起業のファーストステップ

堀 新一郎(Shinichiro Hori)
7 min readJan 12, 2017

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YJキャピタルの取締役でもあり、私の師匠でもある小澤さんから「この本は大変勉強になるから読んでみて下さい」とメールをもらいました。

ビジネス・クリエーション!アイデアや技術から新しい製品・サービスを創る24ステップ
ビル・オーレット(月沢季歌子◎訳)

この本を読んで真っ先に感じたことは、「DI(Dream Incubator)時代にコンサルとして毎日言われていたことだな」と「小澤さんに日々助言をもらっていることがそのまま書かれている!」でした。

ここまで体系的に丁寧に「起業のステップ」を解説している本に出会えたことに感謝しています。僕のバイブルですね。

投資家として毎日沢山の起業家の方とお会いさせていただき、数多くのビジネスアイディアのお話を聞かせていただいています。また、Code Republicを運営し始めてから、多くの起業準備中の方とお会いさせていただくことになりました。皆さんの起業の示唆に繋げていけるように、当ブログでこの本の内容を数回に分けて紹介していきたいと思います。

3つの伝えたいこと

・顧客は誰か?というところを一番最初に考える

・顧客の細分化は可能な限り徹底して行う

・顧客が明確になっていない状況でプロダクトを先に作らない

この本では起業する際のステップを全部で24に詳細化して伝えています。どれも大事ですが、大きく分けると6つのステップに分類されます。

  1. 顧客は誰か?(対象市場はどこか)
  2. 顧客に何を提供するか?(書籍では「顧客のために何ができるか?」と記述されています。いわゆる付加価値と言われるものですね)
  3. 顧客はどうやって製品を手に入れるか?(マーケティング)
  4. 製品からどうやって収益を上げるか?(ビジネスモデル。マネタイズ方法)
  5. どのように製品を設計するべきか?(プロダクト開発)
  6. どのように事業を拡大すればいいか?(成長戦略)

私が最も共感した部分は大事なのはプロダクトや技術的な優位性ではなく、顧客=市場を先に定義することがファーストステップということ。顧客の定義が曖昧なままコーディングに進むと資金力と組織力がない小さなスタートアップは事業立ち上げに失敗するという点です。

(小澤さんが常日頃「スモールスタートで、金をかけずにまずはPDCAを早く細かく回せ」と投資先とのミーティングで言っている姿がフラッシュバックしました。物販をやるならヤフオクで売ってみる、メディアをやるならFacebookでコンテンツを配信してみてユーザーの反響を見る。)

顧客を定義していらっしゃる方もいますが、個人的な印象では「ざっくり」しすぎているケースが多いです。例えば、オンラインで引っ越しサービスを提供する会社があったとします。賃貸住宅市場10兆円です、というのはざっくりしすぎです。Day1からリクルートやネクストに対して真っ向から勝負を挑むのと一緒です。資金力、組織力のないスタートアップでは1年ももたない内に負けるのは明らかです。大企業や既存勢力に戦いを挑むためには、特定の市場で圧倒的に使われるサービスを創出し(一般的には市場シェア20%以上が理想とされる)、隣の市場に切り込んでいくことで最終的に既存勢力をひっくり返しにいく戦い方が求められます。俗に言う、ランチェスターの「弱者の戦略」です。特定の市場は細分化という作業を指し、自社が最初に対象とする市場を絞り込むことです。賃貸市場の例でいえば、単身世帯向けで、都内で、20〜30代で、IT企業に勤めていて、スマホで物件を探しているセグメント、というように(これでも絞り込みは徹底されていないですが)。

DI時代とYJキャピタルにて国内外の数百人〜千人近くの起業家とお会いして来ましたが、1・2の取り組みにあまり時間をかけず、自身のビジネスアイディアから5>4>3>6という順に考え起業しているケースが多い、というのが私の個人的な印象です。起業してから、誰に売りに行くかを考えたり、Yahoo!やGoogleやFacebookに広告をとりあえず出して顧客を獲得するなど。

AI、チャットボット、VR、シェアリングエコノミー、IoT。これらのキーワードは起業家の皆さんのピッチでお伺いすることが多いですが、大事なのはこれらはあくまでも事業を構築する上での手段であり、事業を成功させる万能なものではないことです。

プロダクトを開発してから、どの市場のどの顧客に売りに行くかを考えるのではなく、起業のステップとして顧客が誰か?が最も大事だと僕も考えます。このファーストステップをさらに細分化すると、

  1. 攻略する市場をセット(大きければ大きいほど良い。スケールの観点から)
  2. 対象となる顧客を絞り込む(Day1に誰に何を提供するか考えることでアクションプランが明確になる)
  3. 顧客のペルソナを作る
  4. ペルソナに対してMVPを検証しにいく

というステップに分解されます。

East Venturesの太河さん・バタラさんは、投資時の判断材料としてプロダクトがあるかどうかを重視していると以前Code Republicの起業家向けイベントでお話されていました。理由は、プロダクトがあれば実際に顧客の声を聞いてグロースハックも出来るし、実際に顧客がプロダクトを利用しているかどうかKPIが確認出来るからです。プロダクトがないまま、ずるずると検討に時間が割かれるといつまでたってもビジネスとして立ち上がらないことになるので、このお考えはごもっともだと思います。

私なりに太河さんの意図を解釈すると、顧客の分析をないがしろにしても良い、ということではなく、顧客分析を済ませた上でプロダクトを開発してください、と理解しています。決して、プロダクトがあれば良い、ということではないと思っています。

DIで10年間、戦略コンサルティング業務に従事しました。世の中にはコンサルって実際にプロダクトを作らないし、アドバイスだけとディスる人もいます。コンサル出身者として一言物申すと、クライアントに代わって顧客の声に耳を傾け、商品開発に必要な示唆を抽出出来た時には、大変感謝された経験があります。DIでコンサルティング業務で顧客に付加価値を一番感じてもらえた部分は、ユーザーヒアリングでした。大企業は新規事業を立案する際、競合に察知されたくないなどの理由から自分たちではユーザーヒアリングが出来ない、などの事情があります。

日本企業はものづくりの技術力は世界を代表する水準です。一方、米国企業の優れている点はマーケティングからの製品開発力です。米国は戦略コンサルティング発祥の地でもあります。米国では古くから顧客の声が事業を成功させる上で最も大事ということに気付いており、それをドライブさせるための産業が世界に先駆けて立ち上がったと言えるのではないでしょうか。(筆者注:戦略コンサルは新規事業立案以外にも組織再編やコストカットなどメニューは沢山あります。あくまでも一例です)

何が言いたいかというと、イノベーティブな新規事業は顧客の声×技術から産まれているということです。顧客を定義する、知ることが起業のファーストステップとして何故重要なのか。次回のブログでは、紹介した書籍でも言及されている「顧客は誰か」というところの具体的なアプローチについて、幾つかの事例を交えて紹介したいと思います。

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