2012年7月にWeston図書館にかけられた幕。Original image copyright Bodleian Libraries/Nick Cistone.

未来の図書館をデザインするなら、あなたならどうする?

Hiroshi Takeuchi
23 min readJul 10, 2015

あなたが今座っている椅子は快適?これは学術図書館の衰退についてのストーリーだ。

ひと昔前までは図書館は学生や学者が必要とする情報を守る門番のような存在だった。図書館には貴重な情報が詰まった沢山の本がびっしり並んでいた。ところがある日、巨大で邪悪なインターネットがやってきて、何百万もの本や記事や原稿にコンピュータさえあれば誰でも自由に無料でアクセスできるようになった。図書館は最早お遊びのようなものになってしまった。今の学生の大半は子供の頃からコンピュータに慣れ親しんで、知らないことはGoogleで調べることが当たり前になっている。今では知りたい情報は家でもスターバックスでも手に入るというのに、わざわざ図書館になんて行く人はいるのだろうか?

しかしここからがこのストーリーの面白いところだ。ある奇妙なことがオックスフォードで起きた。2014年にオックスフォード大学にあるBodleian図書館の読書室は、史上最多の来室者数を記録した。そして3月21日にBodleian図書館は、オックスフォード大学の中心に位置するグレードIIの建物をWeston図書館として改装オープンする予定だ。この建物の改装費用はなんと£80,000,000だそうだ。なぜこの図書館はインターネットという嵐にもビクともしないんだろう?

サウンド オブ サイレンス

ステレオタイプの図書館員は今でも「しーっ!(お静かに!)」と言って学生を怖い目で監視している。「いくつかの学術図書館はそうやって図書館内をコントロールしている事で有名だ。」と元オックスフォード図書館員は認めた。「私だって静かにするようにと注意されたのは一回どころではなかったよ。」でもこの様々な情報が行き交う混沌とした現代において、静かな場所を求めて人々が図書館に行くなんてことがあるのだろうか…しかも本なんて読まないのに?

「オックスフォードでさえ、静かな場所を見つける事はどんどん難しくなってきている。」とBodleian図書館のChristine Madsen博士(@mccarthymadsen)は語る。「座って静かに会話できる場所なんてどこにもない…バーやホテルのラウンジで高い飲み物代を払うなら話は別だが。」

もし今度学術図書館に行くことがあったら、耳を澄ましてみてほしい。そこは濃密な静寂に支配され、咳やページをめくる音、最近だとタイピング音だけがその静寂を破る。時折ハイヒールの歩く音が廊下にコツコツと鳴り響く。その音はあなたに近づくにつれて大きくなり、通り過ぎ、次第に残響へと変わっていく。オックスフォードではBodleian図書館が完成した1602年からこの音はほとんど変わっていない。

Weston図書館の読書室はこういった音が鳴らないように設計されている。「使用する木材から照明まで、この図書館のすべてのことはとても慎重に選ばれ、アレンジされたんだ。」と語ってくたのはBodleian図書館の館長であり、歴史の専門家としても働くRichard Ovenden (@richove)。館内で使用される椅子は特注品で、デザインは2012年のロンドンオリンピックの聖火をデザインしたBarberOsgerby (@barberosgerby)によるものだ。この椅子に座って前に傾けると、少しだけテーブル方向へ椅子が移動するので、通常の椅子を引くときに比べるとほとんど音がしない。

Bodleian図書館のチェアーデザインコンペで選ばれたチームがデザインしたWeston図書館の読書室の新しい椅子。Copyright Jamie Smith.

オックスフォードのジメジメとした3月の午後、僕はWeston図書館の利用者に何故彼らが静寂を好むのか聞いてみた。ある人は気が散るものがないから集中できると答えた。またある人は、他人のページをめくる音だったり、自分より早くタイピングする音が聞こえるとなんだか脅されているような気持ちになり集中できないと答えた。歴史的な図書館にいると、その400年の歴史の一部になったような気がしてすごく仕事が捗る、と答えた人もいた。「歴史のあるものがないといっていいカリフォルニア出身の私からすると、400年の歴史というのは特に意識するね。」と言ってChristine Madsenは頷いた。

図書館にいると何故あんなにも集中できるのだろう?この質問に答える人間はオックスフォードで実験的倫理学を専門としているCharles Spence (@xmodal)教授以上に相応しい人物はいないだろう。彼は店内の雰囲気が顧客の購買意欲に大きな影響を与え、また雰囲気の違いによってウイスキーの美味しさも最大で20%も変わるということを発見した人物だ。ココアをオレンジ色のカップで飲むと他のカップで飲むより美味しく感じることを発見した人物としても有名だ。このことは別に学術図書館と関係はないが、非常に面白い研究だ。Spence教授は図書館という環境が集中を高める理由について、家庭から仕事をうまく切り離す事ができるからではないか、と推測している。

「自宅で寝る時間近くまで仕事をするのは、とてもストレスになる。」と教授は語る。「でも様々な環境で働いている人にBodleian図書館で録音した館内の音を聞きながら仕事をさせて、集中力が向上するかどうかテストすることはできるかもしれない。」

Bodleian図書館の音を聞いて実際にSpence教授の実験をあなた自身で試してみてはいかがだろうか。Weston図書館も含めると現在Bodleian図書館には2つの読書室がある。

デイパス

トルコのEphesusにあるCelsus図書館。Copyright: Shutterstock/muratart

Celsus図書館は古代ローマ時代の西暦135年に、とあるローマ元老院議員によって建てられた図書館だ。12,000もの巻物が保存されており、はるばる遠方から書物を読みにくる来館者もいる。そんな来館者は自分の研究が終わるまでCelsus図書館に滞在する、ときには数週間にのぼる時もあり、そういった研究者には食事や睡眠をとる場所が提供される(なんと運動できる場所も)。今では研究のために大勢の学生がCelsus図書館を利用しており、図書館側は宿泊施設をさらに増やすことも計画中だ。

Weston図書館にはコーヒーショップと会話ができる朝食スペースがそれぞれ一箇所ずつ存在する。両方とも革新的なアイデアとは言い難いが、多くの学生が利用している場所だ。「2008年にイングランドに引っ越したとき、Bodleian図書館にカフェができてミルクティーが飲める日が来るだなんて想像もしませんでした。」とModern British HistoryのJunior Research Fellowに所属するBen Mountfordは語る、Benは現在Weston図書館内で研究を行っている。「午後にBodleian図書館のカフェで研究していると、紅茶でリラックスしながら同時にとてもアカデミックな雰囲気を感じることができました。」と音楽を専攻する学部生のJoseph Fellは語る。「5分間の休憩の中でFacebookをチェックするとか、そういうことはしたくなかったです。」

カリフォルニアのPasadenaにある小さな公共図書館では昔、Christine Madsenという女の子が棚から何冊も本を取り出しては床に座りこんで読んでいた。大人になると彼女はサンディエゴの芸術図書館で働き始め、その後ハーバードで貴重な文献や原稿をデジタル化する仕事に就いた。Bodleian図書館のデジタル化プログラムの責任者を務める以前、Madsen博士はデジタル化がどのように学者と図書館の関係を変えているかについての博士論文を書き上げた。学術図書館はCelsus図書館をデジタル化の流れを生き残るための良きお手本にするべきだ、と彼女は考えている。

「この150年間、学術図書館は自分たちのことを情報の中心に位置した本の倉庫と見なしていますが、それは間違いだと思います。」と彼女は言う。

「私たちは本来の図書館の目的に立ち戻る必要があります。学者の必要とする様々な情報をサポートすること、そして彼らがアイデアや閃きを生み出せる、そんな他では真似できない場所を提供することです。」

ChristineはWeston図書館は正しい方向へ踏み出していると言う。「学者へ様々な情報を提供するだけではありません。私たちは彼らの目的にあった専門家を紹介することもできますし、会話するスペースもあります。それに彼らを刺激し、大発見やブレイクスルーのきっかけを作るような展示会も開いています。」

ウェルカムマット

3月4日水曜日の朝、キツツキに馬乗りになったイタチの写真が幾つもの新聞の一面を飾った。Twitter上ではBodleian (@bodleianlibs)が、バシリスクに馬乗りになったイタチの絵を投稿した — Bodleian図書館に展示されている13世紀の写本Ashmole Bestiary(寓話集)の絵の中のひとつだ。「イタチが他の動物に乗っていたって全然大したことじゃない」と彼らはツイートした。1時間もしないうちに、世界中の250人のツイッターユーザーがその画像をリツイートした。「面白いな、Bodleian図書館。」とアメリカのGulf Coastのユーザーはツイートした。

図書館は人々に彼らのコレクションや保存している書物、研究記録を見せたい。しかし利用者の邪魔はしたくないし、繊細な書物を危険にさらすわけにもいかない。ソーシャルメディアはそれに答えるひとつの方法である。「私たちはかなり早い時期からソーシャルメディアを活用していたし、そのような早い段階から同じように活用している図書館を私たちは知りません。」と話すのはBodleian図書館のソーシャルメディアアカウントを4年以上管理しているLiz McCarthy (@mccarthy_liz)。彼女の職務はソーシャルメディアを通して図書館の作品やコレクションを人々に見てもらうことだ。「私たちの仕事は図書館へのアクセスを増やすことであり、直接図書館に来ることができない人々にデジタル化した作品を見てもらうことです。」と彼女は言う。「私たちは人々に舞台裏を見せているのです。」

Weston図書館ができたことで今まで以上にBodleian図書館に足を運ぶ人々が増えるだろう。1930年にSir Giles Gilbert Scottによるオリジナルの建物のデザインは、どこか近づきがたい印象を人々に与えていた。対して何本もの円柱と大きなドアで構成された新しい図書館のエントランスはBroad Streetに配置されており、まるで人々に入ってきてほしいとお願いしているようだ。中に入るとBlackwell Hall — 天井の高いアトリウムとカフェ、ショップ、レクチャーシアター、そして2つの展示ギャラリーで構成されたホール — が目に飛び込む。

1934年のGiles Gilbert ScottによるBodleian図書館のデッサン

学術図書館は学生や学者だけでなく幅広い人々に向けて情報を発信することで、デジタル世代の期待に応えているのだろうか?元Bodleian図書館の大学院研修生であるDorothy Fouracreは、University College Londonで主要な学術図書館の展示会についての修士論文を書き上げた。「2,30年前の展示会は、広げられている本に説明文が付いている…といった様なものばかりで、人々の興味を引くものとは言い難いものでした。」と彼女は言う。「ページの合間に綺麗な絵やアニメキャラのような絵が描かれている本もありましたが、表紙に書かれた1501年出版という文字を見て興味を持つ人はそう多くはありません。現代の図書館ではテーマを掲げて、人々に興味を持ってもらえるように今までとは違った角度からアプローチしたり、美術館から美術品を借りて本と一緒に飾ったりするケースが増えています。」

Weston図書館の断面図。左側が公共エントランスとBlackwell Hall。Copyright Wilkinson Eyre.

Weston図書館での最初の展示会のテーマは『天才』である。1217ものマグナカルタ(大憲章)と、The HobbitのためにTolkienが描いたブックカバー、それにMendelssohnが自身の曲Schilflied (Reed Song)のために描いた絵が展示される予定である。ビデオやデジタル化した作品を映し出すための大きなモニターも設置される予定だ。

「僕らはクオリティの高い展示会を開くことで、より多くの方々に訪れてほしいと考えているんだ。そのためにデジタル化した作品を加えたり、他の施設から美術品を借りたり、学生のキュレーションなどを積極的に採用している。」とRichard Ovendenは語る。

去年のBodleian図書館の小さな展示室への来館者数は250,000人であった。この数字は他のどの美術館よりも多いが、Weston図書館はこの数字を容易に超えるだろう。

「展示会にフォーカスすることは別に新しいことじゃない。」とRichard Ovendenは教えてくれた。「Elgin Marbles(古代ギリシャの諸彫刻)はBodleian図書館に寄贈された初めての美術品で、僕らはその彫刻を図書館の外にある彫刻が立ち並ぶ庭に展示した…17世紀のことだ。1837年に初めて開いた展示会は間違いなくスケール、クオリティー共にそれまでにはない素晴らしいものだった。」

本棚の一生

学術図書館の衰退に話を戻そう。人々は皆こう言っている…パソコンやiPadや携帯電話があるから、図書館の本はもう人々から必要されなくなる。本棚は過剰と判断され、そこで眠っているコンテンツはどんどん埃を被っていく…だとすると何故Weston図書館は地下3フロアにも及ぶ書庫を作ったのだろう?

Weston図書館の地下構造の断面図。Copyright Wilkinson Eyre.

Weston図書館は特別なコレクション(貴重な本や原稿、公文書、音楽、パンフレットやポスター、それに地図の中でもさらに歴史的に貴重な書物)を図書館の心臓部に配置している。建物内部は最新の防火/室内コントロールシステムが取り付けられており、そういった貴重な書物を保管しておくには最適な場所だ。これらの書物は以前まではオックスフォードやその他様々な施設にバラバラに保管されていたが、現在初めてそれらはWeston図書館に集中保管されている。

これによって今までよりもさらに学生や研究者はオリジナルの書物に直接触れることができる。学術機関はWeston図書館の講義室を事前予約しておけば、書物を使って講義を行うことも可能だ。

「Weston図書館は私たちの教え方を変えるかもしれない。」とVoltaire Foundationのディレクターであり、オックスフォードでフランス文学を教えるNicholas Cronk教授は言う。

「館長や管理人に頼んで特定の文献に関して私の生徒に話をしてもらうこともできる。昔の図書館は何というかスーパーマーケットのようなところだった。今はもっと研究所のような場所になっている…生徒と一緒に行ってリサーチしたり、特別なコレクションを目の前にして講義を行うこともできる。」

「学生たちに歴史的書物の扱い方を教えるのはこのやり方では不可能です。」とMartin Kauffmann博士は言う。彼はBodleian図書館にある古代~中世書物を専門とするキュレーターチームを指揮している。「何世代にもわたって様々な学生たちがChanson de Roland — フランス文学史上に残る偉大な作品 — を研究していますが、彼らはそれが私たちの持っているコレクションの中でも現存する最も古い書物であることを知りもしません。」

「今新学期を迎えたたくさんの学生たちがここを訪れ、16世紀の書物のページをめくっています。将来彼らがアカデミックな道へ進むか、ベンチャーキャピタリストになる道へ進むかはわかりませんが、どちらにしてもここでの経験は非常に貴重なものとなるでしょうね。」

多くの学生に歴史的書物を直接触らせたりしたら、汚されたり破かれたりすることもあるのではないだろうか?「勿論取り扱いに関しては厳重に指導していますが、それでなくても学部生たちは書物を信じられないほど慎重に扱っています…書物を傷つけることを恐れているからです。」とMartinは言う。「おそらく世界的に著名な教授たちの方がもっと危険です…彼らは貴重な文献の扱いに慣れてしまっていますからね!多くの図書館はそういった人たちの歴史的書物の扱い方に頭を悩ませています。それに比べたら学部生たちの扱い方なんて素晴らしいです。」

20世紀になると絵画や本の複製コストが下がり、哲学者Walter Benjaminはこう予測した…人々はもう本物のモナリザを見に行く気にはならないだろう。しかし実際はそれとは反対のことが起こった。「もっとたくさんの作品をデジタル化してネット上に公開したいですね、そうすればもっと多くの人々が実際の作品を見に図書館へ行ってみたくなるでしょうから。」とChristine Madsenは言う。「重要なのは、エリートだけでなく、あらゆる人々が今もオリジナルにアクセスできるということです。」

Bodleian図書館のデジタル化についてのショートフィルム

Nicholas Cronkはオリジナルの書物に対する熱意を次世代の研究者へ届けるという強い意志を持っている一人だ。「最近、スキャンした18世紀のVoltaireの演劇台本を偶然見かけたんだ。でも何が書いてあるのか理解できなかった。」と彼は言う。「それでパリの保管庫に直接オリジナルを見に行ったんだ。するとVoltaireはシンプルに黒インクで書いていたんだけど、そこに誰かが赤クレヨンで追記していたことがわかったんだ。つまり僕の見たスキャン作品は白黒だったから、何が書いてあるかわからなかったんだ。オリジナル作品を直接見る利点はまだある。直接ページに触れることで紙のクオリティを感じることができるだけでなく、そのページが差し替えられたかどうか…つまりそのページが検閲に引っかかった可能性がある、ということまでわかる。こういった技術を失わないと言うことは極めて重要なことだ。」とNicholasは言う。

Mary Shelley著『Frankenstein』のオリジナルの1ページ。Copyright Bodleian Libraries

研究

Richard Ovendenのオフィスを見回していると、なんだかポストカードの世界にいるような錯覚に陥る。窓の一つからはChristopher WrenがデザインしたSheldonian Theatreがぼうっと現れ、もう一方の窓からはオックスフォードのアイコンであるBroad Streetを見下ろせる。2つの窓を背にして、自身の文学的関心は14歳の頃にKentにある質素な古本屋で芽生えたのだ、とBodleianの図書館員であるRichardは話してくれた。「その古本屋に偶然立ち寄って、50ページくらいの歴史の教科書を買ったんだ。なんだかその本には僕の心の琴線に触れる何かがあったんだよね。」と彼は語る。その本を彼の歴史の先生に見せたところ、偶然にも先生が授業で使おうと考えていた本だったそうだ。「その時から僕は、自分が人よりも知識や情報を取り入れる感覚が秀でていることにいつも感謝しているんだ。」

現代のデジタル世界へのアクセスを持っていることで、Bodleian図書館は他の機関より一歩先を行っている、とRichardは言う。「スタッフの中には様々な分野の世界的に有名なエキスパート達がたくさんいる。だから僕らは研究において能動的に物事を進めることができるし、素晴らしいアイデアを思いついたり、大学の学術部門の同僚に様々な助言をすることだってできる。これは17世紀の大学図書館員がやっていたことに立ち戻ったとも言えるけど、おそらくBodleian図書館にとって一番大きな変化だと思う。僕の前任者の一人であるThomas HydeはBodleian図書館の5番目の図書館員だったけど、オックスフォードのギリシャ語の教授でありアラビア語の教授でもあったんだ。」

John Gowerの”Confessio Amantis”の保全。Copyright Bodleian Libraries.

Weston図書館では、読書室に来た研究者は別室にいる専門知識を持ったキュレーターや管理人にアドバイスを乞うこともできる。「もしアングロサクソンに関する書物を読んでいて、本の扉に書かれた言葉や印刷業者がつけた余白の印に気がついたら、管理人に尋ねればどこの印刷業者か特定できるはずさ。」とRichardは言う。「そんなことはGoogleではできない。」

「私たちのコレクションの中には10,000もの西洋中世書物があります。その中には出版されていないものもあります。」とKauffmann博士は言う。「キュレーターとして、私たちはいつもコレクションについて勉強しています。書物の中で何か発見があったらウェブサイトに載せるようにしています。図書館を訪れる専門家から様々なことを学ぶと同時に、私たちもまた彼らを助けることができるのです。」

Weston図書館にはデジタルに精通した専門家がおり、デジタルツールを使って研究者にアドバイスやサポートを行うことができる…50年前には考えられないことだ。この恩恵を受けることができるプロジェクトは様々で、現在進行中の数百万ページのバチカンのコレクションや50万ページのBodleianコレクションをスキャンして無料でオンライン上に公開するといった一大プロジェクトから、対象分野に大きな衝撃を与えるかもしれないプロジェクトまで幅広い。

「そういった革新的なプロジェクトの良い例はオックスフォードで知的歴史学を専門としているHoward Hotson教授と共同で行ったプロジェクト『Early Modern Letters Online』ですね。」とChristine Madsenは言う。「Bodleian図書館は初期近代ヨーロッパの偉大な思想家たちがやりとりした50,000もの手紙を保有していました。私たちはそれらをスキャンし結合することでマップを完成させました。これにより世界中の著名人がいつどこから誰へ手紙を書いたか、また同じ時期にその人が何を出版していたか、あるいは何をしていたか、といった様々な情報を得ることができます。」

これは始まりにすぎないとHotson教授は語る、「『Early Modern Letters Online』の最も重要なことは、Bodleian図書館の素晴らしいコレクションとオックスフォードの芸術コミュニティがどのように結合しているか、最先端のIT技術によって芸術だけでなく様々な分野がデジタルインフラを活用できる、ということを示している点です。デジタル化は数百、数千の小さな点のようなデータを集約することができます。私たちの場合はある特定の時期/場所で書かれた手紙をまずデジタル化し、それに差出人と受取人のデータをタグ付けしています。これは本の出版日や旅行日記の位置情報など様々なことに応用できます。」この可能性は科学分野にも拡大するとChristineは言う。「私たちはある日の天気や、あるいはドクターが書いたメモなどが記載された日記のアーカイブを持っています。これらをデジタル化しタグ付けすることで気候変動や病気に関する新しい見解を得ることができる可能性があります。」

おわりに

学術図書館の衰退についてのストーリーはまだ完結していないし、幾つかの章が欠けているようだ:研究の原動力である図書館、市民に根付いた場所としての図書館、そして喧騒社会の中の避難施設としての図書館。このストーリーがフィクションとして扱われるかどうかは時間が経てばわかるだろう。

Weston図書館のSir Charles Mackerraの読書室。Copyright John Cairns.

詳細情報

Bodleian図書館の歴史
Weston図書館

Bodleian図書館からWeston図書館のオープンに関するアナウンス
Christine Madsenの『新しい学術図書館論
Bodleian図書館の内側:21世紀の図書館の建築』(2013年のフィルム)

クレジット

著者:Matt Pickles, News & Information Office, University of Oxford
追記:Georgina Brooke, Digital Communications Office, University of Oxford
デザイン:Christopher Eddie, Digital Communications Office, University of Oxford

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Hiroshi Takeuchi

Medium Japanでボランティア翻訳をしていました (現在は違います) 。ここに書いてある記事はすべて当時に翻訳された記事です。私個人の見解または創作物ではありません。引き続き公開はしますが、質問または訂正リクエスト等は受け付けません。ご了承ください。