散髪屋のジョー Joe the Barber

Ichiro Wada(和田一郎)
3 min readJan 13, 2015

ジョーはいつだって、ジョー。いつもあなたを心からの笑顔でむかえる。暖かく手を握り、言う、「いらっしゃい、ハンサムさん!」。 いつもあなたに、自分のことを話すようにしむける。バリカンを大げさに振り回しながら、同意してくれる。 「もちろんです。ふむふむ。おっしゃるとおりです」

彼の店、Sulimayは、いまではめったに見られない、しかし今でもひとびとの心の中に存在している、懐かしい散髪屋のことを思い出させる。シナトラがスピーカーから流れている。建設労働者、パイロット、タトゥーアーティスト 、すべての階層の客と気持ちの良いジョーク。風格のある、豪華な鏡の前に配置された、よく使い込まれた木製の椅子に座る。 しかし、本当にたいせつなものは、ジョーそのもの。オールバックの髪、鼻の上には楕円形のメガネ、まくりあげられた白い襟付きのシャツの袖。 彼こそが、世界で最も偉大な話し上手だ。

私にとって散髪は、ずっとむかしから、告白の儀式のようなものであった。子供の頃、美容師とも話したけど、それはただの話だった。 ジョーのは違う。ひとつの芸術だ。 人々を心地よくさせ、心を開いて自由に話すことができるところへと人々を引き込む完璧な能力を、彼は持っている。彼は、正しい質問をし、頷き、ふむふむと、ぴったりのタイミングで同意し、完璧な呼吸であいの手を入れる。誰も彼のように上手に聞いてくれないので、あなたはいままでに喋ったことがないようなことを彼に話す。素晴らしい叡智をもっている、とても重要な人物になったような気分で、あなたは店をあとにする。もちろん、あなたは、あなたが感じているとおりの人ですと、ジョーは言ってくれるだろう。

ともかく、彼の散髪は、知恵に満ちたスモールビジネスだ。人々に自分が大切な人物であると感じさせることによって幸せにしよう。それによって、世界とあなたの人生はより良いものになるだろう。

彼の店、Sulimayを選ぶ十分な理由がいくつかある。価格はいつもリーズナブルだし、カットの出来栄えもいつも期待以上だ。これらは、散髪というサービスの基本的な要件だ。 しかし、本当は、客は、ジョーに会いに行く。待合室にいる人はみんなジョーのことが大好きであることを知っているので、客はお互いのことも好きだ。店はよく手入れされていて、散髪に行くにはジョーの店を選ぶことが良い選択だとわかっている。そして、彼の散髪と店は、ジョーという人間そのものなのだ。店が僕らを招いているように感じるのは、ジョーがそのようにしているからだ。

私はジョーの店の近くに住んでいるわけではない。最初、彼の店に行き始めたときは、1マイル半のところに住んでいた。フィラデルフィアにしては、悪くない。それから引っ越しして、3マイル離れたところに住むことになった。それでも自転車に乗って行く充分な理由があった。次の引っ越しでは、その旅は6マイルに伸びたが、ぜんぜん問題にならなかった。 フィラデルフィアに住んでいるかぎり、ジョーが私の髪をカットするのである。

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Ichiro Wada(和田一郎)

Owner of Kimono Flea Market ICHIROYA & Japanese Blogger. アンティーク・リサイクル着物販売サイトICHIROYA & ICHIROYAのブログ.http://kyouki.hatenablog.com/