顧客はどこにいる?

堀 新一郎(Shinichiro Hori)
16 min readMar 22, 2017

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前回のブログから時間が空いてしまいました。反省。言い訳はしませんw テーマが重く、筆がなかなか持てませんでした(汗)少しだけ言い訳させてもらうと。。。w

ちょうど二週間前、大学のゼミの後輩&起業家の先輩のCyta創業者(コーチユナイテッド社)の有安さんに、Code Republicのゲストディナーに来ていただきました。

その際に、「皆さん、リーンスタートアップは英語の原著で読んだ方が良いですよ。僕は読んでから事業の進め方がガラッと変わりました」というお話を聞きました。

Cytaのサービスがそれなりの規模になった段階でオンラインコミュニティ機能を盛り込もうという話が社内で話題になり、早速開発陣数名でガリガリ開発を進めたそうです。コミュニティを通じてレッスン受講生同士が繋がり、お互いが切磋琢磨してライフタイムバリューが上がる理想郷がそこにはあったそうです。詳細&結末は下記のブログに書かれている通り。

今回のブログでは事業を始める際に後で考えがちな、「顧客」を誰にするのか?という部分についてお話したいと思います。

前回のブログで「ビジネス・クリエーション!」の書籍で紹介されている起業時のステップとして下記のポイントを転載させていただきました。

  1. 顧客は誰か?
  2. 顧客に何を提供するか?(書籍では「顧客のために何ができるか?」と記述されています。いわゆる付加価値と言われるものですね)
  3. 顧客はどうやって製品を手に入れるか?(マーケティング)
  4. 製品からどうやって収益を上げるか?(ビジネスモデル。マネタイズ方法)
  5. どのように製品を設計するべきか?(プロダクト開発)
  6. どのように事業を拡大すればいいか?(成長戦略)

シリコンバレーを代表する起業家・教授が第一に掲げている「顧客」。これから起業される皆さんは「顧客」「誰」なのかしっかり考えていらっしゃいますでしょうか?

日本は高度経済成長期を「モノ作り」をコアにして成長してきました。品質を高くすれば顧客満足度が上がる、ということでプロダクト開発に力が注がれてきました。米国ではプロダクトがマーケティングドリブンで開発されます。「誰が使うのか?」がとても重要視されています。

1.対象市場を捉える際の注意点

対象市場は、大きければ大きい方が良いですね。オンライン印刷会社として皆さんご存知のラクスル(YJキャピタル投資先!)の対象とする印刷市場は5兆円。大きいですね。ヤフーショッピングが対象とする小売市場は市場全体で288兆円、オンラインで13.4兆円。デカイですね。あー、デカイ。

ただ、ここでデカさに安心して次の作業を怠ってはいけません。自社のサービスの対象とする市場の細分化とターゲティングを”はじめに”行わないと、後でプロダクト戦略・マーケティング戦略を考える際に大変な苦労をすることになります。例えばスポーツウェア市場5,255億円(矢野経済研究所。2016年。国内出荷額)の場合、スポーツのカテゴリー・性別・対象年齢によって更に細分化されます。あなたの会社のサービスがヨガウェアのECだとすると市場規模は当然のことながら5,000億円より小さくなります。それが女性向けとなると更に小さくなります。繰り返しになりますが、事業を立ち上げる際には自社のサービスがどの市場を対象にしているのか、市場の細分化(セグメンテーション)をしっかりと行うことが重要です。

皆さんはMBAの教科書に必ず出てくる、マーケティングをアカデミックに解説したことで有名なフィリップ・コトラー教授はご存知でしょうか?

マーケティングの4P理論(Product, Price, Promotion, Place)は皆さんも聞いたことがあると思います。そして、今回のブログの目玉トピックであるセグメンテーションについてアカデミックに解説したものがコトラー教授のSTP理論になります。STP理論の「S」はSegmentation(セグメンテーション)、「T」はTarget、「P」はPositioningのそれぞれの頭文字をとったものになります。STP理論は「どの顧客に何をどう売るか」というマーケティングの土台を考える上で重要なフレームワークです。

2.セグメンテーションの重要性

私は起業経験はないですが、前職のドリームインキュベータ(DI)で戦略コンサルティングに携わった際、多くの大企業の新規事業PJのお手伝いをさせていただきました。DIでは多くの(ゲーム、クレジットカード、ベンチャー投資、サウナ、豚の飼料、建材、医療機器他)セグメンテーション分析を行いました。具体的には、大企業が発明した技術・プロダクトが市場に受け入れられるのか?どれだけ売れるのか?ということを解明するコンサルティングでした。

セグメンテーションはスポーツウェアの例でも書きましたが、学術的にはデモグラフィックス環境・経済環境・文化的環境・自然環境・技術的環境・法的環境に細分化されます。難しくなってきたので、簡単に説明します。デモグラフィックスとは、顧客の属性(B2C:年齢、性別、居住地、年収、家族構成、職業、趣味、他/B2B:売上、従業員数、業種、職種、他)を指します。皆さんも自社のプロダクト・サービスがどのセグメントを対象としているのか分析してみましょう。

何故セグメンテーションが必要なのか?セグメンテーションを行うことによって、その後のマーケティング活動が見違えるほど効率的にになるからです。オンライン事業をやっている方に分かりやすく言うと、CPA(顧客獲得費用)が格段に安くなります。TVCMはマス向け広告になり、多くのユーザーにリーチ出来るマーケティング手段の一つです。ただし、1キャンペーンが3億円ほどするので、広告費用はメチャクチャかかります。一方、セグメンテーションを行うことで、対象となるセグメントにリーチ可能な媒体(メディア)だけに広告を出せば良いので広告費用は下がるし、CPAもハイパフォーマンスになります。

3.セグメンテーションの例

それでは、どうやってセグメンテーションを行えば良いのか?一般的には属性(年齢、性別、居住地など)から絞り込むのが定石と言われています。私は少し異なったセグメンテーション分析を行うことを起業家の皆さんにオススメします。どういった顧客があなたの会社のプロダクト・サービスを利用するのか、というところをユーザーのニーズや購買動機から考えてみましょう。

例えば、あなたがある化粧品メーカー・獅子堂の化粧水の新商品「マッシーロ」のブランドマネジャーだとします。競合のキンボウのシロクナールは市場シェア1位の化粧水で、あなたは上司に打倒シロクナールを課せられました。マッシーロの売上を伸ばすためにあなたは何をしますか?

まず、シロクナールが化粧水市場で誰に使われているか調べます。調査を進めていくとシロクナールは20〜30代の女性に不動の人気を誇る商品ということが分かりました。また、シロクナールは化粧水だけでなく美容液・乳液・クリームのラインにおいてもシロクナールブランドの商品がセットで売れていることが分かりました。正直、付け入る隙がない状態です。しかし、さらに調べていくとシロクナールのユーザーは幾つかの不満を抱えていることが分かりました。一つは肌質。普通肌・乾燥肌・オイル肌・混合肌といくつかの種類に肌質は分類されるのですが、普通肌以外のユーザーは必ずしもシロクナールに満足していないことが分かりました。もう一つはセット販売。4つのスキンケア商品(化粧水、美容液、乳液、クリーム)をセットで購入することに不満を抱えていることが分かりました。最後に価格。20〜30代の女性にとってスキンケア化粧品への月間平均支出額は2,000円で、シロクナールはセット販売の影響もあり、4,000円と割高でした。

こうしたファクトが分かった上で、自社の製品開発を進める上でターゲットとなりうる市場をセグメンテーションしてみましょう。

セグメンテーションとターゲット顧客仮説の例)

  • 年齢:20〜30代
  • 肌質:乾燥肌を気にしている人
  • スキンケア化粧品販売種別:化粧水と美容液が一つになった商品を求めている人
  • 価格帯:月間の支出額がトータル2,000円に収めたい人

とまあ、雑な例をご紹介しましたが、上記のセグメンテーションは何に基づいて導かれているかお分かりでしょうか?勘の鋭い方ならもうお分かりかもしれません。そうです、上記のセグメンテーションは年齢や年収といった顧客属性だけではなく、スキンケア化粧品に紐づく「ニーズ」や「不満」に基いてセグメンテーションをしています。

対象となる市場で顧客がどのようなニーズを抱えていて、既存商品に対してどのような不満を抱えているか。そこを基点にしてセグメントを考えると、より顧客に「刺さりやすい」プロダクト開発・マーケティング戦略を考えられるようになります。違う言い方をすると、「買わない理由をなくす」ことが出来るようになります。

4.ユーザーインタビュー〜ペルソナ分析

スキンケア化粧品の例では肌質を取り上げましたが、化粧にかける時間かもしれないし、ブランドイメージかもしれません。当然、プロダクト・サービスによってニーズは異なってきます。どうやって考えれば良いのでしょうか。簡単です。顧客ニーズを抽出する作業はユーザーインタビューで導くことが可能です。これは前回のブログで紹介した「ビジネスクリエーション!」でも紹介されています。

対象市場の顧客となりそうな10人のユーザーにインタビューしに行きましょう。インタビューでは、属性情報だけでなく、普段のライフスタイル・身体的特徴・性格・価値観・消費行動まで聞くようにしましょう。インタビューを終えたら、10人のインタビュー結果を並べて眺めてみましょう。眺めると、幾つかの共通点が見えてくるはずです。どういう顧客が買いそうなのか、買わなそうなのか。どういうニーズを持っていて、どういう不満を抱えているのか。お店のスタッフにもヒアリングしてみる手法も時には有効です。

そして、対象となる架空の顧客像を作ってみましょう。この作業をペルソナ分析と言います。ペルソナとは架空の顧客のことを言います。

ペルソナ分析では、イラストや写真を用いたりします。イラストまで落とすことで、顧客像が具体化され、マーケティング戦略も明確になってきます。

下記は非常に雑な(笑)、私の書いたペルソナの例です。属性情報だけでなく、服装・持ち物・家族との時間の過ごし方・旅行先・好きなインターネットのサービスなど詳細に書いています。こうやってターゲット顧客像をあぶり出します。普段、どういう生活・消費行動をどこでしているのか?そこまで考えると、自ずとマーケティング戦略も固まってきますね。

下記はインターネットで拾ってきたペルソナ分析の一例になります。

上記の例では、自社が提供するプロダクト・サービスにどういったニーズや不満を抱えているのかも記入するとより具体化して良いですね。

今から14年前になりますが、JIMOSという福岡の通販会社にDIで投資をさせていただきました。JIMOSは基礎化粧品・青汁を販売する通販会社で、JASDAQに上場した会社です。5年で年商100億円まで急成長した会社なんですが、新商品を企画する際にホワイトボードにペルソナユーザーをイラストで書いてプロダクト開発・マーケティング戦略を日夜議論していました。JIMOSの凄かったところは、新聞のチラシ広告を作成する際にペルソナを意識したクリエイティブを毎月準備し、コールセンターで受電する際もペルソナに合わせたトークスクリプトを用意してクロージングして効率的なCPAと高CVR(購入率)のパフォーマンスを発揮していました。

5.リーンスタートアップ

顧客ニーズはどの市場にも必ず存在します。しかし、プロダクトやサービスがまだ手元にないスタートアップにとって、顧客に何が求められているのかはいくら会議室で議論しても分かりません。

そこで重要となる動き方が、リーンスタートアップです。顧客ニーズを検証するために完成した製品ではなく、プロトタイプを持っていき顧客の反応を見てみましょう。リーンスタートアップが如何に重要かは、こちらの書籍を熟読して下さい。

何故最終製品ではなく、プロトタイプなのか?プロダクトを開発するまでに時間がかかります。ラーメン屋さんであれば、店舗を取得してしまうと簡単に立地を変えることが出来ません。失敗確率を下げるために、先にラーメンを友達の店で提供し顧客の反応を見て、味に対する自信を持ってから自前店舗出店に動いた方が良いでしょう。

インターネットの優れている点は、ユーザーの行動を計測出来ることです。何人がHPに訪れ、何人が利用したのかが手に取るようにわかります(わからないシステムになっている場合は、アナリティクスツールの導入をお願いしますw)。コンテンツで勝負するなら、オウンドメディアを作らずFacebook上でパフォーマンスを測定しましょう。プロダクトを販売するなら、自社ECサイトを構築せずにヤフーショッピングで売ってみましょう。コストを抑えて市場の反応を見る方法は、今の時代だといくらでもあります。

スタートアップが市場に参入する際、既にその市場でサービスを提供している企業が数多くいます。全てのスタートアップが、後発参入なのです。iPhoneのような画期的な商品であっても、ガラケー市場がそこに存在したわけです。後発参入が先行企業をひっくり返すためには、先行企業の裏(手薄な部分)をかきに行く必要があります。そのためには、

  1. 対象市場をセグメンテーションする
  2. セグメンテーションは顧客ニーズ・動機で切る
  3. 顧客ニーズはインタビュー〜ペルソナ分析から導く
  4. 対象となるセグメントを選ぶ(ターゲティング)
  5. ターゲティングしたセグメントにプロトタイプを持って検証しに行く

という動きをすることで無駄が省けます。サービスを作って市場の反応を見て軌道修正する、というのはリーンスタートアップの基本的な動き方ですが、攻めるべき顧客セグメント仮説を持ちながら検証する場合とそうでない場合とでは、その後の軌道修正の時間・コストに大きな差が生じます。闇雲にプロダクト開発をすれば良いのではありません。

上記のプロセスから導かれたターゲットセグメントにプロトタイプを持って行って反応が悪ければ、ターゲットセグメントを変えましょう。全てのセグメントが全滅に終わった場合は、顧客ニーズの設計からやり直し、もう一度ゼロからセグメントを切り直しましょう。

難しいことは良く分からんから、とりあえず自分は手数で勝負するわ、という人は今日の話は忘れて下さいw ただ、スタートアップの持つアセット(ヒト、モノ、カネ)は大企業と比べると弱小です。時間は神様が与えてくれた唯一平等な資源です。資金がなくても、スタートアップも大企業も同じ時間を過ごします。時間を味方につけて、敵より早く動けるスタートアップは強いです。昔、楽天の三木谷さんは会社のスローガンで「スピード!!、スピード!!、スピード!!」と競合が1年かかることを1ヶ月でやり切ろう、と時間を大切にすることを社内に打ち出していました。組織は大きくなればなるほど意思決定に時間がかかります。

今日書いたことは皆さんが既に実践していることかもしれません。MBAの教科書にも書かれていることですし、リーンスタートアップを読んで理解している方も多いと思います。重要なのは、それを徹底的に実践出来ているか?という点だと思います。ヒントは既に世の中に転がっていますので、「知っている」で終わらせるのではなく、「実践している」ところまで持って行き、一社でも多くのスタートアップに成功を掴んで欲しいと思っています。

今日はここまで!

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