フードデリバリービジネスを考える

堀 新一郎(Shinichiro Hori)
14 min readJun 6, 2017

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IVS神戸に来ております。朝活ではタコ釣りに出かけ、見事タコちゃんを二匹ゲットしました!

先週、久々にC(Consumer)向けサービスがNasdaqに上場申請をしました。Blue Apronという会社で、自宅にミールキットを宅配するサービスになります。ミールキットとは、料理に必要な肉・魚・野菜・麺などの素材と魔法(?)のレシピが一体になったものを言います。ま、日本には昔からヨシケイ大地を守る会らでぃっしゅぼーやを皆さんご存知で、「何で今更IPO?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

Blue ApronのミールキットBox(当社HPより引用)

IPOの記事はこちらを参照ください。
[Bloomberg]
https://www.bloomberg.com/news/articles/2017-06-01/meal-kit-company-blue-apron-files-for-initial-public-offering
[Buzzfeed]
https://www.buzzfeed.com/carolineodonovan/blue-apron-just-filed-for-an-ipo?utm_term=.rs4RgW8wg#.xv8JLpdqL

2012年の会社設立から4年間で$193m調達し、売上を800億円近くまで成長させていて、凄いの一言に尽きます。

一方、タイミングはほぼ変わらず、先々週のことになりますが、セントラルキッチン型のフードデリバリーのSprigがサービスのシャットダウンを発表しました。Crunchbaseによると、AccelやGreylockなどのシリコンバレーを代表するVC・投資家から$56mも調達していたとのこと。

[The information]
https://www.theinformation.com/on-demand-food-service-sprig-to-shut-down

セントラルキッチン型とは、調理済みのお食事が届けられるのですが、言い換えると社食のデリバリーみたいなサービスです。日本だと、ワタミの宅食などが有名ですね。もっと一般的で皆さんご存知なのはドミノ・ピザやピザーラなどの宅配ピザですね。

話は戻りますが、Blue ApronがIPO出来て、Sprigがシャットダウンというのは面白い事象だなあ、と思ったわけです。現在、East Venturesの共同代表のバタラさんと一緒にCode Republicというアクセラレータプログラムを運営させて頂いているのですが、先日フードデリバリー業界についてディスカッションしました。フードデリバリーのビジネスモデルは大きく3つに分類されますよね、と。

フードデリバリーは大雑把に下記の3ジャンルに分類されます。

  1. レストラン・デリバリー
  2. セントラルキッチン・デリバリー
  3. ミールキット・デリバリー

1.のレストラン・デリバリーで有名なのが、UberEats・Grub Hub・DoorDashなど。日本ではFineDine、出前館が有名ですね。

2.のセントラルキッチン・デリバリーで有名なのは、Sprig・Muncheryですね。日本だと、C向けだとパルシステム、B向け(企業向け)だとたまご屋が有名ですね。

各社の特徴を僕なりに下記に整理してみました。

筆者作成

1. レストラン・デリバリー

レストラン・デリバリーは、Business Insiderに面白い記事がありました。米国で展開する7つのフード・デリバリーサービスを消費者目線で比較した、という記事です。

比較したのは、Amazon・UberEats・Eat24・Caviar・DoorDash・GrubHub・PostMatesの7社です。

Source: Business Insider

消費者目線で見ると、配達のクオリティはあまり大きく変わらないのですが、下記の2点についてはサービスプロバイダーによって異なっていたとレポートされています。
1. デリバリータイム
2. トータルコスト(ミニマムオーダー価格+配達費用)

会社によっては、同じレストランの同じメニューを注文したのにミニマムオーダー(最低注文価格)やデリバリータイムが大きく異なっていたそうです。ユーザーにしてみるとランチの注文をしたのに午後2時に配達されると二度と使いたくなくなりますよね。また、一回の注文のミニマムオーダーが高すぎると近くのレストランやコンビニでランチを済ませてしまおうと思ってしまいますよね。届けられる食事はレストランに依存しており、プラットフォーマーが差別化出来る点が少ないです。レストランにしてみると多くのプラットフォーマーと提携することで顧客接点を最大化したいと思うので、本当に差別化ポイントが少ないです。配達コストで差別化しようとするとプラットフォーマーの利益率を悪化させるだけなので、よほどの資金力がないと戦えません。中長期で見るとUberやAmazonに軍配があがってしまいそうです。Uberはヒトを乗せる車両の二次利用、Amazonはショッピングで購入されたモノを運ぶ車両の二次利用をしたり、コア事業のユーザー獲得が出来るので他社よりも総合力で秀でていますね。

そのような環境下で、GrubHubはいち早くNasdaqに上場し黒字化もだいぶ前から達成しています。当期利益率は10%台と決して高くはないですが、レストラン・デリバリー業界の中で黒字化出来ている優良企業です。売上は500億円(2016年)で当期利益が50億円。時価総額が$3.8b。

GrubHubはUberやAmazonよりいち早く市場に参入したことと、提携レストランの数が多いことから、中国ECの雄「Taobao」と同じような戦略を展開しています。ビジネスモデルは基本的にフードの売上からマージンを取るビジネスモデルなのですが、高い手数料を払うレストランに対し、リスティングで上位表示させるような、リスティング広告を展開しています。5万レストランと提携し、年間800万食を届けており、マーケットシェアも最大なことから当社のポジショニングを揺るがすのはなかなか難しそうです。

2. セントラルキッチン・デリバリー

さて、続いてはセントラルキッチン型。Sprigのシャットダウンは強烈でした。そもそも食というのは私達の生活に欠かせない消費活動の一つです。前職で消費財のコンサルティングに携わってきましたが、私が感じたことは「消費者はなんとワガママで飽きっぽいのか」ということです。自分も含めてですが(笑)とにかく、新商品開発と顧客を惹き付けるためのマーケティングに日夜頭を悩まさなくてはいけません。

セントラルキッチン型の抱える最大の悩みは、リピート施策と言って良いでしょう。毎日同じものを食べていたら飽きます。セントラルキッチンはレストランデリバリーと比較するとメニューの選択肢に限りがあります。日本で古くからオペレーションしていて、規模も大きくなっている会社はどれも「目的特化型」です。糖尿病患者向け、ダイエット食、妊婦向け、B2B特化などなど。

目的特化になると、飽きっぽくても、使い続ける理由が生まれます。ただ、残念なことに市場のマスを狙うことが出来ず、ニッチになってしまいます。オシャレで美味しい料理をデリバリーすることで成長してきたSprigですが、日本人の感覚からすると目的特化力が弱かったことが成長の妨げになったのではないかと勘繰ってしまいます。(シャットダウンの理由は詳しく知らないので間違っているかもしれませんが)
言い換えると、顧客のPain Pointを的確に捉えられていなかったのではないか?という気がします。ピザ屋はピザが好きな人。糖尿病で普通の食事が食べられない人。Sprigの場合は、美味しいご馳走だったかもしれませんが、デリバリーに限らず他に選択肢が無限にありますから。

少し気になったので、宅配ピザのフランチャイジーはどういうPLなのか調べてみました。

出所:J-Net21

これは宅配ピザの店舗のPLになります。店舗で販売もしていることからオンラインフードデリバリーとは厳密には異なりますが、ピザ屋さんでも営業利益率が4年目で13%。法人税を支払うと、当期利益ベースでは10%を切ってしまいます。

一方、フランチャイザーのPLを見ると営業利益率はドミノ・ピザで18%、スターバックスで19%と高いです。やはり胴元ビジネスのほうが儲かるんですね。色々考えさせられます。

3. ミールキット・デリバリー

そして最後に紹介するのがBlue Apronに代表されるミールキット。

Blue ApronのPLを見てみましょう。

Source: Blue Apron

驚異的な売上成長ですね。そしてまだ赤字。注目すべきは利益率がマイナスではあるものの改善している点でしょうか。

目論見書が公開されていたので、色々読み解いてみました。面白かったのは、四半期別PL。

Source: Blue Apron

一番右のThree Months Ended March 31のカラム。2016年1〜3月期は黒字化しているんですね。利益率は1.7%と限りなく低いですが、黒字化しています。目論見書によると、オンラインデリバリー業界は季節性が非常に高い市場で、夏休みとクリスマスシーズンはマーケティングの効果が最も低い時期だそうです。過去の学びから、2017年は思いっきり広告投資を行ったとのこと。オンラインだけでなく、テレビCMやオフライン広告も積極的です。

また、目論見書ならではですが、BOD(Board of Directorの略。日本で言う取締役会)も見てみました。すると面白いことがわかったのですが、2017年3月末時点で役員は全部で14名いますが、内6名が2016年以降に参画していることがわかります。Under Amourの元CFO、Fab.comのマーケティング責任者、加工食品会社からフルフィルメントの責任者、キッチンウェアコンサル、酪農商品メーカー、飲料メーカーと数多くのエキスパートを登用しています。

これは黒字化を達成したことで、ビジネスモデルの成立を確認し、さらなる成長を実施するためにマネジメント体制の補強とマーケティングの積極投資を行っていることがうかがえます。

Blue Apron社の商品は大きく2つに分類されます。カップルで楽しむ2人用と家族用のミールキットの販売です。一人あたりの平均商品単価は$57で、2食分が同梱されています。すべてオリジナルレシピで、毎週メニューは更新されます。300のサプライヤーと契約しており、2012年設立以降、2014年に調理器具のECマーケットプレイス、ワインなどの酒販も2015年に開始しています。リピーター売上は売上全体の90%を占めるとのこと。四半期あたりのリピート回数は平均4.1回。月に1回以上の利用頻度ですね。

目論見書によると、一度獲得したユーザーの優良顧客化(ロイヤルユーザー化)が見えてきたので、積極的に新規獲得を行っているそうです。とにかく一度でも使ってもらうとサービスの良さが分かってもらえることから、オンライン・オフライン広告を駆使して、初回利用を促すディスカウントプロモーションが最も有効で多用していると書かれています。また、Blue Apronのファンになると、調理器具もBlue Apronで購入したくなるそうです。

以上のことから当社はブランディングが最も大事だと言っています。事業場のリスクでもブランド力がなくなると、市場での競争優位性が失われると言及されています。

Blue Aponは、自宅でレストラン並のゴージャスな食事を調理する楽しみが当社の最大のバリューと謳っています。実際に調理した食事がFacebookやInstagramなどのソーシャルメディアを通じて視覚的に非ユーザーに訴求出来る点も「今どき」なマーケティング手法と言えるでしょう。

と、米国のフードデリバリー企業の事例を中心に業界研究をしてみました。日本はコンビニが世界的に見ても発達していますし、デパートなどでのお惣菜の品質も世界一進んでいる市場だと思います。

デリバリープラットフォーマーとして、低いマージンですが資金調達をひたすら頑張って覇者を目指すのか、はたまた粗利は高いが差別化戦略に工夫が必要なセントラルキッチン/ミールキットで覇者を目指すのか。

いずれも赤字先行なビジネスモデルには違いないので、事業戦略のプランニングをしっかり練らないと「いつになったら黒字化するの?」という投資家の問いが必ず投げかけられ、シリーズB以降の調達で苦労することになりそうです。

当業界に挑戦しているスタートアップの皆さんの事業経営上のヒントになれれば幸いです。

Code Republic一期生のブレンド(サービス名:Tasty Table)の皆さん、常時採択一号のCoasterの皆さん、一緒に頑張りましょう。

【Code Republic】
Code RepublicはEast VenturesとYJ Capitalが共同で運営するアクセラレータープログラムです。インターネット・スタートアップの成長を最大限に加速させる、3ヶ月間のアクセラレータープログラムです。EVとYJCの持つ起業家コミュニティを最大限活用して、事業を飛躍させるお手伝いをします。起業のテーマでお悩みの方、資金調達でお悩みの方、起業に関することで相談したい方がいらっしゃいましたら、いつでもご相談下さい。
一緒に創業期の苦しい時間を駆け抜けましょう。

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