インターネットジャーナリストの偽善

申し訳ないけど、私は可能な限り冷酷になってあなたの情報を売り渡している。

Hiroshi Takeuchi
12 min readAug 12, 2015

21世紀にジャーナリストとして食べていくのは大変なことだ。けれどそれも私たちが世界最新の最も儲かるビジネスモデル”侵略的監視”というものに気づいてからは、ここ数年で徐々に簡単になってきている。ニュースサイトのwebページは広告会社、ソーシャルメディアサービス、データ転売屋、分析会社…様々な会社の代わりにあなたをトラッキングしているのだ。私たちはそれら全てを利用し、また逆に利用されている。

数年間、Wiredのレギュラーライターとして、このシステムが成長する過程を不安な気持ちで見てきた。私の書いた全ての記事に企業がトラッキングクッキーとスクリプトを次々と付与していく様を目にした。私のキャリアが進むにつれて、そういった会社のリストはどんどん長くなっていった。私がWiredで一緒に働いたほとんどの人たちと違い、自分たちがやっていることがどんな結果をもたらすのかを、私は理解していた。ほとんどのジャーナリストは読者が売られていく先にあるシステムがどれだけ巨大なものとなる可能性があるか全く分かっていなかった、でも私はそんな言い訳はしない。ジャーナリストになるよりも前、web時代の黎明期に、私はデータベースマーケティング業界にいた…今で言うところの分析業界だ。

私はインターネットサイドからその業界に足を踏み入れた、でも顧客情報のデータベースを構築していたマーケターの人たちにとっては、webとの出会いは一目惚れだったようだ。ブラウザクッキーの登場はデータ収集にとってはものすごい瞬間だった。まるでホグワーツで初めて生徒が魔法の杖を振る時のようだった。あなたはそれが大きなものだって知っていただろう、どれくらい大きなものなのだろう?あなたたちはみんなきっと「これはきっと僕が今想像しているよりもずっと大きなものにだろう。」って言うだろうけど…それこそ私が人々にずっと言ってきたことだ。

私の眼の前には輝かしいキャリアが見えていた。最早人口統計データで人々をトラッキングする必要はなくなった…全てをトラッキングできるようになったのだから。データベース上にあなた個人の人生を構築することもできるし、あなたの全ての履歴を使ってあなたに特化した魅力的なメッセージを作り出すこともできる。私が最初に働いた会社は小さくて最悪な会社だったけど、徐々にメジャーな企業から声がかかるようになり、マディソンアベニューの数社が私に興味を示してくれた。そしてそこで私はキレてしまった。自分が世界にしようとしていることに我慢できなくなったのだ。

6ヶ月後、私はフロリダのテーブルで何かを毎日ずっと待っていた。ボロボロになって、けれど自分のことを嫌いにはならなかった。それから20年が経ち幾つかのキャリアを積み、私は今自分がどうするべきか考えている。

つまりこういうことだ:私は辞めた、でも他の人は誰も辞めずにこの巨大なネットを編み続け、そしてみんなをその網で捕まえている。

1996年、私はテクノロジーとインターネットの仕事から数年間完全に距離をとった。私はよく人々に「私たちはあなたが朝食に何を食べたか知っているし、昼食に何を食べたくなるかも知っているの。」と話していた。どのように人々は完全にトラッキングされているかを彼らに教えても、誰も私を信じてくれなかった。周りは私を変人扱いして無視したけど、私はそれでも一人で続けた。彼らのデータを集めたりもした。私たちがその時集めた監視データなんて、今日の巨大な海に比べたらそこに落とされる数滴の滴のようなものだ。

2000年代のはじめ、依然としてその状況に抵抗を続けていた私は、プライバシーを捨てて生きていけるんじゃないかと信じることに決めた…一部の隙もない監視という静かな暴力に抵抗するには、そういった風に徹底的にオープンでいることの方がマシだと考えたのだ。でもこれもうまくはいかなかった。監視されていることに気付かないでいるよりはマシだったが、支配されていることに変わりはないのだ。

ネットは私たちがやっていたことの完璧なメタファーだった。ネットがあなたの行動範囲を決めているのだ。

これが90年代の私のキャリアと、オンライン監視/コントロールシステムの構築だ:私は自分がそれがすごく得意だと気付いた。恐ろしいくらいに得意だから、もうそれについて考えるのを止めて、二度としないと自分に約束した。時々それを仕事にしていくべきだったんじゃないかと思うこともあるけど、自分を偽ってまであの業界で生きるべきじゃなかったということも理解している。

それでとにかく私はこれを作る手伝いを始めた。

Vox.comはあなたが最初のページを読み込んだ時に16のドメインからのスクリプトを実行し、12のトラッカーをあなたのコンピュータに仕込む。

私はNoscriptと、もう一つはGhosteryというプラウザプラグインを使っている。私はこのプラグインをみんなには勧めない…出来が悪いからではない、これらを使うことでwebブラウジングがパートタイムの仕事に変わってしまうからだ。そんなことに構う暇がある人は誰もいない。そんなことをしたらトラッキングされない為に、あなたは定期的に全てのページが何をしているか注意を払わなくてはいけなくなる。Wiredで働いていた時に、私はサードパーティー製のスクリプトとクッキーのリストが小さなNoscriptウインドウの中でどんどん大きくなっていくのを目にした。Wiredだけじゃない…ニュース産業が21世紀を生き残るための唯一の手段となったデータウェアハウス会社と広告会社の要請のもと、全てのニュースサイトはゆっくりとインターネット監視の錨へと変わっていった。

そういった場面を目にすることもよくあったし、そのデータで一体私は何ができるのだろうと考えたりもした。

The front page of The Daily Beast runs scripts from 13 different domains on your computers The Daily Beast のフロントページは13の異なるドメインからのスクリプトをあなたのコンピュータ上で実行する。

私はあなたの調査資料一式を作ることだってできるかもしれない。私はあなたについての統計的に興味深い事実を個別またはひとまとめにして抽出できて、あなたはその事実にリンクしているユニークなIDを持っているかもしれない。IDや名前を変えたとしても、あなたの情報は私の手の中にある…あなたが残した痕跡と不変の情報(同じコンピュータ、同じ顔、同じ筆跡)があるからだ、その中のどれかがヒットし、私はあなたに再びリンクできるかもしれない。匿名データからの個人データの抽出は驚くほど簡単にできてしまう。あなたのマップを作ることだってできるかもしれない。他のデータベースや(実は何十年も前から売りに出されている)あなたのクレジットカード情報、公共記録、投票者情報、それにあなたが自身のデータが保存されているなんて知る由もない1,000もの小さなデータベース、それらは相互に繋がっていて、それらを利用して私は完璧なあなたの人生の絵画を作り上げることができるかもしれない…そして私はあなたの家族より、もしかしたらあなたよりもあなたを知っている人間になれるかもしれない。あなたを精神病疾患だと正確に診断することだってできるかもしれない、双極性障害、うつ病、中毒症…なんだっていい。あなたの今までの恋人が誰もできなかったくらいに、私はあなたのことを理解できるかもしれない、あなたは私がそんなに理解しているなんて知りもしないのだ。私はあなた個人をデータベースから抽出することだってできる可能性がある一方で、本当に怖いのは、そんなことはわざわざするまでもないのだ。アルゴリズムにあなたを理解させ、処理させ、後を追わせる、でも私自身のことが漏れることは一切ない。あなたは正体不明の数千のボットに様々な情報をトラッキングされるのだ。

でもこれが私の隠している監視能力のすべてではない。私が次に行うこと…それはあなたに巣食うためにあなたのテイストを反映しない世界を作り上げることだ。私はゆっくりとあなたが目にする広告メッセージや、多くの場合、コンテンツさえも改ざんし、予想通り期待通りにあなたの世界の見え方を再構築するのだ。それを何度も繰り返し行うことで、私はあなたの行動をほんのちょっとだけ違う方向に促すことができるかもしれない。テイストメイキングのテストシステム、A/Bテストのテイストメイキングを自動化できるかもしれない、オピニオンの精度が完璧なマシンを作り上げるかもしれない。でも私はその完成を待たずにその場から離れた。だから収集されたあなたに関する大量のデータを使って一体何が行われているのか私は本当に知らないし、でもあの業界には優秀な人材が沢山いて、私が出会った中で最もクリエイティブでイノベーティブな才能の持ち主たちもそこにいる。

あなたのインターネットエクスペリエンスが監視データに基づき構築されたアルゴリズムの結果なのではない…あなた自身が結果なのだ。人間は素晴らしい可塑性を持つと同時に柔軟性を持ち合わせていて、やがて広告会社はその事実を使って、クライアントから依頼されたものへとあなたを変えていくだろう。時々その鳥肌モノのことについて考えることがある。私の頭の中で悪魔がこう囁く…「人間は史上最高のおもちゃを作っているのさ。」

私はそれに加担はしなかった。その代わり何年もかけて、私の良心への小さな慰めとして、他の人たちにしかそれを使えないようにした。実際私は監視とセキュリティを解説することでキャリアを積んできた。でも私がキャリアを積んだ場所はやはりあのプラットフォーム上…君たち読者を可能な限り技術的に強姦していたプラットフォームだ。

本当に正直なところ、私はこの問題に対して何ができるのかわからない。もし私が巨大なクラウドファンディングを立ち上げることができたとしても、監視とコントロールもまたクラウドファンディングを可能にしていると伝えることができるのはソーシャルプラットフォームだけなのだ。だから私もあなたと同じようにネットに貼り付けられ、20年も前からずっと投げ出そうとしていたマシンを未だ作り続けている。

1894年、トルストイは「偽善に屈しない者こそが所有し、世界へと通じてゆくだろう。」と言った。すごく良いアイデアじゃないか、今から始めてみよう。

私は読者を助けたい…より良い、より健全な世界を作りたい。でも私は自身の生活のために、あなたと繋がっているためにあなたを売るのだ。何百もの会社、幾つもの政府に売りつける。あなたの家族やコミュニティー、あなたが触れるすべてのものを…トラッキングのためだけではない、支配するためだ。小さなリアリティーの檻を作ろうとしている人々に売りつけている、その檻をあなたが目にすることはないが、あなたの日常に影響を与えるだろう。

A subscription site doesn’t save you from being tracked and sold, it’s just how things are done now. 定期購読サイトはトラッキングや個人情報売買から守ってはくれない…それが今の世界だ。

そして私はあなたの情報を売り続けるのだ、それ以外にあなたと繋がっていられる手段がないからだ。何度も考え続け、今はもう考えるのをやめた。今でも全体としてのネットは大好きだ、ネットはすべての人々をスーパーヒーローにしてくれると今でも信じている。ネットから離れることはこの世界をやめることに近いかもしれない、そして私はまだやめたくはない。私は、ネットをよりうまく使うようになり、それが何のためにあるのかを理解するようになることこそが、このトラップを抜け出る最善の方法だと信じている。私たちを今のところコントロールしている古の力に平伏すことをやめ、私たちはまさに魔法使いの世界のなかのウィザードになれる。でもどれほどの労力が必要となるのか見当もつかない。私たちすべての人間はもっと多くのを学ばなくてはいけないだろう…ジャーナリストについて、読者について、次世代の人々について。そして私たちは私たちを監視し、人格を支配しようとする者たち戦わなくてはならないだろう。

その時が来るまで、あなたの秘密の庭とファンタジーの世界は隠しておいて欲しい。すべてを紙に書き下ろすようにして欲しい。あなたの住むネットについてもっと興味を持って欲しい…デジタルリテラシーは本当の自由のためのチャンスなのだ。人と直接顔を合わせるようにし、できるだけ電話に頼らずに。オフィスでの時間を価値あるものに。古い本を読もう。恥を捨てて物事を愛し、どんな人間であるべきか伝えようとするあらゆるものから距離を置いて、自分がどんな人間なのかについてじっくりと考えてみてほしい。

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Hiroshi Takeuchi

Medium Japanでボランティア翻訳をしていました (現在は違います) 。ここに書いてある記事はすべて当時に翻訳された記事です。私個人の見解または創作物ではありません。引き続き公開はしますが、質問または訂正リクエスト等は受け付けません。ご了承ください。