Day34+3 Barcelona
そもそも私、なにしに来たんだっけ。
その言葉は、この一ヶ月の間に何度も私の心に去来し、葛藤を生み、今のところ何も生み出してはいない。何も。
そんなある日、Airbnbで見つけたクラフトビールを学ぶワークショップ。ここは一つ、発酵に関する興味を深めようと参加してみることにした。
Barcelonaのど真ん中で、無添加・化学物質不使用でクラフトビールを作る実態をお教えします!という触れ込み。指定の場所は街の中心部で、本当に何気ないカフェやブティックが並ぶ通りの中にあった。間口は隣のカフェと変わらない広さで、エントランスに明かりはなく、人気も感じられない。
不安だなぁ…と立ち尽くしていると、小柄で、ボーイッシュなベリーショートが似合う快活な女性がやってきた。
「あなたもワークショップの参加者ね?」
5日間のショートホリデイを利用して、San Franciscoから一人旅をしている。San FranciscoからBarcelonaまでは往復300$で国内旅行よりも安いのよ、とのこと。Airbnbのワークショップはこれで7回目であり、過去にAirbnb本社で働いていたこともあるという話を聞き、一切の不安は吹き飛んだ。
開始時刻が近づくとメンバーも増え、奥から担当の女性が出てきて総勢9人のツアーが始まった。
バルのようなエントランスの奥には、本当に小さなプラントがあった。麦芽を焙煎する装置。焙煎した麦芽を液状化して、ホップを添加する装置。そして、発酵装置(fermentatorと呼んでいた)。実にシンプルで小規模。一度に作れる量は、150リットル程の発酵装置5つ分。
各行程の説明を聞いた後、それぞれ異なる発酵段階となっている5つの発酵装置から、直接ビールを汲み出しテイスティングした。
発酵初期のビールは、アルコールはほとんどなく、麦芽の甘味とイーストの柔らかい香りが舌を包む。炭酸もほとんどない。発酵が進むにつれ、ホップの苦味が味に変化を生み、炭酸が爽やかな飲みごたえを演出するようになっていく。
フレーバービールの多くは、発酵を止めるために温度を下げた後にエキスを添加する(中にはホップをボイリングする段階で加えるものもある)。フレーバーを加えることで、更にビールの多様さが増す。Barcelona名産のハニーとローズヒップを用いたビールは、爽やかな香りと甘味が女性受けの良さそうな味わいだった。
その後、完成品を用いてのテイスティングを続けた。
庶民に愛されることをコンセプトに作られた、その名もBarcelonator。暑い日中やビーチでも飲みやすいように、アルコール度数はたったの2.5%。物足りなさを感じさせないようにホップは通常の2倍使用し、刺激を調整している。参加者の多くは、ブラインドテイスティングで少なくともアルコール度数は5%くらいに感じると回答していた。
次に出てきたのは、タイムを使用したビール。強めの炭酸にすることで香りが鼻に抜けやすく、非常に爽やかな後味。バルサミコ酢のような爽やかさ、という説明も可能。tapasや魚料理と合わせればサラダ感覚でいただける、という寸法である。
お次はIPA。独得の苦味とシトラスのような香り。なんのフレーバーなのだろうと頭を捻らせていると、こちらはホップだけの香り。2種類のホップを組み合わせることで、オリジナルなフレーバーを生み出すことに成功している。
そして今度は、ブラウンエール。ブラウンモルトのコクとホップの苦味が支え合い、しっかりとしたボディを感じる。少し強めの炭酸がキレを促し、BBQなど肉料理にぴったりだ。
最後はラガービール。シンプルだけど、これぞビールといった貫禄。フルコースのトリを飾るのに、相応しい仕上がりではなかろうか。
体験と共に知識を深めることのできるワークショップは、実に面白い。好物に関することであるならば、なおのこと。
そうだ、そうだった。なにしにヨーロッパに来たのか。私、新しい恋でも探しにきたんだっけ。
お相手はビール?
悪くはないわね。