我が社のサービスは競合よりも高いんです

堀 新一郎(Shinichiro Hori)
5 min readNov 2, 2017

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前職(Dream Incubator。以下、DI)で働いていた時、当時の会長の堀紘一(まあ、僕の親父でもありますが(笑))に叱られたことがあります。コンサルンティングPJの提案書の構成について、厳しい指導を受けました。

当時(今から7年以上前)、戦略コンサルティングのフィーは、1ヶ月1,000〜2,000万円ぐらいが相場でした。Tier 1のBCG(Boston Consulting Group)やMcK(Mckinsey)はDIよりも1.5倍位上のフィーで提案をしていました。

品質は決して劣らないと認識していましたが、当時は受注したい気持ちがはやり、若干競合より抑えめのフィーで提案していました。悲しいことに提案の内容が刺さらないこともあって、失注を繰り返していました。

ある日、「お前達、どんな提案しているんだ?」と質問され、会長の前でプレゼンをすることになりました。提案の中身についてダメ出しを沢山してもらった後、「そもそも、提案書の構成が間違っている」と叱られました。

「クライアントが知りたいのは、結局そのコンサルティングが『いくらなのか?』という点に尽きる。それを一番最後に持ってきている時点で間違っている」と。

サービスの提案で値段を提示するのって皆さん最後に持ってきがちですよね。心の中で「コンサルティング・フィーってやっぱり高いよな」という弱気な思いが心の奥底にあったと自戒します。私の場合は本当に酷くて、面談3回目ぐらいの最終提案時に初めてフィーを提示したりしていました。当時会長に、「先に値段を提示しろ。その後、何故競合よりもフィーが高いのか説明しろ」と言われました。

ロジカルシンキングで考えると、教科書の1ページ目に書かれている内容だな、と当時【ハっ!】とした記憶があります。いわゆる、結論ファーストです。

そして「僕たちは高いです!良いサービスは高いんです!」と言い切れ、とも言われました。「提案したフィーが払えないクライアントに対してネチネチといつまでも提案しても仕方がない。値切ってくるクライアントは提案に対して価値を感じていない(提案内容が刺さっていない)か、そもそも予算を持っていない相手だ。後者に対していつまでも時間を割いても意味がない。初回の提案時にそこを見極めろ」と叱られました。

YJキャピタルに参画して、B2B SaaSのスタートアップを数社支援させていただいておりますが、値付けって本当に重要だな、って心から思うようになりました。一度安い値段で販売してしまうと、値上げってなかなか出来ません。クライアントにしてみると「どうして値上げするの?どういった理由があるの?」って聞かれますから。「ふむふむ、なるほど」と思わせる理由がないと簡単に値上げって出来ないですよね。逆に値下げする時って、誰も何も言いません。「どうして値下げしちゃうのよ!」と言う間抜けなクライアントがいたら「はい、では値下げしません。今の嘘です。忘れて下さい」って言いたくなっちゃいますから(笑)

レガシーな産業では、モバイル対応・クラウド対応が出来ていないシステムが沢山あります。現在のトレンドとして、オンプレ型でパッケージ売り切りモデルが淘汰され、多くのシステムが月額課金・クラウド型に移行してきています。ここで重要なのが、安さで勝負しにいってはいけない、ということだと思います。クライアントにとっての支出が一緒でも、こっちの方が便利だよね、というプロダクトになっていることが理想形だと思います。

ビジネスの戦略上、価格戦略は最後の宝刀として取っておかなくてはなりません。ヤフーショッピングは出店料・ロイヤルティーを無料といった価格戦略で勝負に出ました。しかし、これは市場環境としてAmazon・楽天のシェアを奪いに行くための苦肉の策だったのです。

勿論、無料は中毒性のあるマーケティング手法の一つです。そりゃ、今まで有料だったものがいきなり無料になれば皆そっちにスイッチします。でもビジネスとして、無料化の先にどうやってマネタイズするのか明確な戦略がないと、永遠に儲かりません。上述のヤフーショッピングは広告で回収する戦略を当時(2013年)から想定していました。それは、インターネット大国の米国ではなく、中国(Taobao)で実証されているモデルでした。

ベンチャー投資のお仕事をさせて頂いていて、たまに、明確な戦略がないまま、無料化や安売りに走ってしまっている起業家さんにお会いします。無料化で顧客が集まれば、そのデータを販売出来る、など。他社の先行事例やベータ版で課金実績があれば説得力は増しますが、絵に描いた餅の場合はキャピタリストはそういった話をディスカウントして聞いてしまいます。別の言い方をすると、事業計画に書かれていても、説得力のないデータ販売の売上・利益・コストをVC社内の投資委員会資料の計画数値から差し引いてしまいます。

資金調達のタイミングにもよりますが、B2B SaaSでフリーミアムや安売りを実施しているスタートアップの皆さんはこの点に注意しましょう。他社よりもフィーを同等または高く設定し、その理由(機能)を実装する。言うは易し、行うは難しですが、頑張りましょう。

追記

広告で勝負出来るユーザー規模のサービスか、セグメントがフォーカスされていて一社あたりのARPUで勝負するサービスか、あなたの会社のサービスがどちらなのか。今日のお話は後者のお話でした。

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