Process を大いに参考にしている。

タクティカルミーティングプロセス

タクティカルミーティングは、Facilitatorの進行の下、下記のプロセスで行われる。

1. チェックインラウンド

今に集中するために、一人づつ雑念を発散する。他人の発言に対し口出しをしたりディスカッションしたりすることは禁止。

2. チェックリストレビュー

チェックリストレビューは、ルーチンがやられているかどうかを可視化するために行う。
Facilitatorは、チェックリストを読み上げて、該当するロールは、「チェック(完了した)」「ノーチェック(完了してない)」いずれかを答える。

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scouty の HRサークルのチェックリストの例

これは、scoutyのHRサークルでのチェックリストの例だ。見ての通り、すべてYES/NOで答えられるものになっている。

どのサークルメンバーも、新しいチェックリストを他のロールに対して、 その内容が責務で定められている限り、要求することができる。ただし、責務に規定されていない新しい期待をしてはならない。

  • 許されていること:明瞭化のための質問
  • 許されていないこと:意見、アクションの要求、ディスカッション

3. メトリクスレビュー

メトリクスレビューは、サークルの健康状態や成功に関連する定量指標を透明化するために行う。Facilitatorは、メトリクスのリストを読み上げて、該当するロールがメトリクスに関しての最新状態の報告を行う。

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scoutyのscouty(プロダクト)サークルのメトリクスの例

これは、scoutyのscoutyサークル(採用ツールであるscoutyプロダクトのサークル)のメトリクスの例だ。もしかしたらアンチパターンかもしれないが、scoutyでは、ユーザーヒアリングのサマリといった定量指標で表せないことも含める形にしている。数字に限定しない定期報告事項をメトリクスレビューに集めているイメージだ。

Lead Linkは、サークルのメトリクスを定義する責務を持ち、どのメトリクスをレポートさせるかに関しての決定権と、どのメトリクスがどのロールによって報告されるかを決める決定権も持つ。
サークルのメトリクスの要求自体は、Lead Linkのみならず(憲法 4.2.3)他のどのロールによっても行うことができる。

  • 許されていること:明瞭化のための質問
  • 許されていないこと:意見、アクションの要求、ディスカッション

4. プロジェクトアップデート

各プロジェクトの進捗が、それがアサインされている各ロールによってレポートされる。
Facilitatorは、各プロジェクトを読み上げ、「何かアップデートはありますか?」と聞く。プロジェクトにアサインされているロールの者は、「アップデートはありません」と答えるか、アップデート事項を伝える。(すべての成り行きではなく、前回との変化を伝える)

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scoutyのAlgサークルのプロジェクトの例

これは、Algサークル(アルゴリズムや機械学習に関する開発を行うサークル)のプロジェクトの例だ。各プロジェクトが開発プロジェクトに対応している。サークルによっては、GlassFrogのアクション機能を使わずに、粒度の小さいもの(「◯◯ミーティングの設定」など)もすべてプロジェクト化していることもある。

ディスカッションしたければアジェンダアイテムを付け加えて、トリアージする。

  • 許されていること:明瞭化のための質問
  • 許されていないこと:意見、アクションの要求、ディスカッション

5. アジェンダ構築

Facilitatorは、サークルメンバーに声をかけてアジェンダを募る。

また、会議中にアジェンダを増やすことも許される。
トリアージに入る前に残り時間をアジェンダの数で割ることで、ひとつあたりのアジェンダ時間を計算する。ひとつのトピックに深入りするよりも、全体をクイックにさらうことを目指す。Facilitatorがアジェンダの順番を定める。

6. トリアージ

トリアージとは、各アジェンダ項目をひとつひとつ処理していくことで、次のステップで処理される。

  1. 各アジェンダ項目に関して、Facilitatorは Agenda Item Owner(AIO)に対して、「何が必要ですか?」と尋ねる。
  2. AIOの要求を聞く。AIOは、他のロールを好きに巻き込んでディスカッションして良い。
  3. 次の5つの道のいずれかに着地させる。
    3–1. アクションを要求する:ひとつのアクションで終わる問題なら、ネクストアクションを作っておしまい。
    3–2. プロジェクトを生やす:何か特定の結果に対して、複数のアクションが求められるような場合は、プロジェクト化する。
    3–3. 情報共有をする / 求める:特にアクションがいらない場合は、情報共有で終わらせても良い。FacilitatorはAIOに、「情報共有して終わらせますか?それとも質問や意見が欲しいですか?」と聴いても良い。
    3–4. 助けを求める:AIOも何が問題なのかわからなくなったとき、他の人にそれをクリアにする助けを求める。
    3–5. ガバナンスアイテムを要求する:ロールに新しい責務を期待する場合は、ガバナンスミーティングのアジェンダとして上げる。
  4. FacilitatorはAIOに、「必要なものは得られましたか?」と聞く。

どんなことがあっても、FacilitatorはAIOの言うことに耳を傾けなければいけない。Facilitatorは、ひずみを解決する義務があるのではない。AIOに彼らのひずみを解決する場を創り出すことに義務があるのだ。

7. クロージングラウンド

参加者は一人づつ、会議で得られたアウトプットや感想を述べていく。他人の発言に対し口出しをしたりディスカッションしたりすることは禁止。

タクティカルミーティング VS 従来のミーティング

プロセスの決まっているミーティングは良い。

型が明確だと、総じてミーティングが早く終わるというメリットがある。型に従っている限りは、本筋から脱線しにくいからだ。ミーティングの終了条件が明確なのも重要だろう。時間が来たから終了なのではなく、クロージングラウンドまで行ったから終了、なのだ。

それにいちいちミーティング前にアジェンダを組み立てる必要はなくなる(もちろんそういうミーティングも時には必要だ)。組織にはミーティングを進行したり、アジェンダを作るのが苦手な人も得意な人もいるので、ある程度画一的なプロセスがあったほうが、ミーティングの質が属人化しにくいというメリットもある。独自の型でも良いが、タクティカルミーティングプロセスはよく考えられたプロセスなので、巨人の肩に乗ってみるのも悪くはないだろう。

状況報告と議論のフェーズが分かれているのが良い。

従来のミーティングでは、KPIの報告をすると、その報告の途中でたいてい「なんで今月のKPIはこんなに低かった?」「このKPI設定おかしくない?」「この数字の原因は何?」といった話が参加者から出てくる(そして参加人数が多いほどこの発生確率は高くなる)。それをストップするファシリテーターもいないので、これが発生すると延々と出口の見えない議論が始まり、いつの間にか会議時間が残り10分になり、それでようやく次の論点に行こうと誰かが言って会議がすすむ、そんな光景も珍しくない。

タクティカルミーティングでは、メトリクスレビュー・チェックリストレビューの際は議論は一切許されておらず、議論したければアジェンダアイテムに追加しなければいけない。これは一見ただフェーズを分けているようだが、次節で説明する通り、これだけでかなり議論の効率が上がる。

話し合っているアジェンダが共通化・可視化されるのは良い。

状況報告と議論のフェーズを分けるだけでも議論の効率は上がるが、それよりもアジェンダにタイトルがついているのが非常に重要なのだ。これによって参加者が今何を議論しているかが全体に向けて可視化される。それに、アジェンダの数が可視化されると、このアジェンダに何分かけられるかという共通認識が得られる。各アジェンダに対しては、AIOはFacilitatorに「何が必要ですか?」と聞かれるので、「KPIが低かった原因を分析するプロジェクトを生やしたい」「KPIが低かった原因について担当者の考えを共有してほしい」などと、求めるアクションが明確化しなければならない。

つまり、完全に正しい答えを出すことではなく、AIOが必要とすることを提供することゴールにしている点が重要なのだ。「なんで今月のKPIはこんなに低かった?」に対して正しい解を求めて議論をするとすごく時間がかかる。AIOが「その原因について担当者の見解を知りたい」だけなのか「原因分析のデータ分析を行って欲しい」のかによって論点はずいぶん変わる。タクティカルミーティングでは、それが最初から明確化されるので、1アジェンダ数分で終わるのだ。

ファシリテーター役が明確に決まっているミーティングは良い。

従来のミーティングでも、ミーティングの発起人やマネージャーがファシリーテーター役になり進行を行ったりアジェンダを決めたりはするが、ファシリーテーターとしての権限が明確でない事が多い。
ホラクラシーにおけるFacilitatorは、単なる進行役ではない。意見が分かれた際に裁判長のように最終判断を下したり、話が本筋から逸れたときに強引に話を戻したり、無駄な議論を止めたりする権限(と義務)がある。この役割が明確になっていると、議論が無駄に長引いたりすることが少なくなる。ホラクラシーのFacilitatorに関しては手順や方法論がある程度定まっているので、属人化しにくいというメリットも有る。

簡単な問題解決には従来の方法のほうがいいかもしれない。

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https://blog.holacracy.org/holacracy-governance-meeting-vs-conventional-group-problem-solving-7a56aa649398 より引用

これは Chris CowanのHolacracy® Governance Meeting vs Conventional Group Problem-Solving という記事から引用したもので、ガバナンスミーティングに関するものだが、タクティカルミーティングにも当てはまると感じる。問題の複雑性が増すほどホラクラシーの型に従ったほうがかかる時間は短くなるが、ホラクラシーの型はプロセスがしっかり決まっているので、ちょっと話合えば済むような話題には余計に時間がかかるという欠点はある。特にホラクラシーの型に慣れていない最初の段階では、上の図でいうとHolacracyの直線が全体的に上にシフトしたような形になり、煩雑さの方を強く感じるかもしれない。だから、しっかりと利益を享受するためには慣れが必要だ。

だが、実際にやってみた感想としては、ガバナンスミーティングよりはずっととっつきやすく、すぐに利益を享受できたという印象だ。タクティカルミーティングの形式自体はホラクラシーでなくても導入できるものであるので、Facilitatorを決めてチームの定例をこの形に変えるというのは普通の組織でも十分にありえる選択肢だ。

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