Policy Lab. Shigaアイデアソンの一幕。PLSに関わったことが、このテーマで論文を書こうと思った大きなきっかけ。(写真は許可を得て掲載)

デザインは行政組織においてどう実践されているのか

Ikuei Nakayama│中山郁英
4 min readFeb 20, 2019

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昨年から通っていた大学院。先日修士論文を提出し、公聴会も無事終えることができた。これでようやく一段落。研究内容をもっとMediumに書き残していければと思っていたのだけど、結局あまりできなかった。

論文タイトルは「地方自治体の効果的なデザイン実践に向けた研究−デザインは行政組織においてどう実践されているのか」
海外事例としてフィンランドを、国内事例としてPolicy Lab. Shigaと神戸市を取り上げた。

誰でも自由にダウンロードできる形での論文公開は考えていないが、この分野に興味のある方には目を通していただき、ぜひフィードバックをいただければと思っている。論文を読んでみたいという方、質問などある方は気軽にご連絡ください。
(*追記:メールはこちらまで → mail@ikueinakayama.jp)

この分野、日本語の文献があまりないので、少しは参考になる部分もあるのではと思う。この論文をきっかけにして、実践や研究で先に進んでくれる人がいると嬉しい。

最後に、謝辞の一部を抜粋して下記に記す。

論文を執筆する中で、一つ確信を得たことがあります。それは、デザインと行政の距離が双方から近づいて来ているということです。

デザインの視点では、インターネットやデジタル技術などの技術革新や人々の趣味嗜好の多様化により、人々が単に受け身の「ユーザー」や「消費者」ではなくなり、共にデザインする「パートナー」として捉えられるようになってきました。

一方、行政の視点では、対応すべき課題の複雑性の高まりや組織体力の減少もあり、協働やオープンガバナンスの取組みを通して、人々が「顧客」ではなくサービスの「共同生産者」として捉えられるようになってきています。

上記は、視点は異なりますが、同じ方向を向いているように思います。

デザインの定義で見たように、全ての人がデザインという行為を行っています。デザインは専門性の基盤となる教養であり、それは行政職員にとっても例外ではありません。

広い意味でのデザインという言葉は、行政職員にとって新しいものの様に聞こえるかもしれませんが、日常の業務を振り返るとすでに行っているともあるのではないでしょうか。相手の本当の気持ちを想像しながら話す、言葉だけでなく図やイメージでも伝わるようにする、イベントのチラシをちょっと楽しいものに工夫する。こういった行為はすでにデザインの実践を行っているといえます。

これは、現在行っていることをそのまま続けていればそれでいいということを言っているわけではありません。現状のやり方に本音では限界を感じている人も多いはずです。デザインにはデザイン思考やサービスデザイン、協働のデザインなど様々な手法や考え方があり、またそれらを支えるマインドセットがあります。それらを学び実践することで、今行おうとしていることがより効果的にできるのではないでしょうか。

普段モノを使うとき、私たちは自分のことを「ユーザー」とは認識しません。その言葉を使うことで、つくり手と使い手を無意識に分けてしまうことになります。デザイナーの間ではそのような言葉の使用を避けようとする動きもあります。

この教訓は、行政にも当てはまるのではないかと思います。普段の生活で私たちは自分自身のことを「国民」や「市民」であると意識することはあまりありません。それらは行政視点での言葉です。

まず、自分たちの向き合う、政策や事業の対象となる人々を「市民」と呼ぶことを止めることが、行政におけるよりよいデザイン実践に向けた第一歩なのかもしれません。

環境変化への対応は、行政組織よりも民間企業の方が素早く、その変化にデザイナーは関わり、貢献をしてきました。行政組織や行政職員は、そのような経験を経て蓄えられたデザインの知から学ぶことが多くあるはずです。

行政組織におけるデザインの実践は、日本おいてまだ緒に就いたばかり。この論文が、未来の「デザイナーとしての公務員」が増える一助になれば嬉しく思います。

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