純ホラクラシー組織 scoutyのホラクラシー運用法のすべて

前回記事 ホラクラシー組織への誤解と本当の意味 では、日本で流行っている「ホラクラシー組織」という言葉は実は Bryan.J.Robertson が提唱し、アメリカで発祥した本来のホラクラシー組織の定義とはかけ離れた意味で使われていることを指摘した。

本来、ホラクラシー組織というものは組織の非階層性や情報の透明性などの文化で本質づけられるものではなく、ロール単位のガバナンスの表現と明文化されたホラクラシー憲法に基づき、組織のひずみを解消するプロセスを通じて権限分散を行った組織のことである。これを前述のものと区別して「純ホラクラシー組織」(※ 注1)と呼ぶとすると、日本における純ホラクラシー組織の例は極めて少ない。scoutyは純ホラクラシー組織として2018年3月から半年間ほどホラクラシー憲法を導入し、運用してきた。今回は、その運用の実態を紹介しようと思う。

※ 注1:もし純ホラクラシー組織をシンプルに定義づけるなら、それは「ホラクラシー憲法に従って運営をしている組織」のことだ。私個人の意見だが、純ホラクラシー組織でないなら、それは本来ホラクラシー組織ではないので、ホラクラシー組織とは名乗らないで欲しいという気持ちがある。

scoutyでのホラクラシー組織運用の実態

scoutyのホラクラシー組織図

複雑な概念というものは、定義をいちいち説明するよりは、実態を見ていただいた方が理解がしやすいだろう。そこで、今回は会社の広報にも許可を取り、scoutyのホラクラシー組織図を公開することにした。ホラクラシー組織図というのはあまりにもいろいろと詳細に定義があるので会社のいろいろな実態がバレてしまうことになるのだが、 我々は純ホラクラシーとしての先駆けとして日本へのホラクラシー組織の浸透に関して使命を持っているものと考えて、あえて今回組織図をオープンにしていくことに決めた。これが、scoutyの組織図の全貌だ。

GlassFrog - scouty
https://app.glassfrog.com/organizations/13494/

scoutyの本記事執筆時(2018年9月)のホラクラシー組織図

GlassFrog(Holacracy One が運営しているホラクラシー組織管理ツール)のURLからは、各サークル内のロールやそのロールの責務、アサインされている人 といった情報がすべて確認できるはずだ。

組織図というものは、普通「人」が構成要素となっているものだが、ホラクラシー組織図においてその構成要素は人ではなく、「ロール」となる。実際、この記事執筆時では社員は20名に満たなかったが、ロール自体は100以上はある。

前回の記事 では、

ホラクラシーの目的は仕事を体系化することであって人を組織することではない。

というBryanの引用をご紹介したが、この意味がおわかりいただけただろうか。scoutyのローカルルールとして、例外も多いが原則としてロール名は「人」を連想させるものではなく「機能」を連想させるものにするというものがある。たとえば「KPIマネージャ」ではなく「KPIマネジメント」といった具合だ。

ホラクラシー組織における各人のロール

このように、ホラクラシーにおいては組織が回っていくために必要な機能をロールとして書き出し、明文化している。各ロールは複数人アサインされることもあるし、一人が複数のロールを持つ。そこに役職は無い。私は、役職というのはいわば「ロールのセットのステレオタイプ」のようなものと考えており、たとえば「CEOは資金調達を行ったりビジョンを作ったりする人」といったいくつかの機能集合に対しての固有イメージなのだ。しかし、資金調達はCFOが行ったりする会社もあるし、CEOでもエンジニアリングをするようなタイプもいれば営業をするようなタイプもいる。このように同じ役職でも組織やフェーズごとにやることがコロコロ変わっていて、これを同じ言葉で呼ぶのは実はやや危険かつ大胆な発想なのだ。実際、CEOである自分がアサインされているロールは、以下のようなものだ。

自分がアサインされているロール一覧

CEOであっても、写真が撮れればフォログラファーでも何でもやる、といったところだ。PRサークルのロールアサインを行うのはPRサークルのLeadLinkなので、もし任命されたら辞退しない限りは社長でもやらなければない。

他にもいくつかご紹介しよう。これは広報をメインに担当しているメンバーのアサインされているロールだ。

広報をメインに担当するメンバーのロール

これはコーポレートをメインに担当するメンバーのロールだ。

コーポレートをメインに担当するメンバーのロール

Trelloを用いたひずみの管理法

組織というのは、フェーズや人数・メンバーによって組織内の役割や部署が増えたり減ったりして、生き物のように進化していく。通常の組織ではそれをリアルタイムに追っていくことはできないので、定義された組織図や規定と現実の組織の実態がどんどん乖離していく。ホラクラシー組織では定期的にガバナンスミーティングが行われるので、組織の問題が次々と組織図とルールに反映されていく。詳しいルールに関しては ホラクラシー憲法解説記事 中編 も御覧いただきたいが、以下、scoutyでの運用方法も交え簡単に流れをご説明しよう。

ホラクラシーにおいては、現実と理想とのギャップのことをひずみ(Tension)と呼ぶ。ホラクラシー組織ではこのひずみをゼロにすることを目指していて、理想は組織のフェーズに沿ってどんどん進化していくから、現実の状態が何も変わらなければひずみはどんどん生まれてくる。このひずみを解消するのがガバナンスミーティングで、ひとつひとつのひずみに向き合い、それが解消されるガバナンス(ロールやサークル構造・サークルポリシー)を決定していく。ひずみを解決するように少しづつ必要なロールが作られ、組織(図)が自然と変わっていくのだ。

scoutyでは、Trelloを用いて自分が仕事をしていく中で感じた違和感やひずみを書き溜めていってもらう。

Trelloを用いたひずみ管理

ガバナンス上のひずみというのは、たとえば「サービスのお知らせを誰が更新するのか不明確」「福利厚生に関しての相談・申請ルートがわからない」「現場の◯◯がインターンの給与決定に参加できていない」といったものだ。また、ひずみは下記のようなテンプレートの内容に沿って作られる。

ひずみ作成テンプレート

GlassFrogにも同じような機能があるのだが、有料機能だった上、UIが非常に使いにくかったのでTrelloを使うに至った。もともとのホラクラシー憲法ではガバナンスミーティングでのアジェンダ項目は事前ではなくその場で決めるというルールがあるが、scoutyは書き溜められたひずみを元に提案内容を決めていく。

この運用形態に至るまでの道のり

我々は、最初からこのような運用に至ったわけではない。間違った運用法(e.g. 役職をロールにしてしまう, ロールの粒度が大きすぎる 等)を経たり、ルールには規定されているが無駄に思えることもやったりしながら、この形態に辿り着いた。最初我々は「まずはやってみないとやる価値があるかわからないから、とりあえず3ヶ月位はガチガチにルールに沿ってやってみよう」ということでホラクラシー憲法を読み解きながら、いったんルールに沿って一部のサークル(最初はWEBサークルだった)から運用してみた。

その過程で、ホラクラシーワンの作ったホラクラシー憲法は統制のとれたスタートアップが運用するのはやや重く、安全性を担保するために必要以上に制約を設けているように感じられたので、ホラクラシーワンのホラクラシー憲法を軽量化したscouty憲法を作った。

scoutyで運用されているホラクラシー憲法scouty版はこちら。
scouty-inc/holacracy_constitution/holacracy_constitution_scouty.md

scouty憲法における変更は以下の通りである。

  • FacilitatorはLeadLinkが行うことにした
  • Rep Linkを削除した
  • Secretaryは残して、LeadLinkに任命権限をゆだね、選挙プロセスを削除した
  • ガバナンスMTGの参加者制約をゆるくした
  • 憲法改正プロセスを明文化した
  • ロールに複数人アサインされる場合はAuthorityを定め、その人が意思決定権および責任をもつことにした
  • ガバナンスミーティング、チェックインとクロージングをオプショナルにした
  • サークルメンバーの義務は簡略化した
  • 戦術的ミーティングを各サークルのやり方にゆだねる形にした

大胆なルール変更も多いが、憲法に関しても他サークルと同様ひずみがあれば憲法改正ミーティングで改正されていくという仕組みをとったので、ひとまず様子を見てみることにした。この憲法にした詳しい経緯や憲法の内容に関して知りたい方は、ぜひ直接聞いて欲しい。

予想以上に分量が膨らんだので、ホラクラシーを導入してからの具体的なメリットやデメリットは、次の記事で書くことにする。これが純ホラクラシー組織をとろうとしている誰かの一助となれば幸いである。