今の中国とどう向き合うか(上海・蘇州・杭州体験記)

Ichiro Shoda
17 min readNov 18, 2018

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11/3~11/12 の10日間、NUSの客員教授である田村耕太郎先生がオーガナイズされるICCEP(Insights into China’s Culture, Economics and Politics for Japanese Biz Leaders)に参加してきました。きっかけは投資家の西川さんからの薦めで、そして参加費も負担をしていただきました。だからではないですが、学びを風化させないためにも、そして10日間で感じたことを多くの人にシェアすることを目的に書き綴ろうと思います。あくまでも庄田の知識と理解を前提としているので間違ってるとか本当はこうだよとかあったらぜひ教えてください。本当に世界の常識を全然知らなかったことを思い知ったので、色々教えて欲しい。

そして最後の3日間は個人で活動をして、現地で起業されている日本人の方とお話をしたり、現地のHRTechジャイアント企業に視察に行ったり、現地のデーティングアプリで上海現地の方に会ったりしてきて、それはそれで深い学びがありました。滞在期間中お世話になりました皆様、ありがとうございました。

Special Thanks to

  • 西川さん
  • 田村先生
  • 同じコースを受講した皆様
  • JAFCO河野さん、何さん、Benさん
  • IncubaitFund本間さん
  • Samさん

この記事のまとめ

  • 中国で快適に過ごすための情報 (必須アプリ・現地のTips)
  • 中国の進化の歴史はとてもロジカルであること
  • 日本と中国のルールへの意識の違い
  • 中国と日本のスタートアップの大きな違いは多様性
  • 上海のHRTech企業訪問(VIPHRM/HunterOn)
  • 日本人が勝ち抜く方法は局地戦かインバウンド
  • (おまけ)TanTanで現地の人と仲良くなったお話

⓪中国で快適に過ごすための情報

生活必須アプリと、あったら楽しいアプリ、Tipsをご紹介します。ご注意いただきたい点は、現地の電話番号認証が必須なものが多いのでご注意ください!(※印は現地の回線の電話番号による認証が必要です)ちなみにこれは僕が不勉強なのかもですが、※のものについては現地の電話番号認証しか方法がなさそうです。全体として全て中国語表記なので慣れるまでどのボタンが何を意味してるか全くわかりません。w

必須アプリ

1. WeChat(微信)
中国版LINE。チャットもそうだけど決済で必須。現地の銀行口座・クレジッドカードを持っていないと入金ができないので、事前に現地の人に送金をしてもらうか、日本でWeChatにお金が入っている人から送金してもらう必要があります。

2. AliPay(支付宝)
アリババが提供する決済サービス。フーマーとかTaobaoとかTmallを利用するには必須です。

3. Baidu地図(百度地図)
現地ではVPNなしでGoogleMapが使えません。そして使えたとしてもほんとかどうかわからないですが、位置情報がずれたり地図が間違ってたりするらしいので、Baiduの地図がベストです。路線情報とか道順、タクシーでどれくらいかかるかとかがわかりやすく、品質の高い地図アプリです。

4. Dianping(大衆点評)
中国の食べログです。位置情報ベースで美味しいお店絵をレコメンドもしてくれます。友達とお店情報を共有するにも、Baidu地図としっかりリンクしているので使いやすいです。

5. DiDi(滴滴出行)※
タクシー配車アプリです。これはかなりあった方がいいです。ちなみに僕はアクティベートできず使えませんでした。。上海のTheBand(外灘)とか外国人旅行者が多いエリアでは日本でいう白タクみたいな違法タクシーがたくさんあります。うっかり乗ると2000円だよとか言われます。DiDi経由だと絶対そんなことない(評価経済がしっかりしているから)ので外国人にも優しいです。

6. ExpressVPN
これはVPNアクセスをするためのアプリで30日間無料です。中国ではGoogel/Facebook/Twitter/LINE等の国外サービスが利用できないので、起業家には必須です。僕も上海について即Chromeのブラウザで道を検索しようと思ったら何も繋がらなくてびっくりしました。ちなみにVPN接続設定がなされているルーターを空港で借りることもできます。

あったら楽しい

アプリがないと買えないコーヒー(Luckin Coffee)
  1. フーマー(盒馬鮮生)※
    アリババが経営する30分以内に購入したものが家に届くスーパーで利用するアプリ。 中国のデリバリー文化の急速な拡大を背景に普及している。人件費がまだ安いので、配送費を抑えられるからこそできるモデルな気がする。家に帰る前に配送が届いてしまわないか不安なほど早い。w 参考
  2. アーラマ(餓了麼)※
    UberEatsのようなフードデリバリーサービス。コンビニ商品とかも持ってきてくれます。送料も安い上に一定金額以上頼むと無料なので便利。
  3. Luckin Coffee(瑞幸珈琲)※
    デリバリーコーヒーサービス。店頭ではこのアプリがないとコーヒーを買うことすらできません。デリバリーをメインに設計されているコーヒーショップで、基本全てデリバリーなので店舗自体には席が一つもなかったりします。
  4. TanTan(探探)
    中国版のTinderです。UXはほぼTinderと同じです。中国内でも認識はTinderと変わらないみたいです。現地の人と仲良くなるきっかけを使うためにかなり有効でした。
フーマーで購入できる新鮮な魚介類。タグの値段は在庫状況に応じて変化するらしい。

知っておいた方がいいTips

  • 現金はほぼ使わない。現地では偽造紙幣がかなり増えているらしく、100元札とか出すと結構疑われたりします。
  • ウォシュレットはどこにもありません。僕はかなり辛かった。愛好家の方々には携帯用ウォシュレットの持参をお勧めします。
  • 飲みニケーションが大事。白酒(バイチュ)をがぶ飲みするとよし。
  • コンビニの袋は有料。0.2元だったかな?かかります。
  • 上海の電車の終電はとても早い。お店が閉まるのもとても早い。計画的に動いた方がいい。
  • 中国ではいいサウナを見つけられなかった。そして調べてみると中国だと風俗店みたいな認識がまだ強いみたいです。なのでサウナーの皆様は中国で整うのは難しいと思った方がいい。ホテルのサウナがあったので行ってみたら体感70℃くらいしかなくて水風呂もなくて整うことなど不可能だった・・

ここから実際に現地で学んだことを記載していきます。

①中国の進化の歴史はとてもロジカルであること

上海の外難(TheBond)ライトアップ時はもっときらびやか

詳述はしないが、中国の統治の歴史は、定住・農耕が前提の南部と非定住・遊牧が前提の北部という、異なるルールによる土地を支配する争いだった。農耕が成り立つ雨量400mm以上の分岐点が『万里の長城』であり、それを境に大きく文化が異なったのだ。というのも、遊牧民から税金を徴収することが難しかったため、北部ではいわゆる「官僚的統治システム」がワークせず、万里の長城以南が統治されるまでは完全に分断された状態だった。南部が統一され、北部に強い影響力を持つようになり、北部は貿易をしなければ発展することができず、生きていけなくなったため、中国の全体が統治されていくこととなった。

統治がなされると全体のバランスが整い、人口が爆発するようになる。この労働力を西洋からの技術導入で生かしていく方向に動いていった。それが現在の中国の沿岸部の発展を支えている。

この経済成長モデルは地形・国民性等を前提になされたもので、その他の国で真似できるものではないと教授はおっしゃっておられた。

この発展を背景にして経済が発展し、給与水準も高まった中国では、沿岸部の生活レベルが西洋に追いついた。今後は、『一帯一路』構想・『Made in China 2025』構想を元に、内陸のまだまだ安い労働力を前提に世界の貿易の中心になっていくことを志向している。

中国の進化の歴史は、広大な土地を支配するためのルールの革新と、広大だからこそ存在する労働力を有利に使っていくことでなされた発展である。

②日本と中国のルールへの意識の違い

中国では、アメリカのように各省で法律が異なる。そして、さまざまな法律において、まだ未整備な部分もある。その前提で、中国のスタートアップには、経済エコシステムにおけるルールの規定を自分たちでも行なっていく気概が感じられたし、逆に未整備だからこそ入り込む隙があると考えているようにも思った。日本社会では、法律順守は当たり前で、日常生活においても皆がルールを当然のように守る空気が、中国と比較すると大前提として存在しているように思う。スタートアップの経営においても、日本の場合「あそこはちょっとグレー系やからなぁ…」という風に、少しでもグレーだと事業・組織全体としても尊敬される余地がなくなってしまうという、潔癖とも言えるような雰囲気がある。グレーの方向性にもよるが、「自分がルールを作るのだ」と思える気概自体はあってもいいものだし、あった方が強いなと感じた。

実際中国のHRTech系スタートアップの経営者と話をしていても、「新しい仕組みは自分たちが作っている」という自信が感じられ、「今後まだまだチャンスが存在する」とみんなが考えているのが伝わってきた。

③中国と日本のスタートアップの大きな違いは多様性

NUSRIのインキュベーションオフィスに入っている企業

NUSのアクセラレーターの方とお話をしていてとても興味深かったのが、ToBサービスのスタートアップに求められる営業スキルの話だった。中国は広大な国土に多くの省があり、発展している省もこれから確実に発展する省もたくさんある。「営業活動は基本プロダクトアウトでセルフサーブを目指すものなのか」と質問すると、その真逆で「基本的に営業マンは週に何回も飛行機に乗り、中国各地を飛び回る」のだという。各省のルールを把握していることや各省の企業とのつながりを持ってることがスタートアップの営業マンに求められる。そして、会社がある程度の規模に発展してくると、各省のサービスプロバイダ(代理店)と無数の契約を結んでいくようになる。僕が訪問した企業では「1300社ほどの代理店と契約をしている」と言っていた。

これは一つの日本との差分だなと感じた。マーケットがでかいといえばそれで終わりだけど、日本は基本的に東京をまずどの会社も抑え、その中で争っているイメージが強い。中国の場合は、どこの省をベースに展開するか、そしてどの省から戦略的に展開するかで大きく戦略が異なる。経営者はもちろん、営業責任者に求められる能力も段違いに高い。

そしてそれだけではなく各省で法律はもちろんトレンドや、ニーズが異なってくる。それに対応する製品を開発することも生半可な努力ではできないことだなと感じた。

④上海のHRTech企業訪問(VIPHRM/HunterOn)

HunterOnの皆様と

今回はJAFCOの河野さんにお声がけし、何さん、Benさんをご紹介いただいて、現地ではBenさんに完全にエスコートしていただいた。MTGにも全て同席していただいて、本当に本当に素晴らしい体験になりました。重ねまして、御礼申し上げます。

MTGの会話の内容は詳述しないが、中国のHRTech市場の全体像を聞くことができたので、まとめておきたい。

中国のHR市場では、「採用関連」と「入社後管理」で市場が大きく2つに分けられている。その前者である、「採用関連」市場は、58.com/51job.com/Zhaoping.comの3社が巨大化しており、ほぼ寡占化している。採用関連スタートアップは、基本的にこの3社のどれかと事業提携するか、もしくはM&Aされる形で生息している。上記の3社の事業領域は「採用メディア」であり、「エージェント」領域にも2つほど大きな会社があるが、この3社とは比べ物にならないほどまだまだ成長過程の規模だそう。なので、今HRTechでホットな領域と言えるのは、「入社後管理(オンボーディング以降)」の市場らしい。現状はオンボーディング以降の領域で力のある企業はほぼ全て外資系の企業であるとのこと。(Randstad/RECRUIT/ADPなど)外資系の企業は40年ほど前から中国でサービスを展開し始めていると聞いて驚いた。

中国のHR系企業は全体で40000社ほどあり、それが企業の規模で4つの区分に分けられている。そのトップの領域に位置するのが5家と呼ばれるHR系企業である。なぜこんなにまで企業数が増えるのかというと、5家はもちろん現存するHR系企業はほとんどが政府主導でできた企業であって、各社が一つの省のルールに則って、その省の政府と共同で作られたものであるかららしい。だからこそ一定以上の巨大化はせず企業数が増える傾向にある。

このような状況だからこそ、サービスプロバイダと呼ばれる各省の代理店と深い関係性をたくさん作ることが求められているという。訪問したVIPHRMはすでに1300社のサービスプロバイダと契約をしていて、3000社にすることを目標にしているらしい。3000社の契約があっても中国の40%しかカバーをできないということなので、もう意味がわからなかった。w

SaaS型のサービスはまだまだ課題あり

中国のHRTech系サービスはもちろん、企業向けSaaS系サービス領域は中国でもとてもホットな領域だが、まだまだ発展途上である。その大きな理由が企業側が企業内ツールに対してお金を払わない、払う文化がないということらしい。なので、簡単に後述するDingTalkはもちろん普及しているSaaS型サービスはほぼほぼ基本的に無料でマネタイズはできていないとのことだった。だからこそ巨大資本で無料導入を推し進め、面を取る戦略が現状では基本戦略とのこと。

⑤日本人が勝ち抜く方法は局地戦かインバウンド

杭州のアリババ

10日間の経験を通じて感じたことは、資本力もない日本のスタートアップが中国マーケットで成功するのはかなり難しいということだった。現地の人たちはチャンスがあるよと言ってくれるが、僕の感覚からすると結構厳しそうだなーというのが正直な感想。

特にAlibabaを訪問して、子会社のDingTalk(釘釘)で聞いた話は衝撃的だった。DingTalkはGoogleAppsのような企業向けのグループウェアであり、チャットサービスだけではなくルーターやオンライン会議システムなどを提供する。サービスリリースから3.5年ちょっとで導入企業数700万社、利用者数1億人という超巨大サービスである。この規模でお話をしてくれた方は0→1フェーズとおっしゃっていて、驚くことしかできなかった。

その中でも勝ち得るなと思った一つの方法は今後発展が確実に見込まれる、一帯一路に関与するであろう内陸の省の一点集中である。②で触れたように中国は全体的に法整備が整っていない部分も多く、さらに発展途上の省にいたってはこれから整備していくフェーズの土地が多くある。こういった省のどれかにターゲットを絞り、そして日本の資本だけではなく現地のパートナーを見つけた上で参入することができれば見込みはあるなと思った。現地のパートナーが必要な理由は政府との交渉・協働が不可欠であるためであって、その形はJVでも資本参加でもどちらでも良いが一程度のコミットメントを求めることが必要だと思う。

もう一つの手法は米中貿易戦争が勃発し、米国との貿易が縮小されるかもしれないのに対し、今後高い確率で大きく進んでいく日中の貿易・日中の人の移動に関連するビジネスである。これはある意味中国内地では勝負をせず、自分が日本人であることを前提に考える戦略となる。2時間で到着する場所に日本よりも圧倒的なスピードで進化する上海がある。そしてそのどんどん豊かになる上海をはじめとした中国の国民が、隣にある綺麗で豊かで生活水準も高く食べ物も美味しい日本という国に近い将来多く入ってくることは確実である。これは引率してくださった田村先生のお話で、実際に色々な見方はあると思うが、僕としてはとても納得感のある話だった。日本政府自体も海外からの移民を受け入れていく姿勢を見せている以上、HR領域に身を置く人間としてはこれは大きなチャンスであることは当然である。その流れに対してどのようにサービス展開をしていくかはぜひ色々な人とディスカッションをしてみたい。

⑥(おまけ)TanTanで現地の人と仲良くなったお話

地下鉄の券売機

僕は中国にいく前から、せっかくいくなら現地の友達を作ろうと決めていた。それが一番リアルな中国を学べる手法だと思ったから。なので2つの手法をとった。シンプルに声をかけまくること、そいてデーティングサービスの利用だ。

前者の手法はかなり効率が悪かった。カフェに入ったりご飯屋さんだったり色々なところで話しかけようとしてみたのだが、英語を喋れる人に出会う確率がむちゃくちゃ低い。全然会話ができない。振り返ってみると、上海交通大学だったり復旦大学に出向いて、英語が喋れる可能性の高そうな人たちに声をかけた方がよかったなと思った。

TanTanの方はとても効率がよかった。TanTanとは中国版のTinderで、UXはほぼ同じである。僕は前職でエウレカ(Pairsの運営企業)にいたこともあってTinderのUXには慣れていたし、マッチングをして最初のメッセージでCan you speak English?と必ず聞くことで、英語を喋れる人を効率よく探せた。

結果的にTanTan経由でなんと英語だけでなく日本語も喋れる現地の人とマッチングをして、食事もして仲良くなった。現地の日本企業についてだったり、オススメの飲食店の話だったり、いろんなことを教えてもらうことができた。3ヶ国語を話せるとてもいい人だったので、いつかうちの会社の中国支社ができたら手伝ってねみたいな会話もした。w

以上中国の経験を簡単にまとめてみました。本当に自分の知らないことだらけで、たくさん学びがありました。実際に中国で事業展開も検討したいなーと考えてます。中国での事業展開に関してディスカッションしたい人はぜひご連絡ください!定期的に行きたいなとも思ってるので、次回一緒に行ってくれる人も大募集です。

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庄田個人:ichiro.shoda@herp.co.jp (@fabichirox)

会社:info@herp.co.jp

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Ichiro Shoda

株式会社HERP 代表取締役CEO/採用の事務作業を自動化するツール HERP の開発・提供/採用コンサルティング/https://herp.co.jp/