【後編】中国のスタートアップ事情(上海・蘇州・杭州体験記)

Ichiro Shoda
14 min readNov 20, 2018

--

アリババのキャラクター??

11/3〜12まで中国で過ごしたことの学びを こちら にまとめさせていただきました。公開してから書き足りなかったことがどんどん出てきたので、後編としてまとめておこうと思います。

前回の記事では基本的に中国の成り立ち・中国のHRTech/SaaSに関してまとめておりましたが、スタートアップ界隈の環境について抜け落ちていたのでその観点で学んだことを書いておきます。

結局は一次情報を取りに行くことって本当に大事だなと今になって思っています。

この記事のまとめ

  • 中国の資金調達の実態
  • 中国のスタートアップ管理状況
  • CFO欠如問題
  • (おまけ)アリババ、HUAWAIのマネジメント哲学

①中国の資金調達の実態

中国で活動している起業家の金田さんとお話をさせていただいたり、JAFCO ASIAの人と一日同行する中で、少しずつ中国の資金調達の実態が見えた。

中国のデューデリジェンス実態

中国のお金持ちのほとんどは、不動産ビジネスで財を築いた人が多いというのは有名な話。政府が「ここを重要な商業都市にする」「ここを貿易の拠点にする」と言った途端に地価が跳ね上がり、ほぼタダで手に入れた土地が莫大な富を作る、ということの繰り返しで成り立っている。経済が発展していないが、発展させられる国力とシステムがあるからこそ成り立つ話である。

そういう背景があるから、基本的に資金調達をすることは不動産を立てることを端緒としていることが多く、これまでは古くからの友人、知人から、一緒に儲けないかというテンションで資金調達をすることが一般的であった。日本の事業計画を作ってプレゼンをして、みたいな形とは大きく異なる。いまだに投資は個人の直感に依存して実行されることがほとんどらしい。

だからこそかはわからないが、現代の中国の資金調達も最初のデューデリジェンスはとても甘いらしい。VCもたくさんあり、資金が潤沢にマーケットに存在する(不動産を前提としてものももちろんある)からこそ、投資できる機会に恵まれることの方が貴重なのである。何億、何十億調達するにしても、事業計画すらいらないこともしばしばあるという。日本とは大きく異なる実態である。

投資してからの管理

後述する部分にも関わってくるが、事業計画・資金計画、色々な計画が杜撰でほぼ存在しない会社が多い中国において上記のDDを前提として資金注入は結果として破綻をもたらすこともあった。だからこそ、現代の資金調達においては、投資してからVC側が管理するという手法が増えている。

具体的には、着金する資金自体を小分けにするというものである。例えば「100億円の資金調達!」みたいなプレスリリースが流れたとしても、実際に最初の時点で着金している金額はその半分で、もう半分は、起業家が投資家に約束したKPIを達成するごとに、少しずつ分割で着金していくというものである。まさに日本とアメリカの大学の入試から卒業までに課されるハードルの違いのように、日本では資金調達の合意形成までにハードルがあるが、中国では最初の合意形成はさほど厳しくなくとも、全額調達するまでにハードルがあるのである。このKPIを達成できずに清算するスタートアップも少なくないようで、そうなるとVCからするとリスクヘッジの上でも合理的な仕組みのようだ。

今のところ中国における投資の正攻法は、AlibabaやTencentのような腕力でスタートアップを引き上げられるような企業がすでに出資をしている企業へ投資することであるように思えた。

②中国のスタートアップ管理状況

上海で見つけたOFO。乗ってる人も止まっているところもあまりみなかった。

スタートアップの内部管理・組織運営に関しては上述の通りまだまだ未成熟な部分が多い。マーケットが急激に成長することで自然と需要が増え、企業も成長するというループに乗って大きくなってきた企業が多いからこそそうなることもうなづける。

完全なる多産多死型の中国スタートアップ市場

中国のスタートアップの平均寿命は2.5年である。日本でも数年でかなりの企業がなくなるみたいな話があるが、あれは個人事業や事業運営目的ではない企業も母数に含まれているからであり、資金調達を行なっているスタートアップの平均寿命は中国のそれに比べてもっと長い感覚がある。

このようなスタートアップ市場における「多産多死」を受け入れる文化があること。これが大きく学ぶべきポイントだと思う。これは金田さんに聞いたお話だが、中国でのスタートアップの解散は法律的にはとても面倒だが、きっちり管理されておらず、放置されるものも多いらしい。ルーズなのである。仮に会社が潰れるとわかった瞬間、ほとんどの社員が辞めていくという。あたかもそんなもの元々存在していなかったかのように…。そして、解散した会社に在籍していたことがその人物のその後の評価に全く影響することはなく、新たな新天地へと転職していく。HUAWEIで聞いた話では、社員として3年勤めたら、勤続年数としては長くなるそうだ。それくらいに転職が繰り返される国民性であることも影響しているように思う。

経験者が少ないことがさらに功を奏している

そして今の中国においてはスタートアップの経験、スタートアップが生まれてから死ぬまでを経験したことのある人の人口が、スタートアップの数に比べて圧倒的に少ないため、たとえ会社を清算したとしてもその人の経験はとても重宝されるものであり、簡単に転職ができるのだ。新しく生まれたマーケットならなおさら経験者は少なく、もしそのマーケットが引き続き伸びているとすると、マーケットの拡大に比例して市場価値も向上しているのである。

③CFO欠如問題

上記のように管理体制が整っていないことを表す一つの事象として、中国の企業にはCクラスがCEOしかいない会社がかなり多いことがあげられる。日本では普通になりつつある、CTO・COO・CFOといった役職の人間がいないのだ。そして、今最も必要とされているのがCFOである。

上述のように、企業のお金管理・資金計画、そういった数値計画が杜撰な会社が多いからこそ、CFOのスキルを持った人がとても重宝される。そしてきちんとCFOをできる経験を持っている人が圧倒的に少ないので、さらに市場価値が高騰している。NUSRIで1コマ授業をしてくださった、中国の外資系企業でCFOを歴任されてきた方のお話はとても強烈だった。

中国の民間企業の課題は直感に依存した管理

先生のお話で課題の一つとしてあげられていたのが直感への依存度の高さだ。調達する資金も直感、投資家も直感、全てが直感に支配され、損益分岐点を正確に理解しているビジネスパーソンがそもそも極端に少ない。それに加えて、企業の支払い業務だったりの経理などの管理もおろそかになりがちだからこそ、債権回収に平均60日ほどかかるというのだ。その結果、不良債権・売掛金が多く溜まっている会社が多い。回収そのものが難しいので、債権回収だったりファクタリングビジネスもまだまだプレイヤーもいなければ概念としても発展していないらしい。

起業家の悩みは会社の守りであり、それを担うCFOが欠如

中国の起業家の強みは、パッション・勇気・なんでもやる根性だと彼は言っていた。だからこそ社内体制の管理は不得意な起業家が多いのだ。ビジネスの登り方の設計、人材マネジメント、資金マネジメント、全ておろそかになったまま成長している。先生の話だと、中国ではこういったことは全てCFOが管理するのだそうだ。事業設計もバックオフィス管理もCFOが管掌する。会社の「最強のしっかり者」という位置付けなのかもしれない。

もう一つ、管理体制が必要になってきた背景に税収システムの整備がある。GDPの成長率が6.8%トレンドなのに対して、税収は14.0%増えているという。これは徴税システムが徹底されてきていることを表している。そして、その税金がべらぼうに高い。ただしかし、これでも税金をいろんな方法で逃れ、きちんと納めていない企業が多いらしい。

これらを背景に、企業は管理体制の徹底を強く求められている。多くの会社がこういった管理業務をアウトソースしているのが現状だ。高額のコンサルティングフィーを支払うことになるが、それほどまでに適任人材がいないのである。この講義の先生は、中国でCFO候補人材を教育し、CFO人口を増やす活動に取り組まれているらしい。

日本でも昨今、国外からの資金調達や、上場時の調達ストラクチャー管理能力、もちろん上場までの資金調達能力を期待成果としてCFO争奪戦が繰り広げられているように思うが、日本のCFO欠如問題とは似ても似つかない中国の状況がある。

④(おまけ)アリババ、HUAWEIのマネジメント哲学

アリババの社内、このデザインはジャックマーの横顔に見えるということで採択されたらしい・・

両社の社内マネジメントについて聞く機会があったので簡単にまとめる。

今回の旅でとても驚いたことの一つとして、アリババの労働環境があげられる。これだけ成長した現在であっても定時は9時~23時。それに文句一ついうことなく働く従業員がたくさんいる。従業員は基本的に車で通勤するか、徒歩通勤で会社の近辺に住んでいる。杭州というアリババが作り上げたといっても過言ではない省はアリババの経営を支えるようにできている部分が多い。もちろん本社付近にはたくさんのマンションが立ち並んでいる。

それを支えるのが、この場所で働きたい、ジャックマーの元で働きたいと思わせる求心力である。機会を求めアメリカ留学から帰国して国内で働く人も増えているという中国で、アリババで働けることはこの上ないステータスになっているのである。

アリババでは勤続年数に応じて記念品が贈呈されるシステムがある。正直、僕からすると、欲しいと全く思わないのだが、それも従業員のモチベーション担保の一つとして機能していることからもうかがえる。前回のブログで記載したDingTalk(アリババの子会社)に至っては去年まで定時が24時だったらしい。

2018/11/25 追記)
この労働時間に関して、驚きの意見や、懐疑的なご意見をいただくことが多く、誤解を防ぐために詳述しておきたい。上記の話を聞いたのは、アリババの一社員(オフィスツアーを実施してくれた女性社員の方)であり、マネジメント層の方ではない。なので、あくまでも社員の話をベースに感じた印象である。そして ”文句一ついうことなく働く従業員がたくさんいる”という表現には、宗教的な信仰・高級・厳しい生存競争という背景がある。ジャックマーを尊崇していることは事実だと思うが、アリババは間違いなく中国でトップレベルの給与水準を誇る企業であること、そして強い成果主義による生き残りの競争に常に晒されているのである。であるから、全員が心から楽しんで長時間労働に勤しんでいるという捉え方ではなく、それにも必死で耐えうる理由が多く存在するという捉え方が正しいと思う。

このような会社ないの労働システム・評価システムの類は、かなりの高額を支払って外資出身の専門家に頼んで構築したらしい。社内管理知見の貴重さがここからも感じられる。

現代の日本では「労働集約型ではない労働を時間で縛るべきではない」という論調や、「エンジニアには快適な作業環境(フレックス・リモートワーク)を提供すべき」という考え方が主流になってきているかと思うが、北京大学や清華大学を卒業したエリートたちがこれほどまで身を粉にして働いていると思うと、末恐ろしく、自らの会社経営に立ち返ってみても、色々と複雑な思いだった。

ここまで書くと、どれだけタフな職場なんだろうという感想を抱くかもしれないが、前回のブログでも触れたように、アリババの社員からは自分たちが中国の新しいビジネスの仕組み、基礎を作っているのだという気概が感じられる。そういった大きなやりがい自体も到底作れるものではないということも綴っておきたい。

HUAWEIのマネジメントは「分配」と「徳」がカギ

アリババはオフィス見学であったが、HUAWEIでは前副社長のお話をお伺いすることができた。ちなみに、HUAWEIのマネジメント体系も例に漏れずHayGroupをメインとする人材コンサルティング企業に多額のフィー(先生の言ってたことをきちんとメモできてるとすると、8,000万人民元…日本円で13億円ほど)を支払って学んだものだ。

基本的な枠組みは、東洋人と西洋人の管理手法の組み合わせである。特に日本のトヨタや、IBMから学んだポイントが多い。徹底的に学習するのがHUAWEIのDNAであると先生はおっしゃっておられた。

HUAWEIの創業者でありCEOの任さんの持ち株比率は1.3%である。その他は大半を社員が保有している。対してジャックマーは8.3%を所有している。考え方の差が大きく出ている。基本的にHUAWEIはお金も、配当も、広く分配することをよしとしている。任さんが5%以上株を持っていることが上場に必要な要件であり、それを満たさないため、HUAWEIは現在でも非上場企業である。ここには色々な考えがある。上場して株式が流動化すると、財を成したことで多くの退職者が生まれること。それを防ぐためのリテンション施策の一つなのだ。そして退職後も生株を保有することができるが、ライバル企業に行くと株式が強制的に回収されるという取り決めがあるらしい。ライバル企業には経験を語ることも許されない。経験が高い価値を持つことを知っているのだ。また、利益の80%は賞与・配当の形で社員に分配し続けているらしい。どれも大胆でかつなかなか真似のできないことだ。

HUAWEIの人材登用の考え方も特徴的であった。有名な話だそうだが、CEOが輪番制を取っていて、半年ずつCEOを3名が交代で担い、1.5年後に1人を選ぶという方式だそうだ。イギリスの内閣制に習って生まれたものとのこと。このような経営層・マネジメント層の任用の基準として一番大事にされているのが、「徳があるかどうか」である。「人徳が高いところに向かって、物事は登っていく」という考え方が基本にあり、スキルがあるだけの人材や、人格に問題がある人材は絶対に役員登用しない。そういった人材には給与で報いる、という考えを徹底しているらしい。そして管理職に関しては、15%を新規登用し、5%を解任すると決めている。賛否両論ありそうだが、日産のゴーン氏に長期にわたって権力が集中したことを西川社長は一つの問題であったと振り返っていることもタイムリーに自浄作用の必要性を感じさせた。自分としても会社経営において人徳を高めることは、簡単に獲得できるものではないが、変えがたい希少なものだなと日々実感している。

どちらの企業も本当に特徴的な社内制度・実態があって、そして一つ一つが自分の身に返って深く考えさせられることばかりであった。

前回の投稿もそうだが、勢いで書ききって投稿してしまっているので、また学びをまとめたい欲求が出てきたら書くかもしれないが、取り急ぎこれで中国体験記はおしまいにします。二つとも読んでいただいた方、ありがとうございました!引き続き一緒にビジネス考えてくれる人を募集しているので、気軽にお声掛けください!

======
Twitter:https://twitter.com/fabichirox(DM解放してます)

FB:https://www.facebook.com/fabichirox

会社:info@herp.co.jp

======

--

--

Ichiro Shoda

株式会社HERP 代表取締役CEO/採用の事務作業を自動化するツール HERP の開発・提供/採用コンサルティング/https://herp.co.jp/