ドキドキしてるかい?

未来に向けてクレイジーなアイデアを試し続けた一年間の記録。

ドキドキは、日本語で心臓の鼓動音を指す、オノマトペです。

ドキドキの創業(Establish 2014/06-)

サンフランシスコを起点にして人が現実空間でコネクトできる新しいコミュニケーションを発明することが設立時の目的でした。

それがドキドキの創業時に考えていたことです。1年前でしたが、製品アイデアが固まるのにこれほど時間がかかるとはその時点では全く思っていませんでした。が、製品価値の明確化はとにかく徹底してやろう!と考えていました。その製品のユースケースが明らかになることをとにかく優先していました。

さいわい LittleBits ArduinoRasberry Pi など、試作に使える環境は十分に整っていたので、着想を試すことはスピーディにできる状態でした。が、それを機能するものとして製品開発ができることと、それが製品価値を持つかどうかは全く別物です。

最初の試作品(Phase One 2014/09-)

最初の試作品はどこでもインターネットに接続でき、あらゆる緊急的なコミュニケーションに対応できる、プログラマブルな物理的ボタンでした。

人と人がインターネットを経由して簡単に、しかも直接繋がる仕組みです。それは物理的なボタンを使うことで、直接シグナル発信できる(インターネット経由でウェブ・サービスを動作させられる)ような試作品でした。

SF BARTの乗車ゲートにセットしてみた初期の試作品です。これを衆人環視の元設置してロールプレイするので多少度胸がいる作業なのですけど、実際にやってみると非常に楽しい体験だと言えます。

何かとても困った時、助けて欲しい人と助けられる人とが互いに物理的なボタンを使って繋がり合えたら?スマートフォン用のアプリと違い、場所の意味や用途の文脈が存在しているし、料金もかからない。そのうえ即繋がることができる。即ニーズを伝えられる。

それは既に街中に存在している公共のシグナルの代替のイメージでした。公衆電話や火災報知器などの緊急用呼び出しボタン、交通信号機やナース・コール、ドアベルなどの代わりにクラウド経由で、人が直感的に、なおかつリアルタイムにコミュニケートできる凄く簡潔なデバイスを想定していました。

そのためデバイスの試作はハードウェアの試作に留まらず、その形状デザインや使い方、伝え方、どういった類のシグナルをどういった切り口で伝えると効果的なのか?ボタンを介したコミュニケーションの作法や、そこから生まれる派生的ビジネスの検討などを含めた多岐に渡る物でした。

BluetoothでiPhoneと勝手にハンドシェイクして接続・通信する初期段階の試作品です。モーションセンサーが組み込まれていてボタン押下げ以外に身振りなどでも動作が可能。またプラグラミングもできるので、様々なコミュニケーションスタイルを試せます。

ただしそこから見えてくるプロダクトは、スマートフォンの代替品としての強いニーズを伴った物ではなかったのです。汎用的なボタンは、恐らく様々な用途に応じてユニークな利用シーンが存在するのでしょうが、そのボタンのための電源確保、電波の確保、それらデバイスの製造や設置費用、単機能ならではの良い使い勝手の確保など様々なハードルを乗り越えてまで、このボタンの利用が求められる主要ニーズは何なのか?を十分に探り出せませんでした(先だって Amazon が日用品の注文に即使える専用インターネットボタンを発表していましたが、このようなユースケースは将来的に有望かもしれません)。それだけスマートフォンは完成度が高いとも言えますし、その常識的枠組みから離脱ができるだけの強烈な製品価値を発見できないもどかしさがありました。

SF市内で横断歩道に置いてみた。オンデマンドで交通信号が動作すると面白いと思いました。現場に持ち込んで試すと、色々なアイデアが生まれるので実に面白いのです。最終的には、Uberの呼び出しが一番ユーザーエンゲージメントが高かったのですが、それは既にApple Watch用の専用アプリで実現されているユースケースです。

そこでゼロからもう一度、製品アイデアを練り直しました。そこで、もっと深いレベルから考え直した結果辿り着いたのが「どんな物でも人と話し合うことができる、コミュニケーションデバイス」の構想でした。

物と語り合えるデバイス(Phase Two 2014/12-)

つまり、トイストーリーのように、物自体が生命を宿しているような感覚を体験できたら凄い!モノが命を持って、人と語り合える世界を想像すると素晴らしい!そういったアイデアを元にした「物対人」のコミュニケーションデバイスを考え出しました。それが「キューブ」です。

様々な物に接触させるなどして、その物体の属性を特定し、それとのコミュニケーションを通じて、そのものを操作したりその対象物の特徴や性質性能などを把握・認識できる。そのようなデバイスを考え試行錯誤し続けていました。

これはある意味インターネットオブシングスの理想形で。プログラミングや面倒臭い手続き、設定作業など一切不要で、例えばどんな物とでも気持ち良く語り合う過程で、やりたいことが簡単に実現できる!(しゃべるだけで料理をしてくれるなど)あるいは物の側で自然にアシストしてくれる(対話的に使い方を教えてくれるカメラとか)。さらにはそれとのコミュニケーションを通じて、心の充足が得られるなどの効果が想像できます。

そういった暖かく優しい感覚に満たされた世界がキューブの製品構想からイメージすることができたので、その構想の元どういった対話のパターンがユーザーにとっての「物との対話」をエンゲージできるのか?(しっくりくる利用感覚が日常的に得られるのか?)を検討する試行錯誤を時間をかけて行いました。その際の方法としては、色々なシナリオを用いたロールプレイングや、試作品の製作と試用を通じた試行錯誤でした。ですが、この道は険しく、長時間のトライアルにもかかわらず、「人と物との対話」を成り立たせる良いユースケースが見つかりません。そこでキューブは行き詰まったのでした。

その結果、考え方を大きく切り替えることにしました。つまり「物と人とが語り合える」デバイス以前に、人以外の存在(つまりコンピュータ)とずっと語り合うというアプローチを成立させられる必要条件は、いったいなんなんだろうか?という発想に切り替えました。そして、更にそのアプローチを進めた場合、そういった製品はプロダクトとして、果たしてどれほど価値のある物になるのか?という検討課題もありました。

ずっとお話しできるバーチャルな人格とは?

そうです、そもそも人以外と自然に語り合うというテーマそのものがとても大きなチャレンジだったのです。

映画「Her」にはバーチャルアシスタント以外にもVR空間を介したゲームキャラクターとの対話など実にリアルな未来描写が登場します。現在のハリウッド映画は、ある意味未来を見据えた未来技術のショーケースになっていると思います。

要するにモノと人とが語り合えるというユニークな世界観の手前に、人が機械的生命と話し合うような状態が成立するのか?あるいは実現できるのか?または、それがいずれビジネスになるのか?製品として、ちゃんと成立するのか?の問い掛けへと移行したのでした。そしてそこで気づいたことが幾つかありました。それを端的にまとめるとこういう感じです。

1 人は人格がない対象とは、なかなか語り合えない

2 継続的な語り合いには、なんらかの人間的な動機付けが必要

3 そして、それらをメカニズムとして解決できたらとても大きな利用ニーズとインダストリーが発生するだろう

といったポイントになります。まず、やはりモノと人が語り合うというときにトイストーリーやベイマックスで生き生き描かれているような人格化や性格付けは不可欠だと言うことです。クリストファー・ノーラン監督作の映画「インターステラー」などハードなサイエンスフィクションですらそこに登場するロボットには人格化が施されています。

また、人工人格との人間関係をリアルに描き切った傑作の映画「Her」(スパイク・ジョーンズ監督作)でも、スカーレットヨハンセンによる見事な(声による)演技が、圧倒的に人の心を捉えています。

ああいった人間性の表現や相互作用は機械生命的な存在の持つべき不可欠の要素だと言えるでしょう。あるいはジョン・ラセター指揮の傑作「ベイマックス」でも、実に丹念にロボットの性格や性格表現が練りこまれています。ああいった人格的表現の洗練こそが人と共存可能なテクノロジーの必要条件だと思います。

ヘルスケアロボットのベイマックスの持っているケア技術を全部細かく分析すると非常に多くの気づきがあります。例えば、実際に「暖かくなって癒してくれる」機能などは、本当に効果的かもしれないですね。熱のコントロールなどまだまだ深堀の足りない方法論だと言えるでしょう。

そして、それをいきなり高いレベルで(機械的に)提供することは非常に難しいですし、もしも一定の品質や機能のモノが仮に提示できたとしても、なんらかの動機付けがない限りは、なかなか人は対話をしようとはしないと思います。

でも、もしそれらを乗り越え、人が自然に対話できる機械生命が実現できた場合のビジネスの可能性、発展性は無限大だと言えるでしょう。

対話的コミュニケーションが人間性を帯びた状態で機械化できた場合に応用可能な産業分野は枚挙にいとまがありません。それこそ、直接コミュニケーション行為が価値を持つ領域は言うに及ばずエンターテインメント、教育、ショッピング、メディア、医療など実に多様な分野に適用することができます。

特にコンピューターと人間との対話方法そのものが変革された場合、それが新しいコンピューティングのパラダイムになる可能性があります。

従来型のメニューやボタンなどのスクリーン上の表現や、マウスやタッチパネルなど各種操作用デバイスを軸にしたマン・マシーン・インターフェイスは、多くの場合対話的な(つまりより人間的な!)インターフェイスへと置き換えられるでしょう。既にアップルのSiriやアマゾンのEchoなどは、そういう歩みを着実に進めながら目に見える成果を出しています。

クラウド化されたベイビー(Phase Three 2015/03-current)

さて、その上で「ずっとお話しができる人間性(個性)を有した人工人格」開発プロセスを検討しました。そこで考えたのは以下のポイントです。

1 人が継続的に飽きずにコミュニケーションを図ろうとする対象を考えること

2 日常的にある対話的コミュニケーションをうまく抽象化し、再現・表現すること

3 技術的困難性があまりに高すぎるものを目指さない。ロケットサイエンスを目的にしない

などです。そこで到達した最初の試作アプリケーションのポイントは下記の通りです。

1 赤ん坊のようにあどけなく可愛らしい無垢な存在をキャラクターのモデルとする

2 パーソナライズされた個人に閉じた世界ではなく、誰もがそのコミュニケーションに関われるオープンでシェア可能な世界観を考える(それに教え込んだり、話し込んだり、評価を加えたり、共に育てたりなど世界規模で相互に協調できるようなモデルを考える)そのことで強い参加意欲を感じてもらう。結果、多くの対話データを収集することで学習効果を高める。

3 何かを質問すると、その質問を大勢に投げかけることで多様な回答を得る。日々の出来事を話すことで世界中の出来事を知ることができる。など集合知的な、多くの人が日々利用することで成長を促すことができるようなコミュニケーション・システムを試す。

4 可愛さ、呼吸感、抑揚、感情表現など人間的な表現のニュアンスにこだわる。

以上のようなポイントを考えながら製品試作を進めています。赤ん坊のような無垢で純粋な存在との対話をイメージしながら、ずっと話し続けられるような人間的動機付けや対話内容の素材を探すこと、それが今チャレンジしているテーマです。

ずっとお話しできる、愛すべきキャラクター(ベイビー)の創造」がどのように実現可能なのか?探っているのが、現在の開発フェーズです。

以上、ドキドキのこの一年の歩みを振り返ってみました。ブログ記事にするとたったこれだけなのですが、とても長かったような気がします。

とはいえ、製品価値がしっかり存在することと、それが実証可能であることにずっとこだわりながら試作と試行錯誤を繰り返した結果ここに至っているので、「ベイビー」との付き合いはとても長くなると思っています。

IoTやウェアラブルあるいは拡張現実や仮想現実など、技術的製品トレンドも、実際にはその背景に存在する人間的な暖かさや躍動感、生命が感じられる環境の提供が必須だと思います。それはソフトウェアとも言えますし、クラウドサービスだとも言えます。ベイビーではそういった多様な技術を包み込み、さらに覆い尽くすような大きな世界観を描ければと願っています。

技術を包んで人との柔らかい接点を持てる人工的人格、そういうことがベイビーの開発を通じて実現できるのではないか?と思っています。なにとぞ引き続きよろしくお願い致します!

基本的な装置ができると、それにいろいろなデザインを組み合わせて街に出ます。デザインと機能と操作性は相互に組み合わされてこそ意味があるので、場所や利用シーンなどによって幾らでも変わります。それを見つけるための試行錯誤は、嫌という程やるべきだと思います。
初期の製品アイデアシート。紙芝居やドローイング、ロールプレイなど製品価値を試すための方法は本当に多様です。その世界観をテキスト上だけでなく実際に感じ取れる状態にできると実に素晴らしいと思うのです。余りコストをかけなくても多くのことが事前に分かります。